昨年12月に本ブログで「フィリップス曲線をよじ登る日本経済、2015年に向けた吉兆」と題して、失業率の低下に顕れた雇用動向の改善が名目賃金の上昇につながり、最終的にはインフレ率調整後の実質賃金の上昇をもたらすという強気の景気見通しを語った。
 
その後の展開をレビューしてみよう。結論を言うと、日本経済は今年に入ってからも順調にフィリップス曲線を左上方に向かってよじ登りつつあり、今年の4月以降の実質賃金の目立った上昇(前年同月比で1~2%程度)がほぼ確実視される様子になって来た。
 
フィリップス曲線は、元々ウイリアム・フィリップスが1958年の論文で論じた時は横軸に失業率、縦軸に名目賃金変化率だったそうだ。 その後、サミュエルソンとソローが失業率とインフレ率の関係性で論じてから、今では後者の関係性で論じられることの方が多いようだ。(以下英語版wiki参照)
 
前回は国民経済計算の雇用者報酬(名目賃金×雇用者数)の変化で図示したが、雇用者報酬は四半期データで遅いので、今回は月次で利用できる現金給与総額(一人当たり名目賃金指数)の前年同月比を使って失業率との関係性を示したのが、以下掲載図である。
 
現金給与総額は前年同月比で見ても、単月のふれが大きいデータなので、過去12カ月移動平均を使用している。 また過去1~2年のように雇用の増加が起こっている場合は、雇用者報酬の増加率>現金給与総額の増加率となることを言い添えておこう。
 
上段が散布図、下段が折れ線グラフによる推移図である。非常に高い相関関係があることがわかるだろう。相関係数で0.86前後、決定係数で0.74~0.75だ。 これは失業率→賃金変化という因果関係を想定すると、賃金変化は失業率の水準で75%前後は決定されることを意味する。
 
賃金について一般的なアンケートをとると「増えないと思う」という悲観的な回答が多数を占めるようだが、データが示す現実は失業率に代表される雇用需給の改善、タイト化が持続すれば、タイムラグはあっても必ず賃金も増えるということだ。
 
1991年からのデータであるが、一目でわかる通り、日本経済は着実にフィリップス曲線を左上方に向かって動いている。紫色の分布が安倍内閣になってからの2012年12月~15年1月の変化で、赤い点が2015年1月時点の位置だ。
 
直近2015年1月のデータは、失業率3.6%、現金給与総額前年同月比+1.3%、同12カ月移動平均値+0.8%である。  2015年1月の消費者物価指数は前年同月比2.2%(除く生鮮食品)だから、実質の賃金は-0.9%(=1.3-2.2)と減っており、これが「アベノミクスで大半の国民は貧しくなっている」という野党民主党などの政権批判の根拠になっていたわけだ。
 
ただし何度も言っている通り、消費者物価指数2.2%のうち2.0%は消費税率引き上げによるもので(日銀の推計)、それは民主党政権時代に自民党公明党の合意を取り付けて決定していたことに過ぎない。
 
今年の消費者物価指数は、前年同月比で見ると、4月からこの消費税率分の2%がはげ落ちる。加えて原油などエネルギー資源価格の下落で一時的には前年同月比ゼロ%前後になるだろう。 さらに報道されているこの春の賃上げ動向などを勘案すると、大雑把に見て現金給与総額は名目でプラス2%前後になりそうだ。つまり実質賃金伸び率がプラス2%前後になる。
 
野党民主党も「アベノミクスで国民の多くは実質でむしろ貧しくなった」というような目先のきかない批判を繰り返してきたが、それももう使えなくなるよ、ということになる。
 
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
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