安倍内閣のもとで再び経済政策へのアドヴァイザリー役となった浜田先生、デフレは金融政策の問題だという主張で、デフレ・低成長に金融政策は無力と説く野口教授と真っ向対立議論となっている。
実は両氏の討議は小泉政権の時にも行われており、その時は浜田先生が野口教授に向かって、「こんなこともわからないなんて、大学院生に戻って経済学を勉強し直してきなさい!」と一喝したことがあるとか。
今回の両氏の激突は、以下1月20日の日曜討論ご参照。
シェイブテイル日記さんを引用させて頂きました(以下)。
引用:
野口「金融政策については、過去のデータを見る限り効果がなかったということがはっきり分かります。それから財政拡大については、金利の上昇といった問題が懸念されます。つまりこういう政策では日本の問題は解決できないという点は重要です。日本経済の構造を変えていくことが必要です。そこで重要なのが3番目の成長戦略で、国民はこれでどのような政策が出てくるかに注目していると思います。」
浜田 「景気を考える時に一番重要なのは天井(潜在成長率)です。天井を伸ばすのには金融政策ができることは限られていて、正しい意味での成長戦略は必要です。ただし、現在の日本が立ち遅れていいるのはそこ(潜在成長率の伸び)ではなく、せっかくの(生産)資源や人的資源を十分に利用できず、成長経路に乗っていない。
それを妨げていたのが金融政策(の誤り)で、なぜかといえばその兆候が円高とかデフレであるということです。私は先程野口先生がおっしゃったことには真っ向から反対です。」
(浜田先生終始にこやか、野口氏憮然)「こんなに論より証拠で、株が上がり為替も影響を受けるのに、金融政策が効かないということはない。」
(浜田先生終始にこやか、野口氏憮然)「こんなに論より証拠で、株が上がり為替も影響を受けるのに、金融政策が効かないということはない。」
野口「私も今回の公共投資は中身は評価できると思っています。問題は財源です。今の国債は非常に不安定になってきます。これは現在のユーロ危機との関係もあり、もし金利が上がると、国債を大量に持っている金融機関では膨大な損失が発生して経済が大混乱するという問題があると。
今のところは日銀が国債を買っていますので、大丈夫だろうと考えている人が今のところは多いのですが、これも行き詰まっていく可能性があるんですね。銀行が国債を売らないということになっていく可能性がある。だから財源の問題は決して簡単ではないのです。」
浜田「今の与党・内閣でちょっと心配なのは、大型の補正予算を出すことだけに集中する人がいるということで、金融は効かないから、財政でと。それは現在の経済学の立場から言えば全く反対で、変動(相場)制の社会になったら、(財政政策ではなく)金融政策が効くんだと。
それを言ったマンデルという人は、金融政策をやって、インフレ期待が生じ、金利が高くなるということは起きるが、それはインフレ期待よりも少ない、だから必ず経済は利益を受けるということを言っております。(この点については常にそうなるわけじゃないだろう。想定条件が肝心。竹中注)
野口「経済成長も促進されないし、雇用も増えない。なぜかといえば社会全体のお金の量が増えなかったんです。日銀が金融緩和をして、当座預金は二倍位に増えたんですが、マネーストックは10%位しか増えなかった。なぜそうなるかといえば、貸出需要がないからなんです。これはデータで非常にはっきり分かっています。」
浜田「データとおっしゃいますが、科学的に見ると、債券を買い、株式を買い、といういわゆる包括緩和ならもっと効く。それから本田教授らが示しているように、量的緩和でゼロ金利で野口先生のおっしゃることは多少起こったが、やはり日本経済にはプラスの影響がある、というのが実証的に証明されているので、『過去のデータを見ると(効果が)全くない』というのは全くのウソだと思います。」
島田「ただ、貸出が余り増えていないということはありますね。」
浜田「私が銀行に借りに行っても貸してくれないでしょう。それは担保が足りないからで、株式、そして土地の資産価値が今後上がってくれば、担保が増えて貸出市場にも極めて強く効く、というのが今の連銀議長でまた立派な経済学者でもあるバーナンキ先生が言っていることです。野口先生がおっしゃるのは今の経済学から見ると時代遅れだということですね。」(野口氏、苦笑)
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浜田先生単独インタビューは以下のダイヤモンドオンラインにて
浜田先生の日銀に対する不満と苛立ちは、このインタビュー記事の次の言葉に代表されている。
「白川(方明日銀総裁)緩和がうまく行かないのは、「もうそんなことをやりたくない」という意思を言外に示し、自ら「金融緩和策には効果がない」と吹聴しているためです。本気さが見えない中央銀行の政策を、誰が信用するでしょうか。」
日銀が「しぶしぶ」に見える理由は、私の推測では、日銀はインフレになった時の長期国債の暴落→金融危機というシナリオを恐れているんだと思う。日銀マンは決して口にしないことだ。予想の自己実現を恐れているのだろう。2ポイント程度の10年物国債の利回り上昇でも、価格は2割近く下落するからね。
それが起こらないという保証があれば、もっと過激な量的緩和もできるだろうが、その保証は経済学をどうひねくっても出てこない。「そうならないように操作、誘導してみせる」と中銀が決意するしかない。バーナンキはそれをやっているように見える。
この点、浜田先生は「期待インフレ率の上昇ほど国債利回りは上がらない(から大丈夫)」と言っているが、国債の信認が壊れた場合には、期待インフレ率以上に国債利回りは上昇することはPIIGS諸国が実証してくれている。
従って大胆な金融の量的緩和によるデフレ期待の反転と、長期的な財政再建への期待の繋ぎ止めという2つの異なる期待を同時に安倍政権は満たす必要がある。
私の本件テーマに関する見解については、2008年に書いた「金融政策のデッド・ゾーン、デフレとの戦い」もご参照頂きたい(以下)。
私の結論を言うと、ゼロ金利下でも量的金融緩和でデフレをマイルドインフレに転換できるかどうかは、経済主体のデフレ期待をインフレ期待に転換できるかにかかっている問題だと思う。つまり金融政策は「期待」を操作できるか?ということになる。 操作できる可能性はあり、現在の円安はその結果という面もある。しかし持続的に操作ができるかどうかは、難しい課題で操作不能になるリスクと紙一重かもしれない。
最近の円安、株安については以下の1月のロイターへの寄稿論考「1~2%インフレならば、株価はどこまで回復するか」をご参照。
(←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
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