pascalさんのコメント
「国債がその償還に関して所有者に約束していることは満期が到来したときに日銀券と交換するということだけです。この「約束」が(日銀のマネタイゼーションによってだとしても)守られるとしてもリスクプレミアムがつくのでしょうか?・・・・国でなくても日銀が国債を日銀券でどんどん買うならばプレミアムはつかないのではないでしょうか(国債が日銀券と等価になることが保証される訳ですから)?日銀が最後には買ってくれるならば、金利のつかない日銀券で持ってるいるよりも国債で持っているほうが得になります。」
 
実は私も以前はそう考えていました。自国通貨建ての国債は最後には中央銀行が償還される国債を買ってマネー(不兌換紙幣)を供給すれば良いのだから、それがインフレ(含むハイパーインフレ)になることはあっても、デフォルトにはならない。従って国債利回りは期待インフレに連動して上昇する(価格は下落する)が、リスクプレミアム(以下RP)は生じない・・・とね。
 
ユーロ圏のPIIGS諸国の国債にドイツ国債との比較でRPが生じているのは主権国家としての中銀を放棄したからだ。また途上国に見られる外貨建ての国債は当然中銀は外貨マネーを発行することはできないので、デフォルトリスクは生じるのでRPは生じ得る。
 
ところが一方でソブリンCDS市場では、日本国債にも米国債にもプレミアム(保証料)が生じている事実をどう考えたらよいのだろうか?
ソブリンCDSについてご不祥の方は以下サイト参照。
 
ソブリンCDSのプレミアムについては以下サイト参照。
 
上記のサイトでわかるように5年物日本国債に80BPのプレミアムがついている(1月24日現在)。
CDSはデフォルトが生じなければ、売り手(リスクの引き受け手)から損失補償の支払いを買手は受けられない。単にインフレで国債価格が下落したというのは保証の対象外だ。
 
だからソブリンCDSの買手はデフォルトリスクが実現しない限り、プレミアムを払い損になるので、デフォルトリスクを想定して買っているわけだ。この市場では自国通貨建て国債のリスクプレミアム自体が存在し、売買されていることになる。
 
この点で今年度の内閣府の経済白書(年次経済財政報告)は第3章の財政問題をとりあげた章で次のように述べている。
 
引用:「我が国のソブリンCDSスプレッド(プレミアムのこと、竹中)は、リーマンショック以降、我が国の財政状況の悪さが意識されたために、拡大したと考えられる。2011年末では、先進国の中では、GIIPS諸国とフランスに次ぐ水準となっている。・・・・我が国では、財政リスクが意識されているが、国債利回りは低位で安定している。以下では、その背景を・・・分析する」
 
白書はこの後、日本国債利回りの低位安定の背景として「国内資金の制度的封じ込め」が事実上生じているためと指摘している。
 
その判断の可否はともかくとして、ソブリンCDSと国債市場では全く異なった価格が成り立ってしまっていることを、どう理解したらよいのか? 
 
日本の金融機関や機関投資家は、平気で莫大な日本国債を保有しているのだから、ソブリンCDS市場で売り手になれば、国債の利息と同時にプレミアムも手にはいるじゃないか。CDS市場は急拡大してきたとはいえ、国債の発行残高の1%にも満たない規模だから、日本勢がCDSの売り手に回れば、プレミアムはあっと言う間に縮小するだろう。どうしてそうならないのか?
 
白書はこの点は明示的に語ってくれていないが、理解するカギは「counter party risk」だ。
国債がデフォルトするような時は、当然その主たる保有者であるその国の金融機関や機関投資家も破綻する可能性が極めて高くなる。
 
従って、ソブリンCDSの買手は日本の金融機関や機関投資家にプレミアムを払ってCDSを買っても、デフォルトが生じた時には、売り手(日本勢)に支払い能力ない・・・という状態になっていることが想定される。したがって、日本の金融機関や機関投資家は、買手の立場からすると、カウンター・パーティー・リスクが高すぎて売り手になり得ない。
 
それではヘッジファンドなどが双方の市場を裁定することでプレミアムが縮小することはないのか?ソブリンCDSを売って(プレミアムを取得)、そのヘッジのために国債を空売りしたら裁定利益が得られないか?
 
ところが、裁定も実に困難だ。現物、あるいは先物の国債価格は現状ではデフォルトリスクにほとんど感応度のない動きをしている。一方、ソブリンCDSはその反対で国債のデフォルトリスクに感応して変動している。裁定取引が成り立つための両者の間の相関関係が存在していない。
 
実際に、もし2008年以降にこの裁定取引をした場合は、国債の価格上昇(利回り低下)とソブリンCDSのプレミアム上昇で、両方のポジションから損失が生じただろう。
 
従って、実に興味深いことに、国債市場とそれをリファーしたソブリンCDS市場では、同じ金融資産を対象にしながら、裁定も成り立たないまま、分断された市場として異なった価格が形成されているという、ちょっと珍しい、パラドキシカルな状態になっているわけだ。
 
では最後の問題、どっちの市場が正しいのか? 規模から言うと国債市場が圧倒的だ。参加者のすそ野も遥かに大きい。だからソブリンCDS市場ではヘッジファンドなど投機家主体の歪んだ価格形成が生じていると理解する向きもあるようだ。
 
しかし、ヘッジファンドなど投機家だからこそ、みすみす損をするような非合理的な行動は回避しようとするだろう。 多数派の市場が合理的なんだということなら、そもそもバブルも起こらない。
 
というわけで、どちらの市場の価格が合理的なのかは、一概に判断できないように思う。強いていうと立場の違いということ・・・・日本の金融機関としては国債がデフォルトするような大津波が起これば、自分も逃げ切れずに破綻するのだから、国債のデフォルトリスクを気にしても無意味ということになろうか。
 
将来、実際に財政赤字、政府債務の持続性に不安が生じ、日本でも国債からのキャピタルフライトが生じるような事態になり、日本の金融機関や投資家がヘッジのためにソブリンCDSの買手になるような状況になったら、ソブリンCDSのプレミアムと日本国債の価格に連動性、相関性が生じることも起こり得るように思う。つまり上記の白書が言う「国内資金の(事実上の)封じ込め」が壊れるときだ。
 
というわけで、現状では可能性はかなり低いと思うが、長期的なスパンで考えると日本国債市場でリスクプレミアムが生じるケースというのも、起こり得るシナリオのひとつとして考えておいた方が良いかなと思うに至った次第。
 
国債のリスクプレミアムの計測方法について、もうひとつ説明があるが、今はここまでということで。
以下、参考に日銀のソブリンCDSに関する論文をご紹介しておこう。
 
http://www.boj.or.jp/research/wps_rev/wps_2012/wp12j09.htm/ (←ちっと難しいわりに大事な問題には答えてくれていないけどね)
 
ああ、私にとっても勉強になりましたね(^^)v
 
竹中正治HP
http://masaharu-takenaka.jp/index.html (←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
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