なぜか反響の大きかった投資信託の実態について、寄せられたコメントのご意見も含め、もう少し丁寧に各論を議論してみよう。
 
1、投信の手数料とネットリターン(手数料差し引き後の年率リターン)の関係
これについては私は2007年以降、これで4回目の点検をしている。著書「資産運用のセオリー」(2008年)や日経ビジネスオンラインでも図表を掲載して説明したことがあるので、ご覧になった方もいるだろう。今年12月に行なった4回目の点検結果を以下に掲載した。
 
モーニングスターのデータを使って、国内株式を対象にした純資産200億円以上の投信を対象にしたものだ。結果は、過去4回と同じで、年率換算された手数料の高い投信ほど、手数料差し引き後のネットリターンは悪い。 
 
一番上の図は過去5年間のネットリターン、2番目は過去5年間のグロスリターン、3番目は過去10年間のネットリターンを縦軸にしてある。横軸は年率換算した手数料(購入時手数料と信託報酬の総合、購入時手数料は期間で割って年率換算してある)である。
 
現在は株価が落ち込んでいる時期なので、リターンがみなマイナスであることはある意味でやむを得ない自然な結果だが、手数料率の高い投信ほど、ネットリターンは悪い。また比較的リターンのベターな投信はみな日経平均やTOPIXに連動するインデックスファンドであり、手数料率は低い(図表の左に分布している)。
 
要するに、ファンドマネジャーの銘柄選定にコストを払っても報われず、手数料のコスト分だけネットリターンは悪化するという事実は明瞭だ。 5年より10年になるとその傾向(手数料率とネットリターンの負の相関関係は一段と強まる)。
 
ある期間を特定して、株式全体は平均よりリターンの高い銘柄グループAと、平均よりリターンの低い銘柄グループBに分けることができる。 もし投信マネジャーが多少でもB群を外してA群の銘柄を選ぶことができるなら、投信のリターンの分布は市場平均リターンより多少なりとも高くなるはずである。
 
ところが、手数料を差し引く前のグロスリターンで見ても(2番目の図)、僅かならが近似線は右肩下がりで、負の相関関係がみられる。すなわちファンドマネジャー全体として見ると、猿がダーツを投げて銘柄を選定しているのとほぼ同じか、あるいはそれよりも悪い成果しか出ていないというバートン・マルキール先生(著書「ウォール街のランダムウォーカー」)が強調されている事実が日本でも確認できるということだ。
 
2、「高手数料ファンドの中にも、相対的に高実績のものがあるので、それを選べばよいのではないか?」
当然、そういう意見が出てくる。残念ながらモーニングスターのデータは、直近5年とその前の5年のデータを比較することができない。しかし、この点では米国で沢山の実証調査があり、その結果「ある時期にリターンの高かったファンドが、次の時期にもリターンが高いという相関関係は観測されない」。これも
「ウォール街のランダムウォーカー」で強調されている。
 
3、「手数料の安い投信は間違いなくパッシブ運用ですが、これはアクティブ運用に対してフリーライドを行っている面があることも重要です。ETFが拡大してアクティブ運用が廃れていけば、何らかの形でパッシブ運用のコスト(目に見えるものではないでしょうが)は高まっていくものと思われます」
これはyasuさんのコメント。みんながインデックス投資しかせず、銘柄選定をしなくなれば、パフォーマンスの悪い銘柄が淘汰されなくなり、市場全体が非効率化するのではないかという意見で、これもよく言われる点だ。 
 
私も(マルキールやボーグルも含めて)銘柄選定を否定しているわけではない。むしろ市場参加者の多くが、人より高いリターンを求めて、その時に利用可能な情報を最大限利用して銘柄選定に励む結果、市場の効率性は実現されるわけだから、銘柄選定を行なうアクティブ・ファンドにも生き残る生存領域があると思う。
 
ただし、紹介したモーニングスターの報告書は金融機関の営業が、相対的にコスト・パフォーマンスの高いファンドよりも、最終的なパフォーマンスが悪くて手数料が高いだけのファンドや、自社系列の投信の販売ばかりに傾斜し過ぎており、ユーザーの利益がないがしろにされている点を、批判・警鐘しているわけだ。私も同意見だ。
 
タカさんのコメント「日本株アクティブファンドにも投資家本位のファンドが登場してきた」というのが、今後広がるならば、投信業界にもまだ救いはあるかもしれない。
 
4、「一見、非合理的な行動を取っているかのように見えて、それが実はある制約条件下では合理的な行動であることがある、という事例は経済学が豊穣に教えてくれるものでありますが、この投信に関する問題もそのようなものだと思います」
yasuさんのコメント、具体的にどのような「制約条件下の合理性」なのか語っていないのでわからないが、毎月分配型の投信がその商品的な非合理性にもかかわらず売れてしまうのは、行動経済学が語るヒューリスティックなバイアスが投資家に働いていると考えると理解できる。
 
例えば、人間は毎月分配されるキャッシュという確定した利得に過敏に反応し、将来価格が下落する可能性(実は必然性)には鈍感であるというバイアス、あるいは知的に訓練されていない人間の効用感覚の時間割引率は、双曲線型である傾向が見られ、その結果、将来の大きなリスクよりも目先の小さなキャッシュの受取りに誘引されるという解釈なども成り立つ(後者の解釈は山崎元さんもどこかで書いていたことがある)。
 
毎月配分型の異常人気の背景として、もうひとつ私が思うのは、やはり年金不安の故に年金型のキャッシュフローが欲しいという気持ちが強く働いているのだろう。
 
そういう意味で、毎月分配型が人気であることを「合理的に解釈する」ことは可能だけど(「予想通り非合理」ってやつだね)、それを選択してしまうこと自体は、やはり資産形成としては非合理的な選択で、目的である効率的な資産形成に失敗するとしか言いようがないね。
 
竹中正治HP
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