たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2011年09月

腸を鍛えてやせる、健康になる」(丁宗鉄、主婦の友社、2011年)を読んだ。
とてもわかり易く書いてあるので、あっという間に読める。もとより私は医学は素人だから、内容の医学的な是非はわからないが、説明は論理的であり、自分の経験に照らしても納得できる。
 
著者の丁先生は、漢方を含む東洋医学に通じた日本薬科大学の教授、著書のメッセージを思いっ切り凝縮すると以下の通り。
 
「現代人の食生活は、やわらかい、甘い(糖質)、冷たいものに傾斜し過ぎており、そのため腸の機能が劣化してしまっている人々が多い。腸は実は免疫機能の基でもあり、腸機能の劣化が様々な心身の不健康症状(未病)や病気の原因になる。逆に腸を鍛える食生活をすれば、あなたの健康、身体管理能力はぐんと向上する」ということだ。
 
象徴的に言うと、ランチや間食にコカコーラ(糖分の多い清涼飲料水)をぐびぐび飲んで、ポテトチップ(糖質)をばりばりとほうばるようなことをしていれば腸機能が衰弱して、寿命を縮めるということだ。直感的には「健康に悪そう」と感じていたことだが(私は間食はほとんどしない)、具体的な症例に基づいて「なぜ悪いか」が説明されるので、深く納得できる。
 
冒頭で説明される「虚証」「実証」という体質の類型分けもわかり易い。もちろん東洋医学的な経験知であり、どちらの類型かによって、身体に良いこと、悪いことは違ってくる。江戸時代の貝原益軒の「養生訓」も紹介される。東洋医学的な経験知と西洋医学的な分析的な説明が、上手に組み合わされて展開するので納得してしまう。
 
私自身はエコノミストなので、データや図表で読者を納得させたいと思うのだが、そうした議論に馴れていない読者は難しく感じるようだ。う~ん、この丁先生のわかり易い説明法は、ちょっと真似したいな。 次作本でやってみようと思う。
 
 
 
 

 
どうも欧州PIIGS諸国の政府債務問題は、黄色信号から完全に赤信号に変わってしまった気がする。
つまりもっと深刻な局面がこの先待っているという嫌な感じがつのるばかりだ。欧州の株式などユーロ建て資産は一切持っていないが、世界の株式市場は同調性が高まっているので、先日MSCI-Emergingの保有の3分の1を売ったとコメント欄で書いた通り。
 
その翌日からドスンと下がったので、まあ、3分の1でも売っといて良かった。もっとも、事態の悪化がクライマックス局面に達したら買い戻すつもりだが、それはまだちょっと先、という感じ。今日のFTにも以下の記事が掲載されており、ここから先は回復するよりも、ワースト局面を見る方が先だろうと予測している。同感せざるを得ない。
 
欧州不安による世界的な株価の下落は、例えば米国についても投資家のリスク回避株価の下落負の資産効果による消費減退景気の低迷という悪循環を生むだろう。
 
LatAm lessons show eurozone must prepare for worst

The prospect of a sovereign default in Europe evokes memories of 2008 and
the collapse of Lehman. For me, a better parallel is 10 years earlier. Today’s
drama has all the hallmarks of a classic Latin American crisis, only this time the
Latins are in southern Europe.
The Russian default, itself an echo of the previous year’s Asian Tiger crisis, sent Latin America into a tailspin that took five years to stabilise. Countries many
thousands of miles from Moscow, and with few trade links, were caught up in the crisis, their leaders, such as Argentina’s then president Carlos Menem, at first
either unwilling or unable to comprehend the impact a Russian default might
have on their own creditworthiness. The crisis roamed from one country to the
next, causing havoc in financial markets and led to a range of support measures
 
悪い状況があく抜けするのはいつか?金融危機に共通する特徴として「返って来そうにない金が返ってこない」と認識されて、損失が償却されるまでは、危機は終息しない。
 
先日The Economist誌の論考を紹介したが、そこで書かれている通り、ギリシャの政府債務は返済不能だから、大幅な元本削減を伴う債務リストラが行なわれること、他国には波及しない、させないと投資家に思わせるだけのユーロ圏の体制が整う(EFSFの大幅増資による国債買い取り体制など)、不安視されている欧州銀行に十分な資本注入が行なわれる。
 
おそらく最低この3条件が満たされるまでは、欧州政府債務危機の収束は期待できないし、それまで世界経済は不安定な状態にならざるを得ないだろう。
 
追記:今日付けの日経新聞が今後の短期・長期の課題をコンパクトにまとめているので、記録のために以下掲載しておこう。
EU、金融安定策3段階で ギリシャ支援、週内詰め
2011/9/27付 日本経済新聞 朝刊
 【ブリュッセル=瀬能繁】ギリシャの財政危機とユーロ圏の信用不安に欧州連合(EU)は3段階で対応する構えだ。
 最初の関門は週内が焦点のギリシャ向け融資。EUと国際通貨基金(IMF)の調査団は27日にもアテネに入り、財政再建の可能性など協議を再開する。昨年5月に決めた総額1100億ユーロ(約11兆円)の第1次金融支援の一部である80億ユーロの追加融資が懸案だ。
 ギリシャ政府は国内の強い抵抗を受けながらも公務員の3万人削減や年金の減額を決めた。10月初めのユーロ圏財務相会合が融資を認めれば、目先の債務不履行(デフォルト)は避けられる。
 第2のハードルは総額4400億ユーロの欧州金融安定基金(EFSF)の機能拡充だ。危機を防ぐ策は(1)融資能力を2500億ユーロ程度から4400億ユーロに向上(2)市場で危機国の国債を購入(3)銀行に公的資金を注入――が柱。EFSFには欧州中央銀行(ECB)とともにイタリアやスペインなどの国債購入に期待が膨らむ。ただ実行には原則各国の議会承認が要る。29日にドイツ連邦議会(下院)の採決が控える。(各国の議会の動向、可決いかんで株価は大きく振れることになりそうだね。竹中)
 連立与党の一部がギリシャ支援に反対するスロバキアの政治情勢は緊迫。ドイツの可決は確実だが、与党から造反者が相次げばメルケル首相の求心力の低下を映す。
 第3の課題は中長期的なユーロ再生策だ。ファンロンパイEU大統領は財政統合と資金調達に道を開く「ユーロ共同債」の構想を巡り「各国の財政収支を均衡させるのが先」とけん制する。だが「国債の格付けがトリプルAの国だけで発行する」(レディング欧州副委員長)案も出ている。
以上
竹中正治HP

さてwpさんからコメントのあった「國枝先生の議論、間違っていない?」を考えてみましょう。まあ、ご本人にぶつけるのが一番効率的でしょうが、まずは相手の議論を咀嚼するのが大切ですし、頭の体操になりそうですからね。他の読者にもご理解頂けるように、補足しながら考えます。紫の字がwpさんのコメントです。
 
記事の2枚目、国内民間貯蓄の総額~以降の分、完全に間違っていませんか?国債がある場合のケースにおいて、国債発行によって政府が獲得したお金あるいはそのお金によってなされる実物投資の分が、無いものとなってしまっています。政府が第一期に国債を発行し、そのお金で実物資産を購入、それを海に投げ捨てるかのようなことでもしない限り、國枝氏の言っているようなことは成り立ちません。
 
国債で調達された資金(貯蓄)が何に投じられるかについては、政府による固定資本形成、あるいは消費(政府部門の直接の消費、あるいは給付を通じた民間家計の消費)が考えられますが、文脈から考えて、ここで國枝氏は後者の消費を想定していますね(つまり建設国債ではなく、赤字国債の発行)。
 
第一期にのみYのエンダウメントがあり、消費C、投資S(=投資I、金利r、国債発行額B、税金Tだとする二期モデルで考えると
・国債の無いケース
C1 = Y - S1
C2 = S1 * r

・国債の在るケース
C1' = Y + B - S1'
C2' = S1'*r - T
ただしT = B*r
となります。
 
ここまでは國枝氏の議論の再表現ですから、問題ないですね。1期と2期の双方に所得が生じる(Y1Y2とがある)場合も、原理は同じですから、1期のみにYを想定する点は問題ないでしょう。
 
「国内民間貯蓄の総額が一定」という仮定が解せないのですが、S1=S1'ということであるならば、第二期には消費が減ることになりますが、第一期には消費が増えているのでトータルの消費にそれほど違いは出てきません。そして必然性ある仮定とは思われない「国内民間貯蓄の総額が一定」という仮定を外し、最適な配分となるよう家計が貯蓄を決めるとするなら、S1' = S1 + Bとすることで、C1' = C1C2' = C2は実現可能です。
 
1期と2期の家計主体が同一で、生涯を通じて合理的に最適配分をするなら、そういうことになりますね。つまり1期に政府が国債を発行して国民への給付を増やしても、家計は2期の増税を見込んで行動するので、ご指摘の通りS1’=S1+Bと赤字国債の分だけ1期の貯蓄が増加するだけですから、C1=C1’で今期の消費は変らない。これは中立命題のケースでもありますね。その場合には財政赤字による景気対策効果自体が生じません。文脈から國枝氏が世代交代の結果、1期と2期は別の世代(1期は親、2期は子)と想定していることは間違いない。つまり世代間の格差を問題にしているわけでしょう。
 
これが、第一期と第二期で別の世代となっているということだと考えると、さらにおかしなことが起こります。何故なら第一世代は可能な限り消費をしてしまおうとするので、C1 = YC1' = Y + Bとなりますが、この世界にはYだけしかモノがないので結局C1' = Yとなるため、B = 0、すなわち国債自体が存在し得なくなります。
「国内民間貯蓄の総額が一定」という想定が妥当な単純化である否か、ちょっと迷いますが、「別世代ならば1期目の世代は全部消費する」というwpさんの想定の妥当性にも私は疑問を感じます。
 
ご指摘の通り、貯蓄ゼロならばそもそも国債(=国内で消化される内国債)は発行できない(海外からの資金のファイナンスを考えない場合)。しかし国債は世代を超える長期にわたって発行されているので、各世代はC1=Yではなく、なんらかの貯蓄を残し(C1=Y-S1)、それが投資(S1=I1:資産形成)となり、次世代に残り、世代を重ねるにつれて豊かになってきた。そうした現実に近い状態を國枝氏は想定しているのだと思います。
 
そして各世代の貯蓄が投資に回る場合と、貯蓄の一部(あるいは全部)が赤字国債の発行を通じて給付され、消費されてしまう場合とを比較して、後者のケースは前者のケースよりも貧しくなるよ(C2’<C2)と説いていると私は理解しています。
 
まあ、以上は私の「國枝解釈」ですから、つっこみ足りなければ直接、國枝先生にやって頂く方が生産的でしょう。Eメールアドレスも開示されていますからね。蛇足で言うと、國枝先生は「たとえ話」はあまり上手じゃないですね・・・(^_^;) 
 
補足すると、日本はまだ国内の貯蓄で政府債務がファイナンスされており、フローで見た経常収支も黒字(=国内貯蓄・投資バランスが貯蓄超過)、対外資産・負債もネット資産260兆円ほどですから、過去数世代を通じて積み上げて来た純資産が国全体ではあるわけです。
しかし財政がこのままのコースを辿れば、過去数世代にわたる蓄積の取り崩し局面に移行する。つまり国内貯蓄・投資バランスも貯蓄過小(=経常収支赤字)、対外資産の取り崩し、対外ネット負債に転じるのは、歴史的なタイムスパンで考えるとすぐ目先の未来です。赤字国債は「ねずみ講(ポンジ・スキーム)」というのは厳密に考えるとこの段階から始まると言うべきなのかもしれない。つまり対外的なファイナスに依存して消費を続ける局面ですね。PIIGSはそういう局面になってしまった。
 
そうした事態になってからなとかしようとしても、いろいろな面で手遅れで、欧州のPIIGSで今起こっているような国債の暴落と経済停滞が並存する窮地に陥ることを懸念しています。財政再建は急げば、景気を悪化させますから、長期的に時間をかけてゆっくりやって行くしかない。だからこそ、今から長期計画でとりかかるべきだと思います。
 
竹中正治HP
 
追記:
世代間の格差の問題は、「世代間会計(世代会計)」として研究成果が蓄積されています。
以下のサイトは、秋田大学の島澤諭さんという先生の紹介サイトです。
内容の妥当性については私は関知できませんが、最後の方に書いてある参考文献は役に立つでしょう。私は米国ではコトリコフ教授の講演と著書、また日本では吉田浩教授の論文に興味をひかれて読んだことがあります。

本日の日経ビジネスオンラインの國枝繁樹先生の掲題論考は、財政赤字・政府債務問題にご関心のある筋は、是非読んでおく価値がある。
 
私の記憶では10年ほど前にもリチャード・クー氏が、同氏の積極財政政策の正当化のためにラーナー流の「内国債(国内で発行される赤字国債)は将来世代の負担ではない」と主張して、財政学者の総批判を浴びていた。
 
学問の世界では決着がついた知見でも、世間には普及しておらず、ご都合主義で誤った俗論が再登場、横行するものだね。現代に蘇った天動説のようなものか。
 
まあ例えばアメリカには本気で創造説を信じ、アポロによる月面着陸を「でっちあげ」と信じている人達が沢山いるから、財政赤字問題に関する俗論の横行は、不思議でもなんでもないけど。もっともアメリカでは「財政赤字問題ない論」ではなく、「財政膨張は、なんでもかんでも反対論」という日本とは逆の極論がTEA Partyなどで草の根的な影響力を広げていることが興味深い。
 
もとより、不況は大震災などで景気が長期的な成長路線から下振れした時に、財政赤字を許容して景気刺激をすることに私は賛成である。ただしその時の赤字は、景気良好な局面での財政余剰で相殺されなくてはならない。そうでなければ、政府債務が累積し、将来に負担を先送りするポンジスキーム(ねずみ講)になってしまうからだ。ケインズだってそう考えていたはずだ。 
 
増税なんかしなくていいじゃないか、と考える国会議員さん方も是非、國枝先生の論考を読んで、熟考して欲しいものだ。万一、読んでも理解できない方がいたら、それは国政を担うだけの知能がないとしか思えないので、即刻辞表を出して頂くのが、日本のためだと思う。 

今週号のThe Economistは、ユーロ圏政府債務危機に関する以下の記事がカバー・ストリーになり、極めて強い危機感と対策の必要性を説いている。
 
How to save the euro
It requires urgent action on a huge scale. Unless Germany rises to the
challenge, disaster looms
 
まあ、危機感の強調度としては当然の状況だろう。
どうしたら良いかという点では、要約すると以下の通り。
***
ギリシャの政府債務は既に履行不能の状態にあるのだから、「払える」ような幻想を捨てて、債務削減を含む債務リストラに踏み切るしかない。一方、他の国の政府債務はそうした状態にはないので、その点をはっきりさせるべきだ。
 
問題は、ギリシャの債務リストラが、「ポルトガル、スペイン、イタリーも同様の事態になる」になるという連想で飛び火する延焼をいかに防ぐかである。 この点では断固たる態度でECBによる無制限の流動性供給や国債の買い支えをすることだ。市場の投資家を納得させるような厳格なストレステストを銀行に実施し、自己資本が足りなくなる可能性のある銀行に公的資本の注入も必要。
 
この処置はドイツを筆頭にユーロ圏諸国の巨額の財政コストを要し、政府債務はいったん一段と増加せざるを得ない。それでもこのまま事態の悪化を放置した場合のコストよりずっとましだろう。
より長期目標では財政ルールに関して財政主権まで踏み込んだユーロ圏の再構築が必要だが、それは目先の危機の爆発を回避した後の政策目標である。
 
一方、ギリシャのユーロ離脱という選択肢は、状況を一層悪化させる危険が高い。というのは、離脱を口にしたとたんに、ギリシャの金融機関から資金は一斉に海外に流出する。なぜなら価値が大幅に下落するギリシャ・ドラクマに戻る前にユーロのまま資金を海外に移そうとみんなが殺到するからだ。その結果、ギリシャの金融機関、金融システムは崩壊するだろう。しかもその危機が他国に飛び火する危険がある。
メルケル・ドイツ首相は、この事情を有権者に説得する政策的な決断をしなくてはならない。
***
やや粗い要約だが、ざっと、こんな内容。
一方、中国がイタリアなどに「ユーロ国債、こうたるさかい、見返りに対中国の武器輸出禁止などやめんかい(なぜか疑似大阪弁)」とアプローチしていると報道されている。中国らしい・・・・。
 
ユーロ圏全体では対外負債が膨張しているような危機ではない。つまり海外からの資金援助を必要とするような状況ではない。ユーロ圏の銀行のドル資金調達問題は、日米欧中銀のドルスワップでECBがドル資金供給することで対応できている。
 
要するに、ユーロ圏のPIIGS国債を断固として買い支えるかどうか、というECBと各国政府の決断の問題。それはユーロ・スタート時点では想定していなかった、あるいは自ら禁手にした手段ではあるが、決断すればできることに過ぎない。
 
だから中国なんかにつけ込まれずに、決断して欲しい。ユーロ圏が世界経済を道連れに崖から転落するかどうかの瀬戸際だと思う。でないと欧州末代までの失政として歴史に刻まれるぞ。
 
 
 
 
 

経済ビジネス雑誌の編集者と話していた時に、「金(ゴールド)は間違いなくバブル、いずれ破裂する」と言ったら、「じゃあそれで書いてください」と返され、金について書くはめになった。そこで多少は金について勉強しなきゃ・・・と思い、とりあえず一般にどんな本が世間で読まれているのかと思って買った本が「純金争奪時代」亀井幸一郎著、角川SSC新書、2010年
 
金については参考になった本であるが、「げっ!本気でそう考えているの?!」という個所に遭遇してしまった。
「超円安時代が来る。
ドルは海外にばらまかれているから、外国はドル売りをすることができる。例えば中国が保有しているアメリカ国債を売れば、そのことでドル安を招く。 それに対してそもそも海外に出ていない円は、売ることができない。もちろん仮に、ヘッジファンドが日本を標的にしたり、海外の有力格付け機関が日本国債を格下げしたりすれば、ある程度の円安にはなるが、それでも超円安にまでは至らない。」(p105)
 
この後、日本の政府債務がさらに膨らんで、国内では消化できなくなり、日本国債の海外販売が進めば、その結果、円が売られるようになり、超円安になる・・・という議論が展開されている。
 
おいおい、本気かよ~((+_+))
為替が専門の私だって金のことを書く時には多少は「金の専門家(のはず)」の本を読んでいるんだから、為替についても語る時には多少は勉強してから語って欲しい。
 
当ブログのリピーターの方々は、上記の記述が、いかに現実と異なる「トンデモ議論」か、わかりますよね。 万一「わからん」と思われた方は弊著書(以下HPに掲載)でお勉強ください。

報道されている通りだが、ユーロ圏がやばい、崖っぷちの感じ。
例えば本日のFT記事の一部
 
Eurozone woes hit global stocks
Meanwhile, the fall-out from the sudden resignation of Jürgen Stark, a European Central
Bank board member, continues to rumble on. A replacement has been named,
but Mr Stark’s departure has raised fears that policy disagreementshe was against the
ECB buying eurozone bonds – exemplify the political difficulties in reaching a consensus for tackling the bloc’s budget difficulties.
 
PIIGS諸国の政府債務問題が勃発した時からずうっと同じ問題でどうどうめぐりしている。PIIGS諸国の政府債務のデフォルト懸念→国債価格の下落→欧州の銀行の大損失、自己資本棄損→金融危機という構図。
 
一方、それを回避するための政策対応は面は、ドイツはこの危機に対してコストを負担したくない→ユーロ圏のコンセンサス不能という閉塞。
 
2008年9月にリーマンを破綻させてしまった時は米国政府が「なんで破綻させたんだ。ひどいことになったじゃないか」とずいぶんと責められたが、今度はユーロ圏が危機の引き金に指をかけてしまっている。
 
為替相場についてはユーロはまだまだ下がりそうな気がする。私はユーロ建て資産は一切持っていないが、ユーロ圏が世界経済を道連れに転落するのは困るなあ。
1ユーロ=100円割り込みありそうな感じ。欧州産のワインが安くなるのは、けっこうなんだが・・・・
 
竹中正治HP
 

本日掲載された(下)は小幡績教授の執筆だった。私の論考は円相場の長期・中期の読み解きが中心だったが、小幡さんの内容はミクロレベルの企業の対応に関する内容だから、編集としてはバランスのとれたものになった。
 
最後の部分で次のように書かれている。
「 最後に、資本市場の効率化が円高をプラスに変えるもう一つのカギとなる。蓄積した国内資本を国債という形で政府部門の非効率な投資、消費に回すのではなく、成長性の高い新興国や途上国に投資して、資本所得を増やし、国内の雇用所得の減少を補う。」
 
この点、100%賛成で、私も強調したい点なのだが、どうすればそういう方向に投資フローが変えることができるのか有効な政策手段がわからない。小幡さんは、書かれていないけど、アイデアあるのかな?
 
だから私は「円高をチャンスに変えるアニマル・スピリッツが求められている」と書いて締めくくったんだが、これでは「アニマル・スピリッツ様」にお祈りしているのと同じだ。
 
企業は自社の死活の問題だから、海外への投資を増やしているが、1500兆円の家計の金融資産は銀行や郵貯銀行を通じて赤字国債に流れ込むばかりで、付加価値を生み出すための未来への投資になっていない。((+_+))
 
それから1点、今日の日経記事で気になった点を指摘しておこう。
FTの記事の邦訳で、次のように書かれている。
「1つは適正価格から大きく乖離(かいり)しているスイスフランと違い、円は特別高いわけではないことだ。日銀の試算によれば、円は輸出競争力を示す「実質実効為替レート」では過去30年間の平均とほぼ一致する。このため現在の円の価値は、1995年初めに79円95銭に達した時点よりも3分の1ほど低いことになる。」
それはその通りなのだが、問題は実質実効相場を計算するデータにある。
現在公表されている日銀の実質実効為替レートは、各国の消費者物価指数で計算されている。しかし購買力平価(あるいは同じことだが為替相場の実質化)に適合する物価は、貿易財だから非貿易財の比率が高い消費者物価指数は妥当性が低い。
 
その点は日銀の担当者もよく承知で、以前は企業物価(あるいは生産者物価)を開示している国は企業物価で、そうでない国は(中国を含むほとんど途上国)は消費者物価で計算していた。ところがBISが消費者物価で実質実効指数の算出を統一するようになったので、日銀もそれにならってしまった。
その結果、日銀の実質実効相場は、輸出産業へのインパクトを考えると上で妥当性が低下した可能性がある。
というのは中国だって、消費者物価は前年比6%で上がっているが、輸出品はそれほど値段を上げずに、あるいは値段を下げている。だから企業にとっての円高の「体感温度」はやはり貿易財物価で評価しないとね。
 
 
 

本日8日の日本経済新聞朝刊「経済教室~超円高と日本経済」に私の論考が掲載されました。
(↑会員でないとサイトが開けない。その場合は以下のホームページにpdfはりました。↓)
 
円高の原因の読み解き、見通しは8月に日経ビジネスオンラインに掲載された論考と基本的に同じです。
ただし字数の制約で「円高対策論」は大幅に省略せざるを得ませんでした。
 
少し舞台裏を話すと、オリジナル原稿では「政府・日銀にはデフレ・円高を抑制する市場介入とリフレ(通貨増発)政策が求められる」でしたが、編集でなぜか「リフレ」の言葉が「金融緩和」に換えられています。「リフレというのは一般にわかり難い言葉ですから・・・」ということのようですがね・・・。
 
特集タイトルはにある「超円高」、これもひっかかるな・・・名目相場で見ているから「超円高」という表現が出てくるんだが、実質で見ないと意味がないと論考で解説しているわけです。実質では行き過ぎた円高ではあるものの、超がつくほどではない。 95年の80円の時が実質では「超円高」だった。
 
ただし、今回はエレクトロニクスや自動車で日本の輸出産業と競合性の強まっている韓国ウオンが大幅に下落していることが、個別事情として輸出産業の危機感を強めているのは確かだろう。
 
タイトルは編集者が作るので私の言葉ではないですが、メッセージはラストの文章です。
「行き過ぎた円高という本来あるべき相場水準からの乖離をチャンスに変える「アニマルスピリッツ」が日本人に求められている」
 
 モーター製造の世界制覇を目指す日本電産(京都本社)永守社長が、少し前のNHK TVインタビューでこう言っていました(記憶なので正確な再表現ではありません)。
「円高で大変だって? わが社はこの1年間、円高で(利益を)100億円失ったが、その代わりに海外の企業を100億円安く買収できた。」
「海外投資を増やすと国内が空洞化する?バカ言っちゃいかん。わが社は海外での買収と並行して国内の雇用も増えている。海外で買収すればするほど、国内での技術開発や海外事業管理のための人手が増える。そういうもんだ。」
 
アニマル・スピリッツを絵に書いたような社長さんです。
  
 
 

昨晩のスイス中銀の発表、既に各種報道でご覧だろう。
 
「スイス国立銀行(中央銀行)は6日、過去最高値圏に上昇したスイスフラン相場を押し下げるため、1ユーロ=1.2スイスフランの上限を設けてユーロ相場に連動させる異例の通貨政策を導入。上限以下に抑えるため無制限にスイスフラン売り・ユーロ買いの介入を実施するという。」9月7日、日本経済新聞 朝刊
 
日本では介入の権限は財務省にある。日銀は介入の執行機関である。野田政権・財務省にもこのぐらい断固とした姿勢を示すべきだろう。日銀が介入したら、放出した円資金は回収せずに非不胎化して多少でもリフレ効果を出すべきだ。
ドル円で77円台に少し円安に戻ったのも、「日本も思い切ったことをするかもしれない」との市場参加者の思惑、あるいは期待の結果だ。 なにもできないと、もっと円高にいっちゃうぞ~。
 

↑このページのトップヘ