米国の住宅市場の調整は終わったか?
先日頂いた以下のご質問について、手短に意見を申し上げよう。
 
「サブプライム問題発祥の米国の不動産価格は果たして割高か、そろそろ均衡価格に近づいたのか?いかがなもんなのでしょうか?今年後半の重要なテーマになりつつあるような気がしております。」
 
この問題、長く議論すると様々な材料を引用して、いくらでも「ああだ、こうだ」と議論できるんだが、あえて思い切り凝縮させて、私の意見を言うと以下の通り。
 
1、以下に示したS&Pケースシラー指数とCPIの家賃指数から計算した私のPRR (Price Rent Ratio:ご存じない方は、つぎのどちらかの弊著ご参照、「今こそ知りたい資産運用のセオリー」「なぜ人は市場に踊らされるのか?」) これを見る限り、過去20年間のデータに基づいて、米国の住宅価格指数は2006年のピークから35%下落した昨年の4月で、いったん底を打ったように見える。つまり過去20年間のPRRの平均値に戻ったので、割高感の調整は終わった。
しかし、バブル崩壊のあとによくある反動での割安レンジへの突入が不足しているようにも見える。
 
2、住宅への財政的な助成処置は今年4月で終了、終了前の駆け込みで4月の販売データは上がっているが、5月以降は反動減が必至。
 
3、住宅価格が上がれば売りたい潜在的な売り手(債務者)はまだ多い。
 
4、住宅不履行による差し押さえ件数は、今年も年間300万件レベルの高い水準が見込まれている。
 
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以上の結果、住宅価格は底を打ったものの2010年いっぱいは概ね横ばいで、強い反発はなさそう。
住宅価格の上昇は2011年以降だろう。
これが私の結論。
それが今年の米国経済に与える影響は?
住宅価格が上がらないと個人消費も伸びないのでは?
 
この点は、それほど悲観的に考えいない。S&P500の企業利益は世界経済の回復で概ね順調に回復しているので、ギリシャ危機の問題が欧州外に波及しないことが見えてくれば、米国企業の株価はまた上昇トレンドを再開し、家計消費の負の資産効果は大きくならないと思う。
 
この点詳しくは、昨年8月に書いた論考「米国経済の復活~過大評価されている家計のバランス・シート調整のインパクト」をご参照頂きたい。その後の展開は、概ねこの論考で予想した通りに展開している。
 
むしろますます悲観的に見ているのは欧州の事情だ。今回、「失われた10年」になる危険性が高いのは(きっとそうなるというほどの自信はないが)、今回は米国でも日本でもなく、欧州だと思う。
 
追記
以下のイラスト画像は、昨年8月29日のThe Economistに掲載されたもので、 "Signs of stabilization   should not obscure the big problem still ahead"と題して、回復の兆しはみせかけで、この後まだまだひどいことになるぞ、という記事だった。しかし、「大空振り」となった。雑誌の記事がかなり高い頻度で市場の変化の「逆指標」となることは、日本でも欧米でもだいたい同じ。
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