たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2012年12月

とんでもない本だ・・・海千山千の経験を積んだベンチャーキャピタリストが、米国から輸入されたこざかしい経営学の諸説など一度投げ捨てて、ビジネス的な「野生の本能」に戻れと挑発する。
(アマゾンサイト↑ 例によってレビュー書いています。よろしければ「参考になった」くりっくお願い)

この本を読んで何かビジネス上の問題を解決する知恵が得られる期待してはいけない。著者はマッキンゼーのコンサルタントだったにもかかわらず、ぬけぬけと言い放つ。「問題解決は得意ではない。私が得意なのは課題創造である。」 こらあ!金返せ(^_^;)

著者の言う「もう終わっている会社」とは次のような会社だ。
1、コア事業にすべての経営資源を投下している。
2、中期経営計画をしっかりつくる。
3、「お客様の声を聞け!」と必死になる。
4、新規事業などを大まじめに検討する。
5、あいまいさを許さない内部統制とコンプライナンスに一生懸命になる。

どこの会社も一生懸命やっていることじゃないか・・・(゜o゜)

一番にやり玉にあげるのは、日本の会社が90年代以降一生懸命やってきた「集中と選択」だ。
「どうしてそれがいけないの?日本の企業は集中と選択が足りないって、経営コンサルタントも経営学者も、みんな言ってきたじゃない」

米国では結果的に不確実で不連続な未来に賭けるような集中と選択が行なわれた(失敗も多かったろうが)のに、日本では「従前の国内の成熟事業や変革のない安定した市場にやみくもに押し戻すこと」が「集中と選択」の名の下に行なわれてきたからだと言う。

その結果は、イノベーションの枯渇だ。
だいたい世の中のイノベーションの芽は、早期の段階では誰もその可能性信じていないようなものだ。ところが組織の中の異端児が(場合によっては社長が)、クレジーな情熱を注いで実現したようなことばかりじゃないのかという。成功した後でそれをふり返ると、過去が美化されて狙いすました「英断」となっている語られるのだろう。

そうした芽を「集中と選択」で摘んでしまっては、イノベーションは枯渇し、会社は面白くも楽しくもなくなる。「未来の不確実性に挑戦する人間の原始的能力こそ会社の利益の源泉」なのに、それが枯れる。キャノンの御手洗社長は、「その事業はいかがわしいか?いかがわしいなら、やれ!」と言ったそうだ。なんて非論理的で直感的な名言じゃあないか、と著者は共感する。

イノベーションはそのマグニチュードが大きいほど、既存事業や産業に対して破壊的なものになる。そんなものが、組織や産業のメインストリームから生まれるはずがないだろう。「すてるものがない、守るものがないベンチャーや、誰にも侵されることのない辺境や周辺から」イノベーションは生まれるのだという。だからベンチャーを育てよう。組織の中にベンチャー的な挑戦を許す多様性を大事にしようと語る。

そのためには覚醒した(あるいは、気のふれた?)個人が横、縦、斜めに連携して、ゲリラ的に創造的な破壊活動を展開しようというのが著者の遠吠えメッセージだ。

もう一度言う。
とんでもない本だ・・・・そして読みながらこんなワクワクしたビジネス書ははじめてだ!
 
竹中正治HP
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民主党の敗因を考える2つの対極的な論考を掲載しておこう。
 
1つめは元朝日新聞編集委員の山田厚史という方の論考だ。
「中道左派=リベルラ退潮の理由」
引用:「自民圧勝の総選挙は「中道左派=リベラル」の退潮を印象付けた。米国でオバマ大統領を支えたのはリベラルであり、フランスのオランド大統領は社会党だ。格差を生み出すグローバル市場主義に平等志向で対峙する中道左派はなぜ日本で支持を得られないのか。
 
格差を生み出すグローバル市場主義に平等志向で対峙する中道左派はなぜ日本で支持を得られないのか。

答えは明白だ。旧左翼と市民運動の間に「深い溝」がある。越えようとする覚悟がない。組織防衛が先に立ち「妥協」を拒む。負け癖がついて敗北に危機感が伴わない。

リベラルはグローバリズムの反作用であるナショナリズムに押され気味だ。不況への苛立ちから拝外主義や強い政府を求める空気は欧米でも起きている。尖閣・竹島・北のミサイルなど近隣の不愉快な動きが右の追い風になり、中道左派は結束できないまま自民党の独走を許した。」
*****
 
「なぜ私たちは負けているの?」との自問、この方の主張には私は賛同しないが、なぜ?の問いについては、私にとって「答えは明白だ。」
私はアメリカでのリベラリズムには共感する点が多い。しかし日本の「リベラリズム」には共感できない。そもそも内容が違うのだ。
違いはいろいろあるが、最大の違いは一言でいうとgovernance 能力だ。
ガバナンス能力と意識がないから、すべて主張は「アンチ」になってしまう。
米国のリベラルと日本のそれの違いとして、NAFTA(北米自由貿易協定)を実現したのは民主党のクリントン政権だったことをあげておこうか。
この山田さんという方、そんなことも知らないで書いているのかな・・・・さすが元朝日新聞(-_-;)だあ。
こんなドはずれな教訓を抽出している限りは日本で「中道左派」の復権はないだろうな。
 
2つめは竹中治堅さんという名前が私と一字違いの政策研究大学院大学の教授の論考だ。
「民主党代表選で問われるもの:総選挙敗北の教訓」
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakaharukata/20121222-00022807/
 
引用:「下記の政策をご覧頂きたい。この政策がどの政党のものかわかるであろうか?
財政
国家財政に企業会計的視点を導入し、実態を国民にわかりやすく示す。行政改革・経済構造改革を進め、国・地方をあわせた財政赤字について、2010年まで の明確な削減・抑制の数値目標を設定する。
経済情勢に柔軟に対応し、持続可能な経済成長と財政再建を両立させる。赤字国債・建設国債の区分をなくし、限られた資金を政策的に必要な分野に回せるように改革する。

経済
自己責任と自由意思を前提とした市場原理を貫徹することにより、経済構造改革を行う。これにより、3%程度の持続可能な経済成長をめざす。

規制改革
規制改革を長期的経済発展の基本と位置づけ、経済的規制は原則廃止する。環境保全や消費者・勤労者保護などのための社会的規制は透明化や明確化を進める。

この政策には構造改革という文字が並ぶ。財政の再建目標が2010年ということがなければ、みんなの党、あるいは日本維新の会のものかと見紛うような政策である。

これは民主党が現在もその基本政策として掲げるものである。1998年4月に民主党が新党友愛や民政党などと合併した際に策定された。今も民主党のホームページに「民主党基本情報」として載っている。」
*****

こちらの論考には共感する点が多い。
たしかに2000年代前半頃までは民主党は自民党と「改革を競い合う」スタンスだった。それがその後、小沢の主導で変質したのが、今回の敗北の遠因との結論だ。

ただし結論の部分については私はちょっとだけ違う意見だ。民主党にはそもそも党として統一した政策原理なんか持っていなかった。 時代の雰囲気に合わせてふらふらと漂流してきた。

政策原理なんかなかったので、その過程で右から左まで吸収して大きくなることができた。ただし野党の時はそれで良かったが、政権を担うようになったとたんに、その矛盾が吹き出し、ガバナンス能力の欠落を露呈してしまった。そういうことではないか(-_-;)

もっとも政策を軸に政党が組織されていないというのは自民党にも言えることで、日本の政党のあり方の最大の問題だと思う。
 
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「11月に「生保、株から国債にシフト、大丈夫か」の続き情報として本日12月23日の日経新聞の記事を記録のために掲載しておこう。
 
引用:
株を買えない生保 安全を優先、成長に足かせ 第4部 行政の死角(1)
2012/12/23ニュースソース 日本経済新聞 朝刊 
「最近5週間で、外国人は日本株を1兆1300億円買い越した。ところが、保険会社の1200億円を筆頭に日本勢は売り越した。
保有リスク2倍
 「本来生保が買う時期だろうと言われると、じくじたる思いがある」。日本生命保険社長の筒井義信は「規制のせいにしたくはないが、株式を持つこと自体がリスクと見られている」と語る。
 ソルベンシーマージン比率と呼ばれる生保の健全性指標。07年4月に金融庁が算出基準を厳格化する方針を打ち出したのが生保が株式売却を本格化するきっかけだった。株式のリスク量が従来の2倍に引き上げられ、同程度の比率を保つには株式を半減しなければならなくなった。直近の生保全体の株式保有額は約13兆円と、07年3月末の約32兆円の半分以下に減った。
 さらに、欧州連合(EU)は負債に時価会計を導入する「ソルベンシー2」と呼ぶ一段と厳しい規制導入を検討。日本の金融庁も、国際的な流れを踏まえて規制を見直すと表明している。 生保が株式圧縮を続けるのは、さらなる規制強化に備えざるを得ないからだ。」
***
2008年のリーマンショック後の株価暴落は世界的だが、その後、米国株、欧州株などが回復する状況下、日本の株だけ回復が大幅に立ち遅れ、企業収益比ひどく割安な状況にあったことのひとつの要因が生保のソルベンシーマージン対策の株売りだったと考えて良いだろうか。
おそらく要因のひとつだが、それだけでは説明できまい。ソルベンシーマージン比率の変更は記事にも書かれている通り、日本だけでなく世界的な変化だからだ。にも関わらず、米国、また米国株よりは低い程度で欧州株も回復しているが、日本の株式の回復の遅れは突出していた。
問題は日本では生保以外に中長期のリスク資産の引き受け手が少ないことと関係しているかもしれない。 日本株回復大幅出遅れの考えられる要因を列挙すると以下の通り。
1、生保のソルベンシーマージン対策の株売り圧力
2、円高による日本製造業への悲観
3、デフレ基調の継続
4、2011年3月の大震災
以上の通りと考えると、1と4の影響は終了した。2と3の影響はとりあえず終わりつつあると考えるならば、来年2013年の日本株の回復は意外と力強いかもしれない、という予想が可能になる。
もっともその条件として、世界経済の回復継続、現在の日本のミニリセッションが文字通りミニ(短期)で終了することが前提になる。その可能性は低くない気がする。
りそな国有化を契機に海外投資家中心に日本株に対する姿勢がネガティブからポジティブに転換した2003年春過ぎから2005年にかけた株価回復の展開と類似した展開を期待したくなるが・・・・
というわけで、ちょっとワクワクしながら越年できるかな(^^)v
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毎月恒例となったロイター社への寄稿です。
よろしければ「おすすめ」をクリック、お願い致します。以下一部引用。
 
引用:「米国の10年物国債の利回りが1.6―1.8%程度と歴史的な低位水準にある。このことを米国経済の「日本化(長期低成長化)」の兆候と感じている方もいるようだが、とんでもない勘違いだ。
最大の違いは、インフレ率の相違が生み出す実質金利の違いだ。・・・・
 
今の長期債券市場は最後まで走り続ければ(=保有し続ければ)、崖から転落するチキンレースの局面に入ったのだ。金融機関の債券ディーラーがレースから抜けるのが早過ぎれば、その後の利鞘を失う。最後まで走り続ければ、崖から転落する(=債券価格の急落で損失する)。典型的なバブル局面がすでに始まっている。
 
米国の債券バブルが崩壊する時に、もし日本で安倍政権の下でデフレからインフレへの転換が起こっていれば、日本の国債価格の急落も重なる可能性が高い。インフレ率1―2%の下で利回り1%を割り込んだ長期国債を日本の投資家が保有し続けるはずはないからだ。」
 
 
追記:本日12月23日の日経新聞が1987年の債券急落「タテホショック」について書いているので、記録のために一部引用しておこうか。
引用:(32)債券バブル崩壊(1987年) タテホの教訓 小さな暴走 市場震わす
2012/12/23付 日本経済新聞 朝刊
 「市場の記憶に深く刻まれた急落がある。株式市場では1987年10月に世界同時に株安が進んだブラックマンデー(暗黒の月曜日)。債券市場ならば同年9月のタテホ・ショックだ。
 
突然の損失発表
 1000億円規模の債券の財テクに失敗、200億円の損失発生で債務超過に――。売上高60億円弱の企業が突然、こんな会見をすれば、市場がパニックに陥るのは当然だ。財テクの舞台となった債券市場で投げ売りが膨らみ、先物中心限月12月物が1日で1円71銭安と急落した。
 「ちょっと様子がおかしい」。野村証券の取締役公社債部長だった斉藤惇(現東京証券取引所グループ社長)は、タテホの発表を受けた売り注文を前に、従来の下げと異なる感じを抱いた。実際、相場の下落は東京からロンドン、ニューヨークへと連鎖していく。財テクの全盛だったこともあり「第二のタテホ」を探す市場は、疑心暗鬼に陥っていた。
 その頃、タテホ本社も経験したことのない騒々しさに包まれた。報道各社のヘリコプター、相場下落に怒る投資家、見物人。「これは自分が勤めてきたのと同じ会社か」。タテホの研究開発部長だった湊哲則(62)は、人だかりを前に言葉を失った。
 研究畑の湊は、自社の財務担当役員の暴走を知らなかった。会社の余資がつぎ込まれていた債券先物の取引は、日本ではまだ2年足らずの歴史しかなかった。企業財テクの手段として一般的になりつつあった株式に比べ、社内の注目を集めにくかった。
 
 そうしたタテホの運用の失敗が債券急落のきっかけになったと記憶する市場関係者が、今は多い。だが、国債指標銘柄だった89回債の利回りは87年初めから低下して2%台をつけた後、5月に反転。10月までには6%台に乗せた。9月初めのタテホ・ショックは債券相場の急落(金利の急上昇)を加速させたが、その最初の原因ではなかった。
 
 それでは、なぜ5月から債券相場が崩れたのか。
 当時の債券取引は、一握りの金融機関が短期間に激しく売買を繰り返すディーリングが主流。銀行が証券会社に挑むように売買をしかけ、国債の取引が過熱する様子は「狂乱」とも評された。
 そんな日本の債券相場が、海外勢には持続不可能なバブルと映っていた。
 

海外からの警告
 「You should sell」(売りなさい)。87年4月、JPモルガンで債券を売買していた藤巻健史(現フジマキ・ジャパン代表)は米本社の命令に渋々、従った。直後から金利は上昇したのだから、外国人は債券バブルの崩壊を的確に見通していたことになる。
 国債の購入から受け渡しまでの決済期間を短くする構想が急浮上したことも、売り材料になった。決済が短縮されれば、自由にディーリングを続ける期間も短くなるとの懸念が強まったからだ。
 地方のタテホに外国人の動向や決済短縮といった、細かな事情は伝わらなかった。取引を控えるよう指示する指南役もいなかった。結果として同社は債券バブルの崩壊を早める役割を果たした。
 
 この時代の債券取引を経験した人たちは、若い世代に「タテホ・ショックを忘れるな」と説く。何かのはずみで売りが加速すれば金利は短期間に2%から6%に急上昇する。そんな極端な動きをすることが債券にはある、と。」
 ****
 
2013年7月20日追記:かくして債券チキンレース第1ラウンドは終了
以下は7月18日(2013年)のロイター記事です。
 
引用:「ロイターが大手債券ファンドマネージャーの一部に取材したところでは、FRBの姿勢を読み誤ったことや、想定外だった債券売りのスピード、またあるケースでは何年も相場上昇が続いて自信過剰に陥っていたことが、すさまじいしっぺ返しをもたらし、米10年国債利回りは5月初めの1.63%から7月8日には2.75%まで跳ね上がった。
マネジャーの中には、長らく続いてきた相場上昇の最終局面までリターンを搾り取ろうとして同じ投資を引っ張りすぎた向きがあった。」
 
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「ファスト&スロー(Fast and Slow)」ダニエル・カーネマン、早川書房、2012年11月
(↑アマゾンサイトにとびます。レビュー、よろしければ「参考になった」クリックお願いします)
 
著者ダニエル・カーネマンは、人間の意思決定論を専門にする認知心理学者だが、プロスペクト理論の創始者であり、行動経済学の先駆者&代表的な学者としてノーベル経済学賞を受賞している。

上下2冊、本文合計で500ページはちょっと歯応えがあるかもしれないが、本書を読めば、近年流行の行動経済学の様々な入門書に登場する代表的な心理実験例などのほとんどが、著者並びに著者と関わりの深い研究者によって行われたものであることを知るだろう。

私にとって本書の新しさは、合理性から乖離する人間の行動を、2つの異なる仮想的なキャラクターを人間の中に想定することで解き明かすアプローチだ。
すなわち、速い思考をする直感的なシステム1と、遅い思考をする熟考・分析型のシステム2、この2つがまるで漫才のコンビのようにボケとツッコミのやりとりを繰り返し、頭の中でせめぎ合う結果としてヒューリスティックな現象を説明している。

また金融投資行動で合理的な選択をするためには、システム2の訓練が欠かせないことを強く感じさせる。システム2が訓練で強化された人は、システム1にほとんど依存している人に対して、決定的な優位に立てるということだ。 例えば不況時に安い価格で叩き売られる資産を買う投資家行動が、しばしば世間の情緒的な反発をかうのは、もしかしたら、そうした行動ができないシステム1型人間の2型人間に対する恨みなのかもしれない。
 
行動経済学をこれから学ぶ方、また既に何冊かの一般書で勉強済の方、双方に薦められる内容だと思う。
 
追記:12月17日
大竹教授がJCERのサイトで以下のように語っている。まことにその通りだと思う。
引用:
「客観的にみれば、日本の財政は、人々がいつ財政破綻の可能性を信じ始めて、破綻状態に陥ってもおかしくない状態にある。それにも関わらず、私たちは、債務返済にまじめに取り組もうとしないのはどうしてだろうか。これは、行動経済学で知られている損失回避で説明できるように思う。損失回避とは、損失による価値の減少を、利得による価値の上昇よりも、人々は非常に大きく感じることを言う。

そのため、人々は次のような行動をとってしまう。少しの損失を確実に被る選択肢と、現状を維持できる可能性もあるけれど大きな損失を被る可能性もあるという選択肢に直面した人を考えよう。多くの人は、確実に損失を被るという選択肢を避けて、現状を維持できる可能性があるギャンブルに賭けてしまうのだ。」
 
竹中正治HP
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本日の日経新聞に日本のバブル末期との類似性を感じさせる記事が載っているので、記録のために一部引用掲載しておこう。
 
中国地方政府、危うい調達、金融商品で個人から資金、銀行融資を超す規模、投資家に返済されぬリスク
 
【上海=土居倫之】中国の地方政府が信託や債券など銀行を経由しない資金調達を急増させている状況が鮮明になってきた。成長鈍化の局面で不良債権化を恐れる銀行が融資に消極姿勢を強め、高速道路や区画整理などインフラ事業のための借り入れは困難。このため信託などを通じ、相対的にリスク意識が低い個人からの資金で財源確保を狙う。だが事業採算が悪化すれば投資資金が返済されない可能性もある危うい手法で、規制強化論が浮上している。
 
中国人民銀行(中央銀行)は積極的な金融緩和に踏み切ったものの、中国政府は一部を除き、地方政府に銀行などからの資金借り入れを禁じる。地方の資金調達は傘下の地方融資平台(資金調達のためのプラットフォーム会社)と呼ばれる企業が代行する場合が多いが、銀行はリーマン・ショック後の4兆元景気対策で膨張した地方融資平台の負債を警戒する。
 
 免許制度を通じて当局が厳しく監督する銀行より規制が緩く、当局がリスクを把握し切れない点も課題。「中国のシャドーバンキングは金融システム危機の原因になり得る」(中国銀行の肖鋼董事長)、「監督を強化していく」(中国銀行業監督管理委員会の尚福林主席)などという声も出ている。
 
英米格付け会社フィッチ・レーティングスは5日、こうした金融商品の残高が2012年末で13兆元と中国の預金残高の16%に達するとのリポートを発表。「中国の金融システムのリスクが高まっている」と警告した。
***
 
日本も80年代後半から90年代初頭の不動産バブルの末期に、当時大蔵省が不動産の高騰を抑制するために銀行に不動産関連融資の総量規制を1990年3月に発動した。内容は次の2点だ。
  1. 不動産向け融資の伸び率を総貸出の伸び率以下に抑える(総量規制)
  2. 不動産業、建設業、ノンバンク(住専含む)に対する融資の実態報告を求める(三業種規制)
ところが、農林系金融機関と住宅金融専門会社を規制の対象としていないという抜け道を残してしまった。農林系が対象にならなかったのは、農林系は管轄が大蔵省ではなく、農水省だったためかもしれない。 
 
また、住専は資金調達を銀行からの借入に依存していた。そのため住専は不動産融資を拡大できても、その資金を銀行は融資できなくなった。そこで銀行は農林系金融機関に住専に金を貸すように工作したわけだ。その結果、莫大な資金が農林系→住専→不動産投機に流れ、バブル末期の最後の狂宴をやったわけだね。
 
91年をピークにした不動産バブル崩壊とともに住専の融資は回収不能となり、住専を破綻させれば、農林系金融機関に莫大な損失が生じることになった。その結果、住専の母体銀行で全部損失をかぶれと主張する農林系と、それを拒む母体銀行の政治家を動員した一大バトルになった。
 
2000年代の米国の住宅ローン証券化バブルもそうだが、政府は銀行を管理監督しても、抜け穴をみつけて「バブルへGo!」という現象が、バブル末期のクライマックスに登場するようだ。
 
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ゼロ金利下の量的金融緩和でデフレからマイルド・インフレに転換できるか?
この点は、経済学者、エコノミストも意見が分かれるが、要するに、企業、家計、投資家の期待を金融政策でデフレ期待からインフレ期待に転換できるかどうかが問題。
 
ところが「期待」というものは実に操作しにくい。不連続な変化をするものだからね。
日銀はインフレ期待が強くなり過ぎた時に(インフレ期待の暴走)国債価格が暴落(利回り急騰)することを恐れている。だから量的金融緩和の段階的な拡大という慎重な政策をとっているのだけど、それが慎重過ぎて、市場参加者の期待修正にインパクトを与えることができないでいる、と私は理解している。
 
国債価格急落で損失するのは、当然国債を大量保有している金融機関で、筆頭は郵貯銀行、日銀自身、その他銀行、生保など。
 
メガバンクは保有する国債の期間を2~3年物を中心にすることで、金利リスクを抑制しているようだが(必然的に利回りは低い)、郵貯銀行は国債が資産の9割前後で、その利息収入がほとんど唯一の収益源だから中長期債の比率が高い。その結果、インフレ転換で国債価格が急落すれば莫大な損失を被る。
 
日銀自身が金利リスクが怖くて長期国債はこれ以上買いたがっていない。だから、レポ取引や銀行への融資の形を増やしているんですね。この点でETFやREITも多少買っているのは、決して口に出さないが、インフレになった時に実物資産の裏付けがあるETFやREIT価格が上昇して、債券の評価損を相殺してくれるという読みが、実は日銀の秘められた動機だと思う。
 
だったそれを口外すればいいのに・・・日銀総裁が「かならず2%程度のインフレにしてみせる。その時に生じる債券損をヘッジするために実物資産も買うんだ!」と言い放てば、インパクトあるだろう。
 
リスクはインパクトが効きすぎるかもしれないことだね。ちょうど1985年のプラザ合意のように協調ドル売り介入の効果が効きすぎて、ドル下落が止まらなくなったことを想起する。世間の期待の操作というものは、実に難しい・・・・
 
また軽度のインフレになったからと言って、景気回復が無条件で保証されるわけでもない。ユーロ圏は現に2%程度のインフレですが、構造不況的な様相になっていますからね。もっとも軽度のインフレの方が様々な問題が長期的に解決しやすくなるのも事実。デフレ=逆風で走るか、軽度のインフレ=追い風で走るかの違いでしょうか。いずれの場合も走らないことには前に進まないからね。
 
本日12月6日の日経新聞「経済教室」伊藤隆敏教授
引用:
「数年後の製品価格や不動産価格が現在よりも下落すると予測すれば、いくら借入金利がゼロ%でも、企業は工場建設をためらい、家計は住宅投資をためらう。その結果、投資や消費が停滞し、経済成長率は低くなる。そうすると物価が下がり、株価も不動産価格も下落する。こうして最初の物価下落の予測が自己実現してしまう。15年間にわたる物価、不動産価格、株価の下落は自己実現的なデフレスパイラルの結果とも考えられる。
 
これまで日銀は自己実現的なデフレスパイラルの存在を認めてこなかったし、量的緩和の効果についても極めて懐疑的だった。企業や家計の将来の物価予測(インフレ期待)に働きかける政策についても試行してこなかったといってよい。」
 
12月5日ロイター、インタビュー記事、竹中平蔵教授
引用:
「政策は日銀が自主的に決めるべきだが、オーソドックスにひたすら市場から国債を買えばよい。日銀は企業に対する融資など変化球ばかり投げているが、日本には政策金融公庫があり、日銀はマクロ金融政策に特化すべき。国債買い入れを紙幣の発行残高に抑える日銀券ルールは意味がなく、自主ルールなので自主的に変えればよい」
 
2008年3月に書いた私の論考 
「金融政策のデッド・ゾーン、デフレとの戦い」
自分で言うのもなんですが、量的金融緩和についてまとめたこの論考、コンパクトによく出来上がっています。ご参照ください(^^)v
 
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第1章に私の論考「日本は世界でもトップクラスのお金持ち国 ~でもこのままだと20年後は危ういよ~」が掲載されています。

以下は私の論考の小見出しです。
...
「突出して高い日米家計の金融純資産」
「対外純資産は依然世界1」
「でも実感がない」
「小金持ちじいさんの多い日本、超富裕層集中の米国」
「小金持ちじいさんを生み出した原因」
「20年後も日本は豊かな国でいられるか」
「求められる将来への投資」
以上です。

ご関心ございましたら、ぜひお買い求めください。<(_ _)>
 
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