政権の寿命と景気動向に関係性がありそうなことは以前から感じていた。そこで遊びのような分析だが、戦後日本の内閣の寿命とその期間の日経平均株価指数(以下、「株価」)の騰落率の関係性を見てみたら予想以上に高い正の相関関係があることが分かった。

内閣の寿命は、内閣改造があっても首相が変わらなければ同じ内閣として計算してある。またわずか期間2か月前後で終わった超短命内閣(石橋、宇野、羽田)は、事情が特殊過ぎるので除外した。日経平均株価指数は月末データで、内閣成立月の月末から終焉前月末の比較である。

その結果が上段の散布図である(明細は下段の表)。決定係数0.608(R2)、相関係数0.780であるから、かなり高い正の相関関係だ。 株価指数(あるいはそれに代表される経済状況)→内閣の寿命という因果関係を想定した場合、株価指数の騰落率で政権の寿命は60%説明できることを意味する。

しかし、ちょっと待て。1980年代までは株価は概ね右肩上がりだから、長期政権ほど株価の上昇率も高くなるという逆の因果関係が生じるはずだ。そこで全期間騰落率を年率換算したものが、2段目の散布図である(やはり超短命の3内閣は除いてある)。決定係数(R2)は0.211まで下がるが(相関係数は0.46)、有意な結果が出た。

1989年末までの株価が長期的に右肩上がりだった時代の内閣の寿命と株価の関係は、株価(並びにその基礎となる景気動向)が好調→政権の長期化→全期間で見た株価騰落率アップという循環的な因果関係が働いていたと考えて良いのかもしれない。

ちなみに失業率との関係性も見てみたが、多少変数の設定を工夫してみても、有意な関係性は見いだせなかった。なぜだろうか。

内閣の寿命の要因となる「支持率」は、失業率のような実体経済のファンダメンタルな要素のみでなく、実体経済を基礎にしながらも株価の動向に反映されると思われる「社会の雰囲気(楽観、悲観)」という社会心理的な要因に依存している結果かもしれない。

分布の中でやや特異な存在は、小泉内閣だ。全期間株価騰落率は16%程度に過ぎないが、政権寿命は戦後3番目の長さだった。 ただし小泉内閣では期間中の株価がV字型で大きな変動をしている。2001年4月の内閣発足時から2003年4月まで、世界的なITバブルの崩壊と銀行の不良債権問題などが災いして株価は44%も下落した。

ところが、竹中大臣が最後まで不良債権処理の遅れていたりそな銀行への公的資金注入による事実上の国有化を宣言すると「銀行危機は終焉」との判断から、海外投資家が割安感のあった日本株買いに動き、株価は反転上昇、小泉首相の勇退となった2006年8月末までに株価は03年の底値から106%も上がっている。 実体経済も2003年頃から07年まで輸出の伸びが順風となり景気の回復が続いた。

つまり小泉政権については2001年から03年春まで経済的には難しい環境にあったが、それを乗り切った2003年以降の景気の回復と株価の上昇が政権の長寿化をもたらす順風になったと言えるだろう。

また鳩山一郎、竹下は、小泉とは逆で、期間中の株価の上昇率は高かったが、長期政権にはならなかった。鳩山一郎内閣の事情は私にはよくわからないが、竹下内閣は、リクルート事件で逆風となり、それにも関わらず消費税導入法案を成立させたことが、長寿化せずに支持率低下・政権交代となったのだろう。

さて現在までの第2次安倍内閣の分布上の位置は、株価は全期間上昇率で102%、年率では16.2%、政権期間は52か月と長寿政権の仲間入りとなった。第2次安倍内閣の株価の年率上昇率高度経済成長期の佐藤や吉田と並んでおり、その分布の位置は近似線のやや上である。

株価の動向はご承知の通り、政権発足当初から急上昇トレンドだったが、2015年8月に2万1000円手前で頭を打った後、2016年6月の1万5000円前後まで下落基調だった。ところが、その後再び盛り返してついに2万1000円を超えた(10月13日現在)。

政権の命運を賭けてうって出た10月22日に控えた総選挙も、一時大いに脅威となるかと思われた小池百合子代表の希望の党が失速し、自公与党で安定過半数の議席確保が見えて来た。景気動向も世界景気の回復で2016年以降は輸出が牽引役になっている。

高値を更新した日経平均株価は、安倍内閣の一層の長寿化を暗示しているのかもしれない。そうなれば、「アベ嫌い」の方々には、まことにご愁傷様な結果になりそうだ。



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