たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2015年01月

このブログでも過去何度か紹介してきたShiller PER、米国株式投資、あるいはもっと限定してS&P500指数ベースの投資の本当に役に立つのか? 検証してみた。
 
Shiller PERとは
行動経済学分野の実績でノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が長年提唱して指数、CAPE指数とも呼ばれている。通常の株価収益率(PER)は直近、あるいは予想決算利益をベースに以下の通り計算される。
PER= 株価(P)/一株当たり純利益(E)
 
しかし、純利益の変動性は高い。S&P500のような指数ベースで、対象企業の加重平均した一株当たり純利益を計算してもその変動は激しい。その結果、不況の時に株価自体は大きく下がっても、一株当たり利益も縮小、あるいは赤字になるので、PERによる割安判断が上手くできない場合が少なくない。
 
そこでシラー教授は、S&P500を対象に直近過去10年のインフレ率調整後の実質純利益をベースにPERを計算すれば、分母(E)が安定するので、長期的な株価の割安・割高を判断できるだろうと、これを考案した。
Shiller PERは以下サイトで公表されている。
 
2015年1月16日現在のShiller PERは26.52、これは1980年以降の平均値21.4、あるいは1945年以降の平均値18.5に比べてかなり高い。だから、株価の割高警戒信号として受け止めるべきか、どうか?というのが足元の問題だ。
 
この指数の有効性については批判が多いようだ。例えば以下の例。
「『根拠なき熱狂』とは限らない、米株の最高値」by カレツキー
トムソン・ロイター社コラム、2014年7月28日
引用:「株価が非合理的な水準にまで高騰しているというシラー氏の主張の根幹をなすのは、シラーPER(株価収益率)と呼ばれる指標だ。
 
通常の向こう1年間の利益見通しで算出するPERを用いると、S&P総合500種は現在17倍程度。これならば米連邦準備理事会(FRB)のエコノミストを含めた多くのアナリストは、米国株が適正に評価されていると結論を下す。
 
PERが17倍の時、企業がこの収益力を維持できるなら投資家の年間リターンは5.9%と長期国債の実質利回りの1%程度よりもずっと妙味を持つことになる。
 
これに対してシラーPERは、過去10年の物価調整後の平均実績利益に基づく。また株式のバリュエーションが妥当かどうかを判断する上で、金利水準ではなく、シラーPERの長期平均と比較しており、そうなると米国株は極めて過大評価されているように見える。
 
S&P総合500種のシラーPERは現在26.3倍で、長期平均の16.1倍よりもずっと高い。シラーPERが16倍に戻るには、少なくとも株価が40%の調整に見舞われる事態を覚悟しなければならないという。
 
シラー氏のアプローチには多くの反論材料があるからだ。彼の10年平均という考えには、景気サイクルの長さや深さへの配慮がなく、会計上の償却の入り込む余地もない。
 
さらなる欠陥は、シラー氏が算出した実績利益は会計処理方式の変更や在庫評価に及ぼす物価変動の影響を織り込んでいない点にある。これは1970年代に利益を実態より相当大きく膨らませ、過小なPERを生み出した。
 
最も根本的な反対意見には、これらのテクニカルな論点すべてが含まれる。つまり技術や経済政策、金利、社会政治構造、税制の変化を考慮に入れない限り、長期間をカバーするバリュエーションを比較するのは意味がない。
 
もっともテクニカルな論点はさておいても、シラーPERの何が投資の指針として実際に使えないのかということについては、もっと最近の材料で結論が出ている。過去25年間、シラーPERはほぼ一貫して間違っているのだ。」
 
「ウォール街のランダムウォーカー」の著者、バートン・マルキール教授も、シラー教授が同指数などを根拠に1990年代の前半には「株価は既に危険なほど上昇している」とバブルの警戒警報を鳴らしていたことを同著の中で指摘している。
 
しかしご存じのとおり、2000年3月まで株価は大きな上昇トレンドを継続したわけで、シラー先生の警告に従って株を全部売却してしまっていたら、大きな期待利益を失ったことになる。 シラー先生は大学教授だからいいけど、資産運用ビジネスをやっていたら、90年代に職を失っていただろう。だから、投資ビジネス界の人がシラー教授に批判的な人が多いのはわかる。
 
私も同指数の長期平均を絶対視して、「過去の長期平均値を大きく上回ったから、もう売った方が良い」という単純な判断がそのまま報われるとは思わない。 
 
そこで検証してみた。以下の4つの図は、1950年から2014年までのS&P500とShiller PERを使って、横軸にその時のShiller PERの水準、縦軸にその時にS&P500に投資した場合、1年後(青)、5年後(緑)、10年後(オレンジ)、15年後(赤)にどれだけのキャピタル・リターン(年率、除く配当)をあげたかを示したものだ。
 
ご覧の通り、投資時点のShiller PERの水準と1年後のリターンはほとんど相関関係がない(青の分布)。
しかし5年後のリターン(緑)、10年後のリターン(オレンジ)、15年後のリターン(赤)と期間が長くなるにつれて、相関度は急速に高まっている。
 
15年後のリターン(赤)のR2(決定係数)は線形近似線で0.57、累乗近似曲線では0.62だ。これは投資時点のShiller PERの水準で15年後のリターンの違いの60%前後が決まってしまうことを意味している。この分布で横軸のShiller PERが25を超えている時期は、90年代末から2000年3月の高値までのITバブルの時だ。  
 
上記のカレツキー氏の批判は、どの程度の時間単位でShiller PERの有効性を検証しているのか全くふれていない点で極めてあいまいな批判にとどまっているとも言えよう。
 
もちろん検証できる関係性は1950年以降の過去の実績であり、将来の分布が過去と同じになることを保証するものではない。 しかしそれは人間の認知上の限界というものだろう。
 
というわけで、10年以上の長期投資を前提にする限り、Shiller PERを無視するのは危険だ、あるいは参考にすべきだと思う。 特にShiller PERの25以上で買い増すのはリスクが高い、あるいはハイリスク・ローリターンの警戒域だと考えるのが良さそうだというのが私の結論。
 
中核的なbuy and hold部分は維持するけど、将来ど~んと下がった時に、買い増すことができるキャッシュ・ポジションを維持して2015年も進むことにしよう。 「米国経済の相対的優位はこの先5年~10年続く」と書きましたが、それでも上げも下げもあるのが金融投資の相場ですからね。
 
追記:念のために言い添えておくと、Shiller PERの妥当性はあくまでも確率分布的なものだ。
 
例えば相関度が最も高い15年後のリターン(赤)の場合で見ると、例えばPER20倍前後の水準でも、その後の15年間の年率リターンは1%から9%前後までのレンジに分布している。 PER15倍前後だと、リターンは5%から12%のレンジに分布している。 関係性全体の標準誤差は±2.4%だ。
 
つまり低PERで買えば必ず高リターン、高PERで買えば必ず低リターンというわけではないということ。
これはある意味では当然のことで、ハイリスク・ハイリターンの原理も確率的な分布で言える原理に過ぎない。ところが、こういう発想法を理解できていない方々は世の中にけっこういて、そういう人は「はずれた」という幾つかの特定事例で有効性を否定してしまう。 
 
天気予報だって確率分布的な判断なんだから、こんなことぐらい分かってもいいはずなんだが、そうではない人達はかなりいるね。
 
追記2:以下コメントで話題になったBuffett Indicatorは以下のサイトで見ることができます。
 
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国民総資産が9000兆円を超えた!?
 
以下のNHKの記事が目にとまった。
「国民資産が初の9000兆円超、株高で」
引用:「内閣府が取りまとめた日本経済の決算書にあたる「国民経済計算」によりますと、おととし・平成25年末時点の「国民資産」は、前の年より7.2%増えて9294兆6000億円となり、今の基準で統計を取り始めた平成6年以降初めて9000兆円を超え、過去最高となりました。」
 
NHKともあろうものが、こういうミスリーディングな報道をするとはね・・・やはりNHKには経済問題がわかっているスタッフがあまりいないのかもしれない。
 
AがBに1億円貸して、BがAに1億円貸しているとする。上記の9000兆円という数字は、Aの資産(貸金)1億円、Bの資産(貸金)1億円、合わせてグロスでは2億円の資産があると言っているに過ぎない。
 
誰かの金融資産は別の誰かの負債であるから、国内での金融資産・負債は相殺してゼロになる。一国にとって意味があるのは、相殺されることのない非金融資産(主に土地と建物・設備など)と対外的な純資産(対外資産ー対外負債)だけだ。 
 
内閣府のデータでは、非金融資産は2723兆円、対外純資産は325兆円、合計3048兆円が国民純資産(国富)だ。 金融資産・負債をネットアウトする前のグロス金融資産は国富としては意味がない。
だから内閣府のデータも総資産から総負債を引いた「正味資産(純資産)」の欄に「国富」と記載しているのに、オリジナルデータをきちんと見て記事を書いていないから、こういうヘンテコな記事になるのだろう。
 
内閣府のデータは以下のサイト、ストック編、統合勘定をご参照。
以下の掲載図は、内閣府の公表データで資産・負債・純資産の推移を示したものだ。
国民純資産は、2008年に比べて97兆円減少している(-_-;)。
 
この分野(国民経済計算)は私は専門ではないが、わかる範囲で少し解説しておこう。
「一国が経済的に豊かになる」ということは、フローデータでは1年間の供給・消費される付加価値の総額としてGDP(あるいは国民総所得としてGNI)が増えることを意味する。 ストックデータでは総資産-総負債としての純資産(国富)が増えることが、一国が経済的に豊かになることの統計データ上の表現になる。
 
2013年末の非金融資産2723兆円の内訳は、生産資産1601兆円と有形非生産資産1122兆円だ。前者は様々な財やサービスを供給するための企業などの土地、建物、装備などが主だ。 後者の代表的な部分は住宅資産だろう。
 
どのような場合に純資産(国富)が増えるのか? 株価が上がると国富は増えるか?
内閣府データを見て頂くとわかると思うが、株価総額(時価)は資産サイドと負債サイドの両方にある。もし一国の株式が国内だけで保有され、海外と保有関係がなければ、両サイドの数字は同額で相殺されるので、株価が上がっても純資産は増えない。
 
しかし2013年の資産サイド株価は666兆円、負債サイド株価は879兆円で同額ではない。これは日本と海外との間で株式の保有関係が相互にあるからだ。
 
純資産(国富)が増えるのは、例えば以下のような場合だ。
①住宅の建設⇒有形非生産資産の増加
②企業の設備投資⇒有形生産資産の増加
③経常収支黒字の発生⇒対外純資産(対外資産-対外負債)の増加
 
政府が赤字国債を発行して、それで得た資金を国民に給付し、消費しているだけの状態では上記の①②③は全く生じないから、国富は増えない。 企業がもっと将来の生産や新商品の供給が増えるための広義の設備投資(有形・無形の固定資本形成)が増えることが決定的に必要ということだ。 
 
 
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毎度のトムソン・ロイター社でのコラム、ただ今掲載されました。
ご覧になってよろしければ、「おすすめ」とかお願い致します(^^)v
「これから先10年、米国経済の優位が続く」・・・ど~んと強気で出しちゃいました(^_^;) 
もちろん、株価やドル相場は上げも下げもありますよ。
 
 
冒頭引用:「振り返ると「米国経済凋落論」や「長期停滞論」にずいぶんと世間は幻惑されてきたものだ。米国経済に関する過度な悲観論は、日本では一部のアンチ米国的な信条によってひどく増幅されてきた。
筆者はそうした過度な悲観論を批判し、米国経済と米国株式投資に関する長期的な楽観論を説いてきた。この先5年から10年、おそらく米国の相対的な経済的優位が継続するだろう。そう考える理由を説明しよう・・・」

 
2015年は米国経済の一人勝ち・・・なんて論考は既に出始めていますね。
「この先10年・・・」思い切ってタイトルにしちゃいました。
 
想い起せば、2008年9月リーマンショックが勃発した後、「これから先5年、米国経済はゼロ成長」って言った著名なエコノミストがおりました。名前は・・・・なんて言いましたっけ、ミズノ・・・何某。
以下は2009年から2013年までの米国の実質GDP成長率です。
-2.82.51.62.32.2
 
2009年こそはマイナスですが、その後は平均で2%以上のプラスに回復、今年2015年は3%台成長が予想されています。 株価は・・・ガンガンに高値更新してきました。
 
「資本主義は終焉するんだ」「資本主義の最大の牙城である米国経済は凋落するんだ」と信じた方々、ずいぶんと大きなコストを払っていると思います。
 
追記:1月15日、所得格差と消費(総有効需要)の関係について
上記の論考では次のようにかなり大胆に断じておりますが・・・
「国民所得統計を見る限り、米国の家計貯蓄率はリーマンショック危機後の2009年こそ6.1%まで上がったが、その後は低下し、2013年以降は4.9%と1990年以来の平均値5.5%より低い。したがって所得格差の拡大による消費性向の低下(貯蓄率上昇)は生じていない。」
 
この種の一般向けコラムでは、短い字数でわかり易く書くことが求められます。それ故に、かなり議論を単純化して論述していることを申し上げておきましょう。
 
所得格差の拡大が消費需要を抑制する効果があるかないかについては、経済学者の間で長い論争と論文の累積があります。リベラルvs保守の典型的な論点になりますからね。
 
比較的最近の論文では以下のものがわりと包括的な議論状況を語っているようです。
 
A Cointegration Analysis Yuan Mei, Trinity College
***
The effect of inequality of the distribution of income on aggregate consumption has been
the subject of considerable debate over decades, especially between the Keynesian economists
and the Chicago school economists. In the case of the United States, while income distribution
has become more unequal since the 1970s, the country‟s aggregate consumption growth has
been maintained at a relatively high rate. However, Keynesian economists like Palley (2002)
and Setterfield (2010) argue that the fast growth of aggregate consumption in the United States
can be attributed to an unsustainable process of debt financing. If the impact of debt financing
is removed, the relationship between consumption and income inequality will become obvious.
 
It is found that there exists a cointegrating relationship between the Gini Index and
consumption. However, the regression results of the VEC model imply that income
distribution only affects consumption in the short run.
***
 
追記:Tracking Inequality in America  WSJ

追記:Waiting for Wage Growth? Everyone Is Watching the Employment Cost Index        WSJ

追記:For Many U.S. Families, Financial Disaster Is Just One Setback Away  WSJ

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ついにユーロ圏のデフレ(消費者物価下落)が始まった。かなり前から予想していたことだが。
 
Eurozone Consumer Prices Fall for First Time in Five Years  WSJ dated 2015 Jan. 7
quote : The European Union’s statistics agency on Wednesday said consumer prices last month
were 0.2% below their December 2013 levels. That was the first year-over-year fall since October
2009, which marked the last in a sequence of five months during which prices were lower than
 
以下は毎日新聞社エコノミストの2010年11月臨時増刊号に私が寄稿した「国際通貨史」の「ユーロの挑戦と矛盾」の一節。 
 
引用:「通貨統合前であれば、対外不均衡がなんらかの限度を超えた時点で、PIIGS諸国の為替相場が下落し、調整機能が働く。自国通貨の相場が下落するということは、外貨建てで計算した場合の労働コストが低下する(自国の労働が安く売られる)ことだからだ。しかしこうした為替相場による調整機能は通貨統合によって放棄された。
 
ならばどのように調整は働くのだろうか?PIIGS諸国の物価と労賃がドイツに比較して下がることによって調整されるしかない。つまりドイツのインフレ率が趨勢的に上昇するか、あるいはPIIGS諸国がドイツより低インフレ・デフレになるしかない。ところがドイツは趨勢的に低インフレ経済で国民や政府にもアンチ・インフレ機運が強いので前者の選択肢はないだろう。
 
すると、PIIGS諸国が今後デフレ圧力を甘受することによってしか調整は働かない。
 
しかしデフレは負債コストを押し上げることで、投資を萎縮させ、経済成長にネガティブな効果を持つ。これがPIIGS諸国(ユーロ圏のGDPの約3割を占める)とユーロ圏の現在の憂鬱の根底にある問題なのだ。」 
全文は次のホームページで閲覧可)
 
ECBはここからどうするのだろう? 日米と同じように国債の大規模購入による量的金融緩和に動くのだろうか? ECBが国債を大規模に買うことは、財政規律の弱い国の財政をいわゆるマネタイゼーションでファイナンスすることになるとしてドイツなどが強く反対してきたことだが、背に腹は換えられなくなるのだろうか?
 
一度「デフレ期待」が定着すると、量的金融緩和でもなかなか容易には抜け出せなくなることは、日本の過去の経験が示している。
 
ユーロ圏も黒田日銀のような超大規模な量的金融緩和を実施すれば、ユーロ相場の一層の下落でインフレ率を押上げることはできるかもしれない。しかしそのような超大規模な緩和にドイツがOKを出しそうな雰囲気は伝わってこない。
 
ギリシャはもう見限るとしても、イタリアやスペインの労働者や技術者がドイツ人のように行動して働けるようになるまで、デフレ圧力は止まらないってことになるかな。けっこう無理すじだね・・・(^_^;)
 
 結果として、ユーロ圏の景気低迷はまだまだ続きそうな感じがする。
 
追記(1月11日):ドルユーロ、名目相場と実質相場指数推移グラフ
以下にグラフ掲載しました。
1月9日時点の1.1844という名目相場水準は、実質相場指数では93.30で、99年以来の平均値103.55から約10%下方に乖離した水準です。
 
上下の水平の黄色線は、実質相場指数がその平均値から1標準偏差乖離した水準で、3分の2の確率で実質相場指数はこの上下の幅の中におさまっていたことを示しています(逆に言うと3分の1の確率で範囲外にとび出した)。
 
あと数%下がったら、対ドルでユーロのナンピン買いをしてみるのも、面白いかも・・・・とちょっと思える水準でしょうかね。
 
 
http://bylines.news.yahoo.co.jp/takenakamasaharu/  Yahooニュース個人
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