さてコメントで出されたご質問をちょっと考えてみよう。
「中国の不動産バブルは通貨にはどんな変化をもたらすのでしょうか。株式は下落するように思いますが、通貨(この場合は元)への影響はいろんなシナリオがありそうで予測が難しいように思います。」
資産価格のバブル崩壊と為替相場のパターンは幾つかある。
1、対外負債膨張、経常収支赤字国のバブル崩壊パターン
これが一番多いパターンであり、流入していた外資(証券投資、銀行ローン)が引き上げになる(流出)ので、当該国の通貨相場は暴落、自国通貨に換算した対外負債が膨張、対外負債の為替損が急増して通貨・金融危機となる。
近年の例では、1994年のメキシコ、1997-98年のアジア通貨危機、1998年ロシア危機、2001年のアルゼンチン危機、2008年の欧州エマージング諸国の危機のパターンだ。
2、日本的パターン
日本で1990年初頭バブルが崩壊して、為替相場は95年の1ドル=80円前後まで円高になった。これはユニークなパターンで、ほとんど日本だけかもしれない。恒常的に経常収支黒字なので、それをバランスする対外投資(円売り・外貨買い)が細ると円高になる。90年代前半は、国内の株と不動産の暴落で機関投資家(生保損保など)がリスクテイク能力を萎縮させ、外貨投資を減少させた結果、必然的に円高になってしまった。
2007年夏からの円高も、欧米の金融危機と金利急引き下げに、投資家のリスク許容度の委縮が重なり、日本国内外で膨張していた円売りキャリートレードの巻き戻しが起こった結果、急激な円高になった。投資家のリスク許容度萎縮→円高というパターンだ。
3、米国的パターン
2007年夏に表面化した米国のサブプライム危機は、2008年前半までは、ドルの金融緩和→ドル金利低下→ドル相場下落という分かりやすいパターンだった。ところが、2008年9月のリーマンショックで危機がクライマックスに達すると、資金繰りに窮したヘッジファンドなどのレバレッジ系投資家が一気に世界的な資産処分に走り、ドルへの換金を進めたので、対円以外では全てドル買い→ドル高になった。
なぜ彼らはドルに換金したのか?単純なことだ。ドルで出資を受けていたからだ。
4、中国的パターン???
中国の場合は、上記のいずれとも異なるパターンとなりそうだ。もっとも、じわじわと進む内外の資本移動規制の緩和のどの段階でバブル崩壊となるかでシナリオはかなり異なってくるだろうから、予想は難しい。
貿易黒字と2.5兆ドルの外貨準備があるから、中国元が暴落というシナリオは可能性が薄い。そもそも資本移動が規制されているから、海外への劇的な資本逃避は起こり難い。バブル崩壊で国内投資家の対外投資意欲が萎縮し、自国通貨高になるような日本のパターンとも違う。外債投資をしているのは介入で増えたドルを投資している政府の一部門である人民銀行だからだ。
おそらくバブル崩壊的な局面になっても、中国元の為替相場はこれまでのじり高傾向が止まって、少し軟化する程度で劇的な変化は起こらないかもしれない。あくまでも内発的なプロセスとしての住宅バブルや地方政府がやっているデベロッパービジネスの行き詰まりで、銀行の不良債権の急増、建設投資の急減、成長率の失速、失業率の上昇といった形で表れる可能性が高いと思う。
ユニークな展開となるのは、それが現行の政治体制の動揺にまで深刻化する場合だろうと思う。
中国政府はインフレ抑制のために引き締めに動きだしたから、バブルは抑制されるという楽観論もある。しかし現代の金融政策が直面している問題は、次のようなジレンマだ。
バブル膨張(資産価格高騰)を抑制するに十分な引き締めと、インフレ抑制に十分な引き締めを比べて
双方が同じなら良いが、前者の目的の引き締めの方が後者の目的の場合よりも厳しい引き締めが必要になることだ。
つまり、インフレ抑制に程よく金利を引き上げたのではバブルは回避できない。
逆にバブルを回避できるほど金利を上げるとインフレと景気に対してはオーバーキルになってしまう。
1980年代後半の日本も、2003-06年の米国もそうだった。結局、金融政策はバブルを回避できずに膨張と崩壊のパターンにはまった。中国政府も失業率の大幅な上昇というコストを払うことができないならば、バブル抑制には失敗する可能性が高いと思う。
ただいつそれが顕現化するかは分からない。数年以内としか言えない。
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