寄せられたご質問
QE3によって・・・
失業率は改善するのでしょうか
失業率改善の効果が薄ければ、改善するまで株価は高騰するのでしょうか。バブルになるのでしょうか。
QE3によって貿易赤字は改善するのでしょうか。
Qe3によって対外債務は減少するのでしょうか。
効果は不透明なのにインフレと投機による商品価格高騰で苦しい国民がいて、金融機関は助かっているなどと俗説ありますが、実際には効果はあり、副作用といわれるものは誇張されているのでしょうか
 
政策金利をゼロ近傍まで引き下げても、十分に雇用が伸びるほど景気が回復しない。その原因は概括的に言うと家計が資産価値の下落でバランスシート調整(消費抑制・貯蓄増加=債務返済)を強いられるから、バブル崩壊で期待成長率の低下に見合って企業が設備投資を抑制しているからだ。
 
そこで一般に量的金融緩和QEと呼ばれている金融政策が過去3フェーズ発動されてきた。マネーを供給するために何を買うか(国債か、MBSか、対象債券の期間構成をどうするか)、買う規模はどのくらいにするか、実施期間はどのくらいにするか、などバリエーションはあっても原理は同じだ。その効果については、バーナンキ議長が2010年にスピーチで説明している。以下サイト
 
また、私も上記スピーチを引用して、雑誌エコノミストで書いたことがある。以下はその部分の引用。
 
今回のQE3のインパクトはMBSを毎月400億ドル、雇用が満足する水準に回復するまで続けると言い切ったことだろう。その大胆さが投資家にインパクトを与えて株価が上がっているのだが、まずQEの効果がでる仕組みを確認しておこう。
 
上記雑誌エコノミスト201131日号掲載の論考の引用
*****
QE2の長期金利の引き下げ効果
 伝統的な金融政策では連邦準備銀行が誘導操作の対象にするのは銀行間短期金利としてのフェデラル・ファンド・レート(FFレート)であり、長期金利は直接の操作対象とならない。なぜならFFレートは短期マネーマーケットでの日々の資金需給に連銀が介入する(資金不足時はマネーを供給し、余剰時は吸い上げる)ことで、一定の水準に誘導できる。しかし数兆ドルもの発行残高があり、市場参加者の将来のインフレ期待にも依存する長期国債利回りは連銀が直接操作可能な対象とは通常は考えられないからだ。
 
しかし、QE2はその長期金利の引き下げ、あるいは低位安定を意図していることになる。それが効果を発揮する仕組みをバーナンキ議長は昨年8月の講演で「ポートフォリオ・バランス・チャンネル」として次のように説明した。
 
中央銀行が市場から国債を大規模に買い上げれば、民間のポートフォリオから国債が減り、現金が増える。すると民間の投資家は各種の社債の保有を増やすることでポートフォリオのリスクとリターンを元に戻す調整をしようとする。
 
この結果、社債の追加購入需要が生じ、民間債券の長期利回りを押し下げ、金利低下が経済全体に波及する。さらに投資家は相対的に金利の高い海外の金融資産の保有を増やそうとするだろう。その場合はドル売り・外貨買いにより、ドル相場を押し下げ、純輸出を拡大する効果も生じる。
 
QE2の資産価格押し上げ効果
QE2効果のもうひとつの側面は資産価格の押し上げ効果である。バーナンキ議長は昨年11月のQE2実施までは、株式などの資産価格の押し上げ効果について語ることには慎重だった。既述の昨年8月の講演における「ポートフォリオ・バランス・チャネル」の説明では、国債と民間債券の間でのシフトのみであり、株式や不動産資産が明示的に登場しなかった。
 
議長はFOMCの決定が発表された後、114日付のワシントン・ポスト紙の論説で、QE2の効果について株式などの資産価格の上昇効果も期待できるとようやく明示的に語った。株価の上昇が家計の資産価値を増加させると同時に景気の先行きに対する自信を改善することを通じて、個人消費を増加させると述べた2。おそらくQE2が株価を押し上げる効果があるかどうか、当初は確信がなかったのだろう。昨年の夏以降に株価の上昇トレンドが鮮明になるのを確認してようやくこの点について語り始めたように思える。
 
株価の上昇については市場参加者の「インフレ期待」に働きかける経路もあっただろう。QE2が将来のインフレ期待を高めるならば、インフレで名目価格の上昇が期待できる株や不動産など資産を増やそうとする投資家のポートフォリオ調整が働くからだ。
 
QE2は将来のインフレ高進の原因になる」と批判した論者の声は、皮肉なことに市場参加者の将来のインフレ期待を助長することにより、QE2の効果実現に一役かったのだ。また、デフレリスクからインフレリスクに転じる局面では、議長が繰り返し強調しているように連銀は伝統的な金融引締めで対応できるので、デフレリスクよりもよっぽど御しやすい。
************
 
もちろん、「今次のバブル崩壊後の景気回復が金融政策だけで順調に実現できる」なんてことはバーナンキ議長自身が否定している。財政政策も各種の規制改革も必要だ。ただしデフレになるリスクは回避された。これだけでも高く評価して良いだろう。1930年代にはデフレと資産価格の下落、実体経済の悪化が長期にわたって進行したが、そうした状況は回避できたということだ。
 
QEに失業率の改善効果はあるか?資産価値の下落負の資産効果消費減というプロセスを逆転できれば、当然ながら実体経済に正の資産効果を通じてプラスの効果が生じるので雇用回復効果もある。
ただし、米国の景気動向は国内の条件のみでなく、米国外の世界経済の動向にも依存している。欧州景気後退の一層の深刻化、中国をはじめエマージング諸国の景気失速などが今後さらに進んでしまえば、米国内部でも失業率を低下させるに十分な景気回復が頓挫する可能性は当然ある。
 
QE3後、株価は上昇しているが、現在の水準は企業収益と比べて過大評価ではない。再びバブル的な高さまで行くかどうかは、わからない。そんなことが起こったら、手持ちの米株を売れば良いだけだ。
 
金融政策は国内問題(物価安定と雇用最大化)の手段であって、対外的な不均衡(貿易収支不均衡)のための政策手段としては位置づけられていない。しかし、これも以前に日経新聞の経済教室に書いた通り、実質金利の変化に短期・中期の為替相場は反応するので、結果的にドル安貿易赤字縮小という効果はあるだろう。これはバーナンキ議長も認めている。
 
米国の対外資産・負債、対外純負債については、米国政府は明示的な政策の対象にはしていない。大雑把に言えば、それは市場が決めることだと程度に考えているだろう。私もそれが短期・中期で削減しなければならないリスクだとはあまり考えていない。私の「ドル危機論者」に対する各種の著作ご参照。
 
むしろ政策的な対応を要する問題は財政赤字だ。短期・中期の時間軸では景気に配慮しつつ、つまり急激な財政赤字の削減を回避しつつ、長期的には財政均衡に向かうようなソフトランディングを志向しなければならない。累進税率を上げる(=富裕層への増税)も必要だろう。それが議会の政治的な対立もあり、難しいということだ。
 
QE3で一部の物価上昇が起こり、低所得者は困る? 今の米国のCPIは年率2%前後でインフレを心配する状態にはない。ガソリンやコーンなどが上がったりするのは、それぞれ固有の需給要因から生じる相対価格の変化の問題であり、インフレの問題ではない。従って金融政策でどうこうできる問題でもない。
 
仮に少々の今後のインフレの行き過ぎ(例えば3.04.0%程度)があったとしても、低所得者にとってデフレに陥って失業がまた増加するよりも、雇用が増えてインフレで実質所得が多少へこむ程度の方がましではなかろうか。Marさんのお好きな「ワークシェアリング」(=多少ひとり当たりの賃金所得を減らしても、雇用を増やす、あるいは維持する)と同じ様な結果になるしね。
 
銀行が儲けてずるい?ゼロ近傍の金利で資金を調達し、長期国債で運用することで、銀行には1%以上の利鞘が生じている。でもそれは今に限ったことではない。通常の景気状態の下では、短期金利と長期金利の間にプラスの利鞘があり、銀行は短期調達、長期運用で利鞘を稼いでいる。それは金利変動リスクを負うことで得られる利鞘に過ぎない。別にずるいことでも、やましいことでもない。
 
以上、こんなところで良いでしょうかね。
 
追記:2012年9月27日
QEの効果が働くのは債券、株式だけじゃなく、不動産、住宅も効果の対象になる。
以下最近の住宅市場の復調に関するWSJ記事
 
 
 
竹中正治HP
http://masaharu-takenaka.jp/index.html (←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
最近facebookでの書き込みを活発化しております。本ブログのリピーターの方はfacebookでお友達リクエストをして頂ければ、つながります。