たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2010年05月

ギリシャ危機に端を発したユーロの下落と株価の世界的な下落、動揺が続いている。
 
前回書いたようにギリシアの人口は1000万人、ユーロ圏全体の3%、ユーロのGDPに占める比率は3%未満だ。その小国の財政危機がこれだけ世界を揺さぶるのは、イタリア、スペイン、ポルトガルなどやはり財政赤字比率が高くファンダメンタルが相対的に脆弱な他のPIIGS諸国に同様の危機が波及するのではないかという投資家の不安心理が働いているからだろう。そして不安に駆られた投資家・金融危機がこれら諸国の国債を投げ売れば、危機は自己実現する。
 
これらPIIGS諸国を合計すると、ユーロ圏全体のGDPに占める割合は、3割弱だろうか(確かめていない)。だからたしかに大ごとにはなる。こう言ったらギリシャの方々に失礼だが、まるでブタの尻尾がブタを揺さぶっているようなものだ。
 
直感的には、ギリシャ危機はユーロ圏にとっては今後中長期にわたって後遺症を引きずる長患いになりそうな気がするが、世界経済全体にとっては、局地的な問題に収束していくような気がする。ただし、他人様を説得できる根拠を私は持ち合わせていない。あくまでも私の勝手な直感に過ぎない。
 
ある国、あるいはある地域の金融・経済危機が、どの程度他の地域に波及・伝染するかについて、合理的な説明は可能だろうか? 例えば世界の実体経済が弱い時にそれが起こると危機が伝染しやすいと理解できるだろうか?
 
例えば、1997-98年のアジア通貨危機は、タイ、インドネシア、マレーシアで起こり、中国を除くアジア全域とロシアや中南米にまで広がった。中国が直接的な危機の伝染を免れたのは、別に中国経済が強かったからではない。内外の資金移動を規制していたので、危機の伝染ルートとしての国際的なマネーフローから隔離されていた結果に過ぎない。また、この時期、危機直前の世界の実体経済は決して脆弱な状態ではなかった。
 
2001年のアルゼンチン政府のデフォルトは、ITバブルの崩壊で世界経済が景気後退局面にあり、それに加えて米国ではエンロンやワールドコムの企業スキャンダルが勃発し、株価も大幅に下がっていた時だった。しかし、アルゼンチン固有の問題と受け止められ、危機の伝染は起こらなかった。
 
また、1987年10月の米国の株価暴落、ブラックマンデーは世界の連鎖的な株価下落を引き起こしたが、米国の実体経済は景気後退に陥らず、約3%程度の経済成長を持続した。
 
こう考えると、危機が世界に伝染するかしないか、合理的な説明は難しい。
 
危機が伝染し、さらに世界経済が景気後退に陥るような事態にまで発展するかどうか、それはもしかしたら「ゆらぎ」のようなものかもしれない。 相対的に小さなゆらぎ(危機による金融資本市場の動揺)でも、時にはある臨界点を超えたゆらぎ・動揺に発展し、世界を巻き込む動揺になることがある。反対に、臨界点を超えずに収束する場合もある。その違いを左右する要素として、偶然の要素がかなりの程度に働いているのではなかろうか。
 
私達はいつも後講釈で起こったことを考えるので、大きな動揺・危機が生じると、必然的なプロセスの結果だったと理解しがちだが、実は偶発的な要因で現実は展開しているかもしれないのだ。
 
「日本の財政赤字が持続不可能で、このままなら国債暴落のリスクが高まるというのなら、1年後に国債利回りはいくらになっているか、暴落はいつ到来するのか、言ってみろ」と息まいているブログをたまたま見たが、全然分かっていない方だ。
 
私達が住んでいる社会は、極めて限られた範囲で予測可能に過ぎず、ちょうど提灯の明かりで歩く先を照らしているようなものだ。その先には予測不能の不確実性の闇が広がっている。
 
メタボで不摂生をしている人が、いつ病気にかかるかは、どんな医者でも個別特定的な予想は不可能だ。ただし、同様の人間を1万人集めれば、将来どのような症状にかかるか、確率的な予想ができる。ところが困ったことに、私達が生きている世界はひとつしかないので、1万個の世界を集めた確率的な分析が困難だ。
 
だからどういう悪い事態が起こってもなんとか致命的な状況にはならないような対処ができるように、備えながら歩いて行くしかない。財政赤字の無規律な膨張は、そうしたその備えと反対方向に向かっているということなんだけどね。
 

 情報や人というものは、求めているとそちらの方から姿を現す時がある。 数日前、大学の社会科学研究所のライブラリーに納入する新規図書の選定をしていた時、「郵貯資金等の動向 平成21年度版」(財団法人ゆうちょ財団)という冊子が現れた。 見るとホームページで開示されているよりも詳しいゆうちょ銀行の財務諸表が掲載されていた。
 
 なぜ関心があるかというと、少し前に日経ビジネスオンラインに「亀井案こそ郵政を潰す」(2010年4月7日)という論考を書いて、郵貯の抱えるALM上の金利リスクを大雑把ながら推計し、それが国債価格の下落(金利の上昇)に対して極めて脆弱であることに警告的な主張をしたからだ。 
 
以下のように書いた。
「(郵貯の保有する)国債の平均残存期間は(ホームページでは)公表されていないが、大雑把に推測することはできる。 ~ 価格の変化を計算すると、クーポン1.3%で額面100円の10年物国債の場合、流通利回りが2.3%に上昇すると価格は91.87円下落する。残存期間8年ならば価格は93.24円に下がる。つまり平均残存期間8年の場合、債券ポートフォリオ全体で約7%の評価損が生じる。 郵貯の国債保有額236兆円を基に計算すると、16兆5000億円の損失が生じることになる。」
 
手に入った「郵貯資金等の動向」は私が知りたかった残存期間別の国債など有価証券の残高を開示していた。私は前論考では大雑把に平均残存期間7~8年と想定して計算したが、開示されているデータから計算すると有価証券(ほとんど国債と地方債)の平均残存期間は、もう少し短く3.82年となった。
 
これをベースに再計算すると、金利水準1%から2%への変化(1ポイントの上昇)で、郵貯簡保合計した236兆円の債券ポートフォリオからは生じる損は、8.4兆円となる。また、ゆうちょ銀行のみの177兆円の債券保有額から生じる損失は6.3兆円となり前記の推計より小さくなる。 それでもゆうちょ銀行の自己資本(広義)は8.3兆円だから、債券金利1%の上昇で自己資本の76%が吹き飛び、2%の金利なら4.3兆円の債務超過に転じるということになる。
 
というわけで、より正確な推計ができたので、このブログでご報告しておく。
 

以下のご質問について考えてみよう。
「この企業物価、消費者物価、輸出物価と購買力平価では3つの物価指数が採用されますが、ドル円とユーロドルでは後者の差がほとんどないのに対し、前者は大きく違います。
なぜドル円はこうも大きく違うのでしょう?
また、為替レートを購買力平価でみる場合、どの物価指数が妥当性が高いのでしょうか? 
 
これは私がホームページでも紹介している(財)国際通貨研究所(元の勤務先)ドル円、ユーロドル、ユーロ円の購買力平価(PPP)と市場実勢相場のグラフに関するご質問だ(以下図表とサイト)。私が勤務時代にこのPPP図表の公開と更新をセットした。
 
http://www.iima.or.jp/research_gaibu.html (国際通貨研究所の該当サイト)
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市場の為替相場は短期的、中期的(数年未満)にはPPPから乖離するトレンドを辿るが、長期的(数年から10年超)には購買力平価(PPP)に回帰するということを、過去数年にわたって著書や執筆で繰り返し強調して来た。
 
このことさえ理解できれば、「高金利通貨に投資すれば高いリターンを得られる」なんてデマに騙されることはないからだ。
PPPは短期の利ザヤ稼ぎを目的とするプレーヤーには、ほとんど役に立たないが、長期で大局的な割高、割安を見極めようとする投資家には、極めて有効な指標だ。
 
まずご質問の1、ドル円では消費者物価、企業物価、輸出物価でできている3種のPPPの乖離が相対的に大きいですが、ユーロドルではかなり接近している。これはなぜか?
 
この乖離は一般には「内外価格差」と理解されている。米国に比べて日本では輸出産業の相対的な生産性上昇が消費財のそれを大きく上回っており、それが輸出価格の国内消費財・サービス価格に対する相対的な低下をもたらしていると考えられる。その結果、輸出物価と消費者物価の乖離→PPPの乖離を生んでいると理解できる。企業物価はその中間。
 
ユーロドルについては逆で、米国との比較でユーロ圏の輸出産業と消費財・サービス産業の生産性の上昇が接近している結果、日本より内外価格差が相対的に小さいのだろう。
 
質問その2、PPPと市場実勢の為替相場を対照するとき、3つのPPPのどれと比べるのが一番妥当か?
消費者物価PPPは非貿易財・サービスの比重が高いので為替相場との対照には向かないと思う。
輸出物価と企業物価PPPの方が妥当だろう。
 
ユーロはどこまで下がる?
さて、ギリシャ危機とPIIGS問題で対円でも対ドルでも急落地合いとなったユーロ、どこまで下がるか?
これは分からない。しかし2000年代にPPPから大きく乖離して上昇したユーロ相場、PPP対比での割高感がようやく調整された局面だと言える。それでも対円で111円、対ドルで1.22という現在の水準は、ようやくPPP近辺まで戻ってきたというだけで、割安圏とはまだ言えないかもしれない。
 
ユーロが米ドルに代わる第2の準備通貨だと考えてドルからユーロへ外貨準備をシフトしてきた外国政府(中国など?)は、ユーロ下落で莫大な為替の含み損を抱えていることだろう。でも、まあ政府の金だから誰も責任なんか取らないだろう。
 
相場の格言に「落ちるナイフはつかむな」というのがある。手を切るからね。落ちて弾んで底値圏でもみ合いになってから買えということだね。もっともその見切りが難しい。
 
私はFXヘッジをつけてドル建て資産はある程度持って来たが(今はヘッジ比率を大幅に低下させた)、ユーロは割高と判断してこれまで全く保有していない。
1ユーロ=100円程度まで下がったら、買い下がるつもりで手を出そうかな~程度に考えている。
そこまで下がらずに反転し始めたらどうする? 追いかけて買うか?
その時は別に買わんでもいいでしょ。ディーラーじゃあないんですからね。
上がる相場を追いかけて買うなんてジタバタしたことはしたくない。
ご縁がなかっただけ、と私は思う。
 
追記
昨日(5月20日)のWSJ "The Euro Turns Radioactive"の記事の一文です。
China, Russia and large emerging-market holders of currency reserves have tried in recent years to shift their mix of holdings in favor of euros, expressing worries about the fiscal health of the U.S. While China's may still diversify, many banks began paring
their euro exposure late last year, and the wariness has lately become more apparent.
"The program of diversifying out of dollars has come to a screeching halt," said Collin Crownover, managing director and global head of currency management for State Street Global Advisors.
"If the downward progression of the euro continues, then you see outright selling
of euro-zone assets, and it snowballs and gets worse."
 
少し前までは、「基軸通貨米ドルの凋落」が語られ、ユーロへのシフトが強調されていたが、状況は180度転換しつつあるようだ。割高と思って今までユーロ投資を一切して来なかった私には、もしかしたら、これからが割安でユーロ買いができる機会到来かもしれない。 ちょとワクワクしてきた。
 
追記その2
よく勘違いされるので言い添えておこう。特定のPPPがチャーティスト(罫線屋)が語るような市場実勢相場に対する抵抗線や支持線になるということはない。PPPを計算する起点(時点)を変えれば、PPPグラフの形も変わるからだ。上記の図表で1999年が起点になっているのは、それがユーロ開始時点だからに過ぎない。
 
つまり、1999年スタード時点のユーロが過大評価された水準にあったとするならば、その後のPPPの水準も過大評価方向にシフトしたものとなってしまうという限界がある。従ってユーロの過大評価局面も過少評価局面も含んだ山も谷もある十分に長い期間のPPPデータが得られて初めて、PPPと市場実勢相場を対照する妥当性が得られる。その点で、ドル円PPPは既に十分長い期間のデータを持っているが、ユーロの履歴11年というのは、まだ十分に長くはないかもしれない。
 
そうした弱点を補正するために、人によっては1999年以前の部分にドイツマルクのPPPを接合して描いている方もいる。しかしその場合は、マルクの履歴をユーロに接合することの妥当性の程度が問われる。
 
追記その3
本日5月24日の日経新聞Web版で田村さんが、私へのインタビューもまじえ、購買力平価、金利差と為替相場の関係について解説記事を書いています。 以下記事から一部引用。
高金利通貨はずっと上昇する? 外貨投資の誤解(1)
編集委員 田村正之
「それは「高金利の国はインフレ率が高いことが多い。インフレ率が高いということは、そのお金で買えるものが少なくなるということであり、通貨の価値が下がりがち」(国際通貨研究所の経済調査部長を経て、現在は龍谷大学教授の竹中正治氏)だったからだ。」
「竹中教授も「目先、ドルの利上げなどが見えてきて日米金利差が拡大したりすると、一時的にはドル高が進むだろう」とみている。
 しかし「長期的にはインフレ率格差、つまり購買力平価で説明がつくことが多い。それなのに今は、長期の投資を考える場合でも『金利差に注目』などと解説される。短期と長期の話がごちゃごちゃに語られていることが問題」(竹中教授)なのかもしれない。」
 
 

膨張する財政赤字問題について以下のご質問を数日前に頂いたので、これについて考えよう。
 
次世代の経済が心配とありますが、やはり激しいインフレはそこまで経済に痛みを与えるものなのでしょうか? 子孫はまたその時の労働の対価としての所得が手に入ると思うのであまり問題ないだろうと思ってましたが・・・・・やはり激しいインフレに伴う通貨安は生活苦というオチですかね。」
 
私の母の世代(戦中派)ならば、財政規律を失った莫大な国債累積が最後にどのような事態を招くか身をもって経験しているので、このご質問は若い方だろうか。
 
国債問題を考える経済原理は「経済全体で考えた時、フリーランチなはい」ということだ。国債を発行して、今の世代が給付を受け、消費して、そのつけを将来に回すのが赤字国債。国債を借り換えしながら無限の未来まで延長し、誰もその負担を払わなくて済むということはない。
 
しかし、現在発行された国債を償還するために、今後、増税も給付の削減も行なわれなかったら、どうなるか? 以前も書いたように、企業の社債なら普通は財やサービスを生み出す実物資産が見合いにある。ところが、赤字国債の見合いは空だ。将来、国民が保有する国債を売って、あるいは償還を受けて消費しようとした時に、その需要を満たす生産能力はないということになる。
 
もっとも現在は不況からのまだ回復過程で需給ギャップが供給超過であるので、目先はそういう問題はまだ起こらない。しかし、戦中派の方ならご存知のはずだ。軍事費をまかなうために戦争中に莫大に発行された国債、戦争が終わり、それが償還され、国民が財やサービスを消費しようとしたら、そうした生産基盤は戦争で壊滅していたので、ハイパーインフレになり、国債価値はほとんどゼロになってしまった。結局、政府はハイパーインフレという形で債務を清算したのだ。
 
将来、戦争が起こらなければ、そこまで劇的なことにはならないだろうが、国債残高が莫大に積み上がっているということは、程度の差こそあれ、将来そういうことになる危険性を高めているということだ。
 
増税も給付削減もなければ、インフレが高進するという形で国債の実質価値が減少し、国民は事実上の税金を払うことになる。これがインフレタックスだ。このインフレは国債保有者(国民)から政府への実質所得の移転である。
 
国債を直接保有しているのは、家計でなくて金融機関でも、負担が回ってくることは同じだ。銀行預金はインフレになっても、インフレ率より利子率は低く抑えられるだろう。つまり預金の実質価値(購買力)は目減りする。たんす預金は利息もつかないから、もっと実質価値が目減りする。
 
ご質問された方は、物価も賃金もみな均等のインフレ率になることをイメージされているのかもしれないが、そういうことにはならないだろう。 物価が上り、賃金はその後を遅れて追う。従って、実質賃金は減少するだろう。
 
1970年代の「狂乱物価」(消費者物価 前年比10%以上の上昇)みたいになれば、商品投機も横行するだろう。投機家のカモにされ、コストを払わされるのは一般国民だ。
 
このインフレタックスから自己防衛するとしたら、インフレでも価値が目減りしない実物資産や、インフレによる円安をヘッジできる海外資産を保有することだろう。しかしそれでも逃げ切れないかもしれない。インフレリスクに気がついた国民皆がそうした動きを加速すれば、国債は暴落し、新規の発行がギリシャのように不可能になるかもしれない。
 
その結果、新規の市場での国債発行ができなくなり、日銀が国債を引き受けるようになれば(今は法律で禁じられている)、それがますますインフレを高進させ、ハイパーインフレにだってなりえる。
 
そこまで行かないとこの国の政治は路線転換できないのか、それとも理性的な路線転換ができるか?問われているのは我々有権者だ。
 
いきなり緊縮財政にしろと言っているのではない。長期のタイムスパンで、持続可能な財政バランスに戻して欲しいだけだ。日本の未来を破綻させる財源なきバラマキ路線にはNo!と叫びたい。

数日前に投稿された以下のコメント:

「先生は財政再建が必要と説かれますが、私はインフレのほうがいいと思います。インフレになって困るのは国債を資産の側にもっている団体、主に年金と郵貯ですよね。どちらも上の世代の人達の資産です。今まで多額の借金を作ってきた上の世代の人がそのつけを払う。何の問題もないと思います。早くインフレになって一度リセットしてほしいです。毎月多額の年金をいけにえに差し出すのが苦痛です。そして新しい日本には長期国債の金利上昇リスクを極度に軽視する変な金融機関を作らないでほしいです。」
 
ちょっと誤解されたようなので、既にコメントで返したが、再度言っておくと、私も消費者物価の前年比率でで1~2%程度のインフレの方が、金融政策の有効性、ビジネス環境、実物資産への投資の促進など様々な面で望ましいと思っている。これは経済学者、エコノミストの概ねのコンセンサンスでもある。
 
ただし、年金を受け取っている引退世代がインフレになれば、受取額の実質価値が減少することで負担を負うことになり、負担の世代間格差の是正の点で望ましいとお考えのようだが、実は必ずしもそうはならない。
 
なぜなら公的年金には物価スライドの仕組みがあるからだ。厚生労働省のホームページの用語集はこの点を次のように説明している。
 
「物価スライド
年金額の実質価値を維持するため、物価の変動に応じて年金額を改定すること。現行の物価スライド制では、前年(1~12月)の消費者物価指数の変動に応じ、翌年4月から自動的に年金額が改定されます。私的年金にはない公的年金の大きな特徴です。
なお、平成17年4月に、財政均衡期間にわたり年金財政の均衡を保つことができないと見込まれる場合に、給付水準を自動的に調整する仕組みであるマクロ経済スライドが導入されました。これにより、年金額の調整を行っている期間は、年金額の伸びを物価の伸びよりも抑えることとします。 」
 
ただし後段に記載されているように、従来の単純な物価スライド方式は、2005年のマクロ経済スライド方式の導入で改訂された結果、複雑になった。その結果、物価に関係なく、見込みを下回る経済の低成長などの場合は、
年金額が減少する。
 
同ホームページはマクロスライド方式について以下のように説明している。
 
「少なくとも5年に1度の財政検証の際、おおむね100年間の財政均衡期間にわたり年金財政の均衡を保つことができないと見込まれる場合は、年金額の調整を開始します。
 年金額は通常の場合、賃金や物価の伸びに応じて増えていきますが、年金額の調整を行っている期間は、年金を支える力の減少や平均余命の伸びを年金額の改定に反映させ、その伸びを賃金や物価の伸びよりも抑えることとします。この仕組みをマクロ経済スライドといいます。
 その後の財政検証において年金財政の均衡を保つことができると見込まれるようになった時点で、年金額の調整を終了します。
 なお、このマクロ経済スライドの仕組みは、賃金や物価がある程度上昇する場合にはそのまま適用しますが、賃金や物価の伸びが小さく、適用すると名目額が下がってしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめます。したがって、名目の年金額を下げることはありません。
 賃金や物価の伸びがマイナスの場合には、調整は行いません。したがって、賃金や物価の下落分は年金額を下げますが、それ以上に年金額を下げることはありません。」
 
計算が複雑になって、ユーザーサイド(国民)にとっては単純な見通しがたて難くなったが、要するに年金財政がひっ迫するにつれて実質減額されるということだ。インフレになれば公的年金の実質受給額が減るというわけでもない。
 
企業年金のうち確定拠出や個人年金のインフレによる影響は、どういう資産に投資しているかで大きく分かれる。株式に分散して多く投資していれば、インフレでも目減りしないだろう。 
 
 

読者の方から、前回のブログでエマージング諸国の株式に分散投資するMSCI-emergingを紹介したことに関連して、次のようなご質問をEメールで頂いた。これにコメントしよう。
 
「(2008年1月の日経ビジネスオンライン「新版花見酒の経済論」で書いた)“新興国への投資はゴールドや原油といった商品と同じくリスク感覚がマヒしている” との指摘がありましたがこのたびMSCIemergingも選択肢として挙げられているのは日本国債バブル円安懸念に由来すると考えて良いのでしょうか?」
 
2008年1月当時の私が書いたその部分を引用すると以下の通り。
「大きな下落が起こるかもしれない不安な相場環境で、一番強い投資家は十分な流動性(=自由に使える資金)を持っている者である。流動性を増やせば、当然投資利回り全体は低下するが、今は割高になった資産は売って流動性を増やしておくべき局面だろう。今の高値を追ってゴールド、原油、高成長途上国の株の買い増しをするような投資は、私の目にはリスク感覚の麻痺した行為にしか思えない。 」
 
これは金融危機がクライマックス(08年9月のリーマンショック)に向かう少し前の2008年1月時点の状況判断であり、比較的短期的な見通しとして書いたものだ。この時原油価格は1バレル100ドル(WTI)を超えたところだったが、実際、この後、原油価格は同年7月頃に1バレル150ドル近辺まで高騰した。そして同年9月のリーマンショック後に暴落した。他の国際商品価格もほぼ同様の動きとなった。
また、BRICSを中心に新興国の株式は2007年末から08年初が、ほぼ高値でそこから1年間急落が続いた(ただしブラジルの株価は08年7月まで商品価格と並行して上昇した後、急落)。 
リスク資産への投資を減らして、流動性(手元資金)を増やしておくという当時の判断は、私は今振り返ってとても正しかったと満足している。
 
私が2009年にこうした新興国の株への投資を増やしても良いかな、と考えたのは08年9月のリーマンショック後の急落で割高が修正されたからだ。ETFのMSCI-emergingが開始されたのは今年2010年2月で、昨年スタートしてくれていたらもっと良い水準で買えたのにと思ったが、まだ世界景気の回復過程は初期段階にあるので、今からでも間に合うと思って今年2月に買った。
 
以上の通り、この投資判断は、将来起こり得ると懸念している日本国債の下落リスクとは直接的な関係はあまりない。ただし、為替相場も2009年にかなり円高になったので、自分のポートフォリオに占める海外資産の比率を上げよう、という大局的な判断を前提にしており、将来日本国債の下落+円安が起これば、外貨比率を今上げておくことは報われるだろうと思う。
 
ちなみに日本国債は全く保有していない。それは短期・中期、長期双方の理由があり、短期・中期の景気循環的視点で言うと、長期固定金利の国債に投資するタイミングは好況期だ。今は買う局面ではない。 日本国債を買う気になれない長期の理由は、既に述べたとおり、政府債務膨張が加速していることへの懸念だ。
 
また、emerging諸国の株式も、世界景気の回復がさらに進み、好況が続いたどこかの時点で、バブル崩壊のリスクが再び高まると思う。 それがいつ来るのかは(毎度言っていることだが)事前にピンポイントで予想することは不可能だ。 いずれ「分割して売り上がる」方針に転換するつもりだ。 
ちなみに、はるか昔に買ったゴールドの小板(わずか100g)が私のデスクの引き出しの奥で眠っている。ゴールドも1オンス1200ドルを超え、「1500ドルも視野に入った」なんて言うアナリストが出てきた。
原油価格200ドルを予想するアナリストが2008年初め頃に注目されていたことを思い出すな。
私のミニミニゴールドも1500ドルの前に売ってしまおうかな。 
 
 
 
 
 
 

私も2007年頃までは日本の財政赤字については、国内貯蓄でファイナンスされているのでアメリカとは違う、長期的に財政再建に向かえば国債暴落など起こらないと語って来た。実際に、2007年までは財政のプライマリーバランスもGDP比率でマイナスが順調に縮小してきたからだ。
 
しかし2009年に考えを変えた。景気後退と財源なきバラマキ政策で財政赤字が急膨張し始めたからだ。不況による税収減は景気循環的なもので、回復するればその分の赤字は縮まる。しかし、そうでない構造的な部分は縮まらない。
 
増税も給付削減もできずに、財政再建コースに舵を切れないまま今後10年、20年も進んだら、日本国債暴落も現実のシナリオになる。そうならないように政策の転換を期待しているわけだが、不幸にして政治が腑抜けのままで最悪の事態(国債暴落、円相場大幅下落、インフレ)となった場合に耐えられるような資産形成をする必要がある。つまり自己防衛策。
 
4月に書いた「亀井案こそ郵政を潰す」(日経ビジネスオンライン)に1カ月も経ってから以下のような41番目のコメントが掲載されていた(本日発見)
「ハ-ドランディングが避けられないと竹中教授は言われる。自分もその意見に賛成である。しかし、そうなった時如何にその被害を少なく過ごすできるかそれが大切だ。竹中教授には是非その方策を教えて欲しい」
 
このご質問の収支は、個人の資産をどう守るか?ということなのか、あるいは政策としてその時にどうすべきか?ということなのか、ちょっとあいまいだが、前者の趣旨だと理解して考えてみよう。
 
野放図な財政赤字膨張をしてきたギリシャは今後長い増税と給付の削減路線を歩むしかない。放っておけば日本もそうなる。
「でも、増税はいやや!」 嫌だったら、日本人をやめるしかない。資産丸ごとオーストラリアとかマレーシアとか、財政赤字問題が将来大丈夫そうな国に移住するしかない。日本で所得も資産もなければ、将来大増税になっても日本政府は課税しようがないからね。
 
「日本人やめるのもいやや、英語できんし・・・」 それなら税金は我慢するとして、円安とインフレに強い資産を保有するしかない。「ゴールドか?」 そう思う人はゴールド業者の宣伝を鵜のみにしている。長期的にみるとコモディティー価格はインフレヘッジにはなっても、インフレ+アルファにはならない。実質投資リターンは低い。
 
インフレヘッジ+アルファの投資リターンを目的にするならば、インカム収益のある実物資産に投資するのが正道。 日本国内ならば、賃貸収入のあがる良質な不動産、グローバルな収益基盤のある企業の株式、REITなどだ。 
 
インフレによる円安のリスクも考える必要があるから、海外への長期・分散投資も必要だ。米国のジャンク・ボンドにブラジルレアル売りなんかを加えた投資信託なんて、長期的にはお薦めできない。手数料もバカ高いでしょ。
 
低コストで世界の株式に分散投資できるETFが今年の2月からスタートした。MSCI-kokusaiとMSCI-emergingだ。上場されているから株式と同じように買える。オンライン証券で買えば手数料は僅少だ。年間の信託報酬も0わずか0.25%だ。 これに比べたら信託報酬が1%~2%の投資信託なんてバカバカしくて買えない。以下サイトご参照。ただしETFは複数のインデックスファンドの構成でできているので、構成ファンドの手数料が明示されない形でかかっている。しかし、インデックスファンドなので基本的にはその手数料も安くできているはずだ。
 
世界の株式にリスク分散して長期で保有すれば、そのリターンは確定利回りの海外国債などをはるかにしのぐ。これは過去の長い歴史が語っている。
 
先日、メイン口座(といっても普通預金だけだが)を置いている大手銀行のFP営業担当が、私の家に電話してきた。 「一度おうかがいして資産運用のお手伝いなどさせていただきたい」と、ありがたいお申し出だ。
そこで「世界の株式に長期・分散投資を増やしたいと考えている」と言ったら、「いろいろメニューを取りそろえておりますので・・・」という。 そこで「MSCIのETFを既に保有している。これよりも手数料が安くて良いものがあったら、話を聞こうか」と言ったら、このご担当、話のあとが続かなくなった。(^_^;)
 
「東証もなかなか良いETFを始めたじゃないか。金融機関はなぜもっとこれを宣伝しないんだ?」と大手金融機関に勤務している知人に尋ねたら、「既存の投資信託からあのETFにシフトされたら、収益激減しちゃいますからね」と、まことに正直なコメントが返ってきた。
 
財政赤字の問題に戻ると、私はまだ「日本を諦めていない」(ああ、どこかの政党の少し前のフレーズだ)、「きっと手遅れになる前にコース転換できる」(ああ、でも今の政治を見ていると自信がなくなりそう)と期待しているので、資産に占める外貨比率は3割程度にすぎない。
 
と、まあ、とりあえずこんなところで良いでしょうかね。
もっとハイパーな投資商品にも最近出会った。
ライフセトルメント・ファンドだ。
早速投資を決めた。追加投資もする気になった。
知っている人は少ない。ほとんどまだいない。日本での営業が始まったのは最近だ。
「なんだそれは?」 
営業の 片棒をかついでいるように思われたくないので、ここには書かない。
もし、どうしてもお知りになりたい場合は、個別に私にEメールして頂ければ、ファンドの販売窓口をお教えしましょう。(最低単位1000万円) そこから商品説明を受けられる。
 
もちろん、投資は自己責任ですからね。

欧州については、金融機関の抱える損失についても、欧州エマージング地域でのバブル崩壊についても、米国以上に深刻な問題を抱えているので、今回の世界景気回復では米国や日本よりも遅れると、私はずっと悲観的に見てきた。
 
参考「中東欧に忍び寄る金融・通貨危機のリスク」竹中正治&西村陽造、(財)国際通貨研究所、国際経済・金融論考、2008年4月
これから10年 外国為替はこう動く」第2章第4節「金融危機後の相場を展望する」竹中正治・国際通貨研究所編、2009年9月、PHP研究所
 
しかしながら、ユーロ圏のGDPに占める比率が僅か3%程度、人口1000万人の小国ギリシャの財政危機が、ここまでユーロ圏全体と世界を揺さぶるというのは過剰反応だとも思う。ただし、「ミスターマーケット」が過剰反応するのは毎度のことだ。

PIIGSや英国の財政問題へ波及し、これら諸国の国債全体が暴落するという危機の伝染を投資家や金融機関は心配しているのだと思う。そうなると欧州の金融機関と投資家への打撃、損失はケタはずれに大きくなるからだ。
今後の選択肢として、ギリシャのユーロからの離脱も、デフォルトも無理だろう。
そもそもユーロへの参加は片道キップで、離脱条項はない。
万一、離脱して通貨ギリシャ・ドラクマを復活させたらどうなるか?
 
ドラクマ相場はユーロに対して大幅に減価した水準になるだろう。それでギリシャは輸出が伸び、輸入は減り、フローの対外不均衡は解消に向かうだろうが、既にユーロ建てで発行した国債残高はユーロのまま海外投資家、海外金融機関に保有されている。
ドラクマ相場の大幅減価で自国通貨換算した対外債務が急膨張するので、返済困難に輪をかけることはあっても緩和することはない。2001年にアルゼンチン危機や1998年のアジア通貨危機で起こったことだ。

また、仮にアルゼンチン政府のようにギリシャ国債をデフォルト(そして棒引き=債務カット)させるようなことになれば、今の情勢では08年9月のリーマンショック並みの衝撃となってPIIGS諸国の国債も暴落するだろう。その結果、投資家と金融機関に生じる莫大な損失で、世界は再び金融危機になることは眼に見えている。従ってEUにとってその選択肢もあり得ない。
 
長期的な時間をかけてギリシャが政府の歳出削減と増税で財政再建をするという、時間と痛みを伴うコースしか採りえる選択肢はない。

最大のリスクは財政再建の痛みを嫌がるギリシャ国民の不満の爆発で、現政府が統治能力を失い、「国債棒引き」を主張するような過激派政党が政府を牛耳るコースに向かうことだ。
そういうことにならないように独仏の中核国がイニチアチブを発揮しなきゃいけないはずなのに、
どうもドイツのスタンス、腰が座ってない。この点が不安を高めた点もある。
 
日本の政府債務問題は大丈夫か?
この点では2つの極論、俗論があり、どちらも間違っている。
俗論のひとつは、先進諸国の中でGDP比率でみて最大の政府債務残高となった日本国債が暴落する時が目前に迫っているという主張だ。日本国債暴落を大稼ぎのチャンスに狙うヘッジファンドやそのイデオローグ達がお好みの主張でもある。
 
それと対極をなす俗論は、日本の国債は95%が国内で保有され、国内の貯蓄でファイナンスされているので、日本国債が暴落するようなことはないという主張だ。これは短期的には間違いではない。依然として日本全体では純対外資産は200兆円を大きく超え、世界最大の純債権国である。
 
亀井大臣は、「だから大丈夫」と言っているそうだが、この方に「大丈夫」と言われるほど背筋が寒くなる。
 
国内の貯蓄の源泉である家計の金融資産の伸びは2000年代になって大きく鈍化している。一方、政府債務残高(資産負債ネットした純債務)は2000年代に入って拡大のテンポを上げている。(以下添付グラフ参照)
 
鳩山内閣による財源なきバラマキ予算で、赤字の膨張は一気に加速している。このままのコースは長期にわたって持続不可能であり、コース転換をしなければ、やがて政府債務は国内の貯蓄でファイナンスされる規模を超え、暴落シナリオが現実になりえるだろう。
 
国内投資家だって、政府が信認を失ったり、デフレからインフレへの転換が見えてくれば、国債を売って海外を含む他の資産に大規模なシフトをする。
 
要するに日本経済にはまだ時間はあるが、その時間は無限ではないし、だんだん短くなっているということだ。 日本のような大国の経済が軌道修正するには当然時間がかかる。財政再建コースへの転換にも時間がかかる。今コース転換を始めなければ、10年後の日本が今日のギリシャのようになっても不思議はない。
 
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SECによって訴追されたゴールドマンサックスの取引不正疑惑について米国のメディアは連日の報道だ。日本でもかなり報道されているが、ゴールドマンが組成、販売した問題の証券の仕組み自体については、一般向けに十分な解説記事を一般メディアではあまり目にしない。 
かなりテクニカルな内容になるので、良く理解できていない記者は大雑把に書き飛ばし、良く分かっている執筆者でもそれを説明すると長くなるので省略しているのだろう。
この点でWSJ52日付の以下の記事は、証券化商品の増殖と売り抜けの手口を分かりやすく整理して解説した記事だ。とは言っても、これを読んでサクサクと理解できるのは市場性商品に関する金融実務知識のある読者に限られるだろう。そこでその記事に基づいて該当部分を中心に説明しよう。
 
WSJ May 2, 2010
Senate's Goldman Probe Shows Toxic Magnification
Wall Street Banks Repackaged Same Risky Bonds into Numerous Securities, Spreading the Pain Across Multiple CDOs
 
サブプライム関連証券化商品の売り抜け手口
まずサブプライム住宅ローンを含む諸資産をプールしたCDO(債務担保証券:Collateralized Debt Obligation)が組成される。CDO自体については今回の金融危機の「主役」として日本でも「知名度」を上げたからご存知の方も多いだろうが、資産担保証券Asset Backed Securities)の一種で、ローン債権や公社債などを裏付け資産として発行される。
 
野村証券の証券用語解説集によると「裏付資産が公社債のみで構成される場合はCBO(Collateralized Bond Obligation)と呼ばれ、同じく貸付債権のみで構成される場合はCLO(Collateralized Loan Obligation)と呼ばれるが、いずれもCDOに含まれる。」
 
このCDOを「現物債券」とすると、そこから合成CDOsynthetic CDO)を派生させることができる。この合成CDOは現物の証券化された住宅担保証券を含んでいない。現物ではなく、現物のCDOの価値をリファーしたCDS(credit default swap)の売りが合成CDOに組み込まれる。この結果、現物のCDOと同じ価値変動を模写した派生商品として合成CDOは機能することになる。
 
すなわち現物のCDOの価値が下落する、さらにデフォルトを起こせば、組み込まれたCDSの損失が拡大し、合成CDOの損失も拡大する。一方、無事ならば、CDSの売りによるプレミアム(一種の信用保証料)を投資リターンとして獲得できる。こうして現物CDOから幾つものコピーCDOを派生させることができる。WSJの記事がmagnificationと書いているのはそうした証券増殖のメカニズムだ。
 
もしサブプライムを含んだCDOの価格下落に賭けたいならば、プレミアム(保険料)を払って組み込まれたCDS(売り持高)の買い手になれば良いことになる(=protectionの買い手となる)。2007年に住宅バブルが崩壊を始めるまでは、CDOに対する投資家の需要が拡大し、現物の組成が間に合わないほどだったという。そこで、こうした合成CDOは便利なコピー投資商品となったわけだ。
 
また20061月、ゴールドマンとドイツ銀行を含む銀行団はABXというサブプライム・ローン関連の証券化商品の諸指数を立ち上げた。4つのABX指数は20のサブプライム債券に連動していた。この指数が幾つもの合成CDOに盛り込まれることになる。
 
2006年の後半には価格下落を見込んだヘッジファンドなどのABX指数の売りを受けて、ゴールドマンは巨額の買持ち持高に傾き、それをヘッジ、反転させる手口を求めていた。
例えば、20066月に組成されたSoundview dealはカルフォルニアとフロリダを中心とするサブプライム住宅ローン31億ドルを盛り込んだ証券化取引だ。例によってこの債券はリスク評価の異なる部分に分割されて売却された。そのひとつでM8と呼ばれる債券が発行された。これは資産プール全体の約5%が損失になれば、価値を失うハイリスク部分だった。
 
このSoundview債券は20067月にABX指数に盛り込まれる。そしてSoundview M8債券は幾つもの合成CDOにコピーされた。例えばM8はゴールドマンが組成したHudson Mezzanine Funding 2006-1と呼ばれる合成CDO15百万ドル組み込まれた。Hudsonは既に市況の下落に備えようとしていたゴールドマンの手段だった。
 
上院での調査によると、ゴールドマンはこの合成CDOの売却を現物のローン資産をリファーした投資プールから生じた20億ドルの損失のヘッジに利用した。もちろん、購入した投資家が損失を被ったのである。ゴールドマンHudosonに盛り込まれたCDS(protection)の買い手でもあった。つまり、同社は既にHudson債券について下落の見通しを持っていたことを意味する。
 
Soundview M8債券はAbacus 2007-AC1にも盛り込まれている。Abacusは今回SECが不正容疑を提訴している対象の取引である。Abacus20074月に販売され、Soundview債の買い持高222億ドル含んでいる。この組成に関して、その価格の下落で利益を得られるヘッジファンド(Paulson & Co.)が資産の選定に関わっていた。この事実を販売先投資家に開示しなかったことがSECがゴールドマンを提訴した容疑の核心である。
 
ゴールドマンの複数の社員はSoundview M8の価格が下落しそうな状況になっていることを2007年の初め頃には気が付いていたようだ。20074月のEメールで、あるゴールドマンの社員は、このM8を“dirty’06 origination”(2006年組成のダーティーな取引)と呼ぶリストに並べていた。実際、その時までにSoundviewのローン資産プールのうち8%が60日以上の延滞状態になっていた。
 
記事の内容に基づく売り抜け手口の概要は以上である。顧客投資家の損失の上に自社の利益あるいは損失回避を行ったゴールドマンである。しかし、それだけならば、相手がプロの投資家である場合は、モラルはともかく、違法性を問うことは困難だろう。買手の投資家もプロとしての自己責任が問われるからだ。
完全にプロどうしの売買だと考えるならば、ゴールドマンが値が下がると考えた債券を、投資家が下がらないと考えて購入したことは、あるい意味で当然のことだとも言える。相互の思惑が異ならなければ、売買が成り立たないからだ。
 
実際、この点がゴールドンマンの訴追に対する反論の論拠となっている。しかし、相手がプロの投資家であっても、販売に際して必要な情報開示を怠っていた、とりわけそれが投資家の利害に関わる情報であった場合は違法性が問われる。SECの訴追の核心がここにある。
 
また、「プロの機関投資家」と言っても様々なレベルが現実にはある。問題の案件に関わったゴールドマンの売却先の金融機関IKB(ドイツ産業銀行)などは、もしかしたら「ネギカモ」だったのではなかろうか。
 
日本の郵政も中途半端な民営化が進み、投資対象を広げていれば、ゴールドマンなどの投資銀行の絶好のカモ(規模で世界最大級のカモ)になっていただろう。民営化を徹底して当事者能力を身につけさせ、失敗の場合は破綻させるか、それが望めないなら政府組織として最小限の規模にするか、合理的な選択はどちらかしかないように思う。
規模ばかりでかく、中途半端な当事者能力しかない組織が一番危険である。グローバル金融市場の草原には、そうしたカモを食い物にするプレデター(捕食動物)が沢山いるからだ。

GWなので話題の3D映画、Alice in Wonderlandを家族と見て来た。まあ、まあ、楽しめる。3Dの話題沸騰の映画界だが、テレビや映画が白黒からカラーに変わった時ほどの興奮を私は感じない。眼鏡をかけると映像が少し暗くなるのも気になる。それでも3D映画が増えていくんだろうなとは思うが。
 
この映画でもそうだが、アリスのキャラは「気丈な娘」が合っている。今回の映画では、剣で赤の女王のモンスターと戦うのが預言書に書かれたアリスの宿命だ、とワンダーランドの住人たちから期待されてしまう。「そんなこと私にはできないわ」とうろたえていたアリスが、やがて運命に立ち向かう覚悟を固める、それが物語の主要な展開だ。そして元の世界に戻ったアリスは・・・・。
 
このストーリーは昔から物語、神話などでも何度も繰り返され、それでも決して飽きられることのない普遍的な人気パターンだ。私も「資産運用のセオリー 投資の魔物を退治しよう」(光文社)のミニ・ストーリーで利用させてもらった。読まれた方はお分かりだろう。
 
さらに調子に乗って、2009年11月の毎日新聞社の「エコノミスト」特集号で「アリスと学ぶFXの知的投資術」というのを完全な物語仕立てで書いた。ホームページこのサイト。 自分では「良くできた! ダジャレもオチも完璧に決まっている。わっははは(^。^)」の気分だったが、本やウエッブマガジンと違って、雑誌というのはどうも反響の度合いが分からない。このブログを訪問された方、どうぞご覧ください。
 
 

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