ゼロ金利下での量的金融緩和が実体経済に波及する経路のひとつとして、企業株価や住宅資産の上昇による正の資産効果(資産価格の上昇が消費を増やす)があることを、以前説明した。
 
三菱東京UFJ銀行NY駐在のエコノミスト(元部下)が、2月8日号の週刊レポートで次のように書いているのが目にとまった。
 
引用:「仮に株価上昇が今後の消費性向改善にうまく繋がるとした場合、給与税減税終了による所得押し下げ効果(約0.8%)を相殺するためには、ラフには1~3月期の平均株価が昨年10~12月期を10%前後上回る必要があると試算される。これはS&P500がリーマン・ショック前高値の1576ポイント(2007年10月11日)を上抜き、3月末にかけて1600ポイントを上回ってくることを意味する。」
 
「また、住宅価格については、景気変動に遅行することを反映し、短期的な消費性向の動きにはさほど影響していないことがみてとれる。住宅価格の上昇はあくまで中期的な消費性向上昇要因である。」
 
レポートは以下のサイトに来週月曜日に掲載されるはず。
 
短期見通しの週間レポートなので住宅価格の上昇の影響はここでは無視しましたということらしいが、2013年全体を見通す場合、この点はちょっと問題だと思う。 レポートの読者は別に1-3月の経済動向に関心があるのではなく、2013年年を通じてどうなるか、その中で1-3月はどういう位置になるか、そういうことを見通したいと思っているんだからね。
 
米国主要都市部の住宅価格指数であるS&Pケース・シラー指数は、2012年11月時点で、住宅価格が前年同月比5%前後も上昇していることを示している。 
S&Pケースシラー指数については以下のサイト参照
グラフ化されたものは以下のサイトで見ることができる。
 
住宅価格の復調・上昇が明確になってきたのは昨年後半からだから、この資産効果が2013年全体の個人消費を底上げする中期的な効果が出てくるだろう。
 
ちょっと別件で忙しいので、きちんとデータで裏付けていないが、住宅価格の資産効果を織り込めば、「財政の坂」(もう崖とは呼ばれていない)にもかかわらず、そこそこの株価の堅調トレンドでも、個人消費が腰折れずに推移する可能性が高い・・・じゃないかな。
 
追記:
ゼロ金利下の量的金融緩和効果としてのポートフォリオ・バランス効果については、東大の吉川洋先生が近著「デフレーション」の中で、クルーグマンの論文なども批判しながら、ゼロ金利下ではその効果は限極めて定的でデフレをマイルド・インフレに転換するような力はないと指摘している。
 
吉川洋先生は、日本を代表するケインジアンだが、米国のポール・クルーグマンに代表されるような
ネオ・オケインジアン学派とは一線を画しており、オールド、あるいはオリジナル・ケインジアンと呼ばれるべきだろうか。
 
合理的期待形成論を受け入れてしまっているネオ・ケインジアンよりも私は全般的には吉川先生に共感する部分が多いのだが、上記「デフレーション」に述べられたデフレとQE問題については、ちょっと同意を留保しておきたい気持ち。
 
この点では、日本などを対象にした実証研究なども出てきているようだが、まだ米国では現在進行形の事態であり、データと調査の累積が必要なテーマではないかと思う。 また経済現象における「効果」というのは、以前から書いている通り、市場参加者の「期待」次第で全く違ってくるので、断定的な効果の有無の判断は難しいと思う。
 
竹中正治HP
http://masaharu-takenaka.jp/index.html (←ホームページ、リニューワルしました(^^)v)
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