貧トレさんの醒めた理性的なコメントを嬉しく感じたので、お寄せいただいた以下の疑問を考えてみよう。
「もしも日本が財政破綻したとしたら、どうなるでしょう?
焼け野原になるのは、いいことなのか。それとも暗黒の未来なのか。」
焼け野原になるのは、いいことなのか。それとも暗黒の未来なのか。」
ビジネスオンラインの論考(上のサイト)をきちんと読んで下さった方は気がつくと思うが、「国家破綻」というあいまいで、どう定義するのか定かでない言葉を私は使っていない。冒頭の書籍の邦訳名が「国家は破綻する」であり、原題の「This time is different」とは違うことを述べただけ。また最後に「それは今のギリシャとは違ったパターンの『国家は破綻する』シナリオだ」と書いた時も、「 」を付している。
代わって、日本経済がこのまま政府債務を膨張させたあげく、その国富を大きく失うシナリオを、日本沈没、と述べたわけだ(これには「 」なしでね)。
「円安でいいじゃないか、それで景気がよくなるだろ」と単細胞的なブロッガーが突っ込み批判のつもりで繰り返し書いている。「合理的な海外投資意欲の回復による適度な円安への戻り」と「金融危機に直面した場合のパニックな資本逃避による雪崩的な円相場崩落」を私がはっきりと分けて書いていることが、連中は読みとれないようだ。
後者のリスクを回避するために、財政再建と合理的な海外投資意欲の増進が今必要なんだと説いているわけ。
しかし不幸にして、財政再建も合理的な海外投資の増加も不十分に終わり、政府債務が今のペースで累積を続けたら10年後どうなるか? 貧トレさんの疑問へのアプローチはここからだ。
あり得るシナリオ
1、国債価格の急落(利回りの急騰)→銀行、機関投資家、郵貯銀行の大規模損失→これら機関の自己資本の棄損→信用収縮→金融危機
このシナリオは損失の原因こそ違え、1990年代後半にも起こったこと。中長期券の価格の下落は利回りの2~3%程度の上昇でも、その数倍の価格下落になる。その時にはおそらく1000兆円を超える残高となった中長期国債は、わずか10%の価格下落で100兆円の損失になる。これは90年代のバブル崩壊で銀行が10余年かけてやっと償却した損失額と同じ規模。
こうして株安、円安、債券安のトリプル安が発生する。
90年代後半の時は、政府の手際の悪さもあり、長銀などがハゲタカ外資に底値で叩き売られた。あれと同じか、もっとひどい状態をまた経験したいだろうか? その時、買い叩きに来るのが、中国資本だったらどう思う?
2、国債が急落したって日銀が国債を買い支えれば済むじゃないか?
民間機関が100兆円単位で売りに出る国債を日銀が買い支えれば、マネー供給がもの凄い規模になる。過去の量的金融緩和なんて屁のような規模だ。しかも債務膨張を回避できなかった日本政府への信認は内外ともに喪失している。だから国債に資金は戻ってこない。
その結果、膨大なマネーは国内にとどまればインフレ高進をもたらし、海外に向かえば、超円安をもたらす。おそらくその双方が生じるだろう。 だからやはり名目金利の上昇、国債価格の下落は回避できそうにない。従って金融危機も併発する。
購買力平価に見合った水準への円安ではなく、それを越えた円安になれば、日本国民全体が対外的な購買力を失うことになる。 最後には輸出が伸びて、過度な円安にも修正が生じるかもしれないが、それまでの過程で生じる円安へのオーバシュートは、海外投資家に日本買い叩きの絶好の機会を提供するだろう。
もちろん以上のような最悪シナリオの後だって、それで日本経済が死滅するわけじゃない。その後の再生もあり得る。でも大危機を起こして、失わなくてすむ大きな国富を失うのはバカバカしいだろう?
戦後に復興、高度成長を遂げたからと言って、だれも戦争で焼け野原になって良かったとは思わないでしょ。
それじゃ、このへんできりあげて、楽しみにしているNHKドラマ「下流の宴」を見ようかな。火曜日午後10時前
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