ドル円相場が80円に絡み始め、内外とも株価回復が進んで来た。私の認識は1月26日に手短にコメントした時(以下)と大きく変わってはいないが、実際に少し円安、日米欧とも株高が進んでいるので、気分は春めいてくる。
 
日銀の追加金融緩和策との関係で言うと、2010年10月27日に55億円の資産購入という金融緩和強化を打ち出した時も(以下サイト)、その前にFRBのQE2が発表されており、しばし円安、日米欧株高の基調となった。
 
その基調が壊れてしまったのが、2011年3月の大震災で、追い打ちをかけたのが同年夏からの欧州政府債務危機だった。
 
今回2月14日の日銀の金融緩和強化(以下サイト)もFRBによる追加策の後だったというのは、これを「日米政策協調」と呼ぶべきなのか、あるいは日銀のFRBへの「政策追随」と言うべきなのか?
 
おそらくバーナンキ議長の脳裏では、日銀が次何をするかなんてことはほとんど気にしていないだろうから、やはり「FRBは次々策を打ち出すのに、日銀は何もしないのか?」という無言、有言の圧力に日銀は動かされているというべきなんだろう。
 
シカゴIMMの非商業筋(投機筋)の円買いポジションも2月14日付で直近のピークの半分ぐらいに縮んできた(以下サイト)。おそらく次の発表の2月21日付では円買い持高はゼロ近辺になるのではなかろうか。http://www.gaitame.com/market/imm.html
 
2月20日の日経新聞に「為替ヘッジ取引に異変」というタイトルで、書いている記者も自分が書いていることの意味がわかっていないような記事が出た。
 
「最近では円を売る権利の取引が増え始めた。需要がどちらに傾いているかを示す指標をみると、まず期間1カ月(1カ月以内に実行される取引)や3カ月で円売り需要が拡大。20日には期間が1年の取引でも円売りが円買いを上回った。1年物が円売りに傾くのは10年ぶり。「こんな動きは見たことがない」と市場関係者は話す」
 
上の記事は実は通貨オプション市場の円コール・ドルプットと円プット・ドルコールの需給が逆転したことを言っているのだが、どうも記者くんが仕組みを理解できているように思えない(よくあることだ)。
 
ヘッジファンドなど海外の投機筋は円売り持高で攻める時は、1年程度の期間の長い円プット・ドルコールを買う手法を選好する。 これは円売り・ドル買いの権利だから、円安・ドル高になると買ったオプションの価値が増加し、利食いができる。
 
円プットと円コールのボラティリティー水準に換算した価格の違いはリスク・リバーサル取引のスプレッドに反映され、市場参加者が円高波乱相場を期待、あるいは警戒している時は円コールが高くなる。逆に円安期待になると期間の短いものから順に円プットの方が高くなる。
 
期間1年物のリスクリバーサル取引で円プットの方が高いというのは、数年ぶりの出来事で、円安期待で円プットを積極的に買い始めた連中が現れたということだ。(外為取引、あるいはオプション取引の実務知識のない方には、チンプンカンプンでしょうが、一から説明するとえらく長くなるので、ご勘弁頂こう。)
 
内外の景況も、株も、為替相場も、ひと言で言うと、気分は「2003年春過ぎ頃」との類似性を感じる。当時は景気は日米共にゆっくり回復過程に入っていたが、日本では銀行危機が深刻化する(3月危機)を語る「予言者」が横行していた。
 
ところが最大のリスク要因と思われていたりそな銀行の国有化が決まると、「危機ありモード」から「危機なしモード」に転換し、日本では外人の日本株買いが、相場を急速に回復させた。
 
総括すると、このちょっと春めいて来た変化の要因は、①米国をはじめとする景況感改善、②先進国の金融緩和継続期待、③欧州政府債務危機の暴発回避期待、これら3点がベースであり、日銀の追加策もそのひとつに過ぎない。
 
ただしちょっと長い目で見ると、日本の貿易収支赤字の恒常化→円安基調、そしてそのさらなる延長線上に「日本国債売り仕掛け」のチャンスを(懲りもせずに)展望し始めている連中も出てきている感じがする。これはリスク要因だね。