毎度のトムソン・ロイター社での論考です。本日(5月28日)午後に掲載されました。
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一部抜粋引用:「今後の米国経済は趨(すう)勢的な「減速成長・低失業率」の局面に移行するだろう。これは矛盾ではないし、悲観的になることでもない。
 
その結果、段階的に縮小されている現行の量的金融緩和第三弾(QE3)は、現在見込まれている通り今年10月前後には終了し、来年の中頃にはゼロ金利解除、つまり最初の利上げが実施される可能性が高い。ただし、その局面で米連邦準備理事会(FRB)はQEの最後で最大のリスクに直面することになる。以下、順を追って説明しよう。
 
2000年代前半までの趨勢的な成長率3%強から労働力伸び率の低下分を差し引けば、今後の趨勢的な実質GDP成長率が2%台となるのは人口動態の変化から見て自然なことに過ぎない。FRBメンバーの予想も今年から来年は3.0%前後の成長を見込んでいるが、それ以降の予想の平均値は2%台だ。
 
この減速はいわゆる「ニューノーマル論」として語られる「金融危機の長期後遺症」などとは全く関係のない「はるか以前から人口動態的に見込まれていたこと」に過ぎない。金融危機の後遺症について言えば、米国では家計も金融機関も、金融危機による資産価格の急落が引き起こしたバランスシート調整はとっくに終了している。
 
インフレ率の見込みはどうか。2005―14年のデータに基づいて、FRBが重視している物価指標である個人消費支出(PCE)価格指数(前年同期比、除く食品とエネルギー)と失業率の相関関係(いわゆるフィリップス・カーブ)を見ると強い負の相関が確認できる(相関係数は-0.79、決定係数は0.62)。この関係性をベースに判断すると、今年から来年にかけて予想される失業率5―6%のレンジに相当するPCE価格指数は2.0―2.5%である。
 
現在の同価格指数は1.2%(3月時点、前年同月比)とFRBが望ましいと考える2%を下回っている。しかし、失業率の低下にしたがって賃金(総平均週間給与)は4%台の伸びとなっており、1年後には一層の雇用改善と並んで消費者物価指数も2%台に乗せてくる可能性が高そうだ。消費者物価指数も2013年以降1%台後半(前年同月比)だったが、4月は総合で2.0%、食料とエネルギーを除くベースで1.8%と上がってきた。
 
失業率の低下、インフレ率の穏やかな上昇見込みを総合すると、今年の10月前後にはQEの終了、そして来年中頃にはFRBがゼロ金利解消に踏み出すという見通しは無理のない自然な見込みだろう。
しかし、このQEからの出口の際に最大のリスクが待ち受けている。
 
繰り返しQEの終了から金利の引き上げまでには相応の期間があり、その後の金利の引き上げのテンポもおそらく緩やかだろうとFRBが繰り返しているのは、景気と市場への配慮のように受けとめられているようだが、実は連銀のバランスシートと巨額損失リスクへの配慮も含意しているのだ。
 
最後に言い添えれば、日銀も同様のリスクを抱えている。しかも、量的金融緩和期の短期と長期金利の金利格差が日本では米国よりずっと小さいので日銀の収益は米国連銀よりもずっと小さい。このため将来の金利上昇に対する耐久力も日銀の方が小さく、より大きなリスクを抱えていると言えるだろう。」
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補足説明:
下図の上段はロイター社サイトに掲載されている米国に関するGDPの変化と失業率の変化の負の相関(オークンの経験則)を示す散布図です。
 
ロイター社サイトでは図はひとつしか掲載できないので、下段は非掲載の消費者物価指数(PCEベース)の変化と失業率の負の相関(フィリップスカーブ)を示す散布図です。 
 
2005年以降の傾向では高い負の相関がありますが(青い近似線)、2012年以降だけを見ると(赤い近似線)相関関係が正になってしまっています。つまり失業率の低下とインフレ率の低下が同時に生じている。
 
この2012年以降の傾向を一時的とみるか、もう少し長引く傾向と見るかで、目先のインフレ率に対する見解は分かれます。私はあくまでも一時的な傾向と見て、本来の長期的な関係である負の相関関係(黒い近似線)に戻ると考えています。しかしこの逆傾向が長引くと判断するなら、FRBの金利引き上げは見込みより遅くなり、その後の引き上げも現在予想されているよりも遅いものになるという見方が出来ます。
 
実際に、JCER(日本経済研究センター)の愛宕チーフエコノミストはインフレの下振れが続き、「金利引き上げは遅れる」という見解を述べています。↓
 
私も愛宕氏も現状までの事実認識では齟齬がほとんどなさそうなので、これは将来予測のさじ加減の差だと言えるでしょう。ただし債券相場やドル円相場への短期的な影響は、どちらの見方をするかでずいぶんと違ってくるでしょうね。 1年ぐらい経ったら振り返ってみましょう。この点では私もそれほど決定的な自信があるわけじゃありませんがね・・・(^_^;)
 
追記:しまった一か所書き間違い。
「定数「‐C」はGDPの変化と失業率の変化の負の相関関係を示す相関係数である」誤
「定数「‐C」はGDPの変化と失業率の変化の負の相関関係を示す係数である」正
 
追記(5月29日):私の論考、今朝のGunosyメールの上から2番めに掲載されてる。
ロイターへのアクセスが増えそう。私の報酬は増えないけどね(^_^;)
 
追記(5月30日):悲観論、WSJ記事、記録しておきます。