中国の不動産建設バブルが崩壊現象を呈していることは、様々に報道されている通りだ。しかし崩壊の速度、経済成長率の鈍化の速度がスローだから、ソフトランディングするのではないかという楽観的な見通しも多い。私はむしろ逆で、スローだからこそ実体経済への負の影響は深く、長くなると思っている。この点を考えてみよう。
 
現代の資産バブルに共通するのは、信用の膨張、資産価格の高騰、過剰な固定資本形成、これら3つだ。 そしてバブル崩壊過程では信用の収縮、資産価格の下落、固定資本形成の減少が起こる。したがって「バブルの崩壊」とはそれに先立って起こった3種類の過剰(信用の量 、資産価格の水準、固定資本形成の規模)の調整だと言える。
 
さらに崩壊過程では、資産価格の下落で損失が生じ、負債の返済が困難になる経済主体が損失を隠蔽、粉飾するケースが続出する。
 
急調整型だった米国のケース
このバブル崩壊過程がどの程度の速度で生じるか、それを決めるのは信用収縮の速度だろう。この点で戦後最も急速な信用収縮が起こったのは2007-08年の米国のケースだ。上段の図は、米国のCP発行残高の推移だが、2007年のピーク時から2年間で1.1兆ドル(132兆円)の残高減少、信用収縮が生じている。 そのうち、約70%が証券化商品のファイナンスを担ったAsset-backed CPで生じている。ここではデータは省略するが、MBS(Mortgage-backed Securities)の発行縮小を加えると、信用収縮の速度はもっと急激だった。
 
これは米国のファイナンスが銀行ローンよりも、CP・債券発行市場に圧倒的に傾斜した直接金融主流の構造だったからだ。 投資家の不安心理に火がついて、それが一気に感染爆発を起こすように広がり、証券化市場は機能マヒに陥ったわけだ。
 
スロー調整型だった日本のケース
米国のケースに比べて、銀行貸出中心の信用膨張に依存した日本のバブルは、その崩壊過程がずっとスローだった。 2段目の図は、日本国内銀行の総貸出、不動産業界向け貸出、建設業界向け貸出の残高推移である。
 
不動産価格で見るとバブルのピークは1991年だったが、その後も貸出残高が増えている。これは当時よく言われたように、事実上行き詰っている不動産会社やリース・ノンバンクに対する「追貸」が横行したからだ。銀行としては一気に破綻処理して莫大な損失を計上するよりも、追貸して延命すれば不動産市況がまた回復して損失を縮小できると考えたからだろう。
 
しかしそのような市況の好転は起こらず、97-98年のアジア通貨危機の飛び火で、銀行不良債権危機に至った。貸出残高が目に見えて減少するのは、この90年代後半からだ。 91年以降の不動産価格の急落過程で、各種の損失隠ぺい、「損失飛ばし」が横行したことも様々に指摘されてきた。
 
その後、銀行の不良債権処理が一気に進んだのは2003年3月決算であり、誰の目にも危機が終わったことが分かるようになったのは、2004年頃だった。
 
ただいま進行中、超スロー調整型の中国不動産建設バブルの崩壊過程
 日本のケースに比べて、更に超スローに「調整」が進行しているのが中国だろう。
本日5月2日の日経新聞朝刊の記事が次のように伝えている。
 
引用:「約4兆3千億元(約82兆円)。中国の地方政府が2014年に国有地の使用権を不動産開発業者に売って得た収入だ。土地が国有の中国では、地方政府が使用権を売りに出す。地方政府はこの土地譲渡収入で歳入全体の約3割を稼いだ。
 
地方政府にとっては「打ち出の小づち」だが、異変が起きている。14年の土地譲渡収入は前年比3%増と、4割も増えた13年から伸びが急激に鈍った。四半期ごとにみると、14年1~3月は前年同期比4割増だったのが、同10~12月に2割減に転じ、さらに今年1~3月は36%減に落ち込んだ。住宅市況が冷え込み、不動産投資の伸びが一気に鈍ったためだ。
 
 「たこが自分の足を食う」ような事例もある。住宅の過剰供給で知られる江蘇省常州市が14年に使用権を売却した約70件の土地の資料をみると、買い手の約8割が同市傘下の投資会社「融資平台」とみられる企業だった。見かけの市の収入は増えても、実態は市政府の内部で資金をやり繰りしているようなものだ。」 下段掲載は記事図表。
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日本や米国のバブル崩壊過程で生じたこと、信用の縮小、資産価格の下落、固定資本形成の減少、損失隠蔽・粉飾、飛ばしなど全て共通することが中国でも起こっている。
 
ただし違いは、それが超スローモーションで進んでいることだ。中国のファイナンスの中核は国有銀行であり、最大の融資対象セクターが地方政府とその事実上の関連会社、関連機関のはずである。
 
米国のように不安を感じた投資家が一斉にファイナンスから撤退するようなことは起こらない。さらに日本の銀行融資よりはるかに中央政府の貸出維持のコントロールが効いている。だからバブルの調整は超スローモーションである。
 
しかしバブル期の過剰に対する調整に要する規模、例えばGDPに占める固定資産形成の比率の異常な高さの調整(固定資本形成⇒消費へのシフト)などは、日本や米国の比ではない。結果として、長期にわたって成長鈍化の傾向が持続するようなプロセスに入ったのであろう。もちろん、損失の隠蔽・粉飾、飛ばしも横行しているはずであり、その損失処理も超スローモーションで進むのであろう。
 
直近発表された中国の今年第1四半期の実質GDP成長率(前年同月比)は7.0%だったが、それを額面通りに受け止めるエコノミストは中国外では少ない。
 
また、人口動態上の変化が経済成長にプラスに寄与する局面から、マイナスに寄与する局面、つまり人口ボーナスから人口オーナスへの転換点(日本は1990年前後、米国は2000年代後半に転換した)は、中国の場合まさに2015年、今年なのだ。
 
そして、これが最後のポイントだが、そのような長期にわたって引き延ばされた経済的な痛みに、中国の社会・政治システムが果たして耐えられるかどうか、それがこらから問われることになるだろう。

追報:ジャーナリストの取材した現地の実情

追報2:現地取材のジャーナリストの表現がこれまでと変わって切迫感が濃くなってきた。
引用:「筆者は、年金生活を送っているある上海人男性を訪問した。“知識人”であるこの男性は将来を悲観してこう語る。「汚職官僚を捕まえなければ国は終わるが、捕まえても国は終わる。汚職だけ叩いていても限界がある。中国の政治の機能不全は、突き詰めれば突き詰めるほど根深い問題で、もはや手が付けようがない

追報3:「中所得国のわな」「新常態」は成長鈍化の言い換えに過ぎない
 
 近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
↑New!YouTube(ダイビング動画)(^^)v
 
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