たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

ああ、今日は日本の金融史に残る寿dayかもしれない。
振興銀の破綻がペイオフで処理されたことを祝うのは、奇妙だろうか?
 
しかし1971年に預金保険制度ができ、限度内で預金を保護するルールが設けられたにもかかわらず、
今日までペイオフが実施されたことがなかったことの方が、私には奇妙に思える。
 
政府が預金金利を規制していた時代、1980年前半までならともかく、金利・金融の自由化を進めた1980年代後半、自由化と同時に「破綻銀行にはペイオフを実施する」「誤った経営をした銀行は潰す、預金は保険限度までしか保護しない」と政府・大蔵省ははっきりと宣言し、国民に向かってしっかりと宣伝しておくべきだったのだ。市場を自由化すれば、競争で淘汰が進むのは必然の理だ。
 
それをせずに、「銀行は潰さない神話」を許してしまった。その結果、1980年代の後半から90年代初頭にかけて、不良債権が増え始めて信用力の劣化した銀行、信組、信金でも、預金金利を他行より高く引き上げることで大口預金を吸収し続け、不良債権を膨らませながら存続を続けた。1年物定期預金金利を1%も高く設定し、預金を吸収し続けたあげく破綻した銀行、信組、信金が沢山あった。
そのことが90年代のバブルの損失をひとまわり大きくしたと思う。
 
90年代半ば、銀行業界全体の損失が膨れ上がった後となっては、もはやペイオフは発動できなくなった。潰せば預金引き出しの連鎖が起きて、金融危機を深刻化させるからだ。
 
信用力が落ちると資金調達コストが上昇し、やがて預金金利を上げても預金が逃げて行く、そういう市場を通じたメカニズムを働かせてこそ、金融機関の経営に規律が強制され、不良金融機関は早めに淘汰される効果が生まれる。
 
それでもバブルは起こるときは起こるだろうが、早めに不良金融機関が淘汰されれば、金融システム全体の傷も相対的に小さくて済む。ただし預金保護が全くないと、不必要に預金者が不安に駆られ、金融システムが不安定化する。市場を通じた規律と一定度の安心、それをバランスさせるメカニズムの核心が預金保険制度によるペイオフなんだ。
 
それを封印し続け、あるいは発動できないでいた状態だったことこそ、異常、奇妙と言うしかない。
そうした日本金融史の奇妙で異常な時代が今日終わったと思いたい。

8月に日本経済新聞に掲載された為替関連記事を2つホームページにアップしました。まだご覧でない方は、以下のサイトからご覧頂けます。
 
世の中、円高阻止のために政府・日銀が市場介入(円売り・ドル買い)するの?しないの?と話題になっているので、先日エイハブさんから頂戴した市場介入関連の問題提起について、ちょっとまとめておこう。
 
「介入に関し、疑問に思うことが幾つかあります。
1.自国通貨に関しては非不胎化しているけれども、相手国通貨の短期金融市場への影響は放置しているという理解でいいのでしょうか?特に相手国の賛同を得ていない単独介入の場合、先方の中央銀行からは「メンドウなオペを押し付けやがって」という話にはならないのですかね?」
 
エイハブさんのこの質問、「何言ってんだかわかんねえ」方も少なくないと思うので(いや、分からない方が普通)、補足しよう。
日本政府・日銀が円売り・ドル買い介入すると、民間に対して円資金を提供して、見合いにドル資金を吸収することになる。 当然、マネー市場の資金需給は日本では円資金が供給されて、その分だけ円資金余剰になる。
 
介入で生じたこの円資金余剰分を、公開市場操作で別途吸収して円資金需給への影響を中立にすることを「不胎化」と言う。逆に「非不胎化」とは、供給された円資金による余剰を放置すること。
 
外為や国際金融の議論に疎い方は、「不胎化なんて、へんな言葉じゃないか」と思うだろうが、私もそう思う。いっそ、円資金を放出するけど、同時に回収して「妊娠」させないのを「避妊化」、放出しっぱなしを「妊娠化」とでも読み変えておくと頭に入る。
 
一般に、不胎化を伴う円売り介入は、外為市場の需給には一時的なインパクトを与えるが、円マネーの供給量が増えるわけではないので、持続的な円安効果はないと考えられている。逆に、非不胎化を伴う場合はある程度の円安効果も見込めるはずだということになる。
 
さてエイハブさんの質問は、ここから先で、円売りの対価のドル買いでドル資金はマネー市場から政府・日銀が吸収することになる。それは最終的には日本政府が米国債を購入して、外貨準備になるわけだ。 そのことはドル資金としては、民間市場からドル資金が吸い上げられるので、ドル資金の需給がタイトになる。 
 
デフレ不況回避のためにドル資金ジャブジャブにして、短期ドル金利もゼロ近辺の水準にしておきたいのは米国FRBも同様だから、日本によるドル資金吸収の影響を相殺するために、FRBはドル資金供給の公開市場操作をする必要がある。 そこで「日本が介入したおかげで、メンドウなオペ(公開市場操作)を押しつけやがって」とFRBが思うことはないのか? というのがご質問ですね。
 
ほとんど全ての国はなにがしらの外貨準備を保有して、その60%以上はドルで保有している。米国マネー市場における諸外国の政府・中央銀行のドルの支払いや受け取りは、毎日莫大な規模で起こっており、FRBはそうしたドル資金の供給と需要の全てを含めてマネー市場での操作(ドル資金の吸収、あるいは放出)を行なっている。別に日本だけの介入見合いに追加的な手間が増えると言うことはないと思う。これが私の答え。
 
別の質問はまた後で。

「グーグル秘録 完全なる破壊」(GOOGLED:The End og The World As We Know It)
今年5月に和訳が出たこの本、アメリカのジャーナリスト、ケン・オーレッタの著書
 
この本を今読んで改めて感じたのだが、グーグルが既存のメディア、広告業界、出版、音楽、さらにマイクロソフトなどの既存事業、既存業界に対して、「創造的破壊」の力をガンガン及ぼしている。そういう事情が良くかけている。
 
競争相手と陣地をひとつひとつ奪い合うような時間のかかる競争ゲームではなくて、既存のビジネスモデル、やり方を無力にするような新しいやり方を普及させることで、オセロ・ゲームのように一気にフィールド全体を塗り替えてしまうような競争だ。読んではいないが、以下のような本も売れているそうだ。

インターネットの引き起こす変革にはそういう力がある。だからどの業界でも、企業が必死に買収したり、買収されたりという状況が90年代後半からとても強まった。
 
そういう状況のなかで、既存業界が今一番ピリピリしているのがグーグルだということになる。
その「創造的破壊力」は、やはり日本で既存の通信業界に挑戦した日本のソフトバンク・孫氏の比ではない。
 
インターネットにしろ、グーグルにしろ、こういうものや連中が登場して、短期間で急成長して、ビジネス・ゲームの在り方自体を一変させてしまう。こういうところに、良いか悪いかはともかく、アメリカのダイナミズム(成長力)を感じるのは私だけではあるまい。

経済・社会は成熟すると成長が鈍化する。既存のものを壊して、新しいものに変えないと高い成長は維持できない。 この点は「なんで日本だけデフレなの?」シリーズのその2で紹介した東大の吉川洋教授がシュンペーターから引き出している内容と関連している。
 
「吉川教授はケインズ学派であり、不況とデフレは需要不足が問題と考える。ただし、その特徴はシュンペーターの議論から多くの示唆を引き出している点だ。「転換期の日本経済」(岩波書店、1999年)では、経済成長について、供給される商品のイノベーションが起こらなければ、つまり同じものばかり生産・供給していれば、経済は需要が飽和する形で成長が止まる(ひとり当りのGDPは増えなくなる)ことを説いている。」
 
ただしイノベーションといってもいろいろのレベルがある。日本の企業(あるいはカルチャー)は機械や電気製品の機能向上など漸進的な進化には強いが、既存のビジネスモデル自体をひっくり返してしまうような新機軸、新ビジネスの創出は相対的に弱いのではなかろうか。
 
既成秩序を維持しようとする力が強くて、そうした挑戦は芽のうちに潰されたり、育たなかったり、あるいはそもそもインセンチブが与えられない。
 
ソフトバンクの孫さん程度の挑戦でも、NTTなどは目の敵にして、なんとかつぶしてやろうとするようだ。
もちろん、ライバル企業の登場を叩くのはアメリカとて同じ。隙があれば買収されてしまう。ただし、新機軸対旧機軸の戦いが、アメリカでは5対5程度なのに、日本では1対9で圧倒的に旧機軸が強い。
 
なぜ?やはり資本の違いかな。アメリカには新機軸に出資する個人やファンドのベンチャーマネーが豊富だ。それ自体、超格差社会での富の一極集中の結果だけどね。その点日本の金は、大企業や金融機関の金ばかりで、大組織の幾重の稟議を経ないと金がでない。
 
「それ、おもしろそうやないか、ほなわしが金出すで」というキャピタリストが、日本には乏しい。これは良い悪いの問題ではない事実としてね。

日本や欧州に弱くて、アメリカに強く働いている力は、ひとことでいうとこの破壊&創造の力かもしれない。
この点で、とりわけ日本の大銀行はダメだね。以前長く務めた職場だから良くわかる。
 
私自身が勤めた東京銀行には、良く言えば自由で個人的な判断が活きる余地があった。私自身その恩恵に浴して、今から振り返ると危ない冒険もやったが、1996年に合併してからは組織が硬直化してしまって、何事も上意下達の大組織になってしまった。2006年にUFJとの合併で、その傾向はますます強くなったようだ。
 
いつの時代も大きな変革は「周辺部」で起こると考えている。ところが日本ではその周辺部が貧弱なんだな。
 
追記
読んでいないけど、スタンフォード大学のティナ・シーリングという先生のこの邦訳版もアマゾンで10位前後にはいるベストセラーになっている。
 
「今2ドルを2時間で増やす方法を考えてください」とかいうケーススタディーで始まるのだそうだ。
 
「人生でもっとも興味深いことは、あなたが定められた道をはずれ、常識を疑い、リスクをとり、自分で幸運を呼び込んだときに起こります。このことをわたしは彼らに教えてきました。問題というのはたいてい、見方を変えればチャンスなのです。」著者
 
日本の学校では、こういう見方、発想法、ほとんど教えないよね。
ひとことで言えば「人と違うことを選んでやって、成功しちゃおうぜ」みたいな感覚。
 
アメリカではそれが謳歌されるのに、日本では「人の裏をかく」みたいな悪いこと感覚で受け止められる。
やはり教育が権威主義的なんだな。
 

yos*i*sieさん.のコメントを取り上げてみましょうか。黒字がyosさんのコメント
青字の部分が私の対応コメントです。
 
「健全な需給によるインフレか、通貨価値(信頼)の棄損によるインフレか、
最近円高是正をサボっていると日銀に批判が集まっていますが、では批判している人は上記のどちらを行えと言っているのだろうか?はっきり言い切ってもらいたい。
 
インフレというものは程度の違いはあっても、本質的に通貨価値の下落、棄損であることに変わりない。その程度が2%程度か、10%か、あるいはハイパーインフレのように100%を超えるかという程度の違い。
 
「健全な需給によるインフレ」というのは、現在日米欧みなそうなっているGDPのマイナスの需給ギャップ(需要過少)が解消して、デフレから軽度インフレ(一般に金融政策当局が望ましいと考えているCPIで2%~3%程度のインフレ)になることをイメージしているのだと思う。
 
「なぜ日本だけデフレなの?」シリーズで解説した通り、インフレ・デフレ要因は、①マネタリー要因、②実体経済要因(需給ギャップ)、③経済主体の期待要因の総合的な結果だと考えている。どれか一つの原因だけでインフレ・デフレは説明できない。
 
また、軽度のインフレが望ましいという場合に、それがどの要因によってもたらされるかは関係ない。
だからご依頼に応じて、はっきり言わせて頂くと、「現状のデフレから脱してCPIで前年比2%程度のインフレになることが今の日本には望ましい」とだけ言える。
 
マネタリーな政策であってもデフレを終わらせることを市場参加者に期待させることができれば、デフレ期待がインフレ期待に変わり、経済主体の行動選択が債務返済から資金調達・実物投資に転換し、マイナスのGDPギャップも解消に向かう。
 
また、インフレが過度になりそうだったら、それを予防するには金融引き締める、つまり金利を上げればよいのだから、通常の金融政策で対処できるという点で、デフレより対処しやすい。 デフレの厄介さは、金利政策が機能しなくなる点にあるんだから。
 
前者の手段はほぼ存在しない(アジア円経済圏を作ってアメリカから独立するぐらいか)。

「アジア円経済圏」がなぜマイナスのGDP需給ギャップが解消する方策になるのか、不明。

国益といえばハードランディングをしないこと(ハードランディングをして混乱が起こると、安いところを外資に買い叩かれて奴隷になる。日産をフランスに取られた。毎年何千億円も貢いでいる)。そのためには今の政府の過剰な借金(国債バブル)や世代間格差のようなひずみを大きくしないことが一番の国益と思う。

それはその通り。ただ、「日産をフランスにとられた」という言い方には賛成できない。それを言ったら、「GMはトヨタによって破綻させられた」とか、「ソニーがアメリカの映画産業を奪った」とか言えてしまう。 相互に買収し、買収され合うのが、グローバル経済の現実。

そもそも通貨の信頼を毀損するような円安政策を取ったとしても、余計な金利を払うだけ。その金利は結局将来世代に付け回されるだけ。今、無鉄砲に緩和しろとわめいている人たちは、今さえ良ければ後は知らないというようにしか見えない。自分の任期さえ無事に過ごせばOKという公務員となんら変わらない。まあ、有効な手段がないとわかっている人も結構多いとは思いますが。
少なくとも私は一方的な円安論者ではないことは、弊著ご覧いただければ分かるはず。
 
ただし景気が脆弱な状況で購買力平価よりも円高になるというのは、風邪をひいている時に体を冷やすようなもので害が大きい。第1次世界大戦の後、通貨価値が低下したにもかかわらず割高な旧平価で金本位制に無理やり復帰して、デフレ不況になったのと同じ影響がでる。
従って、過度な円高にはしない方策が、金融・為替政策に求められる。
 
また、デフレの方が政府債務問題にとって望ましいと、もしお考えならば、全く間違っている。政府債務問題のソフトランディングには軽度のインフレの方が望ましく、デフレは政府債務問題をますます困難なものにして、最後にはハードランディングを導く要因となる。これは世界の財政学者のコンセンサスだろう。
 
この点は、ビジネスオンラインで以前、桑原進先生が次のように解説しているので、勉強しておいて頂きたい。関連命題:ドーマーの定理
「このように、デフレが起こると名目上は財政への負担が減るような気がします。ところが実質はどうかというと、デフレが起こっている裏側では名目GDPが小さくなっているんです。将来、国債を返すもとになるのが名目GDPです。国民全体の所得です。これが縮んでしまうと返せなくなります。  債務残高はデフレでも減ってくれませんからね。従って、返済義務の相対的な負担はむしろ増大します。このようにデフレ下では見た目の財政赤字が隠され、実質では増大するということが起きてしまうのです。」
 
だいたいこんなところで良いでしょうかね。
 
 
 

本日発表された日銀の追加金融緩和策:
「日銀は追加の金融緩和策を決めた。資金を年0.1%の政策金利で貸し出す新型の「固定金利オペ」について、現行の貸付期間3カ月に加え、より長めの期間6カ月を新設。供給額を現行の20兆円から30兆円に上積みする」(8月30日日経新聞夕刊)
 
こんなもので追加の金融緩和効果はほとんどないことは、日銀自身が一番よく判っているはず。
「なんで日本だけデフレなの?」シリーズで書いたとおり、日本が陥っているゼロ金利のデフレ均衡点では、金利政策は効果を失っている。 米国のセントルイス連銀のブラード総裁が言っている通り、国債などの買い切り増額による量的な金融緩和策の拡大、つまりマネタイゼーションしか効果が期待できるものはない。
 
日銀が自らを勝手に縛っている「国債購入額を発行日銀券の残高を上限とする」という条件を捨てて、「とりあえず、あと100兆円ほど買い増してみようか」と言えば、デフレ期待の解消(=インフレ期待)と円安効果は抜群のはず。なぜそれをしないのか?
 
仕事をしているふりをして、組織上の利害として一番やりたくないことを避ける典型的な「役人仕事」に思える。
このままでは、本日(8月30日)の株高、円安への戻りは一時で、すぐに円高、株安の圧力は戻ってくるだろう・・・。
 
円高デフレスパイラル阻止のために、80円割れ阻止の外為市場での円売り・ドル買い介入を政府ができるか?(外為介入は財務大臣の権限です。日銀は手足に過ぎない。)
しかし、米国政府もユーロ諸国政府も決して口にすることはないが、今は自国通貨下落による輸出拡大による景気底支えを期待している。その中で日本政府の単独円売り介入ができるかどうか、微妙・・・・。
 
日本政府が介入もできなければ、最後はFXユーザー「ミセスワタナベ層」による「円売りナンピン介入」しかない・・・。
FX証拠金の残高は総額6000億円ほど、まだ使われていない部分が2000億円ほどあると仮定すると、レバレッジ20倍として4兆円ほどはナンピンの円売り余力があるかもしれない。
 
 

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