たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

本日の日経ビジネスオンラインに小峰教授の論考「なぜ消費税でなければならないのか」が掲載された。
これまで私も同誌に消費税増税を含む財政再建の必要性を語って来たが、賛同コメントもある一方で、強い反発コメントが多数寄せられてきた。
 
消費税増税が不可避である点については、財政学者、経済学者の議論は概ね尽きており、その欠点を補正しながら導入する方策も提示されている。ところが、そうしたことを理解しないままの感情的な反発が根強い。
 
今回の小峰教授の論考は、財政学者、経済学者の認識と一般納税者の認識の間にあるギャップそれ自体がどうしてこれほど深いのか、この点に留意しながら展開されている点で高く評価したい。
管新首相は日本の未来を救うために、勇を鼓して消費税率の引き上げを含む長期的な財政再建計画に乗り出して欲しい。
 

今日はいろいろな出来事がありまして。
 
まずはハトポッポ首相の辞任
 6月1日に首相は次のように語っていた。「鳩山由紀夫首相は1日朝、参院を中心に民主党内で退陣論が出ていることについて『代表・幹事長でしっかりと協議をして、協力してこの国難に立ち向かっていく。』」(日経新聞)
 これを見て、思った。「おいおい、あなたご自身が国難しょうが・・・
そして本日2日の辞任発表。
最後まで明日はどう振れるか分からない方だった。
でもひとつだけ、最後に良いことをしたと私には思える。
自分の辞任を小沢幹事長の辞任と抱き合わせにしたこと。
 
昨年12月28日に日経ビジネスオンラインに「もう鳩山首相を諦める?~友愛という名の優柔不断が日本を壊す」を書いて、短期の景気対策は必要だが、財源なきバラマキ政策はやめてくれ、長期的には消費税の引き上げを含めた財政再建のビジョンを描け、と主張した時には、反発コメント殺到し、アクセス件数もトップになってしまった。「悪役人気」というのだろうか。
 
とりわけ印象的なコメントは「首相が優柔不断などとの、発言を慎むことですね。それは天に向かって唾しているようなものです」と、お叱りまで受けた。ははは、不謹慎ですみませんが、笑った。
ようやく鳩山首相の評価に関する天の采配は決した。
でも、ご本人は「自分がしたことは10年、20年先を見据えてのこと、それが分かってもらえる時がくる」と言っているそうだが・・・・。
 
郵政法案は廃案へ?
 今回の辞任の影響をうけた注目の問題が「郵政改革法案」の廃案の見通し?
 
「16日までの会期を延長しない方針のため、残りの審議日数を考えると、郵政改革法案の今国会での成立は困難な情勢となった。 民主党の平田健二参院国対委員長は2日の記者会見で、「日程が限られるため、(成立させる)法案を絞り込まなければならない」と強調。同党国対幹部は郵政法案について「参院選を控え、強行採決はできない」と述べ、野党の反対を踏まえ成立は困難との見通しを示した。今国会で成立しなければ審議未了で廃案となる。」(3日時事通信)
 
 アンチ小泉改革の象徴として亀井大臣がこだわった本件、超少数政党が与党と連立を組むというポリティカル・レバレッジで不相応な政治力を行使する状況は、これを契機に止めて欲しい。
 
祝内定
 これは私個人の職業上のこと。
昨年から大学で教鞭をとるようになったので、私のゼミ生はまだ3年生で、就活はまだ少し先だ。
 しかし、今の4年生でひとり、昨年の暮れに私の講義が終わってから教壇のところにきて、どんと分厚い参考書を広げ、「私、来春公務員試験を受けようと思っているんですが、試験用の参考書の経済学の章が全然分からないんです。先生、私でも分かるようになんとかしてください!」と言った学生君がいた。
 「いきなり、分かるようにしてくれと言ってもね・・・魔法はないんだから・・・きみ」と言うと、「先生の講義を聞いて、私でも分かりました。だから先生なら私でもミクロ経済論もマクロ経済論も、分かるように説明してくれるんじゃないかと思うんです。」
 
 これにはけっこう衝撃を受けた。
 
 「ぼく、どこが分からないか分かりません」という状態でホゲーとしている学生君が少なくない中で、「私でも分かるようにしてくれ!」と教師に迫ってくる学生は貴重だ。それでもって、結局、計10回ほどかけて参考書の経済学の章を個人指導した。
 この学生君、その後就活はどうなっただろうかと思っていたが、今日偶然、大学近くでこの学生君に呼び止められた。ニコニコしながら、「公務員試験は結局その後諦めましたが、○○銀行に内定を得ました。先生に教わったことはペーパーテストでも役立ちました。ご連絡が遅れてすみませんでした!」と言う。中京地域の名のある地方銀行だ。
 この就職難のなかである。「上出来、上出来、よくやった」と祝福した。
 
 教師としては、ひとりでも多くの学生が学ぶことの価値に目覚め、社会で活躍する第一歩を無事に踏み出して欲しいと心底願っているんだけど、それが伝わる学生君は残念ながらそう多くはない。

米国の住宅市場の調整は終わったか?
先日頂いた以下のご質問について、手短に意見を申し上げよう。
 
「サブプライム問題発祥の米国の不動産価格は果たして割高か、そろそろ均衡価格に近づいたのか?いかがなもんなのでしょうか?今年後半の重要なテーマになりつつあるような気がしております。」
 
この問題、長く議論すると様々な材料を引用して、いくらでも「ああだ、こうだ」と議論できるんだが、あえて思い切り凝縮させて、私の意見を言うと以下の通り。
 
1、以下に示したS&Pケースシラー指数とCPIの家賃指数から計算した私のPRR (Price Rent Ratio:ご存じない方は、つぎのどちらかの弊著ご参照、「今こそ知りたい資産運用のセオリー」「なぜ人は市場に踊らされるのか?」) これを見る限り、過去20年間のデータに基づいて、米国の住宅価格指数は2006年のピークから35%下落した昨年の4月で、いったん底を打ったように見える。つまり過去20年間のPRRの平均値に戻ったので、割高感の調整は終わった。
しかし、バブル崩壊のあとによくある反動での割安レンジへの突入が不足しているようにも見える。
 
2、住宅への財政的な助成処置は今年4月で終了、終了前の駆け込みで4月の販売データは上がっているが、5月以降は反動減が必至。
 
3、住宅価格が上がれば売りたい潜在的な売り手(債務者)はまだ多い。
 
4、住宅不履行による差し押さえ件数は、今年も年間300万件レベルの高い水準が見込まれている。
 
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以上の結果、住宅価格は底を打ったものの2010年いっぱいは概ね横ばいで、強い反発はなさそう。
住宅価格の上昇は2011年以降だろう。
これが私の結論。
それが今年の米国経済に与える影響は?
住宅価格が上がらないと個人消費も伸びないのでは?
 
この点は、それほど悲観的に考えいない。S&P500の企業利益は世界経済の回復で概ね順調に回復しているので、ギリシャ危機の問題が欧州外に波及しないことが見えてくれば、米国企業の株価はまた上昇トレンドを再開し、家計消費の負の資産効果は大きくならないと思う。
 
この点詳しくは、昨年8月に書いた論考「米国経済の復活~過大評価されている家計のバランス・シート調整のインパクト」をご参照頂きたい。その後の展開は、概ねこの論考で予想した通りに展開している。
 
むしろますます悲観的に見ているのは欧州の事情だ。今回、「失われた10年」になる危険性が高いのは(きっとそうなるというほどの自信はないが)、今回は米国でも日本でもなく、欧州だと思う。
 
追記
以下のイラスト画像は、昨年8月29日のThe Economistに掲載されたもので、 "Signs of stabilization   should not obscure the big problem still ahead"と題して、回復の兆しはみせかけで、この後まだまだひどいことになるぞ、という記事だった。しかし、「大空振り」となった。雑誌の記事がかなり高い頻度で市場の変化の「逆指標」となることは、日本でも欧米でもだいたい同じ。
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ギリシャ危機に端を発したユーロの下落と株価の世界的な下落、動揺が続いている。
 
前回書いたようにギリシアの人口は1000万人、ユーロ圏全体の3%、ユーロのGDPに占める比率は3%未満だ。その小国の財政危機がこれだけ世界を揺さぶるのは、イタリア、スペイン、ポルトガルなどやはり財政赤字比率が高くファンダメンタルが相対的に脆弱な他のPIIGS諸国に同様の危機が波及するのではないかという投資家の不安心理が働いているからだろう。そして不安に駆られた投資家・金融危機がこれら諸国の国債を投げ売れば、危機は自己実現する。
 
これらPIIGS諸国を合計すると、ユーロ圏全体のGDPに占める割合は、3割弱だろうか(確かめていない)。だからたしかに大ごとにはなる。こう言ったらギリシャの方々に失礼だが、まるでブタの尻尾がブタを揺さぶっているようなものだ。
 
直感的には、ギリシャ危機はユーロ圏にとっては今後中長期にわたって後遺症を引きずる長患いになりそうな気がするが、世界経済全体にとっては、局地的な問題に収束していくような気がする。ただし、他人様を説得できる根拠を私は持ち合わせていない。あくまでも私の勝手な直感に過ぎない。
 
ある国、あるいはある地域の金融・経済危機が、どの程度他の地域に波及・伝染するかについて、合理的な説明は可能だろうか? 例えば世界の実体経済が弱い時にそれが起こると危機が伝染しやすいと理解できるだろうか?
 
例えば、1997-98年のアジア通貨危機は、タイ、インドネシア、マレーシアで起こり、中国を除くアジア全域とロシアや中南米にまで広がった。中国が直接的な危機の伝染を免れたのは、別に中国経済が強かったからではない。内外の資金移動を規制していたので、危機の伝染ルートとしての国際的なマネーフローから隔離されていた結果に過ぎない。また、この時期、危機直前の世界の実体経済は決して脆弱な状態ではなかった。
 
2001年のアルゼンチン政府のデフォルトは、ITバブルの崩壊で世界経済が景気後退局面にあり、それに加えて米国ではエンロンやワールドコムの企業スキャンダルが勃発し、株価も大幅に下がっていた時だった。しかし、アルゼンチン固有の問題と受け止められ、危機の伝染は起こらなかった。
 
また、1987年10月の米国の株価暴落、ブラックマンデーは世界の連鎖的な株価下落を引き起こしたが、米国の実体経済は景気後退に陥らず、約3%程度の経済成長を持続した。
 
こう考えると、危機が世界に伝染するかしないか、合理的な説明は難しい。
 
危機が伝染し、さらに世界経済が景気後退に陥るような事態にまで発展するかどうか、それはもしかしたら「ゆらぎ」のようなものかもしれない。 相対的に小さなゆらぎ(危機による金融資本市場の動揺)でも、時にはある臨界点を超えたゆらぎ・動揺に発展し、世界を巻き込む動揺になることがある。反対に、臨界点を超えずに収束する場合もある。その違いを左右する要素として、偶然の要素がかなりの程度に働いているのではなかろうか。
 
私達はいつも後講釈で起こったことを考えるので、大きな動揺・危機が生じると、必然的なプロセスの結果だったと理解しがちだが、実は偶発的な要因で現実は展開しているかもしれないのだ。
 
「日本の財政赤字が持続不可能で、このままなら国債暴落のリスクが高まるというのなら、1年後に国債利回りはいくらになっているか、暴落はいつ到来するのか、言ってみろ」と息まいているブログをたまたま見たが、全然分かっていない方だ。
 
私達が住んでいる社会は、極めて限られた範囲で予測可能に過ぎず、ちょうど提灯の明かりで歩く先を照らしているようなものだ。その先には予測不能の不確実性の闇が広がっている。
 
メタボで不摂生をしている人が、いつ病気にかかるかは、どんな医者でも個別特定的な予想は不可能だ。ただし、同様の人間を1万人集めれば、将来どのような症状にかかるか、確率的な予想ができる。ところが困ったことに、私達が生きている世界はひとつしかないので、1万個の世界を集めた確率的な分析が困難だ。
 
だからどういう悪い事態が起こってもなんとか致命的な状況にはならないような対処ができるように、備えながら歩いて行くしかない。財政赤字の無規律な膨張は、そうしたその備えと反対方向に向かっているということなんだけどね。
 

 情報や人というものは、求めているとそちらの方から姿を現す時がある。 数日前、大学の社会科学研究所のライブラリーに納入する新規図書の選定をしていた時、「郵貯資金等の動向 平成21年度版」(財団法人ゆうちょ財団)という冊子が現れた。 見るとホームページで開示されているよりも詳しいゆうちょ銀行の財務諸表が掲載されていた。
 
 なぜ関心があるかというと、少し前に日経ビジネスオンラインに「亀井案こそ郵政を潰す」(2010年4月7日)という論考を書いて、郵貯の抱えるALM上の金利リスクを大雑把ながら推計し、それが国債価格の下落(金利の上昇)に対して極めて脆弱であることに警告的な主張をしたからだ。 
 
以下のように書いた。
「(郵貯の保有する)国債の平均残存期間は(ホームページでは)公表されていないが、大雑把に推測することはできる。 ~ 価格の変化を計算すると、クーポン1.3%で額面100円の10年物国債の場合、流通利回りが2.3%に上昇すると価格は91.87円下落する。残存期間8年ならば価格は93.24円に下がる。つまり平均残存期間8年の場合、債券ポートフォリオ全体で約7%の評価損が生じる。 郵貯の国債保有額236兆円を基に計算すると、16兆5000億円の損失が生じることになる。」
 
手に入った「郵貯資金等の動向」は私が知りたかった残存期間別の国債など有価証券の残高を開示していた。私は前論考では大雑把に平均残存期間7~8年と想定して計算したが、開示されているデータから計算すると有価証券(ほとんど国債と地方債)の平均残存期間は、もう少し短く3.82年となった。
 
これをベースに再計算すると、金利水準1%から2%への変化(1ポイントの上昇)で、郵貯簡保合計した236兆円の債券ポートフォリオからは生じる損は、8.4兆円となる。また、ゆうちょ銀行のみの177兆円の債券保有額から生じる損失は6.3兆円となり前記の推計より小さくなる。 それでもゆうちょ銀行の自己資本(広義)は8.3兆円だから、債券金利1%の上昇で自己資本の76%が吹き飛び、2%の金利なら4.3兆円の債務超過に転じるということになる。
 
というわけで、より正確な推計ができたので、このブログでご報告しておく。
 

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