中国経済については、過去数年、節目節目に幾度か書いてきたので、ここらで自分の書いてきたことを一覧して、レビューしておこう(掲載の事情でオンラインで書いた論考のみ)。

以下時系列順で掲載


引用:「中国自身の為替介入の不完全性と資本移動規制の空洞化が、海外からのドル資金の流入→中国国内での過剰流動性→不動産バブルという事態を引き起こしていると言えよう。

これまで中国では次のような俗論が横行してきた。
『日本は日米貿易摩擦で1985年のプラザ合意で円相場の急騰を米国に強いられ、円高不況を回避するための過剰な金融緩和がバブルを起こし、その崩壊で経済成長が低迷した。従って中国は決して米国の中国元相場の急激な切り上げ要求に屈してはならない』
 
皮肉にも今の中国は、通貨の切り上げを拒否するための大規模な為替介入の累積と、固定的な相場維持に不可欠な資本移動規制の空洞化によって、国内の過剰流動性が不動産価格の上昇を助長するという形でバブルの罠にはまりつつある。これを中国政府が果たして金融引き締めやその他の手段で対処できるかどうか。

それに失敗すれば、次の大規模なバブルとその崩壊を私たちは中国で見ることになるだろう

2011年2月「『住宅バブルの法則』が予言する中国危機」日経ビジネスオンライン、ニュースを斬る

引用:「このジレンマに今最も先鋭的に直面している国は中国だということだ。現在中国で進行している住宅価格の高騰(その結果、都市部の標準的な住宅価格は勤労者の平均年収の30~50倍)は、やはり金利・成長率格差の大きなマイナスによるものだ。それを金利の引き上げだけで抑制しようとすれば、名目成長率が2ケタである以上、金利も2ケタ水準まで上げる必要があろう。景気へのオーバーキルを考えれば中国の金融当局にそんな金利の引き上げはできないだろう。

代わって銀行の融資を間接・直接に制限する量的制限方式も(これまでは十分な効果を上げてこなかったが)、同時に施行されている。しかし日本の1990年代初頭のケースと同様に調整が難しく下手をすれば、バブルのソフトランディングではなく、崩壊的なハードランディングになる危険も高い。

日本でもバブルの時は地上げでゴルフ場を建設して会員権を売りさばけば、錬金術のように莫大な収益が入ってくるので、多くのディベロッパーが暴走した。農民から土地を取り上げて、銀行からの融資で工場団地や住宅に仕立て上げれば、莫大な非税金収入が入ってくることに酔っている今の中国の地方政府の姿は、往時の日本以上のバブル道をひた走っているのだ。」

2012年9月「人民元国際化に政治の壁、通貨危機」リスクも」トムソン・ロイター・コラム

引用:「自由な市場機能にそもそも信頼を抱いておらず、官僚による指令主義的志向の強い中国政府は「管理された人民元国際化」を志向しているとも言われる。しかし、それは概念矛盾に他ならない。既述の通り、トリレンマの原理が示す選択肢は「管理されたローカル通貨」か「取引自由な国際通貨」しかあり得ないのだ。

あるいは、国内の規制金利を維持しながら、「人民元国際化=内外資金移動の規制緩和」という政策的に不整合な路線を志向してしまうかもしれない。 政治的な理由で経済原理に反した制度・政策の大きな不整合を犯した場合、最終的には巨大なしっぺ返しを引き起こすことは、すでにアジア通貨危機を例に述べた。また、現下のユーロ圏のソブリン金融危機が見せつけてくれていることでもある。同種の過ちを中国が将来犯す危険性は、筆者は決して低くないと思っている。」

2015年8月「『中国ショック』は世界不況を招くか」トムソン・ロイター・コラム

引用:「以下の4つの事情で、中国経済の成長率は深刻な下方屈折を起こしている。構造的な変化に適応しなくてはならない中国の苦しい過程は始まったばかりだ。他の国々も程度の違いこそあれ中国経済の失速から受ける実体経済面の負のインパクトに備える必要がある。また、新興国投資全般は当分の間、高リスク・低リターンの「冬の時代」に入るだろう。順番に説明しよう。」

2016年1月「中国バブルのミンスキー・モーメント」トムソン・ロイター・コラム

引用:「今後不可避と思われる中国の過剰債務の調整過程で何が起こるのか。それは日本や米国で起こったことと基本的には同じだろう。おそらく習近平政権は10年、20年という長期の時間をかければ軟着陸は可能だと考えているのだろうが、私は懐疑的である。

過剰債務の調整とは、結局のところ経済的な損失負担の問題であり、貸した金が回収できないという事実を前に、債務者、債権者(含む金融機関)、政府(納税者)がどのように損失を負担するかの問題だ。その過程で債務企業や金融機関の大規模な整理、破綻、失業者の増加などは不可避だろう。
中国国内からの資本逃避が一層強まる恐れもある。年間2000億ドルを超える経常収支黒字にもかかわらず、中国の外貨準備は14年のピーク時の約4兆ドルから15年末には3.3兆ドルに約7000億ドル減少している。これは資本流出により、人民元相場を現在の水準近辺で維持できなくなっていることを示唆している。

資本逃避が一層強まれば、1ドル=7元を超えた元安・ドル高もあり得よう。その場合には、中国の民間非金融部門の1.2兆ドルと推計されるドル建て債務(BIS四半期レビュー、2015年12月)から巨額の為替損(10%の元相場下落で約14兆円相当の損失)も生じる。中国の過剰債務の調整が今後本格化すれば、未曽有の過酷かつ長期的プロセスになると考えておくべきだろう。」

以上