住宅価格の割高・割安を見抜いて、「ブーム期の割高での購入を避け、割安時に買う」 そのための指標としてPRR(Price Rent Ratio)という概念を著書の中でこれまで紹介してきた。「資産運用のセオリー」(光文社、2008年)、「なぜ人は市場に踊らされるのか?」(日本経済新聞出版社、2010年)
 
実際のこのPRRについては、東京の中古マンションに関してPRRの推移を筆者のホームページ「住宅価格指数/賃料指数で継続的に公開している。
 
弊著をご購読下さった方はご存じだが、PRRは株価の割高・割安を示す株価収益率(PER、あるいはP/E)と基本的に同じだ。ただし株価については企業利益(earning)の変動が極めて大きく、株式市場全体をとっても利益の著しい変動の故に、「PERさえ見ていれば、大局は分かる」というわけにはいかないのが難しい点だ。
 
その点、住宅については賃料の変化が極めて安定しているので、これをアンカーに置けば、価格のバブルとその崩壊を見抜くことができると考えているわけである。
 
さて、問題の株式市場全体の割高・割安について、ものぐさな私でもとりあえず「これだけ見ていれば、大局は分かる」そういう便利な指標はできないものか?
 
その観点から、とても役に立ちそうなものを見つけた。
multpl.comというサイトが米国の株価指標S&P500について、S&P社のデータとロバート・シラー教授のアイデアに基づいて、P/E指標を長期時系列で公開している。(ロバート・シラー教授は有名だからご存じでしょ?)
 
ミソは、このP/Eは通常の「直近の決算利益」や「次期の決算見通し利益」ではなく、過去10年間のS&P500の企業の利益をインフレ調整(実質化)して使用している点だ。
“P/Es are based on average inflation-adjusted earnings from the previous 10 years ”
これを“P/E10”と呼んでいる。
 
その結果、短期的な企業利益の変動に翻弄することなく、長期的な企業利益水準に基づいて株価全体(S&P500)の割安・割高が見抜けるという仕掛けである。言われてみれば単純なアイデアだ。
このP/E10を見ると以下の通り。
 
現在        19.6
2000年代平均  26.3
1990年以降平均 25.8
1980年以降平均 21.1
1970年以降平均 19.1
 
インフレ調整後のS&P500の企業収益は長期的には「過去の平均値に回帰する」と考えるならば、この見方で株価指数の長期的な割高・割安が判断できる。
しかし、同じサイトに掲載されているインフレ調整後の企業利益(S&P500)の推移をみると、趨勢的な水準の変化(増加トレンド)も感じられる。従って、やはり10年単位ぐらいでP/Eの中心レンジを修正しながら判断する必要がありそうだ。
 
そう考えると、現在のP/E10が19.6というのは1990年以降のレンジでは若干割安という判断ができそうだ。もっともこれでS&P500のインデックスファンドやETFに投資する場合、当然投資のタイムスパンは10年、あるいはそれ以上の長期となる。
 
「長期的にはオレは死んでいる」 そういう方は有り金消費して人生を全うすれば良いだろう。
次世代まで見据え、子子孫孫のことを考えている方向きである。
 
なにしろ現在60歳以上の世代は、莫大な国民的な負の遺産(政府債務)を残して死ぬのだから、余裕のある方々は子子孫孫のために超長期投資をしてプラスの資産を残して逝くのが、せめてもの罪滅ぼしだろう。
 
私は日頃から学生諸君にはこう言っている。「かじらせてもらえる親のスネのある諸君は、アルバイトなんかせずに自分の将来のために勉強しなさい。つまり、遠慮せずにスネの骨までしゃぶらせて頂きなさい。私も含めて君たちの親の世代は莫大な負の遺産を残して逝くのだから、多少でもそれで埋め合わせないとね・・・」