WSJが4月20日付記事でヘッジファンドの純資産額の総額が、リーマンショック前のピークを更新して2兆ドルを超えたと報じている。
Global hedge-fund assets surpassed the $2 trillion mark for the first time ever,
Hedge Fund Research Inc. said Tuesday, marking a rebound for the industry from market losses and customer flight during the financial crisis.
Total industry assets rose to $2.02 trillion, up $102 billion in the first quarter. That total exceeded the precrisis record of $1.93 trillion set in the second quarter of 2008, the research firm said.
 
危機前の本だが、ヘッジファンド業界の内幕を書いた「ヘッジファンドの懲りない人たち
(Hedgehogging)」(バートン・ビッグス)は面白い。私はヘッジファンドと業務で直接関わったことはないが、元外為ディーラーでNYにも若い時にいたので、トレーディングや投資業界の雰囲気は肌感覚でわかるつもりだ。
 
2007-08年の危機では、ひとつまみの儲けた投資家を除けばヘッジファンド業界も手痛い打撃を被ったのに、もう過去のピークを規模で上回ると言うのは、まさに「懲りない面々」というべきか、たくましいと言うべきか、無限の強欲というべきか・・・。
 
大きなショックがあると過去のピークを超えることができなくなる日本の投資・金融市場となんと違うことだろうか。もちろん低インフレとは言えインフレの経済(名目の拡張が続く)とデフレ基調の経済の違いでもある。
 
資本というものは「無限の価値の増殖を自己目的とした運動体である」と学生時代にマルクス経済学の講義やテキストで習ったことを思い出す。現代においてこの原理を最も先鋭に代表するのがヘッジファンドであろう。
 
従って反資本主義的な立場からは、こうした資本の無限増殖原理は敵視される。自然と文化を破壊する原理だと批判の対象となる。私もその感覚は分からないわけじゃない。
「自然環境や周囲の人々と調和して生きようよ」という感覚や価値観に共感を感じると同時に、しかし心の奥にどうも「それだけでは物足りない!」と叫ぶもうひとつの自分を感じる。
 
人間には周囲の環境と調和的を志向する感覚と同時に、「もっと速く、もっと高く、もっと強く、もっと豊富に」という無限に直線的な拡張を志向するもうひとつの対立する感覚が内在しているのではなかろうか。そうでなければ、テクノロジーや経済はここまで発展して来なかっただろう。
 
原発事故は「テクノロジーと物質的な豊かさのみを追求してきた高エネルギー社会への警告だ」という主張に最近頻繁に接するが、「はいそうですね、みんなで低エネルギー・低消費・低欲望の安定経済社会に転換しましょう」という気持ちには、私はなれない。
「そういうことやっていると近未来に地球環境の崩壊とともに人類は滅ぶ」 そうかもしれない、ちがうかもしれない・・・。
「等差数列的にしか食糧生産が増えない一方で、人口は等比数列的に増えようとする」このマルサス的制約を打破したものは、やはりテクノロジーの発展だ。マルサス的制約を受け入れて、人口調整して生きる安定社会、それが理想だという気持ちにはなれないんだよね。