政府税制調査会の中間報告が提出された。菅内閣の下での税制改革の方向性を理解する上で読んでおくべきだろう。
 
ちなみに委員長は神野直彦教授で、以前は東大の財政学の教授だった。神野教授とは私がまだ銀行の調査部次長だった2002年に某研究所の財政問題研究会でご一緒したことがある。神野教授が座長で、私は専門委員のひとりだった。
神野教授の学問的な立場はマルクス経済学派だ。従って、レフトウイングであるが、現実的なバランス感覚のある方で、その点が金子何某とは全く違う。
 
上記報告書から印象的な部分を抜き出すと以下の通り。
 
「(我が国の財政は)① 歳入面では、所得税などの度重なる減税や景気後退などにより税収が減少する一方、
② 歳出面では、急速に高齢化が進んだことにより社会保障支出が一貫して増加し、この両方の構造的な要因により我が国財政は危機的な状況に陥り、現政権に引き継がれた債務残高は主要先進国に例のない水準となっている。」
 
「財政赤字は将来世代への負担先送りを意味し、世代間の不公平が拡大する原因ともなる。」
 
「支えられる側である高齢者が大きく増加する一方、支える側である勤労世代が減少するという将来の人口構造の見通しを踏まえると、所得税の課税ベースは減少すると考えられるため、勤労世代だけに偏って負担を求めることは困難であり、社会で広く分かち合う消費税は重要な税目であると考えられる。」
 
「所得課税よりも消費課税にウェイトが高い税体系の方が、例えば、労働者に対する限界税率やそれを通じた労働供給に与える影響が小さいため、経済成長とより親和的であるというのがOECDやIMFにおけるエコノミストをはじめ多くの経済学者の見解となっている。」
 
「高齢化が進み人口構造が変わる中で消費税を重視する方向で国民により幅広く負担を求める必要がある一方、再分配等の観点から累進性のある所得税に一定の役割を担わせる必要があり、税体系上、両者は車の両輪としてそれぞれの役割を担うべきである。」
 
「経済のグローバル化が進展する中で、企業立地を確保し、雇用の創出・維持を図るためには、法人実効税率の引下げを検討する必要。
法人税率の引下げは、株主のみに利益をもたらすものではなく、雇用並びに成長の基盤である企業活動が国内にとどまることや対内直接投資の拡大などにより、国民に成長の恩恵が行き渡ることに繋がることに留意する必要。この他、法人税制のあり方を考える際に雇用の観点を重視すべきとの意見があった。」
 
「逆進性に関しては、以下の意見があった。
- 社会保障給付は、真に支援が必要な者に対して、個々人の事情に応じたきめ細やかな社会政策的配慮を行うことが可能。その上で、低所得者を対象とした還付(給付)、軽減税率の設定の可否も検討。
- 給付付き税額控除については、番号制度の導入が前提となるほか、不正受給の問題や執行コストを考慮する必要。
軽減税率については、我が国の消費税の特長を損ない、非常に複雑な制度を生むこととなる可能性があることなどにも留意が必要。」
 
中間報告書としては、全体として良く出来上がっていると思う。