日経平均2万円の水準を付けた後、日本株はやや弱含みだが、見通しは総じて強気の見方が多いようだ。長期的な視点から、2万円の水準の妥当性(割高?)を考えてみよう。
この種のテーマのレポートは既に証券会社などからかなり出回っているが、「プロフェッショナルな楽観論者」の見解には興味がない。 この点、日本経済新聞の「経済教室」(4月27日)で川北英隆教授(京大)が以下のように述べていることが目にとまった。(川北教授も市場ビジネスの経歴を経て大学に移られた方だ。)
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引用:「中長期的な株価水準は企業の収益力に左右される。では、何をもって企業の収益力を測ればよいのか。筆者は営業利益が最も適当だと考える。
経常利益や税引き後利益の場合、負債に対する利払いが短中期的には固定費として働くので、好況と不況の波を増幅してしまう。いわゆる財務レバレッジ(テコの原理)効果が生じるため、あまり適切な指標ではない。これに対して、営業利益は企業の財務体質に左右されず、企業の収益力を端的に表す。
図は、各年度の営業利益ベースでの増減益率と、各年度末時点において営業利益(確定値)の何倍まで上場企業が買われたのかを示す値について推移を示している。図から判明するのは、12年度以降の増益基調が株価上昇を支えてきたことである。増益基調を背景に、時価総額・営業利益倍率も高まってきた。
増益基調が株価水準を高めたことは、中長期的な株価水準が企業実態を反映していることを意味する。「株価とは、将来において企業が株主のために生み出すであろうキャッシュフロー額を、現時点での価値(現在価値)に換算したものである」との理論に則している。」
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なんとなく経常利益の方がよいかなと思っていたが、なるほど企業の趨勢的なグロス収益力を測る指標としては営業利益の方が良さそうだ。 ただし同氏が掲載した図表(上段)は2006年3月期からのもので、データとして短い。 もっと長い時系列で見て、「時価(東証1部)総額/営業利益」が趨勢的な平均値から乖離と回帰を繰り返しながら、平均値に収束することを確認したい。そうでないと、この比率が長期的な割高・割安の指標として妥当かどうか、わからない。
そこで自分で長い時系列データを用意しようとしたんだが、これが簡単でないことに気がついた。東証1部上場の企業数は1700社余りだが、その営業利益の総額データがみつからない。1700社余りの企業の営業利益を自分で集計するのは、一人力でやっている私には手間がかかり過ぎる。(この点に限らず、東証のデータ開示は、どうもマクロ系のユーザーには不親切にできているね。)
そこでやむなく、内閣府の法人企業統計から資本金10億円以上の企業(除く金融・保険)の四半期データから営業利益をとることにした。このカテゴリーの企業と東証1部上場企業群とはもちろん同じではない。しかし両カテゴリーの利益規模の絶対額は違っても、変化に高い相関性があるだろう。とすれば代替できる。
ちなみに法人企業統計は、「金融・保険を含む」全産業データの時系列は古くまで遡れない。昔から「金融・保険を除く」ベースでデータを作ってきているからだ。(なぜか川北氏の図表も「除く金融」になっている。なにかしらのデータ制約があったのだろう)
以上の様な制約はあるものの、「暦年末の東証1部時価総額/年間営業利益」を1981年まで遡って表示したのが下段の図だ。2015年の営業利益は、前年比5%増の想定にしてある(ちなみに2014年の営業利益は前年比9.9%増、2013年は35.9%増だった)。
結果は期待通りに時価総額/利益比率(青線)は、長期的な平均値(青色の破線、16.7)からの乖離と回帰を繰り返している。図上には省略したが、近似線もほぼ水平になる。つまり長期的な平均値に対して乖離と回帰を繰り返しながら、平均値に収束する傾向が見られる。赤線は東証1部の時価総額(12月末値)だ。
参考までに営業利益を経常利益や名目GDP総額に換えて、同じことをすると、近似線は水平にならずにトレンドが出てしまう。 営業利益で計測した方が、利益と時価総額の長期的に安定的な関係が確認できると考えて良さそうだ。
特定期間に分けて、もう少し詳細にグラフを見てみよう。
1980年代後半:バブル期には利益は伸びているが、それを上回るテンポで時価総額が増えた結果、比率は上方に突出しており、顕著な株価割高を示している。
1998-2000年:ITバブル期にも時価総額の伸びが利益の伸びを大きく上回っている。
2002-04年:ITバブルの不況から抜け出して利益は回復傾向だったが、時価総額の伸びが遅れ、株価は割安局面だった。
2005-07年:企業利益の伸びが持続し、時価総額は大きく増加したが、利益との比較で割高感はなかった。反省としては、この局面では今回の図表のような指針がなかったので、私はちょっと売るのが早く、期待利益を失う度合いが大きかった。
2008-09年:リーマンショックを契機にした世界不況で、企業利益の落ち込みが著しく、株価も急落したが、利益ほどには時価総額は減少しなかった。
2010-12年:2009年の底から利益は回復したが、時価総額は利益に見合ったほど回復しなかった。つまり株価割安局面。
2013-14年:それまでの株価割安の調整として株価急騰、時価総額急増、企業利益も急増し、13年と2014年末時点の時価/利益比率は、ほぼ長期的な平均値となった。
2015年:最後の2015年は営業利益は前年比5%増、時価総額は4月24日587兆円、日経平均
20,020円の水準で描いてある。
営業利益は原油価格などの低下による交易条件の改善の順風もあり、2015年も改善が見込まれるが、2014年のように前年比10%というのは楽観的過ぎるかもしれない。 そこでプラス5%の増加にした。 この想定で見ると比率は19.1となり、上記の時価総額、株価はやや割高のレンジに入っていることがわかる。営業利益+10%で計算すると、比率は18.2で、それでも長期平均16.7よりやや高い。
というわけで、日経平均2万円からは、「まだまだ上がる!」という強気は抑制し、高値更新局面は慎重に売り抜け、ポートフォリオに占める株式比率は下げるというスタンス継続で良いだろうと思う。
追記:2016年3月期決算予想、2015年10日、日経新聞記事
「2016年3月期の経常利益は前期比1割程度増え、2期連続で過去最高を更新する見通しだ。」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20150510&ng=DGKKASGD09H24_Z00C15A5MM8000