年始年末に読んだ本のひとつ「ブラックストーン」(←クリックするとアマゾンサイトにとびます)は、2007年に上場した米国の巨大Private Equity Fundの誕生前史から今回の金融危機までの歴史を描いたものだ。
ブラックストーンの事業展開とその経営者に焦点をあてながら、Private Equity Fundという日本の一般世間では馴染みの乏しい、あるいは「ハゲタカ・ファンド」というイメージでひと括りにされがちな米国の投資ファンド業界の80年代から金融危機を経た現在までの歴史を描いている。
ファンドの創設者のひとり、ピーター・ピーターソンについては、私のワシントン駐在時代(2003-06)から、著作家でもある彼の著作を読んで知っていた。同氏はファンドの成功で大金持ちになったのでワシントンのシンクタンクにも巨額寄付者として強い影響力を持っていた。実際、バーグステン氏がプレジデントをしているIIE(Institute of International Economics)は、同氏から巨額の寄付を受けたのであろう、Peterson Institute for International Economicsと名前を変えた。
2007年にブラックストーンが上場すると聞いた時、「Private Equity Fundが上場するのか?上場したらもうプライベートじゃないだろ?」と奇妙に感じた。

金融・投資に関して基礎知識のない読者には、本書で次々と登場する金融用語にめんくらうかもしれない。しかし、それは米国の金融・投資業界の急速なイノベーションを物語るものでもある。米国の金融・投資業界は(金融・投資に限らないが)、旧いビジネスモデルがどんどん陳腐化し、新規参入者が新しい手口(ビジネスモデル)で登場する熾烈な競争環境が、時にバブルとその崩壊を引き起こしながら展開する世界であるとを感じる。

「企業を買収し、リストラして、企業価値を上げて儲ける」という論理に、情緒的な抵抗感や反発を感じる読者も少なくないかもしれない。 しかし、その根底にある米国の投資文化、エクイティー・カルチャーは米国経済のダイナミズムの不可欠な要素となっていることを本書を通じて知るだろう。

単純化して言うと、米国の資本主義は「肉食系」であり、日本のそれは「草食系」と呼べるコントラストがある。 何が相違か?  
法律で禁止されていないことは自由であり、合法的ならば貪欲に富を追求することが肯定される(賛否を巻き起こすことはあるけどね)ビジネス文化と、法律で禁止されていないことでも暗黙、あるいは慣行的な規制が(「空気による支配」)存在していて、それを破るとバッシングを受けるビジネス文化、この違いだろう。

肉食系資本主義はバブルと崩壊も繰り返すが、ビジネスモデルのイノベーションが活発で、格差を拡大しながらもダイナミズムがある。 草食系資本主義は、平等主義的(しばしば悪平等的)、あるいは現状維持的な慣行が強く働いており、生産や技術のイノベーションには相対的に熱心だが、旧来のビジネス慣行をひっくり返すようなビジネスモデルのイノベーションは抑制されてしまう。
大括りにいうとこんなところだろうか。(もちろん、本書は日本のことは扱っていない)
 
それぞれ問題を抱えているが、どちらに未来があるか? 別の新しい成長のパターンが登場するか?
そうしたことを考える下地として読んでおく価値のある一冊だと思う。
 
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