気づいていましたか?インフレタックスは既に始まっている。
2月16日にNHKがニュース番組の特集で放映した「戦後の預金封鎖から69周年」の番組が話題をよんでいる。facebookでは一足先にコメントしたことだが、ブログでも書いておこうか。
 
まずNHKの番組は以下のサイト↓
 
サイト引用:「(1946年2月16日の)預金封鎖後、物価上昇の動きは弱まりました。
しかし、それはあくまで一時的で、その後、インフレは収まるどころか、逆に加速していきました。
その結果、預金は封鎖された2年余りの間に価値が大きく毀損しました。
林さんは「何十年もかけて貯めてきたお金なのに、数か月分の生活費しか残らなかった。 戦時中、そして戦後も国民はさんざんな目に遭った」と憤りを隠しません。
 
「国債を買って戦線へ弾丸を送りましょう」
政府は戦時中、国民に国債の購入を促し、国債を大量に発行しました。
その結果、政府の債務残高=借金は急増し、終戦前の昭和19年度末には対国民総生産比204%にまで膨らみ、財政は危機的状況に瀕しました。

このため政府は、借金返済の原資を確保しようと国民が持つ預貯金のほか、田畑、山林、宅地、家屋、株式など幅広い資産に25%から最高90%の財産税(対象10万円超)を課税することを決めたのです。

ただ、財産税を課税するには対象となる国民の資産を詳細に把握する必要がありました。
つまり、預金封鎖には、財産税徴収の前提となる資産把握のねらいもあったのです。」
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当時のインフレは年間500%と言われている。結局、預金封鎖で現金を引き出すことができない間に起こったハイパーインフレと財産税の実施で政府債務は事実上ほぼ解消した。その後1950年代、60年代の高度成長期は日本は均衡財政主義を維持し、赤字国債の原則的に基本的に行なわれなかった。赤字国債が復活するのは1970年代からだ。
 
さて上記の歴史の今日的な教訓はなんだろうか?
 
その1、「日本国債は国内貯蓄でファイナンスされているから大丈夫」とは言えない
今の日本の財政赤字、政府債務は膨大でも(グロス債務はGDPの約200%で戦後直後とほぼ同じ)、日本は対外純資産国(2013年末で320兆円)だから、将来の国債も国内貯蓄でファイナンスされていると言える。つまり日本の政府債務は国内の貸借(資産・負債)関係でしかない。対外純負債を負うギリシャやアルゼンチン、さらには米国の政府債務とは違って、だから大丈夫なんだという議論をする方々がいる。
 
対外純負債国の場合と今の日本の政府債務がその点で違うのは確かである。しかし大丈夫とは言えない。 戦争直後もGDP200%の政府債務は国内貯蓄でファイナスされていたわけだ。
その債務を返済しようとすると、必然的に国債を資産として保有していた全ての人からなんらかの徴税(「収奪」と言ってもいいかな)をするしかない。
 
戦争直後は、その徴税を資産課税と年間500%になったインフレタックス(債券価値の実質目減り)で一気にやったわけだ。 それ自体、社会的な危機を引き起こすようなショックであることに変わりはなかった。
 
もうちょっとゆっくり時間をかけて徴税するれば、パニックは起こらないのでは?
そうとは思わない。
 
国債を保有している人(機関)が、インフレにしろ、資産課税にしろ、その資産価値を「収奪」されるとわかれば、みな国債を手放そうとする。つまりパニック売りで暴落する。暴落で政府債務の実質価値が大きく減じる。政府は新規国債の発行も借り換えもサラ金のような高金利を払わないとできなくなり、財政破綻は誰の目にも明らかになる。つまりなにかしらの社会的な危機を引き起こすことに変わりはない。
 
「それは国債残高を減らそうとしたからで、無理に減らす必要はないのでは?」
私も現状は無理に減らす必要はないのかもしれないと思う。しかし今の問題は、年間30兆円以上も新規の赤字国債が発行され、債務残高が対GDP比でも増え続けていることだ。 これは将来世代へのポンジスキームであり、このまま増え続ければいずれ臨界点(singularity)を超える。
 
ポンジスキーム(日本語ではねずみ講)は、それが拡大している間は何の問題も生じることなく「上手くいっている」と感じることが特徴だ。そして持続不可能だとみなが気付いた時に自己実現的に破綻する。
 
したがって、まず最低限のこととして債務残高がこれ以上増加しないプライマリーバランスの均衡を実現しなくてはならない。つまり2014年で年間約30兆円の赤字を埋める必要がある。
 
やはり長期的な財政健全化は必至の課題であり、そのためには社会保障関係給付の削減と増税は避けられない。その痛みを和らげるのは経済成長戦略の出来栄え(効果)次第だ。
 
その2、インフレタックスは既に始まっている
その一方で、インフレタックスは既に始まっているということだ。例えば直近2014年12月の消費者物価指数は前年同月比で2.4%、その半分強は消費税の引き上げによる効果だ。一方、10年物国債利回りは0.4%程度、短期国債の利回りはほぼゼロ%。
 
消費税は消費にかかる税金だが、民間が保有する国債も将来の消費に充当するための貯蓄として国民が間接、直接の形態で保有している金融資産だ。
 
仮に既存の発行済み国債の平均利回りが0.2%とすると、0.2%-2.4%=-2.2%分、国債残高の購買力は消費者物価指数の上昇分だけ消えたわけです(実質価値の減少)。 その消えた実質価値の分、政府債務の実質価値は減少したわけになる。金融取引はゼロサムだから、実質債務価値の減少=債務者の実質利得になる。
 
こうして民間から政府に移転した実質価値は、国債発行残高が900兆円ならば、
900兆円×2.2%=約20兆円! 
わぁお~1年間で20兆円のインフレタックスだったんだ~(゜o゜)  
これこそ黒田緩兵衛殿の深慮遠謀だったのかもしれない?
 
利息のほとんどつかない銀行預金やタンス預金を持っている方々も同じだ。
今後消費者物価指数の上昇が目標の2%に到達しなくても、国債利回りはほとんどゼロに近いから、消費者物価指数がプラスである限り、現金、預金、国債の実質価値はその分目減りし続けるということだ。
 
大変だ~どうしたらいいの? 株買ったらいいの?マンション買ったらいいの?
いっそ、貯金なんかやめて使っちゃえばいいの?と、国民がそう動けばますます緩兵衛殿の思惑通り~(^。^)
 
高橋洋一氏がNHKの番組の「裏スポンサー」は財務省だったと言っている。
そうかもしれないね・・・
http://diamond.jp/articles/-/66872
 
追記(2月23日):英国の政府債務の歴史に関する池田信夫氏のコメント
 
追記(2月25日):本日に日経新聞「経済教室」でカーメン・ラインハート教授(ハーバード大)が、先進国における現下の実質マイナス金利を「金融抑圧による政府債務の実質削減策である」と位置付けて以下のように述べている。 私の上記ブログと基本的に同じ認識なのでメモしておこう。
 
引用:「過去150年間で「世界」の実質金利が持続的にマイナス、すなわち名目金利がインフレ率を下回った状態であったのは、2008年のグローバル金融危機後の現在のサイクルを含め、4回だけである(図参照、英米の政策金利を接続して作成)。こうしたマイナス金利は、国債保有者に「税」を課し、預金者から債務者への移転を促す。
 過去3回の持続的なマイナス実質金利の局面のうち2回までが、2度の世界大戦および戦時公債の大量発行によってもたらされている。第1次大戦当時のマイナス金利は、高インフレが重要な要因となった。第2次大戦終了後にも深刻なインフレ危機があり、とくに目立ったのは日本、イタリア、フランスであった。