たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2012年08月

共和党ミット・ロムニー候補の大統領候補への指名受諾演説、以下のサイトで全文が読める。
 
私が一番気になるのは雇用・景気対策なので、その部分を以下に引用しておこう。( )の和文は私のコメント。
*****
What America needs is jobs.
Lots of jobs.
And unlike the president, I have a plan to create 12 million new jobs. It has 5 steps.
(4年間で1200万人ということですね。でかく出ましたね)
 
First, by 2020, North America will be energy independent by taking full advantage of our oil
and coal and gas and nuclear and renewables.
(新エネルギー産業のために設備投資の助成をするのなら、雇用創出効果があるだろうが、それはオバマもやっていること(あまり成功していないけど・・・))
 
Second, we will give our fellow citizens the skills they need for the jobs of today and the
careers of tomorrow. When it comes to the school your child will attend, every parent
should have a choice, and every child should have a chance.
(具体的に何をしてくれるのかわからん。雇用について労働の供給の質と需要の間にミスマッチがあるのは事実だが、教育の強化でそれを改善するには長期的時間がかかるんだが・・・)
 
Third, we will make trade work for America by forging new trade agreements. And when nations
cheat in trade, there will be unmistakable consequences.
(貿易でずるをする国に対しては報復するということらしい。中国を念頭においてるよね?(^_^;))
 
Fourth, to assure every entrepreneur and every job creator that their investments in America
will not vanish as have those in Greece, we will cut the deficit and put America on track to
a balanced budget.
(アメリカに投資する者が消えてしまわないように財政赤字を削減するとのことだが、増税しないまま赤字を削減するなら歳出削減しかない。米国も長期的に財政再建が必要なことは異論がないが、それによる有効需要縮小の短期・中期の効果は間違いなく雇用縮小・景気抑制だ。その点どう考えているのか全く不明)
 
And fifth, we will champion SMALL businesses, America’s engine of job growth. That means
reducing taxes on business, not raising them. It means simplifying and modernizing the
regulations that hurt small business the most. And it means that we must rein in the
skyrocketing cost of healthcare by repealing and replacing Obamacare.
(法人に対して減税をするのはけっこうだが、4の財政赤字削減とどう両立するのか不明。規制緩和もけっこうだが、それだけで投資と雇用が十分に伸びるなら、政策的な苦労はない。)
 
私の結論としては、長期的に財政再建の計画は必要だが、事実上の逆累進課税と言える米国税制現状(ブッシュ減税のこと)を改善せずに(つまり日本とはケタ違いの富裕層への増税をせずに)財政赤字を短期・中期のタイムスパンで縮小させるなら、それは大幅な歳出削減しかない。その効果は間違いなく有効需要の削減による景気抑制・雇用減少という「ケインズ効果」であり、逆ケインズ効果ではない。
 
私は僅差でオバマ再選を予想しているが、ロムニーが大統領になれば、米国の景気回復のとん挫・景気後退は避けられないと思う。その必然的な結果は、2014年の中間選挙での共和党の大敗だろう。
 
竹中正治HP
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本日の日本経済新聞の1面「新卒ニート3万人」の記事は、大学生自身やその親、さらに私のような大学教育関係の人間にとっては気になる内容だ。こういう時は記事の元になった調査レポートを見るに限る。インターネットで検索すれば簡単に省庁のサイトからオリジナル・レポートが読めるので、なんとも便利な時代だ。
 
学校基本調査、平成24年度速報
 
一番気になる大学卒業生の分布データを以下に掲載しておこう(クリックすると大きくなります)。
2012年3月に大学を卒業した56万人の内訳は以下の通り。
大学院などへの進学者11.8%
正規の就職者60.0%
就職も進学もしていない15.5%
非正規雇用+一時的な仕事=7.4%
その他5.3%
 
就職も進学もしていない15.5%、86.6千人のうち、進学準備中が3.6千人、就職準備中(シュウカツ中)が49.4千人、その他が33.5千人で、この「その他」がニートとして認識されているわけだ。卒業生に占める比率では約6%。ニートという目標喪失・無気力状態の若者は少ないに越したことはないが、これが多いと見るか、どうか?
 
昔と違って生まれた子供の50%余りが大学に入学する時代だ。100人のうち6人が社会への適応努力を放棄している状態というのは、望ましいことではないが、私の大学での実感から言うと、違和感がない。救い難いほど無気力化している学生が、その程度存在しているからだ。 
 
まあ、それとこうしたニート層が増えているかどうかについては、時系列のデータが開示されていないのでわからないが、その母体となる「就職も進学もしていない層」の比率は2002年まで遡る限り、景気の波で多少伸び縮みしているが、傾向として増えてはいない。その層が一番多かったのは、ITバブル崩壊の世界不況の直後の2012年卒業年次であり、全体の21.7%(118.8千人)だった。
 
しかし学生諸君に対しては、進学と正規就職合計で72%に過ぎず(2012年)、つまり10人に3人は「不本意な状態」のまま卒業しているという事実を真剣に受け止めて欲しい。進学と正規就職合計の比率は過去10年で最も就職状況の良かった2008年卒業年次(リーマンショック前)でも82%だ。つまり10人に2人は不本意状態の卒業だった。
 
これについても私の実感を言えば、景気の善し悪し、就職環境の善し悪しと関わりなく、10人中2~3名程度は大卒として就職できるに足る状態に達していないということであり、残念ながらやはりこれも実感として違和感がない。
 
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やらなくてはならないことがわかっているのに、なぜこうも先延ばしばかりして、自滅する学生諸君が多いのか・・・・を考えていたら、この本に出会った。ちょっと古い本だが、優れ本だ。
 
「グズのひとにはわけがある」(It's About Time! The 6 Styles of Procrastination and How to
Overcome Them) リンダ・サパディン、ジャック・マガイヤー、文芸春秋、1998年(文庫本は2002年) リンダ・サバディンはアメリカNYの臨床心理学者, Procrastinationとは「やるべきことを先送りする」症候群=グズと訳されている。
 
この本の各タイプの記述を読むと、「いるいる、あの人、この人、これだあ~」と次々に脳裏に浮かぶ。
グズ=「先延ばし症候群」には以下の6類型ある。
診断方法、処方箋も書かれている。
ただし治すためには自己変革を決意する意思が必要、薬はない、あたりまえだけどね。

1「でも、完璧にしたい」完全主義タイプ
2「でも、あんな面倒なことをするのは嫌だ」夢想家タイプ
3「でも、本当に大丈夫か不安でたまらない」心配性タイプ
4「でも、なぜ私がしなければならないんだ」反抗者タイプ
5「でも、ギリギリまでやる気になれない」危険好きタイプ
6「でも、ほかにもすることが多過ぎて」抱え込みタイプ
 
治すための要点は、action & priorityと理解した。逆にaction & priorityのしっかりしている人は、グズ症候群には陥らない。優先順位を付けて、一定の期間で実現可能な目標を設定し、そのために作業する。成功したら、自分を誉め、成功しなかったら反省して、目標や作業内容を修正する。それを繰り返すことができるようになれば、治る。 
 
「努力してみよう」あるいは「努力してみます」なんて意識の状態ではダメのうち、「するか、しないかのどちらかだ」と言う。その通りだ。
 
またグズ症候群に陥る多くの人は、少年・少女期の家庭環境の影響が大きいと分析されている。
 
そこでマザーテレサの言葉を思い出した。
「考えること(思考)は大切です。
思考は言葉になります。
言葉は行動になります。
行動は習慣になります。
習慣は性格になります。
性格はあなたの運命になります。」
 
逆に言えば、思考と意識を変えれば、性格と運命も変えられる。
実にシンプルで、同時に難しいんだけどね。
 
ところで本書の診断法によると私には「グズ症状」はない。
中学2年生頃からだろうか、期末試験でも宿題でも、予定されていること、起こり得ることへの準備を早め早めにしないと気がすまない、安心できない性格になった。今でも引き受けた原稿は締め切りの数日前には完成して提出してしまう。引き受けた講演の資料も数日前には完成している。
 
とりわけつまらない仕事はさっさと効率的に片付けて、本当にやりたいことの時間を確保しようとする性分=習慣が身についている。なぜそうなったか? わからん・・・しかしそのおかげで今の自分があることは間違いない。
 
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戦後金融史の闇、信託銀行のファントラ

山崎元さんが、ダイヤモンドオンラインで日本のバブル期(1980年代後半~90年代初頭)の信託銀行のファンドトラスト(略称ファントラ)について書いているから、知らない若い世代はテイクノートしておこう。大学のアカデミズムの先生が書くような金融史には過去も未来もおそらくきちんとは書かれないことだろうからね(以下サイト)

http://diamond.jp/articles/-/23570

当時の金融業界では公然の秘密だったが、利回り保証も事後補填も禁止されていたはずの一任勘定の資金運用、ファントラで信託銀行は顧客企業に「利回りを約束した念書」すら差し出しながら、運用委託を契約し、さらにはそのバックファイナンス(運用委託企業への運用資金の融資)までしていた。
私は1985年から87年7月まで東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)の大阪支店の法人営業をしていたのでよく知っているが、関西系のS銀行などはメイン先の大手メーカーの金融子会社に固定利回りの融資と利回り保証のファントラの両建て取引で、バンバン残高を積み上げていた。結局、株式下落による利回り保証の破綻でこの金融子会社は立ち行かなくなった。これは極端な例ではなく、極めて一般的な事例だ。

顧客企業としては「間違いなく利鞘が稼げる契約」だったが、株式バブル崩壊で信託銀行は約束の利回りを実現できなくなっって損失が顕現化した。

損が生じた企業(商社やリース、ノンバンク、大手企業の金融子会社が多かった)が約束違反で訴訟に持ち込もうにも、そもそも「念書」自体が不法だから、法的訴求力がなく、「そんな不法運用をやっていたのか」と世間に糾弾されるだけだから、多くの場合訴訟にはならずに、損失は様々な形で償却された。

バブルは単なる金融緩和だけでは生じない。サブプライムのように、たいていグレーか、ファントラのように「黒」の取引の横行が併存するね。歴史は将来も形を変えて繰り返すよ。

引用:「信託銀行の「握り」や、その実現のための広範な顧客資産
間の損益の付け替え行為は、当時も違法であり、国会でも少しだけ問題にされかけたことがあるが、証券会社の損失補填ほど世間的には大きな問題にならなかった。

この問題を取材していたある金融ジャーナリストから、「信託の問題はまともに取り上げると問題が大きすぎるとして、当時の与党の大物政治家と金融監督当局がこの問題を大きく取り上げないと決めてもみ消した」と聞いたことがあるが、深層は藪の中だ。」
 
 
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7月から始めたロイターへの寄稿、8月の分が本日掲載されました。
 
「円高が迫る海外投資の発想転換、債券偏重は禁物」
 
まあ、今までも書いてきたことですがね。
ロイター社のサイトは図表の対応が制約があって、図表ひとつしか掲載できないので、補足のために日本の対外資産負債の内訳を以下に掲載しておきます。
 
対外負債サイドでほとんどゼロ金利に近い短期政府証券が増えている(海外投資家の保有)のは、資産負債のリターン格差が日本有利に拡大する要因となっていますが、対外資産の債券比重がやはり高過ぎますね。これでは米国のように資産負債のネットで長期的なキャピタル・ゲインを獲得できる構成になっていない。
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先日紹介したスティグリッツ教授と並ぶアメリカのリベラル派を代表する経済学者、ポールクルーグマンの
“End This Depression Now(さっさと不況を終わらせろ)”を読んだ。大学が夏休みに入って時間ができたので、今回は英文で読んだ。
 
日本語訳「さっさと不況を終わらせろ」(早川書房、2012年7月)
 
スティグリッツ教授のThe Price of Inequalityに比較すると、内容の要約がずっと簡単だ。要するに、不況下ではマクロの需給ギャップが需要不足、供給力超過になっているのだから、この需要不足が解消するまで財政赤字を拡大して政府の財政支出拡大による不況対策をすることが経済政策として正解であり、なんらためらうことはない。これに尽きる。
 
クルーグマンの著作で過去2度登場し、私も弊著「なぜ人は市場に踊らされるのか?」で引用させて頂いたベビーシッター協同組合の話も出てくる。ただし10年前までの論調とは異なり、中央銀行が政策金利をゼロにしても、マクロ的な需要不足を解消するに十分でないのだから、政府の財政支出拡大で対処するしかない、という点に政策主張の重心が移っている。
 
また、これも以前紹介したハイマン・ミンスキーの金融不安定性原理を紹介し、資本主義経済が内在しているバブル形成と崩壊を繰り返す内在的な不安定性を問題にしている。クルーグマンによるとミンスキーはメイン・ストリームの経済学者ではない傍流的な存在で、生前は十分評価されたとは言い難いが、今次の金融危機と不況を経て、ミンスキーの著作を読む経済学者が増え、自分ももっと早く彼の著作を読んでおけばよかったと後悔しているひとりだとのことだ。
 
「金融不安定性の経済学」邦訳 多賀出版 1989年
 
私もミンスキーのこの古い本を買って読んだのは昨年から今年にかけてだ。好況下で経済主体のファイナシャル・レバレッジが次第に拡大し、それが資産価格の上昇をもたらし、最終局面でバブルとなる。しかし実体経済から合理化できる範囲をはるかに超えた資産価格の無限の高騰は不可能だから、どこかで価格下落に転じる。それが「ミンスキー・モメント」だ。
 
そうなると、それまでの過程と全てが逆に回転し始める。投資家は資産の売りを急ぎ、レバレッジを低下させようとし、それがますます資産価格の急落を引き起こし、返済不能債務の山が生まれる・・・・
 
今からこう言えば常識的なバブルとその崩壊の叙述に過ぎないが、ミンスキーは80年代にそうした経済・金融観を理論化していたという点で先見性がある。
 
クルーグマンの主張に戻ると、ちょうど10年ほど前に、野村証券のチーフエコノミストだった植草氏(のぞきスキャンダルで大失態を演じた方)やリチャード・クー氏が、徹底的な財政支出拡大による不況脱出、成長軌道への回復を唱えていたことを想起させる。これに対して、日本では「構造改革」の主張が対峙したしたわけだね。
 
クルーグマンと保守経済学者の対立点は、極めて単純だ。保守派が完全雇用が実現されるはず(あくまでも「はず」)の長期のタイムスパンを想定して、財政による景気刺激の無効性を説くのに対して、クルーグマンは完全雇用が実現されていない(すなわち需要不足・供給力超過が存在する)短期・中期のタイムスパンで財政による景気刺激の有効性を説いている。
 
これって1930年代のケインズの「一般理論」が書かれた当時の対立軸と全く同じだ。クルーグマンに言わせれば、経済学は1970年代以降、保守派(新古典派、彼は「真水学派」と言っている)の反動革命で先祖返りしていたということだろう。
 
累積する政府債務は問題じゃないの?
短期・中期のタイムスパンで、財政支出の拡大に景気回復効果があることは、私にとっても異論のないところだ。しかしその結果、累積してゆく政府債務は問題ではないのだろうか?もちろんクルーグマンもそれが問題ないと言っているわけじゃない。
 
引用:「そうだとしても、将来に残してしまう政府債務について心配しなくて良いのだろうか?答えは、はっきりと『心配すべき問題である。しかし・・・』だ。私達が今積み上げている政府債務は、私達が金融危機の後で対処しなくてはならないものであり、将来の負担となる。しかしこの負担は財政緊縮論者が言うよりもずっと軽い。(p141)」(訳:竹中正治)
 
なぜ軽くて済むかと言うと、財政政策を契機に名目での経済成長率が回復し、それが長期に持続することで、名目GDPに占める政府債務比率は、いったんは上昇しても、再び低下することが見込まれるからだという。ここでクルーグマンが紹介しているのは、いわゆる財政学でいうドーマーの定理で、名目成長率が政府債務の金利を上回れば、名目GDPに対する政府債務比率が低下する効果を言っている。(もっとも国債金利の方が名目成長率より低くなる保証はないはずだが・・・)
 
実際、そうしたことが生じた事例として、第2次大戦中の軍需拡大で景気、雇用が」回復する一方で政府債務のGDP比率も100%を超えたが、戦後には大不況に陥ることなく、50年代~60年代に良好な経済成長が続き、政府債務比率も低下したことをあげている。つまり、政府の財政支出の拡大で十分に景気が回復した後は、政府の需要から民間の需要へのバトンタッチが行なわれ、経済は成長軌道を続けることができるという主張だ。
 
クルーグマン教授の主張の弱点
しかしこの点で、クルーグマンの主張は楽観的過ぎるかもしれないという弱点を見せていると思う。日本の経験では、90年代からたび重なる財政による景気刺激を繰り返してきたが、政府債務がGDPの200%まで膨張しても、民間需要の自律的な拡大で安定的に2%程度の経済成長が実現できない状態が問題になってきたのだ。
 
戦中から戦後への移行期の米国の事例は、たしかにひとつの事実ではあるが、米国経済の今ある条件が当時と同じである保証はない、というか、米国の人口動態、技術的面での相対的な優位性など、どう見てもかなり違っている。とりわけわかりやすい人口動態は、戦後のベビーブームの環境から、ブーマー世代の引退へと様変わりしている。
 
やはり短期・中期の時間軸で財政による景気刺激策を行なうと同時に、長期的に財政不均衡をバランスさせるプランが必要だ。そうでないと、将来世代は累積した負の遺産によって成長力をそがれるだろう。
 
現在の財政赤字が循環的な要因によるものだけでなく、構造的な歳出・歳入不均衡によるものである場合、これは必然的に将来の増税か歳出削減、あるいはその双方になる。
 
さらに長期的な経済成長を実現する教育から各種イノベーション、規制改革などの総合政策が必要なんだと思う。クルーグマンも、財政による景気刺激だけで良い。そういうことは不要だ、と言っているわけではない。ただしそうした政策の全体像の提示があるという意味で、ここでは前回紹介したスティグリッツ教授の著作により高評価を上げておこう。
 
 
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前回ビル・グロス氏の論考に関連して、長期で見ると名目GDP成長率と一国の株式時価総額(あるいは主要企業について時価総額を加重平均で指数化した代表的な株価指数として米国のS&P500)の変化率の間には、資本・労働分配率が長期で一定である限り、安定的な関係があることをとり上げた。
 
実際グラフに双方の成長率を取ると、その長期近似線はおどろくほどパラレルだった。その前提となる労働・資本分配率は、どう変化しているか、株価とどういう関係があるか、と言う趣旨のご質問をfacebookで頂いた。
 
労働(あるいは資本)分配率は、マクロデータで見るか、企業法人統計などのミクロデータで見るかで違ってくるが、ここではSNAデータのGDI(Gross Domestic Income)に占める支払い給与の比率で労働分配率をとった。下に掲載した上段の図の黄色線がそれだ。
 
米国の労働分配率は55~60%で比較的安定しているが、労働分配率が上昇した(資本分配率が低下した)1970年代には株価成長率は低い。労働分配率が低下した90年代半ばから後半は株価上昇率は高くなっている(ITブーム期)。
 
日本では株価と名目GDP成長率の関係はどうか?それが2番目の図だ。1956年からとると、TOPIX(年間平均)の対前年比変化率と名目成長率の2つの近似線は、なんとピタリと重なってしまった。
しかも米国に比べると右下がりの傾斜が強く、2000年代では近似線はマイナス域に入ってしまっている。
日本の株価の低迷は名目GDP成長率の低下によるものだ、つまりデフレの結果だと言うことを示しているようだね。
 
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PIMCOのBill Gross氏の株式投資について長期悲観論がちょっと市場で話題になっている。以下サイト
 
Cult Figuresと題されたこの評論で、長期株式投資に関する代表的な論者のSiegel氏の言説「米国の株式市場は1912年からの実質平均リターンで年率6.6%を上げている」を引き合いに出し、これからの時代はそんな高いリターンなんか望めない、そんな株式投資の高リターンを将来にわたっても信じているのはカルト信仰のようなもんだとケンカを売った。
 
これに対するSigel氏の反論もあるようだが、ここではGrossの論理を検証しておこう。Grossの議論は単純で以下に要約される。
 
①株式市場の時価総額の伸び率は、資本・労働分配率が一定ならば長期的には名目GDP成長率と一致する。
②株式の総合リターン=無リスク(政府)債券利回り+リスクプレミアム、である。
③今後の債券利回りは2%程度を想定すると、株式のリターンは4%程度であろう。
④これはインフレ率(3%程度を想定しているようだ)を差し引くと実質ゼロに近いリターンである。
 
Together then, a presumed 2% return for bonds and an historically low percentage
nominal return for stocks – call it 4%, when combined in a diversified portfolio produce
a nominal return of 3% and an expected inflation adjusted return near zero. The Siegel
constant of 6.6% real appreciation, therefore, is an historical freak, a mutation
likely never to be seen again as far as we mortals are concerned
 
①②の点は原理的に異論の余地がない。また名目GDP成長率と株式市場の時価総額の変化率の間に長期では安定的な関係が観測されることは実際に検証できる。今回自分でやってみて長期では驚くほどの安定的な関係があることがあることが分かった。
 
図表は米国S&P500の年平均変化率と名目GDPの成長率を重ねたものだ。1950年-2011年の期間で、S&P500の平均変化率は年率8.1%、名目GDP成長理率は6.7%である。この期間のS&P500の平均配当利回りは3%程度であるから、株式の総合リターンは11.1%となる。
 
ちょっと驚いたのは、S&P500の変化率と名目GDP成長率のそれぞれの近似線を描くとぴたりと並行していることだ(図中の青と赤の直線)。短期では両者の乖離は大きく、相関関係も低いが、長期の趨勢的な変化はぴたりとパラレルになる。
 
図中の黄色い線は10年物国債利回りで、見難くなるので近似線は書いていないが、やはり他の2つの近似線パラレルになる(データは62年から)。
19622011年で期間をそろえると以下の通り。
 
名目GDP成長率6.9
10年物国債利回り6.7
S&P500変化率7.0%(除く配当利回り3%前後)
 
については予想次第でなんとでもなる。10年物国債利回りは現在1.6%であるが、戦後最大の金融危機と景気後退からの「穏やか過ぎる」景気回復過程で、FRBが超金融緩和をしている状態が今後10年も続くと考えるのは無理があるだろう。Gross氏の長期国債利回りの想定2%は低すぎないか?
 
私は10年物国債利回りは長期的には35%程度のレンジに戻ると思う。仮に趨勢的な水準を4%として、リスクプレミアムは過去平均3%程度だが、Gross氏と同様に2%と想定するとS&P500をベースにした株式の名目総合リターンは6%となる。
 
インフレ率(消費者物価)の今後の水準も想定次第だが、低インフレが持続するなら、2.02.5%程度だろう。そうすると株式の実質総合リターンはインフレ率をひいて3.54.0%程度、リスクプレミアムが3%なら、4.55.0%程度の見込みになる。
 
これは1912年からの約100年、世界の超大国米国の勃興、成長期の実績(Siegel6.6%)には及ばないが、悲観するような水準ではなかろう。
 
以上総括して言うと、Gross氏の論考はロジックは常識的なものだが、想定次第でなんとでもなる変数をやや悲観めに設定することで、悲観バイアスの結論を提示し、長期の株式投資信条に対してケンカを売ってみた、あるいは揶揄してみた、という程度のものだ。
 
追記:(2012年8月12日)
ビルグロス氏は2011年6月には財政赤字の拡大やFRBの量的緩和を背景に、長期債券利回りは近い将来急上昇すると予想していた(大外れしたが)。その当人が長期にわたって債券利回りの低位安定を前提にそれにリスクプレミアム(2%)を乗せて株式リターンを低めに予想するというのは、つじつまが合わないね。
もっとも「2011年当時の自分の予想は間違っていました」ということなら、その点も本文のなかでふれておいて欲しいものだ。
 
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