一般報道では国債利回りが7%近辺になると持続不可能な水準とか報道されているが、国債金利がいくらならPIIGS諸国の政府債務(対名目GDP比率)は、発散的な膨張ではなく、安定化するのだろうか?
 
簡単な計算なので、ご関心のあるかたはお付き合い頂きたい。
Dt+1 : t+1期の政府債務残高(マイナスは負債)
Ft+1 : t+1期の財政収支(マイナスは赤字)
i      :国債金利
 
こうすると、t+1期の政府債務残高(Dt+1)は、同じ期の財政収支と、前期(t期)の政府債務残高に支払い利息を加えて金額( Dt(1+i) )の合計として示せる。
Dt+1=Ft+1 + Dt(1+i)
 
これを各期の名目GDPに対する比率で表示すると以下の通りの式となる(英小文字はそれぞれのGDP比率を示す)。 gは名目GDP成長率 
式の変換はご関心があれば各自でやってみて頂きたい。
dt+1=ft+1 + dt(1+i)/(1+g)
 
要するに次期の政府債務がGDP比率で増加し続けるかどうかは、①各年財政収支比率(GDP比)、②国債の金利水準、③名目GDP成長率の3つに依存するというドーマーの定理だ。
 
目下ユーロ圏は各国の財政収支をGDP比で-0.5%にすることを目標にしている(PIIGS諸国にとっては非常に高いハードルだが)ので、これを長期的に実現できたとしようか。
また各国の名目成長率は3%(=実質成長率1%+インフレ率2%)と想定しよう。
 
現在の各国の政府債務残高はGDP比率で、ユーロ圏平均80%台、イタリア120%、スペイン70%、ギリシャ160%だが、シュミレーションは80%でやってみる。
 
その1:金利4%
その2:金利5%
その3:金利6%
 
以下に添付したのが、上の式で計算した政府債務(GDP比率)の2050年までのシュミレーションとなる。 全部右肩上がりの政府債務比率の発散コースとなる。ただし国債金利4%の「その1」は上昇の仕方が比較的緩やかなので、安定コースに近いとみてもよさそう。国債金利が3%なら式が示す通り、毎年の政府債務増加は財政収支分の-0.5%になる。 (ただし過去5年、これだけの不況にもかかわらずイタリアもスペインも10年国債で見ると利回りが4%以下になったことはわずかしかない)
 
つまり財政赤字比率-0.5%という現状比極めて厳しいハードルを仮にクリヤーしても、国債金利が5%以上だったら、政府債務は発散コースが予想されるので、投資家は怖くて国債が買えない→国債金利高止まり→政府債務は発散コースという自己循環的なループに陥っているように見える。
 
各国の国債金利は以下のサイトで見れる。スペイン国債10年物は現在6%程度。
 
この点は重要な気がしてきた。政府債務残高比率が発散するか、安定化するか、を考える場合は、予想される毎年の財政収支比率は要因のひとつに過ぎず、投資家の国債に対する信認が壊れて、国債金利が上昇した場合、そのこと自体が自己実現的に政府債務の発散コースを引き起こすということだ。
 
もっとも日本の政府債務残高(グロス)のGDP比率は200%まで既に膨張しているので、今後の名目GDPが2%で成長し、かつ毎年の財政赤字はGDP比率-3%(現状9%近い)に縮小したとしても、国債金利は3%程度の上昇で、2050年には政府債務残高はGDP435%になり、長期的に持続不能な発散コースだ。大雑把にいうと、この場合、国債金利1%なら大丈夫、3%なら発散コース→財政破たん、2%なら微妙・・・。
 
計算式を見てわかると思うが、インフレ率が上昇して名目成長率が国債金利と同じになるか、あるいは名目成長率が国債金利を上回れば、政府債務の安定化はもっと容易になる。
 
ここからちょっと議論が飛躍するが、21世紀の金融政策の目標として、中央銀行が国債購入額を操作することで、インフレ率(→名目成長率)と国債金利の持続可能なバランスをとるという新しい課題に否応なしに直面するのではなかろうか? 
 
たとえば、国債金利が5%で名目成長率が2%なら、中央銀行は国債を購入し、両者の水準が2%と5%の間でバランスするまで買い続けるような政策に合理性がないだろうか。 ただし、では国債金利が10%で名目成長率が5%(=実質成長率1%+インフレ率4%)の時も同様のことが言えるかというと、ベースになっているインフレ率が高すぎるので、二の足を踏まざるを得ないが・・・
 
間違いなく、中央銀行は「そんな芸当はできない」と嫌がるだろう。しかしユーロ圏より米国や日本では政府債務残高比率がユーロ圏より高いにもかかわらず、国債金利が低位安定して財政破たんが顕現化していないのは、中央銀行の大規模国債購入で上記のバランスが結果的に保たれているからかも・・・という気もしてきた。この点はもう少しよく考えてみる必要ありそうだ。
 
それでも政府債務比率が上昇するにつれ、コントロール不能になるリスクは増加するので、政府債務の抑制は不可欠だ。 
 
竹中正治HP
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