たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2011年02月

2月21日の「住宅バブルの法則」(日経ビジネスオンライン、以下サイト)で物価安定と資産価格安定(バブル回避)をめぐる金融政策のジレンマについて書いた。
 
ラグラム・ラジャン教授の「フォールト・ラインズ(Fault Lines)」がこの点で価値のある指摘をしているから、ここに記載しておこう(第5章「バブルからバブルへ」)。
 
「住宅バブルの法則」の中でも書いたが、米国のFRBに与えられた任務は、インフレ率の安定と持続可能なレベルでの雇用の最大化である。
ラジャン教授の提示する問題は、なぜFRBは2001年のITバブル崩壊による景気後退からの回復局面で、住宅資産価格の高騰や信用の膨張に「鈍感」だったか?である。
 
ここで、ラジャンは物価の安定と雇用の最大化の2つの目的の間に生じたジレンマを指摘する。1990年代以降の米国経済は、景気回復過程でも雇用の回復がそれ以前の景気循環とことなり著しく遅延するようになった。この点は私も「2011年の世界情勢」(PHP研究所、2011年1月)の中で以下の図を掲載して強調した点だ(まあ、エコノミストにとっては常識に属することだが)。
 
2001年の景気後退からの回復過程でも、インフレの心配はほとんどない一方で、雇用の回復は遅々としていた。住宅価格はバブルぽっい高騰(年率二桁上昇)を始めていたが、雇用回復に執着しなくてはならないFRBは、2004年後半まで低金利(FFレート1%)を持続し、その後の引き上げのテンポも緩慢だった。
この緩め過ぎの金融政策については、ジョンテイラー(金融政策のテイラールールで有名)も「バブルの主因」としてFRBの金融政策を厳しく批判している。
 
つまり、全般的な景気の回復とインフレ率の穏やかな上昇、雇用の回復が平仄をそろえて進んでくれればよいのだが(戦後の景気循環では概ねそうだった)、1990年以降は経済構造の変化で、景気回復の進展(特に企業収益と株価の回復)と雇用の回復の平仄が崩れた。また、インフレの懸念は乏しい一方、資産価格の高騰は目立つようになったということだ。
 
結局、1990年代も2000年代もFRBは、雇用の回復を実現するために金融政策の緩和バイアスが働き、それが資産価格のバブルの温床を生んでしまったというわけだ。
 
なぜ1990年代以降、雇用の回復が著しく遅延するようになったのかは、ここでは省略するが、議論が様々あって、コンセンサスはまだできていない。
 
要するに現代の金融政策のジレンマは、私が日経ビジネスオンラインの論考で指摘した、インフレの安定と資産価格の安定の2つの目的の間だけではなく、インフレ、雇用、資産価格の3つの目的の間でジレンマが生じているということになる。現代の「金融政策のトリレンマ」と呼ぼうか。
世界的には既に雇用の回復に先だって国際コモディティー価格の上昇も目立ってきた。
 
そして、このトリレンマに現在最も先鋭に直面しているのは、米国や欧州、日本よりも中国だということになる。 このトリレンマ・ストーリーの2010年代の結末はどうなるんだろうか? やはりバブルとその崩壊があるんだろう。怖いですね~、ぞくぞくしますね・・・・。
イメージ 1
 
 
 
 

私が2007-08年の2年間務めていた(財)国際通貨研究所の春好例の国際シンポジウムが開催されます。同研究所は1995年末に、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)が設立した国際通貨・金融問題を専門にしたシンクタンクで、元大蔵省財務官だった行天豊雄が理事長を務めています。
参加ご希望の方は、以下のサイトから参加登録してください。
 
===== 国際通貨研究所主催 第20回国際金融シンポジウムのご案内 =====
 
「新たな世界経済秩序の模索 ~新興経済の台頭下における均衡回復の処方箋と政策協調の展望~」
 
  時: 2011316日(水曜日)1400分~1730分(1330分開場)
  所: 経団連会館 2F 国際会議場 東京都千代田区大手町132
  催: 財団法人 国際通貨研究所 http://www.iima.or.jp
 
参加費は無料ですが、参加ご希望の方は、参加登録ページより必要事項をご記入の上、お申し込みください。
シンポジウムの詳細およびお申し込みはhttp://cos.congre.co.jp/iima2011/j/ まで。
 
モデレーター、パネリストは以下の通り。
モデレータ:行天豊雄
パネリスト:
ハマド・アルサヤリ 氏 (サウジアラビア通貨庁前総裁)
イル・サコン 氏    (韓国・世界経済研究院 名誉会長)
黒田 東彦 氏     (アジア開発銀行 総裁)
ジョン・リプスキー 氏 (国際通貨基金 筆頭副専務理事)<招聘中>
アンドリュー・シェン 氏(中国銀行業監督管理委員会 首席顧問)
玉木 林太郎 氏        (財務省 財務官)
サイモン・テイ 氏     (シンガポール国際問題研究所 所長)   
 
===== Announcement of the 20th IIMA International Financial Symposium =====
 
"Searching for a New Global Economic Order
-Prescriptions for global rebalancing and a new framework for policy coordination with growing presence of emerging economies-"
 
Date:                    14:00-17:30, March 16 (Wednesday), 2011 (The doors will open at 13:30)
Venue:                  International Conference Hall, Keidanren Kaikan 2F, 1-3-2 Otemachi, Chiyoda-ku, Tokyo
Organizer:             Institute for International Monetary Affairs http://www.iima.or.jp/en/
 
We cordially welcome your participation in the symposium.
 
Admission is free, but you are kindly requested to register in advance.
For further information and registration, click http://cos.congre.co.jp/iima2011/e/ .
(Screen will be linked to Secretariat Web page (c/o Congress Corporation).)
 
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シンポジウムに関するお問い合わせは For inquiries concerning the symposium
20回国際金融シンポジウム事務局(株式会社コングレ内)
Secretariat of the 20th International Financial Symposium (c/o Congress Corporation)
102-8481 東京都千代田区麹町5-1 弘済会館ビル
Kohsai-kaikan Bldg., 5-1 Kojimachi, Chiyoda-ku, Tokyo 102-8481
TEL: 03-5216-5303 Email: iima2011@congre.co.jp
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忙しいビジネスマンは日経新聞の「経済教室」やその下の「やさしい経済学」などはあまり読まないだろうか。
私も銀行員時代はあまり読まなかった。しかし、大学に転職してからは、「ご同業様方」が世間一般に向けてどのようなことを言っているのか、てっとり早く知る紙面としてほぼ欠かさず読んでいる。
 
2月25日のやさしい経済学「投資家行動と経済物理学」(成城大学教授 増川純一)のコメントがちょっと目を引いた良。
圧力や温度などを変えていくと体積などモノの状態は変わりうるが、ある特殊な圧力や温度では相が混在する状態が起きる。これを臨界状態という。水の場合、218気圧で374度のときに液体相と気体相が混在する状態が生まれる。臨界状態を超えた温度や圧力では、もはや液体、気体という相の区別がなくなる、そのギリギリのところが臨界状態だ。
 臨界状態に達したときに起きる物質の特別の性質のひとつが、部分の変化が全体に瞬時に伝わることだ。水の例でいえば、水の分子間で及ぼし合う力が連鎖し、水蒸気中に生じた小さな水滴が瞬時に大きな水滴に成長する。最近の研究で協調行動で外敵をかわす鳥の集団に臨界状態に近い性質が確認された。
 相場の価格変動も臨界状態にある集団の特徴と共通する点が多い。」
 
「相転移」という現象が、人間現象、市場・経済現象にも適用できるのではないかというのは、以前から指摘されてきたことだ。例えば、以前このブログで日本の財政赤字と将来の国債価格の暴落(利回り急騰)リスクについて書いた時、「2002年から2007年までの景気回復&政府債務の増加過程でも国債利回りは0.5%も上がらなかった。だからこの先また景気回復が続いても、大した利回りの急騰はないのではないか?」という趣旨のコメントを具体的な数字を付して頂いた。
 
その時に、雪崩の例でお答えした。山の斜面に雪が1メートル積もった時に、雪の層が10センチずれ下がったとしよう。従ってさらに1メートル積もった時も雪の層のずれは10センチと推定するのは正しいか?やはりこれは正しくない。雪が積もり続けると、ある時点で雪の層は雪崩というそれまでとは全く異なった変化に転じる。
 
では市場現象も「相転移」で説明できるかというと、厄介な問題がある。水や金属など自然現象の多くは、一定の条件下で繰り返し実験可能だけど、市場現象はそれができない。バブルとその崩壊のように同じようなことは歴史の中で繰り返し起こるけど、それが起こる条件も異なり、結果も同じということはない。
 
そこでエコノミストや経済学者は回帰分析を使って、過去の経済変数間の関係を検証して、傾向的な法則を導いたりする。ところがこの回帰分析もバブルが崩壊局面に転じるような「相転移」の局面では変数間の相関関係が激変してしまうので、過去の傾向が全く様変わりしてしまう。
 
特定の市場現象の相転移が完全に説明できるようなモデルはおそらく構築できないのではなかろうか。というのは、例えば政府の債務残高が他の経済変数との関係である水準に達すると(たとえば債務がGDPの200%を超えると)、国債の暴落が始まるというような相転移局面を高い信頼度で予測できたとしよう。
 
それが正しいと受け止められたら、投資家はその条件が達成される少し前の時点で国債の売りに殺到するだろう。そしてその事前の国債の売り殺到を予測する投資家は、さらにその少し以前に売りに走るだろう。という予測と選択のフィードバックが無限に繰り返されると、いったいどういう状態に帰結するんだろうか?帰結の収束点(均衡点)はあるかもしれない、ないかもしれない。あるいは複数の均衡点があるかもしれない。やっぱりわからないねえ、予測不能だね~ということになるかな。
 
というわけで、引用した増川先生の解説シリーズが(今回は1回目)どのように展開するのか、ちょっと関心がある。
 
追記:ホームページも更新してエコノミストの掲載論考をアップしました。以下サイトの「評論、論考」、ご参考まで。
 
 
 

参議院議員、田村耕太郎氏の本日のダイヤモンドオンラインに掲載された記事が面白い。
 
 
一部だけ引用しよう。
***
日本人「新卒の内定率もとうとう7割を切ったよ」
韓国人「えっ?まだ6割以上が卒業してすぐ就職できるの?韓国は4割台だと思う。TOEIC900点でも就職できない」
中国「それ恵まれすぎだよ。中国は経済が高成長しているけど新しい大学がどんどんできて競争はますます激しい。学生は専攻も語学もすごい勉強しているけどすぐ就職できるのは3割くらいだ。だから皆世界中どこへでも出かけて行って就職を探す」
ブラジル・インド「新卒内定率って何?そんな統計できるの?若年失業率なら3割から4割の間かな?」
アメリカ「まだ7割近くがそんなことしてるの?インターンもさせずに雇うの?学生もインターンせずに会社に入るっていうのは、同棲もせずに結婚するのと同じか?」
***
 
弊著「ラーメン屋vs.マクドナルド」(新潮新書、2007年)に書いた「希望を語る大統領vs.危機を語る総理大臣」の章で書いた日本人の「危機感駆動型」類型と同種の問題の指摘だ。
 
記事の最後にある世論投票をみると、圧倒的に多数(79%)の読者が「日本人は自虐的だと思う」に投票している。そういう自己認識もあるのだが、そう感じる心は制御できないということだろう。
 
抗鬱剤の国民的な投与を実施したら、どういうことになるだろうか?という空想をしてしまう。それが最大のデフレ解消策、景気刺激策になったとしたら、経済学者やエコノミストの語る経済政策論は一体なんだったんだ、ということになる。 そこでまた自嘲しちゃったりして・・・。
 
 
 

毎度の日経ビジネスオンライン、本日以下の私の論考が掲載されました。
 
「住宅バブルの法則」が予言する中国危機
 
本文下段の「参考になった」でご支援クリックお願い致します。
コメントも歓迎です。
 
 
追記
さて、まずROM人さんの以下のコメント(本欄に書きますね)。
「一つ質問なのですが、この名目成長率>長期金利とという状況を是とするか、否とするかについてはどう思われますか? 物価だけでなく資産価格も金融政策の目標としてしまうと90年代以降の日本のような状況に陥る可能性が非常に高くなるように思われますが。 
 
資産デフレになりそうな状態では(2008-10年の米国)、名目成長率>長期金利の状態にすることは、資産価格の押し上げでプラスの資産効果(消費の増加)を誘導することは合理的な政策だと思います。
 
日本の困った点は、資産価格も物価もデフレ期待がしみついてしまって、そうしたくてもできないことですね。経済主体の執拗なデフレ期待を転換させるためには、「えっ!もしかして本当にインフレになるのか!」と思わせるプロセスが必要でしょ。
 
でもそういう転換を起こすことについて一番臆病なのが日銀。国債の暴落を恐れているからだろう。
バーナンキ議長のQE2が効果を上げたのは(最終評価はまだちょっと時期尚早だが)、「QE2なんかやったら、後でひどいインフレになるぞ」という批判を押し切って断行したことでしょう。その結果、市場参加者のデフレ期待は払しょくされたとも言えるのではないでしょうか。
 
一方、好況で資産価格の上昇が目立っているときに、名目成長率>長期金利にしてしまうと、高い確率で資産バブルになるということでしょう。その時には逆にしなくてはならない。
 
ところが問題は、本論で書いたように、物価の安定と資産価格の安定は別物で、従って物価の安定(消費者物価で年率1~2%程度の上昇)にちょうど良い金利水準と(テイラー・ルールが先進国の金融政策では一般化していますが)、資産価格の安定にちょうど良い金利水準は同じになる必然性がないという点ですね。
 
これはジレンマとしか言いようがない。このジレンマを回避する方法を現代の金融政策はまだ持ち合わせていないと言うことになります。このジレンマを回避できる政策論を提案できたら、大論文になる。
もしかしたらノーベル賞ももらえるかも・・・ははは\(-o-)/
 
 

明日21日に発売される毎日新聞エコノミストのカバーは「米国復活」だ。
私も「資産高が家計の債務調整長期化の「悲観」を覆す」というタイトルで書いているので、ご関心あればご覧頂きたい。
もっともその下地にしている自分の論文は2009年8月に書いている(以下サイト)。
 
バーナンキ議長は昨年10月頃まではQE2の効果の説明では、ポートフォリオ・バランス・チャンネルを通じた長期金利の押し下げ効果を強調し、株などの資産価格押し上げ効果については、奇妙なのほど慎重にふれることを避けていた。ところが、株価上昇のトレンドが鮮明になってきたのを確認して、11月のQE2実施後は、資産価格押し上げ→プラスの資産効果による消費の拡大とコンフィデンスの回復効果を強調するように転じた。
 
この辺が、バーナンキ議長の賢いという以上に、したたかな面だと思う。
 
ところで同誌は、1月25日号で「米国デフレ」という表紙で米国経済悲観論を打ち上げたばかりだ。
まあ、風見鶏のように世情の流れる方向に身体を向けるのは宿命と開き直っているようだから、今さら責める気もしないが・・・・。

紙から電子ネトワークへのトレンドの中で、新聞、雑誌、書籍業界が大変動の渦中にあるが、郵便事業も同様だ。既存の「官系郵便事業」は赤字を膨張させ、このままだと大赤字が恒常化する。
 
**********
まずはこの点についての米国の事情
WSJ  Jan 24.2011
Now, with the red ink showing no sign of stopping, the postal service is
hoping to ramp up a cost-cutting program that is already eliciting yelps of pain around the country. Beginning in March, the agency will start the process of closing as many as 2,000 post offices, on top of the 491 it said it would close starting at
the end of last year.
The postal service argues that its network of some 32,000 brick-and-mortar post offices, many built in the horse-and-buggy days, is outmoded in an era when
people are more mobile, often pay bills online and text or email rather than put
pen to paper. It also wants post offices to be profitable to help it overcome
record $8.5 billion in losses(7000億円の赤字) in fiscal year 2010.
 
時事通信NYKの配信記事、2011年2月18日
【NYリポート】崖っぷち経営続く米郵便公社=年間赤字、7000億円に NY総局 大嶋聖一
 郵便事業が赤字なのは、日本に限ったことではない。米国の郵便公社(USPS)も巨額の赤字に苦しんでいる。2010年9月期の通期決算では、85億500万ドル(約7060億円)の経常損失を計上。赤字決算は4期連続で、累積で170億500万ドル(約1兆4110億円)に達した。危機的な経営状況を打開するため、職員の大幅削減に加え、不採算郵便局の閉鎖や土曜日の配達中止などの抜本改革を計画をしているが、大なたをふるうには政府・監督当局の認可や法改正が必要で、公社の経営の行方は予断を許さない。
 赤字の原因の1つは郵便物の減少だ。取り扱いは06年に2130億通・個で過去最高を記録した後、下降していく。10年には1700億通・個まで落ち込んだ。サブプライム問題による金融・経済危機のほか、電子メールの普及が背景にある。
 しかし、巨額の赤字をもたらした「主犯」は、実は別にいる。07年9月期から適用された医療保険会計の変更だ。これに伴い、将来の医療保険給付に備えて引き当てを行うことが義務付けられた。その額は毎年57億ドル(約4730億円)前後に上る。
 
日本の事情
産経ニュース 2011年1月17日
郵便事業会社では、昨年7月に宅配便「ゆうパック」の大規模な遅配が発生。遅配に伴う損失の影響などで、2010年9月中間決算で営業損益が928億円の大幅赤字に陥った。
 日本郵政の斎藤次郎社長は7日の記者会見で、傘下の郵便事業会社の業績が大幅に悪化していることに関連し、「経営の効率化を具体的に検討している」と述べ、給与、ボーナスのカットや配置転換による人件費削減に踏み切る方針を明らかにした。労働組合と協議し詳細を詰め、今月28日までに総務省に具体策を報告する。
*********
 
日本と米国では直近の赤字拡大の要因には相違があるが、紙ベースの配達サービスの減少というイノベーションの進行の中で、サービス・モデルと装備・施設が時代の需要に合わなくなっている基礎的な事情は変わらない。
 
民間企業なら必然的にリストラが進み、それでも間に合わなければ会社更生法などが適用されて、一気にリストラ、あるいは解体が進むが、「官のビジネスモデル」では急激な環境変化に比較して対応は遅々としており、最終的に累積赤字は財政負担(納税者負担)になるだろう。
 
この問題に対する政治の対応は? いやはや、足元の火事でそれどころじゃないようですね・・・。
 
 

昨年暮れ、12月27日の日経ビジネスオンラインに「民主党は潔く分裂して出直せ」を書いたが、とうとう本当に分裂し始めた。
 
「民主党の小沢一郎元代表に近い若手衆院議員16人が17日、国会内会派「民主党・無所属クラブ」の離脱願を党側に、新会派結成届を衆院事務局に提出した。岡田克也幹事長は同日の記者会見で、会派離脱願を受理せず、16人を処分しない方針を表明したが、党内の亀裂は決定的」(日経新聞2月18日朝刊)
 
ここまで来たら菅内閣が辞職しても、民主党内で政権をたらい回しにすることはもうできないだろう。解散総選挙で仕切り直しするしかないと思う。民主党は分裂しても、しなくても選挙で大敗するだろうが、将来のためにはきちんと分裂した方が良い。
 
分裂して民主党の2009年のマニフェストが「それでも正しい」と思う方々は、どうぞそれを掲げて選挙に臨んでほしい。マニフェストの修正が必要だと思う方々は、きちんと修正したマニフェストを掲げて戦って欲しい。それが本来の選挙というものだろう。争点は当然、社会保障制度と税制の一体的改革とTPP加盟問題、それと経済成長政策だ。
 
自民党もこの3点に対する姿勢を鮮明にして選挙をして欲しい。 かなり議席を回復することは間違いないだろう。その上で政策本位の姿勢で、選挙後にはその3点で連携できる政党とはきちんと連携なり、連立なりして、政策を実施してほしい。
 
そうでなければ、目先の政権維持、あるいは政権奪取のみに目を奪われ、一貫した政策を実現できないでいる今の政治は児戯にも等しいと思う。

2008年に出版されて日本SF大賞を獲得した小説の文庫本版が1月に出て、買って読んだ(上中下3巻)。
作者、貴志佑介は私にとって初めての作家だ。これが大そう面白かった。
 
 
時は今より1000年後の未来の日本、少数ではあるが呪力を有するミュータント人類と通常人類の間で世界戦争が起こり、現代機械文明は滅亡する。その後のミュータント独裁者の時代を経て、通常人類は姿を消し、呪力人類によって文明と秩序が再興された時代を舞台にしている。
 
文明は再興されたが、科学技術のレベルは江戸時代末か明治初期のレベルで、人口も日本全土に数十万に過ぎない。日本に幾つかの町をつくり、外界と結界で遮断された牧歌的な世界で暮らしている。
 
まあ、そりゃ念じたことが実現できる呪力があれば、高度な科学技術は不要だろう。子供たちは呪力に目覚める思春期になると、目覚めの順に呪力を学ぶ学校に入学して、そこで技を磨く。
 
出だしの上巻は、呪力=魔法、少年3人と少女2人=少年2人と少女1人に置き換えるとハリーポッター・シリーズを連想させる展開で始まる。呪力を使った対抗戦ゲームはポッターのクィディッチを想起させる。作者はポッターシリーズにinspireされていると思う。
 
しかし、ポッターに似ているのはそこまでで、中巻、下巻では町の外、つまり結界の外の世界で展開している意外な出来事がどんどん膨れ上がり、主人公の子供らが巻き込まれていく。やがて町全体をひっくり返す大騒動に発展し、過去1000年の歴史の闇が明かされるのだが、それは読んでいない方のために語らないでおこう。
 
 
 
 

 日本では今月封切られた映画「ウォールストリート」をご覧になっただろうか。
 
 1987年の前作「ウォール街」では、主人公のひとりゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)が「強欲は美徳だ(Greed is virtue.)」と株主を扇動し、敵対的な企業買収で大儲けする。傲慢、強欲のゲッコーは実に憎々しい。しかし最後はどんでん返しが起こり、インサイダー取引違反で刑務所行きとなった。観客は「悪の栄えは続かず」のエンディングにほっと胸をなで下ろして終わった。
 
今回の続編はゲッコーが長い刑期を終えて出てくるところから始まる。時は米国が住宅バブルの頂点から金融危機に転げ落ちる局面だ。自分の経験を本に書いてベストセラーになったゲッコーは再び大学の講演会でこう言って聴衆をわかす。「昔、私は『強欲は美徳だ』と言ったが、今はこう言おう。『強欲は・・・合法的だ』」 ゲッコーは住宅ローンの証券化によってファイナスされた住宅ブームがバブルだと喝破し、様々な証券化金融商品をこき下ろす。
 
今回の続編映画「ウォールストリート」では、長年の服役ですっかり凋落したゲッコーだったが、娘名義の隠し財産1憶ドルを元手に、金融危機の最中売り叩かれた資産を安値で買いまくり、たちまち11億ドルの富をなし、復活する。ああ、強欲は永遠だ。そして最後にちょっぴりだけ改心もする。
監督はゲッコーを悪役としてではなく、時代の求める不屈のヒーローとして描いたのではないかと思うのは私だけだろうか。
***
以上は、近日中に掲載予定での日経ビジネスオンラインの論考の導入と締めで、この映画についてふれた部分です。論考のメインは「住宅バブルの共通法則」です。ご期待乞う。
 
日経ビジネスオンラインの私の過去の論考は以下のサイトでご覧になれます。
 

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