2007-08年の欧米金融危機を境にいくつかの大きな変化が生じつつあるが、そのひとつは先進諸国の自国通貨建て国債であってもそのデフォルト・リスクを心配しなければならない時代が始まったことだろう。ユーロ圏PIIGS諸国の国債の格付けダウングレードのことだ。gonchanも米国債のダウングレードの可能性にふれていたしね。
 
まずWSJ(いずれも12月17日付け)から幾つか関連記事を引用しておこう。
Moody's Downgrades Ireland's Debt
Moody's Investors Service Inc. downgraded Ireland's debt to Baa1 from Aa2 Friday, warning the government's financial strength could deteriorate further if economic growth were to miss its projections.
The move came a day after Moody's also placed Greece's Ba1 rating on review for
downgrade. Warnings for possible downgrades for Spain and Belgium were made earlier in the
week.
 
Spain Pays High Yield To Sell Bonds
Spain's final foray into the market for long-term bonds this year was an expensive exercise for
the government Thursday, coming a day after Moody's Investors Service Inc. warned that it might downgrade the country's credit rating because of its mounting debt and funding needs.
 
先進国の自国通貨建ての国債は、原理的にデフォルトは起きないと考えられてきた。なぜなら自国通貨で償還すれば良いのだから、いよいよとなれば中央銀行・政府の通貨増発で返済できるからだ。単純化して言えば、紙幣を刷る機械さえあれば返済できる。その結果、インフレと通貨安になっても、償還不能は起こり得ない。返済不能になる可能性があるのは外貨建ての借り入れである。
 
こうした常識に衝撃を与えたのは2001年のアルゼンチンの通貨・金融危機とそれによって生じた国債のデフォルトである。結局、ドルや円など外貨建ての国債と同時に自国通貨ペソ建ての国債も元本棒引き(ヘアーカット)になった。
それでもアルゼンチンは先進国と認識されていないから、「ひどい話だが、ああいう国では、なんでもありだね」と思うことができた。
 
しかし今回問題になっているのは、ユーロ圏という経済的に先進国地域の一角をなすPIIGS諸国のデフォルト懸念が浮上してしまった。ギリシャとアイルランドだけなら経済規模も小さいから「例外扱い」できるかもしれないが、もしスペインなども同じことになるなら、「先進国の国債は絶対大丈夫」の前提を捨てることになるだろう。
 
1999年のユーロ発足で、PIIGS諸国は民間と政府とも海外からの資金調達コストの低下という恩恵を受けた。2000年代のこれら諸国の相対的な高成長はそれによるところも大きい。なぜ海外からの調達コストが下がったのか? 
 
ユーロ以前だと海外投資家はこれら諸国の国債に投資する場合、デフォルトはないにしても、通貨切り下げによるキャピタル・ロスを覚悟する必要があった。実際、そうしたことは90年代で93年にイタリア・リラ、スペイン・ペセタの為替相場急落、切り下げとして起こった。
 
ユーロ発足でPIIGS諸国の国債もユーロ建てで発行されるようになったので、そうした為替切り下げによるロスを心配する必要がなくなり、リスク・プレミアムの縮小→金利の低下となったのだ。
ところが、その結果、財政的な緩み、あるいは資産バブル、またはその両方が生じてしまった。
 
ユーロ圏の諸国は既に中央銀行機能をECBに統一しているから、マネー増発による国債償還はできない。為替相場の切り下げもできない。自国限りのマネー増発もできない。増税と給付削減も十分できない。こうなれば残った選択肢は必然的に国債デフォルト、元本カットということになる。
 
PIIGS諸国のリスク・プレミアム上昇による国債利回り上昇(価格下落)は既に投資家が将来のデフォルトリスクを国債価格に反映させ始めた結果であり、格付け会社のダウングレードは事実上そうした動きの後追いに過ぎないと言えるだろう。
 
さて日本の財政問題、国債はどうなるのだろうか?政府や政治家にはいまだに「日本国債は95%が国内で保有されているので大丈夫」と強弁する方々がいるが、国内投資家が日本国債を見限って投資の海外シフトを大規模に始めたら(日本からの資本逃避)、「大丈夫」の前提は崩壊してしまう。中国と違って日本の対外対内投資は自由化されているので、国内投資家を国内にとどめておく規制はない。まだ国内投資比率が高いのは、単なる投資のホームバイアスだとも言える。
 
明日にそうなることはないが、10年のタイムスパンで考えたら、日本からの資本逃避という事態も当然想定して長期的な財政再建に今から取り組むべきなのだが、「次の選挙まで」の時間軸しか持ち合わせていないのだろうか? 
 
そのリスクを政治家に知らしめるためには、国債の「ミニ暴落」程度のことが起こる必要があるのかもしれない。ところが投資家、投資機関も腑抜けで、リスク回避指向をつのらせて、後生大事に国債投資ばかりを積み上げている点に、この国の閉塞の根本があるのかもしれない。
 
今の日本の財政問題に必要なのは「このままでは船は沈みつつある」という厳然たる事実を直視する勇気だろ。その勇気がない政治家も投資家も沈みつつある船にしがみつき、そして最後にパニックになって我先に海に飛び込むのだろうか。
 
そんなパニックに巻き込まれるのは、まっぴらごめんだ。日本の政治と財政に立ち直って欲しいと強く望むが、望まれる転換ができなかった時にパニックに巻き込まれないための準備はしておこうと思う。どうしたら良いか?それはみなさん、それぞれ考えてくださいね。