2020年のオリンピックが東京で開催されるニュースは、私も8日午前5時に起きて生放送で見た。会場で踊り上がり、抱き合って喜ぶ関係者方の姿を見て、思わず私も「やったね~!」と叫び、拍手した。
 
開催を喜ぶ一方で、東京オリンピックの開催の掲載効果で「景気回復が加速する」「株も不動産価格もオリンピックに向けて一段高になる」などの論調が横行し始めた。
 
この点については、クールな判断が必要だ。新興国のオリンピックで、経済効果が大きく誘発されるたのは事実だ。1964年の東京オリンピックも、当時の日本は戦後復興からの立ち上がり過程であり、一種の新興国だった。オリンピックに向けて首都高速や東海道新幹線が建設され、競技場の建築物もことごとく新規に建設され、東京中が建設ラッシュに沸いた。
 
しかしロンドンにしろアメリカの都市にしろ、成熟した先進国でのオリンピックは、多少の新設はあるものの、多くは既存の建造物を使用して行なわれる。 建設関係の景気誘発効果は極めて限られている。オリンピックの時には日本国内と海外からの外国人観光客が急増するが、それはその時一回限りの経済効果に過ぎない。
 
東京都は資本投資と消費支出の2項目で、オリンピックの需要増加とその経済波及効果を示している。試算は(特非)東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会とスポーツ振興局によるものだ。
 
それによると2013年~2020年までの期間の総額で、需要増加額は東京都9669億円、全国では12,239億円に過ぎない。さらにその波及効果(乗数効果)までを含めても3兆円に過ぎない。3兆円のGDP押し上げ効果は、日本の年間名目GDPが500兆円弱であることと比べれば、大した金額ではない。しかも3兆円という経済効果は7年間の累計である。
 
これを例えば2012年度政府予算による東日本大震災関連経費とそれによるGDP押し上げ効果と比べて見よう。2012年度では震災復興関連で当初予算と合計3冶にわたる補正予算が組まれ、その総額は18.1兆円だ。
 
その中には金融的な支援も含まれているので、純粋に需要を増加させる予算部分(一般に真水と呼ばれる)とその波及効果を含めたGDP押し上げ効果は、みずほ総研の計算によると総額で12兆円である。
そのうち第3次の補正予算による部分が6兆円であるから、東京都が公表している経済効果3兆円はその半分に過ぎないことになる。(以下 みずほリサーチ2012年2月)
 
にもかかわらず、過大評価、過大期待を煽るような言説が横行し始めている。例えば本日の日経新聞Web版は、3兆円ではセンセーションに欠けると思ったからだろう。以下のように記載している。
引用:「経済効果はさらに膨らむとの見方もある。大和証券の木野内栄治チーフテクニカルアナリストは今後7年間に観光産業が倍増すると想定し、経済効果は約95兆円と分析する。安倍政権の国土強靱(きょうじん)化計画が進めば約55兆円の効果を見込めるため総額150兆円規模になるとする」
 
オリンピックで「日本の観光業が倍増する(観光業の付加価値が2倍になるとの意味だろう)」などという荒唐無稽な想定で膨らました証券会社のアナリストの数字を、日経新聞ともあろうものが、そのまま引用しているのは、嘆かわしいことだ。
 
また「東京オリンピックで日経平均は4万円に近づく」という「予想」も登場する始末だ(以下)。
 
建設会社なども、「2020年東京五輪で東京の地価も住宅も値が上がるから、マンション投資のチャンス」などと囃したて、割高の新築マンションを無知な個人投資家に売りつけようとするだろう。
 
おそらく近い将来に起こり得る事態は、2006年~07年に起こったような東京の不動産ミニバブルに準じたことだろうと思う。商業ビルやマンションなどの価格は割高な水準になる可能性が高い。今からは買いますのではなく、来るべきミニバブルで売り抜かないと投資の成功はあり得ないだろう。
 
私としては、2020年の東京オリンピック効果は、計算できる経済効果よりも、目に見えない社会心理的な効果の方に注目しておきたい。 
 
1990年代以降、経済低迷で「内向きになりがち」と言われていた日本が、東京都、政府、スポーツ選手、その他の関係者の総力を挙げて、IOCという国際組織の場で「東京招致」を掲げて、文字通り知力・気力を振り絞った全力のプレゼン、説得工作を展開して勝ちえた「東京五輪」だ。
 
「日本の主張は世界に通じる!」関係者はみなそう感じたに違いない。見ていた私達もそう感じた。
それこそ計算できる経済効果を遥かに優る価値ある社会心理的なインパクトを生みだすかもしれない。
 
東京都と安倍政権には、国民が強い気持ちを抱いている時にこそできるような改革、自由で開放的な競争を促進するための規制改革、東京都が国際都市として一段の飛躍を遂げるような開放的な規制改革を遂行して欲しい。そうした改革こそが、わずか3兆円の経済効果を遥かに上回る持続的な経済成長の源泉になるのだから。
 
追記:ロンドン・オリンピックについて次のようなレポートがある。後で読むために張り付けておきます。
以下も参考情報 ATカーニーの調査
 
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人