実質国民総所得(GDI)の高成長
3月のブログで2015年の日本経済は実質国民所得(GNI)ベースで3%を超える高成長となると書いた。
2015年1-3月期の国民経済計算結果(速報値)が5月20日に発表され、その通りの方向に進んでいることが確認できたので、報告しておこう。
前回説明したことだが、各カテゴリーは以下の通りである。
実質GDP:実質国内総生産 一年間に国内で生産される付加価値の実質総額
実質GDI:実質国内総所得 GDPから交易条件の変化で生じる交易利得(あるいは損失)を加減
したもの
実質GNI:実質国民総所得 上記GDI に対外的な所得(主に配当と利息)の受取と支払のネット(つま
り国際収支上の所得収支)を加えたもの (昔はこれがGNPと呼ばれていた)
図は実質国民所得(GNI)と実質GDPの前比年率の成長率だ。2015年1-3月の実質GDP成長率はメディアでも報じられている通り+2.4%だった。 一方GNIは+3.7%とGDP伸び率を1.3%超えるものとなった。これは3月のブログで指摘した通り、交易条件が原油価格などの急落で5.9兆円(年換算)改善したことが主因だ。
また2014年10-12月期のGNIは6.1%とさらに高い成長率だった。この期は交易条件の改善はまだほとんどなかったが、一段の円安が進んだことで所得収支(国際収支表の経常収支の一部で海外からの受取利息や配当から支払い分を差し引いた収支)の円建てベースの黒字額が前期比5.6兆円増加した影響が主因である。
内閣府は全てのデータを公表しているのだが、メディアの報道がGDPのみに集中しているのは、私には奇妙なバイアスに思える。GDPに注目するのが国際的に一般化しているとは言え、それは一種の慣習に過ぎない。
経済は複合的多面的現象なのだから、もっと複眼的な視点があってしかるべきなのだが。
在庫変動要因の正しい見方
また実質GDP成長率+2.4%(前期比年率)について、明らかに早とちり、あるいはミスリーディングなコメントがメディアに流れているので、指摘しておこう。
データ公表日の5月20日の日経新聞夕刊では、成長率としては予想平均(+1.5%前後)を上回る数字だが、在庫の増加が大きく(寄与度で+2.0%)、内容的に良くないというエコノミストらのコメントが目立っている(以下参照)。大丈夫かな、この方たち、後からちゃんとデータ見て「しまった!」と思っているんじゃないかな?
20日の日経新聞夕刊、引用:「野村証券の木下智夫チーフエコノミスト
1~3月期の実質国内総生産(GDP)が2四半期連続のプラス成長となったのは、民間消費と在庫の伸びが主な要因だ。民間消費は実力をやや上回った数字で、在庫も市場予測を大きく上回った。」
「BNPパリバ証券チーフエコノミスト 河野龍太郎氏
1~3月の実質GDP成長率の押し上げに大きく寄与したのは在庫の増加で、これを除くと緩やかな回復にとどまった。」
以下が在庫変化の実数だ(単位:10億円)。
2014/1-3 -5,150
2014/4-6 +1,074
2014/7-9 -2,131
2014/10-12 -3,229
2015/1-3 -970
2014/1-3 -5,150
2014/4-6 +1,074
2014/7-9 -2,131
2014/10-12 -3,229
2015/1-3 -970
在庫の増加はGDPにプラスに寄与するが、それが意図せざる在庫の積み上がりならば、景気の悪化を示唆する。
2014年1-3月は消費税率引き上げ前の売り上げの伸びで在庫は5.1兆円減少、しかし4-6月には1兆円の増加となり、これは売上減少、景気悪化による在庫増だった。その後、在庫の圧縮が起こり、2.1兆円減少、3.2兆円減少と続き、2015年1-3月に減少幅は0.97兆円に減った。
GDPに与える変化としては「在庫減少額の減少=在庫の増加」であり、GDPにプラスに寄与している。しかしそれは2014年4月以降に生じた意図せざる在庫増とは反対で、在庫の圧縮が進み、在庫減少額が小さくなった結果として生じている。
つまりこの在庫変化のデータが正しい限り、景気判断的にはむしろ良い変化を示唆していると考えるのが妥当だろう。(もっともGDP1次速報値の在庫は推計値ですので、改訂値でどう変更されるか、不確実な面は残っている。)
さすがに日経新聞は翌日の朝刊(5月21日)では、その点を報じているが、以下のさらりとし過ぎた解説では、読者は十分に理解できないだろう。
21日の日経新聞朝刊、引用:「在庫は1~3月期も10~12月期も前の期に比べ減ったが、減少幅は1~3月期の方が小さかった。これがGDPの伸び率を高める方向に働いた。」また
また今回から内閣府は在庫変化の内訳も公表するようになった(以下のサイトの最下段)。
「在庫変動の振れがGDPの変化に与える影響が大きくて、四半期予想が難しい。在庫変化の内訳も公表してくれ」という趣旨の要望があったらしい。
4月以降の注目点
さて、今後4月以降のデータで注目は、実質賃金の変化だ。昨年度は名目賃金伸び率が消費税率増税による消費者物価指数の上昇に追いつかず、実質賃金は下がり、これが野党やアンチ・リフレ派のエコノミストらによってアベノミクス批判の材料になった。
今年4月以降のデータは一転、実質賃金の増加(前年同月比)となるだろう。これも以前のブログで予想済みだ(以下参照)。
もっとも消費者は前年同月比の変化に反応するわけではない。変化への反応はもっと短い時間で生じるだろう。実際に、消費者態度指数や景気ウオッチャー調査では既に緩やかな改善傾向が始まっていることが観測できる。
2015年はやはり日本経済順風の年になりそうだな。
それを素直に喜ぶことのできない民主党など野党の皆様方、アンチ・アベノミクスのエコノミストの皆様方、ご愁傷様です。
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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