たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2011年08月

週末に宮城県、岩手県、山形県方面に「芭蕉の奥の細道をテーマにした勉強会」と称した旅行に行ってきました。金色堂で有名な中尊寺は90年代にも家族と行ったことがありますが、最近は世界遺産に指定されたことで観光客数はどんと増えたそうです。鳴子温泉もホテルは満室に近い状態。
震災後遺症で客足が減っているという報道をずいぶん聞かされましたが、地域的な偏りが大きいようです。
 
さて、少し前ですが、購買力平価(PPP)に関する日経新聞の田村さんの記事を紹介した時に、web版の方に掲載されたマンキュー先生のテキストに掲載された多銘柄通貨相場の分布図によるPPP検証図がありました。「この図できすぎじゃない?」都合の悪いケースを抜いていない?という趣旨のご質問がありました。
 
で、同じことを生産者物価指数(企業物価指数)の場合と、消費者物価指数の場合とに分けてやってみました。企業物価は貿易財を多く含む指数なので、非貿易財の多い消費者物価指数よりも、よりPPPが妥当するはずです。ただし国によっては生産者物価指数を公表していない国も中国をはじめ途上国は多いです。
 
グラフとデータは以下の通り。各国通貨に対するドル相場の変化と、各国の米国とのインフレ率格差(各国インフレ率-米国インフレ率)が一致すればPPPが成り立っていると言えるわけです。期間は1973-2010年の長期です。日本についてみると、やはり生産者(企業)物価指数の方がより妥当しますが、全体では双方とも同じ程度にPPPが成り立っていますね。 
 
ただし期間を短くするほど、PPPの妥当性は低下します。私もかつてそうだったように、短期的に毎期稼がなくてはならないディーラーがPPPに関心を払わないのは、そういう意味では当然です。日銭稼ぎの役には立ちませんからね。
 
今回改めて調べて、比較的調査しやすいテーマだからでしょうか、PPPの妥当性については欧米で過去ずいぶんと検証する論文が沢山出ていることがわかりました。
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本日掲載されました。
 
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コメント寄稿も歓迎です。
 
 追記:
今回の論考は、アクセス件数では7位と地味でしたが、寄せられたコメント11件は、ほとんど理性的で質の高いもので、嬉しく感じました。 6月の時はアクセス件数が非常に高かった一方で、寄せられたコメントは非論理、無知、暴言が多く、醜悪でしたからねえ・・・・。
以下6月の論考、ご参考まで。
 
竹中正治HP
 

米国の8月のFOMCの声明「2013年半ば頃まで今の超低金利(FF rateのほぼゼロ金利)を続ける見込みが高い」が出てから、ドル円相場の見通しを再考してみた。
 
既に前日ブログで2012年末まで70円-90円のレンジと書いたが、円高ドル安が持続しそうな理由、さらに円高・デフレを解消する政策的な手段があるとすると何か、この2点について日経ビジネスオンラインに寄稿した。その論考は明日水曜日に掲載される予定なので、ご関心のある方はご覧頂きたい。
 
本ブログでは、その論考の核になっている「日米の実質短期金利格差とドル円相場の変化の相関関係」について、ちょろ出ししておこう。
 
縦軸はドル円相場の対前年比の変化(%)であり、プラスはドル高への変化を示している。ただし短期的な相場変動は、雑多な要因による振れが大きいので、12カ月移動平均を取ることで変化をならしてある。
 
 グラフ上の点は2003年1月から2011年6月までの各月の分布を示しており、右肩上がりの分布になっている。つまり「実質金利格差プラス=ドル相場上昇(逆は逆)」の相関関係が存在している。実質金利格差と為替相場の変化の相関係数は約0.7、決定係数は0.5024である。これはグラフに示されたドル円相場の変化の50%は実質短期金利格差の変化で説明できることを意味している。
 
 日米の実質金利格差と為替相場の関係は、実は相関性のかなり高い時期と、相関性の低い時期があり、一定ではない。しかし2003年以降現在まではかなり相関性が高い時期に該当する。その原因は、円売りキャリー・トレード持高の累積やその取り崩しが大きな相場要因になっている時期だからかもしれない。
 
 現状(2011年6月)は米ドルの実質金利がマイナス3.34%、円の実質金利がプラス0.46%で、実質金利の格差(=ドル金利-円金利)はマイナス3.8%、ドル相場の変化もマイナス(ドル下落)、つまりグラフの左下の象限にある。左上の象限にはほとんど分布がないので、2003年以降の相場環境では実質金利差がマイナスのままドル相場が対前年比で上昇することは可能性がとても低いことを示唆している。
 
つまり8月のFOMCの声明通りの見通しになれば、ドルのゼロ金利解除が展望できるのは2013年だから、2012年いっぱいはドルはデフレにならない限り、実質マイナス金利が続き、ドル円相場と実質金利の分布はグラフの左下の象限に止まる、つまり円高・ドル安基調が持続する公算が高いということになる。
 
日本サイドとして、そうしたデフレ・円高基調を解消する秘策はあるか? ないわけじゃない。それについては今週水曜日掲載予定の論考をご覧頂きたい。
 
日経ビジネスオンラインのサイトでの「参考になった」クリックも是非お願いしますね(^^)v
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今週の週刊文春(8月25日号)の記事「10月に2万件倒産!大クラッシュが日本を襲う」に私のインタビューが掲載されている。 実はこんなダーク・センセーションなタイトルになる特集だとは知らないで、インタビューを受けたんだが・・・(^_^;)  以下、その部分を引用
 
**** 以下記事の引用部分****
危機は、円高だけではない。国として見た時は、「国債暴落」のリスクが日増しに高まっている。
龍谷大学の竹中正治教授が試算した結果は、恐るべきものだ。
国債の発行残高は、三月末で七百五十八兆円に上っている。(短期証券、借入金は除く)
「金利が一%二%に上がれば、国債価格(平均残存期間六年八カ月)は約六%下落して、金融機関をはじめとした保有者全体で、四十五兆円の含み損が発生します。金利が二%上がれば、含み損は約二倍の八十六兆円に達します。財政危機が表面化したギリシアは、金利が急騰して十五%を超えましたが、日本の場合は借金の規模が大きく、わずかな金利の上昇で、巨額の損失が発生します。
 私は、国債がすぐに暴落するとは考えていませんが、このまま今後10年も借金を続けて行くことはできないでしょう。その時は借金がさらに増えており、その分だけ損失額は大きくなります」
 国債の発行が増え続ける中で、竹中教授は、「メガバンクの国債の保有が増えていることに驚きました」という。
 実際、今年三月までの一年間で、三井住友銀行は八兆円増えて二十一兆円、三菱東京UFJ銀行は四兆八千億円増えて四十兆円、みずほコーポレート銀行は一兆二千億円増えて十四兆円に上っている。(「金融ビジネス」の調査)
しかし、実はメガバンクは、リスクは回避しているという。
「保有している国債の平均残存年数は三年程度です」(三菱東京UFJ銀行広報部)
国債は、償還(返済)までの期間を基準に、「一年債」「五年債」「十年債」等が発行されている。期間が長くなるほど、金利(運用益)は大きくなるが、その分だけ金利が上昇した時の損失も大きくなる。
「メガバンクは国債の売買を続けながら、平均残存年数は短く維持しています。二~三年程度で、それぐらいの期間は大丈夫、と判断していると言えます。しかし、短期債は金利が低く、運用益が出しづらいため、体力のあるメガバンクだからできることです」(経済部記者)
 今年三月末までに発行された国債の平均残存年数は、六年八カ月(財務省発表)。つまり、メガバンクがリスク回避している分だけ、リスクの高い長期債を保有しているところがある。
 ゆうちょ銀行は、資産の八割を国債で運用し、六月末の残高は百四十七兆円に達している。
「ゆうちょ銀行は、企業貸し出しは基本的にしておらず、運用益を出すために、メガバンクに比べて長期の国債を保有していると推測されています」(前出・経済部記者)
 しかし、リスク回避を図るメガバンクにしても、本業は企業への貸し出しだ。
「リーマンショック後、とくに大企業は資金を溜め込み、融資を求めないため、銀行は貸出先が無く、余剰資金を国債に投じてきました。
銀行が国債へ投資している限り、経済成長は期待できませんが、それは銀行の問題というより、企業が萎縮して、積極的に資金を使わないことが問題です。円高の今は、海外へ進出したり、買収したりする絶好の機会ですが、そうした企業はまだまだ十分多くはありません」(前出・竹中教授) 
欧米に続いて日本国債のさらなる格下げが起これば、最悪のシナリオが待っていることは間違いない。
**********(引用終わり)******** 
 
「私は、国債がすぐに暴落するとは考えていませんが、このまま今後10年も借金を続けて行くことはできないでしょう」と言っている通り、私は記事のタイトルとは違って、今すぐ日本が危機になると言っているわけではないことを強調しておきたい。
 
また、記事が他の部分でふれている欧州について補足しておこうか。
ユーロ圏PIIGS諸国を中心にした危機的な状況は「不況下での政府債利回り高騰」と要約すれば良いのだろう。不況、あるいは景気が失速する状況下では、通常は金融緩和、あるいは緩和期待で国債利回りは低下する。
 
その国の国債金利は、他の諸金利の基準として機能を持つ。だから不況にもかかわらず国債金利が跳ね上がった国では、民間債務に適用される諸金利も上がる、ないしは下がらない。政府債務の償還リスクが心配される国でどうして他の民間債務の償還に安心できるだろうか。 その結果、景気後退ショックに対する金融緩和効果が殺されてしまう。
 
ユーロ圏がなんでそんな状況に陥ったかというと、根本には各国が金融主権を放棄して、それをECBに統合したことがあるが、そのECBがインフレ・リスクを心配し過ぎて、日本や米国のような量的緩和まで踏み込んだ金融緩和をせず、回復途上で金利を上げ始めたためかもしれない。
その結果、金融緩和効果も財政政策も塞がれて閉塞している状況というわけだ。 
 
米国と日本ではユーロ圏と違って国債金利の上昇は起こっていない、むしろ下げ基調なので欧州と比較するとまだましとは言えるか・・・・。 ただそうした状況は日米共に現在のコースを後10年も辿れば、喪失する可能性がやはり高いと思う。短期と長期の政策目標・手段の目標の相違を調整しながら
コース転換できるかどうかは、政治の問題、いや、国会の代議士を選ぶ有権者の問題というべきか。
 

8月の初旬に家族で京都の渓谷「保津川下り」を楽しんだ。手漕ぎの船に15名ほどのり込んで、船頭さんが3人で交代で漕ぎながら、舵を取り、渓流をくだる人気イベントだ。
 
乗船した時に、「なんでライフジャケットの着用を指示しないんだろう?」と思った。というのは、アジアなどの海外で経験したマングローブ・クルーズとか同様のツーリスト用のイベントは、どこでもライフジャケットの着用が気味だったからだ。
 
「船が転覆したら、泳ぎが苦手な人と体力の弱い老人と子供は高い確率で死ぬな・・・」と思いながらも、渓谷の景観を楽しんで来た。
 
今回の死者2名、行方不明3名の事故を起こした「天竜川下り」も、私が京都で経験した保津川下りと、ほぼそっくりのイベントである。「1万回に1回は船が転覆する確率がある」という想定が働いていれば、ライフジャケットの着用は必須だったはず。
 
ライフジャケットは着心地の良いものではないから、お客がちょっと嫌がるかもしれない。しかし万一の事故が起こった場合の観光事業への打撃を考えれば、業者の立場としてもライフジャケットの着用を指示することが合理的必然というものだろう。
 
ユーザー(お客)は「安全は業者が100%確保してくれているはず」と思い、業者は「転覆なんて事故は万に1回も
起こさない」と妙な思い込みをしてしまう。その結果、生まれるのは「安全と水はただ」(「日本人とユダヤ人」イザヤベンダサン、1971年)と思い込む日本社会における、安全神話の崩壊だろうか。
 
あれっ、これって原発事故の構図と同じ・・・・。
そうだな、しかも日本人の投資リスク嫌いの性向とも関わりがありそうだな。安全を求めるうちに、危険確率の存在自体を否定してしまう性分。そして事故や暴落が起こると「絶対安全でないと許せない!」と感情的に拒否する性分だね。
 
 

傲慢なほどの強気と楽天的な調子が取り柄のアメリカ人であるが、最近はちょっと弱気になって来ているようだ。経済的な低迷を「日本化」と言われることは、日本人にとっては不愉快ではあるがね・・・。
 
8月13日付WSJ:  This time, may be the US is Japan.
その日本語訳記事
 
記事に書かれている通り、全く同じということはない。インフレ、デフレの動向も違う。 人口成長率を含む、人口動態もかなり違う。米国人口はまだ1%成長しているし、高齢化の程度も日本よりずっと緩慢。
しかし財政政策と金融政策を目いっぱい吹かしても、経済が自律的・安定的な軌道にまだ復していないというのは事実。目先1年の経済動向が大きな節目かも。
オバマ政権はどうする? バーナンキFRBはどうする? 興味深い。
 
 
 

さて皆さん、昨晩のNY市場、遅くまでご覧になっていた方も少なくないだろう。私は昨日の東京時間にS&P500のETFを少しばかり買い、夜12時前には寝た。
既に報道されている通り、FRBの2013年半ばまで現在のゼロ近傍のFF rateを維持するという「時間軸」のコミットが発表されたことで、株式市場は大きく反発した。
 
The Committee currently anticipates that economic conditions--including low rates of resource utilization and a subdued outlook for inflation over the medium run--are likely to warrant exceptionally low levels for the federal funds rate at least through mid-2013.
FRBのステートメント全文は以下のサイトで読める。
 
以前からバーナンキ議長は、6月までやったQE2の次に何か対策を必要とされる事態になっても、「オプションはある。ただし今それを発動する考えはない」と言ってきた。今回はそのオプションを発動したわけだ。
 
追加策を実行する場合、何を選択するか事前に考えた。もしかしらた、直接FRBがETFなどリスク性資産を買うのもありかな・・・と思った。なにしろ、バーナンキは2000年代前半の日本のデフレ局面で、二の足を踏む日銀に対して「ケチャップでもいいから買って、マネーの供給を増やせ」と言ったわけだから。
 
超低金利で短期債、中期債の利回りがゼロ近傍まで下がると、中央銀行が国債を買って、マネーを供給しても、金融緩和効果は急速に弱まる。というのは、金利がゼロ近傍の国債というのは金利がゼロのマネー(紙幣=政府債務)と実質的に変わらなくなるからだ。同じものを売買しても効果はない。
しかしマネーから性質が離れた「ケチャップ」 だったら、マネーの供給の効果が出るというわけだ。
 
しかし、実際にはケチャップを買うことも、株式を買うこともせずに、時間軸のコミットメントをした。
いや、likely to warrantと言っているから、これはコミットメントではなく、見通しを述べたと言うべきだな。
 
日銀も2000年代に時間軸のコミットメントとして「CPIが前年比で安定的にプラスになるまで」量的金融緩和を続けるということをやった(2006年に解除)。 しかし、今回のFRBの見通し提供は、ある意味でそれ以上に踏み込んでいる。
 
日銀のように「CPIが安定的にプラスになるまで」と言われても、それが来年までなのか、再来年までなのか、市場参加者には不確実だ。ところが今回FRBは後2年間(2013年半ばまで)は、他に条件をつけずに、ゼロ近傍の金利を続ける見込みが高いと述べた。
 
例えば「2013年半ば前にCPIが高進してインフレが問題になる局面になったらどうするの?」とはだれでも考えるが、その問題を押し殺して見通しを提供したわけだ。もちろん「仮にインフレが高進したら、2013年半ば以前でも超低金利政策は撤回される」可能性は残している。
 
金融機関や投資家はどう反応するか? とりあえずFRBの見通しにのるとすれば、ゼロに近い金利で資金を調達して、中期、長期の国債で運用していれば、目先2年間は利鞘が抜ける見通しが正当化される。だから5年物米国債金利は1%を割った。10年物も2%台前半まで下がった。 
 
一方、将来のインフレ高進を予想する人も出てくる。 彼らは超低金利で資金調達して実物資産(株、REIT、不動産など)を買うだろう。
 
もっとも「これでもう大丈夫」とは言えないだろう。投資家のリスクテイク意欲をまた委縮させてしまうような政策的な失態がユーロ圏から出ないか、中国のバブル崩壊・景気失速が起こらないか、米国の先送りされた追加の歳出削減交渉が新たな火種にならないか、などリスク要因はいくつもあるからね。
 
ドル相場はどうなるか?目先1、2年の予想レンジは下方修正しなくてはならないだろう。私は昨年秋以来、今年(2011年)の予想レンジは75-95円と言ってきた。しかし今回の変化で、2012年末まで「70-90円」の予想にしようと思う。株は反発しても、ドルの大きな反発は2013年まで「オアズケ」ということだろう。
 
さて現下のゼロ金利下での金融政策を含め、資産バブルと金融政策、マネタリスト・アプローチとその実証的な反証など、過去20余年にわたる米日欧の金融政策議論を勉強されたい方には、今年6月に出た以下の本が最適だと思う。
著者は著名な日銀系のエコノミスト(今は京大教授)だが、政府紙幣による通貨増発論など異端の金融政策もきちんと論理的に吟味し、対デフレ効果を肯定している点など、偏りのない真摯な姿勢が素晴らしい(政府紙幣による通貨増発は、その副作用のリスク故に採用は勧められていないがね)。
 
 
竹中正治HP
 

欧米の株がどか~んと下がった。メディアではユーロ圏のPIIGS政府債務問題と米国債格付け引き下げが、株価急落の要因と報道しているが、同時に投資家のリスク回避志向で米国債は利回り低下(価格上昇)とも言っている。
 
どう考えても説明として矛盾している。米国債の格付け引き下げが要因なら、不安の対象の米国債は売られるはずだと素直に考えるのが論理だろ。いくら不安にかかれた投資家がパニックになって冷静さを失っても、不安の対象物(米国債)の買いに走るということはあり得ないと思う。
 
欧州の危機はよくわかる。PIIGSの政府債務、国債価格の下落で保有している欧州金融機関には莫大な損失が生じるからだ。新たな金融危機の要因になる。対策といしてはECBか、金融安定化ファンドの資本金を思い切り増額して、PIIGS諸国の国債を買い支えれば良いと思う。
 
ところが、それはPIIGS諸国の政府債務を実質的にユーロ圏全体で負担することになるので、ドイツやフランスの有権者の理解が得られない。そのため対応の腰が引けている。それが投資家の不安の原因になっているのだろう。
 
投資家不安のさらに背景的な要因には、中国のバブル崩壊→世界経済の景気再後退というシナリオがあるのだろう。
 
もっともそれもこれも、今始まったことじゃないが、株価は特段の理由がなくても急落、暴落することは歴史が語っている。その端的な例が1987年10月のブラックマンデーだった。
 
以下はS&P500の直近高値からの下落率
1987年10月 32% ブラックマンデー(特段の原因なし)
1998年8月   19% LTCM危機(アジア通貨危機からの波及)
2011年8月  17% 今回(8月8日NY closing)
 
2000-01年の急落と、2008年の急落は株価急落を引き起こすだけのバブル崩壊と景気後退があったが、87年と98年は景気後退は起こさないまま、株価だけが急落した。今回がどちらのケースになるのか分からないが、私は87年や98年型かな?という気持ちもある。
 
もちろん、株価の下落が資産価値の減少→負の資産効果による消費減→景気後退という「不安の自己実現コース」を辿る可能性もある。 どっちのコースになるのか、事前に確実に分かる方法などはない。不確実な中で自分の「アニマルスピリッツ」に賭ける気がなければ、株式なんてもってられない。
 
以前紹介した以下のグラフもご参照。
 
怖いけど、ちびっとS&P500で今日あたりから買い増ししてみようかな・・・まだ早いかな・・・(@_@)

今日(8月8日)付の日経ビジネスオンラインの記事「人民元の弾力化でマネーはどこへ?」(豊島逸夫)の記事が中国政府の対外金融投資の2007年以降の展開を特徴的に描いているので記録のために引用しておこう。ほぼ同様の事情は私も外から見て推測していたが、取材した内容である点で価値がある。
 
「膨張する外貨準備を、米国債だけでなく日本国債に分散運用している国家外貨管理局の担当者たちにも会ってきた。彼らは官僚というイメージからはほど遠い。年の頃は30代半ばであろうか。アルマーニのスーツをビシッと決め込み、さながらウォール街のアジア系投資銀行マンのいで立ちである。聞けば出身校はオックスフォード、ハーバードなどなど。この2 4000億ドルに達する世界一の外貨準備を運用する部門は、エリート中のエリート集団なのだ。専攻もMPT(近代ポートフォリオ理論)などが多い。
 実は彼らは、つい最近まで勤慎中の身であった。2007年、膨張する外貨準備の運用を米国債一辺倒からMPTに基づく分散投資へと転換し、最初に政府系ファンド経由で米国投資ファンドのブラックストーンに30億ドル投資した。ところが翌2008年に同株の時価総額は購入時価格の50%にまで目減り。その損失を取り戻そうと、次はモルガンスタンレーに50億ドルを入れてさらに目減りを拡大させてしまった。
激怒した党の長老は、アメリカナイズされた若者集団に蟄居処分を下した。その御沙汰がようやく解けた2009年、中国の外貨準備増加が急加速する中で、再び運用の多様化が図られた。新たに分散運用先に選ばれたのがなんとユーロ。その当時はドルの覇権に対抗できる唯一の通貨と見られていたわけで、当然の選択といえた。しかし結果は、ドル不安でユーロに駆け込んだところ、その駆け込み寺が火事になってしまったような結果に終わった。
 そこで消去法的に浮上してきたのが円だ。ドル、ユーロ、円の弱さ比べの中で「欧米経済よりマシ」という相対評価をされ、避難通貨として円が買われたことによる円高に乗ってきたわけだ。中国の分散運用の対象は、資源国通貨、そして金という無国籍通貨にも広がりつつある。」
 相手の国の危機の最中に、割安になった優良な株式を買うと言うのは簡単にみえて、実は結構難しい。ましてや自分の金でなくて組織(政府でも企業でも)の金となるとますます難しい。なにしろ組織の承認を得なくてはならないのだが、その組織的意思決定というものは官僚的であるが故に、リスクテイクにもっとも不適合な原理でできているからだ。 
S&Pによる米国債の格付け引き下げに対する中国(政府)の反応も記録しておこう。
「国営の新華社通信は6日の評論記事で『米国の最大の債権者として、中国はドル資産の安全を保証するよう米国に要求するあらゆる権利を持つ』と主張し、軍事費や社会保障費の削減を迫った。」
まあ、これに対して米国政府としては「投資は自己責任でお願いしますね」とでも言っておけばいいんじゃないかな。
ただし、中国の分散投資の対象に円が買われると言うのは、円高要因として今の状態では嬉しくない。しかしそれも、この調子なら数年後には円安で損を負担していただけることになろうか・・・。
 
 
 
 

貧トレさんのご質問
「ダウは4月の高値を抜けないまま、昨日は-512.76(前日比-4.31%)の大暴落。これってひょっとして弱気相場入りでは?と思えてならないのです。もしアメリカが景気減速を認めたとすると、政策や経済の動きはどうなるでしょうか。今以上のインフレ政策を取るのか。金価格は。そして日本は。」
 
日本の株も、米国の株も、米国景気次第だと思う。QE3はあるかどうか、わからない。1970年代的なスタグフレーションは賃金が上がらない環境では起こり得ないので、起こらない。
 
相場相手のトレーディングをしていて一番難しいのが、トレンドの転換の判断で、景気の判断も同様。
上げにしろ、下げにしろ、同じトレンド続いている時は、基本的にlongなりshortなり、同じポジションを維持して、多少の変動は辛抱していればリターンが上がる。
 
あるいは一定のレンジの中で小さな上下動を繰り返す持ち合い相場なら、小刻みに上がったら売り、下がったら買いをしていれば、そこそこに儲かる。
 
一番リスクが高くて不確実性が高いのが、相場の転換点の判断。回復してきた相場、景気がここからまた下げ相場に入るのか、持ち直して回復が続くのか? 「ここから先どうなるんでしょう?」という質問をアナリストやストレテジストが一番沢山受けるのも、不確実性が一番高いpossible turning point(転換点かもしれない局面)だ。今週号の雑誌Economistsは"Time for a Double Dip?"で米国の景気後退局面への移行の可能性を50%と書いている。要するに分からないということだ。
 
しかし「わからない」と」言っちゃあ、ストラテジストは商売にならないので、分かったふりをする。人間、分かったふりをしている時が一番危ない。反対に明らかな不況局面、あるいは明白な好況局面は、判断に悩むことはない。それがいつまで続くかは分からないとしてもね。
 
だから、私の基本的なスタンスは、明らかな不況局面ではリスク性資産を買う、明らかな好況局面ではそれを売り上がる。そして、分からない時はポジションを広げない、ということにしている。
 
ところが面白いことに、人はしばしば不確実性の最も高い「もしかしたら転換局面」で相場を張りたがる。なんでだろう? それは相場と常時つき合ってしまう場合の人間の性だろう。戦でいえば、五分五分の難しい局面では戦いを回避すればいいのに、なぜか挑んでしまう。私は基本的に慎重な性格なので、8割以上勝てると思わなければ、大きな投資はしない。
 
「そう言われても、既に大きなポジション張っているので、ここから先、株は大きく下がるのか、回復するのか、重大なんです」 業者的投資家としての問題意識としてならば、そうなるのだが、おそらくそれは個人投資家としては大き過ぎるポジションを張っているということじゃないかな。
 
私の運用資産は未だに半分は都心のマンションで、内外の株式は25%程度、負債は2007年に返済して、現在はレバレッジなし。このあたりが自分の本業の妨げにならない程度のリスク量だと思っている。
 
と、原理原則で語ると以上のようなことになるんだが、それじゃあ面白くもなんとない。財務的に許容できる余力の範囲でなら、多少の冒険も良いだろう。私は「このまま米国が再度の景気後退に向かうことはない」の慎重な楽観論のスタンスで、S&P500で買い下がってみようと思う。追加の投資金額としては、そうねえ、資産の5%未満かな。もし予想に反して景気後退になってしまったら、次の回復局面まで待てばいいわけだしね。
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