たけなかまさはるブログ

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2011年02月

塩野七生さんが昨年の文芸春秋に書いていた以下の言葉が脳裏に浮かんだ。
 
「私は、鳩山という首相を、「日本の悪夢」として忘れることにしたのである。この人が首相であった九カ月間を細かく詮索したりすれば気が滅入るだけだし、……忘れるほうがよほど生産的である」
 
当時、全くその通りだと同感したが、この塩野さんの言葉がまた思い出してしまったのは、琉球新聞(2月13日)の以下の記事をたった今インターネットで見たからだ。
 
 【東京】「鳩山由紀夫前首相は12日までに琉球新報などとのインタビューに応じ、米軍普天間飛行場の移設交渉の全容を初めて語った。「県外移設」に具体的な見通しがなかったことを認めた。「県外」断念の理由とした在沖米海兵隊の「抑止力」については「辺野古しか残らなくなった時に理屈付けしなければならず、『抑止力』という言葉を使った。方便といわれれば方便だった」と述べ、「県内」回帰ありきの「後付け」の説明だったことを明らかにした。在沖海兵隊の「抑止力」の根拠の薄弱さを浮き彫りにした前首相の歴史的証言は、県民の反発と波紋を広げそうだ。」(全文は以下サイト)
 
「最低でも県外移設」と言ってできない約束を振りかざし、最後に県外移設の断念を表明した時に、「安全保障上の抑止力維持のために基地の維持が必要と分かった」という趣旨の発言をした時には、「そういうことは政権構想の時に事前に考えて腹をくくるなり、党内部のコンセンサスにしておくべきもんだろう」と思い、唖然とした思いがある。
ところが、今度はその時の理由付けが「方便だった」というのだから、何回人を唖然とさせればすむのだろうか・・・。首相を辞任した時に「国会議員も今期でやめる」と言っていたことも既に反故になっているし、忘れたくても蘇る悪夢のようだ。 
 
 

バートン・マルキールの「ウォール街のランダムウォーカー」は投資理論の一般向け解説書としてロングベストセラーで、読者の中にも読まれた方は少なくないだろう。私も自著の中で引用し、大学ではゼミのテキストとして使っている。
しかし、どうしても納得できない部分があり、ずっと考えてきたが、最近ようやく考えがまとまって来た。マルキール先生は、効率的市場仮説を捨てていない。市場の効率性は完全ではなく、バブルやその崩壊をやってしまうほどには非合理的であるが(それってずいぶんと非合理的ってことじゃないですかね?)、大局的には効率的仮説は成り立っていると主張している。
その証左として、市場や人間行動の様々な非合理的なバイアス、アノマリーを発見してきた行動ファイナンスの研究成果も、そのアノマリーを利用することで市場の平均の投資リターンを持続的に(「持続的に」という点が大切)出し抜くことはできないでいるからだと主張している。(「ランダムウォーカー」の「なぜ行動ファイナンス学派の批判は的外れか?」章ご参照)
 
つまり市場の予測不可能性が成り立てば、効率的市場仮説も成り立つという考え方だ。しかし、私には市場参加者の合理性、あるいは市場の効率性の問題と、相場の予測不可能性は別の問題に思える
 
どうひいき目に見ても、今日では効率的市場仮説への信頼度は大きく揺らいでいる(あるいは崩壊している)ように思える(「合理的市場という神話(The Myth of The Rational Market)」。人間の行動選択の非合理的な様々なバイアスが行動ファイナンスの研究成果として明らかになり、また金融投資商品をめぐる売手と買手の間の情報の著しい非対称性などが問題になってきたからだ。しかし一方で、行動ファイナンスの成果として、市場の非合理性を逆手にとって持続的に市場平均の投資リターンを出し抜くような投資手法が開発できているわけでもない。これは行動ファイナンス学派の大御所、リチャードセイラー先生も認めている(「行動経済学入門(The Winner's Curse)」。
現実の市場は時に多少、あるいは甚だしく非合理的になり、バブルと崩壊もやってしまうが、その非合理性を逆手にとって継続的に出し抜くことも困難であるのだ。なぜか? 4つの事情が働いていると思う。
 
1に市場とは躁鬱病のミスター・マーケットであると考えてみていただきたい。ある日、ミスター・マーケットは躁状態で先行きに超楽観であり、強気で株を買いまくる。ところが別の日には突然鬱になり、先行きを悲観して、投げ売りし、今にも首を括りそうである。市場のセンチメントの移ろいが、躁から鬱へ、また鬱から躁へと偶然的な出来事で不規則に変移するようなものならば、予測不能性と市場の価格形成の非合理性は同時に成り立つ。
 
2の事情として、例えばある種の株は割安で、そうでない株は割高であるというような非合理的なバイアスによって生じた株価のアノマリー(anomaly、異常)はこれまで様々に発見されてきた。ところが、そのアノマリーが裁定取引による利益をもたらすほどに大きい場合、その事実が世に知られて普及すれば、自由な市場では裁定取引が働いてアノマリーは消えてしまう。
 
3の事情は、2の事情とは反対に株価が異常であると認識されても、裁定取引による株価の調整が働かない場合がある。例えば、1990年代末のITバブルの最中、少なくないヘッジ・ファンドが割高過ぎるIT銘柄を売って、割安と思われる非IT銘柄を買う投資戦術(ロング・ショート)を試みた。ところが、IT銘柄の高騰の勢いの方が遥かに強く、拡大する損失に耐えられなくなってみな撤退したという。躁状態のミスター・マーケットによって正気の投資家が押し倒されてしまったようなものだ。
 
4番目の事情は最も根本的なもので、自然現象と異なる人間が行う市場・経済活動の性質である。例えば、天気予報と同様に相場予報庁が信頼できる相場予想を出すとしよう。「来週の東京株式市場は今週末比5%下がる確率が80%です」という予報が出たら、あなたはどうするだろうか?来週まで待たずに株を今週売るだろう。あるいは買おうと思っていた場合は、今週買わずに来週まで待つだろう。その結果、相場は来週ではなく今週下がる。しかも皆そうする。
その結果、来週になると相場の需給関係は買いたい人ばかりになり、相場は下がらずに反騰する。つまり的中すると信頼されている予測ほど、それが公表されれば最終的には外れるというパラドックスが、自然現象と異なる人間の営む市場・経済活動の本質なのだ。
 
以上は3月に発刊されるエコノミスト誌(毎日新聞社)への私の寄稿の一部分だ。「効率的市場仮説ってなに?」の読者には、おそらく一番受けない部分かもしれないが、私にとっては思索の重要な足がかりポイントなので、このブログでその部分だけ先行掲載しておいた。該当の寄稿は投資信託とETFについて実践的な問題について書いているので、発刊されたら是非ご覧頂きたい。
 
追記
もう一点考えが浮かんだから記載しておこう。バブルとその崩壊のような資産価格にみる不合理な価格形成は、ミクロ(個別)レベルでの市場参加者の非合理的選択から生じるという見方は、おそらく一面的過ぎるだろう。むしろミクロの合理性とマクロの合理性の不一致が限界まで拡大するのがバブルの生成過程で、その不一致が劇的に調整されるのがバブルの崩壊なんだろう。
 
というのは、チキンゲームの例でご承知のように、ゲームに負けないためにはぎりぎりの限界(崖の淵)まで走らざるを得ないと言う点では、個別の経済主体の行動はその限りでは(ミクロレベルでは)合理的な適応行動なんだ。ただその過程で実体経済から乖離した資産価格の高騰というマクロレベルの合理性との乖離が広がる。この広がった乖離が急激に調整されるのがバブル崩壊だ。
 
バブルとはミクロレベルの合理性とマクロレベルの合理性の断層面で生じる、と言えるかもしれない。ちょうど日本列島における大規模地震が、沈み込む海洋プレートと大陸プレートの境界面で歪が蓄積し、限界に達すると一気に歪を解消する動きが起こり、それが地震となって生じるのと似ているな。
 
 

2月締め切りで毎日新聞社のエコノミスト誌に3つ寄稿を引き受けた。そのひとつは「良いREIT、悪いREITの見分け方」に関する論考。執筆過程の調べで、「賢い投資家のためのお役立ちサイト」のひとつを見つけたので、それだけ先にブログで紹介しておこう。
 
収益不動産のみを資産として、賃料がインカムであり、配当可能利益の90%以上を配当することで法人税を免除されているREITの財務内容と収益構造は、一般企業を多細胞生物に例えるならば、単細胞生物的に単純なものだ。
 
にもかかわらず、株式以上の暴騰・暴落をやってしまうというのは、市場の価格形成の合理性に致命的な欠陥があるということだろう。しかし市場の非合理性は、賢明な長期投資家には収益チャンスである。
 
何を手がかりに割高、割安を見抜けば良いか?弊著「資産運用のセオリー」あるいは「なぜ人は市場に踊らされるのか?」をお読みくださった方は、私の住宅マンション投資の割高・割安判断の手がかりが住宅賃料の安定性だったことをご存じのはずだ。
 
REITの場合は商業ビルを資産にするものが多いので、賃料収入は住宅賃料に比べるとある程度変動性が高い。それでも一般企業の純利益に比べると景気変動の中でもずっと安定している。さらに価格の割高割安はPBR(Price Book Ratio、価格純資産倍率)を見ればOKと当初思ったが、公表されているPBRは簿価ベースであり、鑑定評価時価ではないことが分かった。
 
鑑定評価をベースにした純資産はNAV(Net Asset Value)として開示されている。そこでPrice/NAV(
一株当たり) が分かれば、割高・割安指標として完璧なのだが、これは各REITについて財務諸表から自分で算出しなくてはならず、少々厄介だ。ところが、上場REIT全体のPrice/NAVを計算して開示しているサイトを不動産ファンド業界の若い友人が教えてくれた。
 
以下のTMAXという不動産鑑定・情報会社がP/NAV指標として計算、開示している。
 
これを見ると、やはり2006年-07年がバカ割高期で、2008年末から2009年が割安お買い得時期だったとはっきり分かる。「リスク資産は不況、危機の時にこそ買え」の正しさを示唆するデータだ。私自身は2007年に都心に保有していた中古マンションのひとつを売り払い、REIT投資は2009年から始めたので投資のタイミング判断としては正しかったことが確認できて嬉しい。
 
2010年末にはP/NAVは1近辺まで回復し、すでに割安感は消えた。買われなかった方は「もう買い遅れか!」と嘆く必要は必ずしもあるまい。平均的な水準で投資を始めることができれば、長期的にリーズナブルなリターンは得られるはずだ。 もっとP/NAV指標が上がってしまえば、私は分割して売り抜けるつもりだ。

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