たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2015年03月

別に安倍内閣を「よいしょ」するつもりはないのだが、日本経済の現況を点検していたら、アベノミクス期と民主党政権期の雇用動向について、きれいなまでのコントラストが描けてしまったので紹介しておこう。
 
雇用動向の改善を見るにはまず失業率の変化を見るのが当然の見方だろう。2009年9月から12年11月までの民主党政権期も失業率は5.3%から4.1%まで改善(低下)している。 2012年12月~現在(直近データ15年2月)までの安倍内閣期は、4.3%から3.5%まで改善している。
 
しかし失業率だけでは十分な判断とは言えない。もうひとつは賃金動向、さらに労働参加率の変化などを見る必要がある。 賃金動向については既に前回扱ったので繰り返さない。↓
 
今回は労働参加率の変化を見てみよう。 労働参加率とは以下の通りで、実際に就業している人口と就職活動をしているが失業中の人口を総人口で割ったものだ。
 
労働参加率=(就業者数+完全失業者数)/総人口
労働力人口=就業者数+完全失業者数
失業率=完全失業者数/労働力人口
 
よく言われる「失業率は低下したが、景気が悪くて就職活動を諦めた人達が増えたからだ」というような論評を目にしたことがあるだろう。 就職活動を一定の期間にしないと無職でも「非労働人口」に分類され、失業者にはならない。つまり分母の労働力人口が減るので見た目の失業率は改善する。
 
実際、米国では2009年以降の景気回復過程で失業率が改善しても労働参加率が低下したために、「景気が悪くて就職活動を諦めた人が増えたから失業率が見た目低下しただけだ」と繰り返し指摘されてきた。
 
米国の労働参加率の低下は、実際はベビーブーマー世代の引退ラッシュという人口動態的な要因と上記の「諦め組」の増加の双方の結果だ。(それでも雇用動向全体はじわじわ改善して来た。)
 
以下の掲載図は、民主党政権期と安倍内閣期の失業率(横軸)と労働参加率(縦軸)を散布図にしたものだ。 
 
民主党政権期には失業率は確かに改善(左にシフト)しているが、同時に労働参加率が低下し、全体に左下がりに動いている。 一方、安倍内閣期に入ってからは失業率の改善が持続していると同時に労働参加率が上昇し、全体として左上方に動いているのがわかるだろう。 
 
こういう傾向が出るのではないかなと思って作図してみたのだが、これほど明瞭な違いになるとは思わなかったので、ちょっと私自身も驚いた。
 
日本は団塊世代の引退、高齢化で他の条件が同じなら労働参加率はじんわり低下する長期トレンドにある。 民主党政権期にはそれにさらに「就職活動諦め組」の増加が加わって労働参加率が低下したのだろう。つまりこの期の失業率低下には「就職活動諦め組」の増加が寄与しているのだ。
 
一方、安倍内閣期には労働市場の好転で「就職活動復活組」が増え、それが引退する人口の数を上回り、労働参加率が上昇しながら同時に失業率が低下するという好トレンドを起こしているわけだ。女性や元気な高齢者の就業も増えている。
 
単純に就業者数の増減を比べただけでも、民主党政権期には21万人の減少、安倍政権期には
124万人の増加だ。
 
もうこうなると「勝負あった」としか言えない。 民主党の方々も経済学のしっかりとしたブレインを招いて経済政策論を勉強し、練り直して対応しないと意味のある野党勢力としての復活は期待できそうにない。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

昨年第4四半期からの原油価格の急落など海外からの資源・エネルギー輸入価格の大幅下落、これにより2015年の日本経済はかなり押し上げられるはず・・・・これはまともなエコノミストはみなわかっていることだ。 わたしも「まもとなエコノミスト」のつもりなので、この点を解説しておこうか。
 
交易条件が改善し始めた
 
まず一国の交易条件とは?
交易条件=輸出物価指数/輸入物価指数
 
輸出価格が相対的に上昇して、反対に輸入価格が下がるなら、一国の経済にとって所得の増加となることは明らかだろう。 ミクロではある企業の販売する商品の価格が上昇して、反対に仕入れ価格が下落するなら、交易条件は改善し、企業収益が増える。逆なら交易条件は悪化し、企業収益は減る。
 
以下の掲載図上段は、日銀データによる輸出物価、輸入物価、交易条件の推移だ(2015年2月まで)。 2004年頃から日本の交易条件が悪化(低下)、リーマンショック後の世界不況で資源価格がいったん暴落し、交易条件は改善するが(ただし輸出価格も急落)、その後はまた悪化を続けた。
 
大雑把には、この背景には中国を中心にした資源爆食による原油をはじめ資源(日本の輸入)価格の高騰があり、一方、家電製品を含む工業製品(日本の輸出)は新興国の輸出の台頭、それとの競合で価格下落の一途を辿ったからだ言えるだろう。
 
ところがグラフが示す通り、昨年第4四半期から、原油価格の急落でようやく交易条件の目立った改善(上昇)が起こった。直近の今年2月のデータでは交易条件は昨年第4四半期平均比10.4%も改善している。原油価格が実際の輸入価格に反映されるタイムラグを考慮すると、この改善傾向は足元でも継続していると見ていいだろう。
 
交易条件の変化はマクロ経済データのどこに顕れるか?
 
交易条件と交易利得の変化を示したのが、上から2番めの図だ。 2004年までは交易利得だったが、2005年から交易損失になっている。この図は四半期データだが実質実額は年換算で表示されており、最近では年間20兆円も日本は交易損失を被ってきたわけだ。 
 
この図の交易条件は2014年10-12月期までのものであり(内閣府による国民経済計算データ)、上段の図で見た日銀データの交易条件が2015年1月~2月に急速に上昇している部分は含まれていないことに注意していただきたい。
 
では、交易条件の改善はマクロ経済データのどこに顕れるか? それを理解するためには、GDP、
GDI、GNI について理解しておく必要がある。
 
実質GDP:実質国内総生産 一年間に国内で生産される付加価値の実質総額
実質GDI:実質国内総所得 GDPから交易条件の変化で生じる交易利得(あるいは損失)を加減  
      したもの
実質GNI:実質国民総所得 上記GDI に対外的な所得(主に配当と利息)の受取と支払のネット(つま   
      り国際収支上の所得収支)を加えたもの (昔はこれがGNPと呼ばれていた)
 
つまり交易条件の変化による交易利得(あるいは損失)はGDPには現れず、GDIとGNI に含まれる。
そこで、2000年以降の3つの実質実額推移を示したのが、3番目の図だ。 
 
黄色のGDI が青色のGDPよりも下ぶれした水準で2005年以降推移しているのは、上記の通り交易損失の発生による。また近年の赤色のGNIがGDPに近い水準で推移しているのは、GNI=GDI+所得収支であり、日本の所得収支は最近では年間20兆円近くのプラスになっているからだ。
 
大雑把に言って、近年の日本は所得収支の黒字年間約20兆円分を、やはり年間約20兆円規模のの交易損失で失っている状態だった。
 
ところが上記の通り、いよいよ交易条件が急速に改善し始めた。私の計算では交易条件10ポイントの変化で年間7.7兆円 交易利得が変化する。 2014年の3ポイントの消費税率引き上げで消費者が政府に徴収された税額が1年間で約6兆円余り(6兆円の実質所得の減少)だから、7.7兆円の実質所得の増加はそれを上回る。 
 
既に日銀データによる2月の交易条件は昨年10-12月期より9.2ポイント(比率では10.4%)改善している。 原油価格の下落などが実際の輸入価格に反映されるまでのタイムラグを考えると、足元でも改善傾向が持続しているだろう。もし年間で20ポイントの改善が生じれば、年間の交易利得は15.4兆円プラスに変化することになる。
 
つまり2015年のGNI はGDP成長率をこの交易利得の改善分だけ上回ることになる。2015年の実質GDP成長率予想は1.5%前後のようだが、これに上記の交易利得改善7.7兆円が加わると、分母になるGNI は527兆円(2014年10-12月)なので、年間では1.5%ほどGNI 成長率がアップし、3%前後になる。
 
交易利得が社会にどのように分配されるかは賃金を含む相対価格の変化次第だ。自由経済では特定の層がそれを独占することはあり得ない。広く分散されるだろう。自動車の運転が多い方は既にガソリン価格の下落を通じて実感しているだろう。 企業収益のみでなく賃金に回る部分がかなりあることは、今春のベースアップの動向から察することができる。
 
というわけで、2015年は実質GNI の変化に注目しようか。メディアの報道はGDPしか報じないかもしれないが、以下の内閣府のサイトのデータには、GDP、GDI、GNI がみな掲載されている。メディアの方も、このブログを読まれたら、発表されるGDPにGNI も加えて報道すれば、内容的にひと味違うものになるだろう。
 
中国やブラジルなど大型途上国の成長率ダウンは中長期的なものになりそうな気配であり、原油を中心にした資源価格の高騰がすぐに再来する可能性は低そうだ。願わくば原油価格の低迷ができるだけ持続してもらいたい。
 
その間に新エネルギーや省エネ技術の一層の推進で、海外からの輸入エネルギー資源のコストを大幅に節約する革新を進めるのが、日本経済の長期的持続的な成長の要件のひとつだろう。
 
 
補足1:以下の野口悠紀雄氏の「原油価格の下落で2015年は実質賃金が3%超上昇する」(3月26日)も基本的に同じ事実に基づいているのだが、なにしろゴリゴリのアンチ・リフレ派の先生だから、次のように言っている点で私は同意できない。
「昨年の暮れ以降に生じているのは、原油価格の下落によって、この過程に歯止めがかかり、経済が好循環に向かい出したということである。物価下落によって経済活動が活性化するのだ。」
 
2012年までのデフレ、円高、株安からの転換に加えて、 交易条件の改善、交易利得のプラスの変化で2015年の日本経済に順風が吹いているのである。「物価下落で経済活動が活性化する」というのは一体どういう見識だろうか。
 
追記(3月30日):言うまでもなく原油価格の急落は安倍内閣の手柄ではない。政策的にはラッキーな出来事に過ぎない。ただし2014年4月の消費税引上げも安倍内閣のイニシアチブではない。民主党前政権のイチシアチブだ。 もし2012年の円高、デフレ、株安が継続したまま消費税率引き上げをやっていたら、どれほど日本経済は落ち込んだだだろうか。その点を勘案して考える必要がある。
 
追記その2(3月30日):「アベノミクス、あるいは日銀黒田総裁のQQEは、円安を起こすことで日本の交易条件を悪化させて、実質賃金、あるいは実質所得の減少を招いた」という趣旨の批判は可能だろうか? 
 
実は過去10年で交易条件とドル円相場の変化(いずれも対前年同月比)の相関関係を計測すると相関関係はほぼゼロと出る(以下4番目の掲載図、横軸のドル円相場の変化はプラスがドル高、マイナスがドル安)(相関係数-0.028、決定係数0.0008)。 実効円相場で同じ計算をしても、相関係数は0.3でとても低い。つまり2013年以降の円安は日本の交易条件悪化にはほとんど影響を与えていない。原油を中心とするドル建ての海外資源価格の影響度の方がずっと高い。
 
1980年代には低いながらもう少し相関関係があった。なぜ相関関係が消えたのか? 
 
外貨建ての輸出と輸入を考えると、円安で円ベースの輸入価格は上昇する。輸出も円べースの輸出価格が同じだけ上昇する。したがって外貨建て価格が変わらなければ、交易条件は変わらない。 円安で交易条件が悪化するのは、外貨建て輸入価格があまり変わらずに、外貨建て輸出価格を輸出企業が引き下げる場合だ。 
 
しかし2000年代以降の輸出企業は、売上重視から収益重視にシフトしたようであり、円安になってもあまり外貨建て価格を下げないようだ。 その結果、円相場と交易条件の相関は低下し、ほとんでなくなってしまった。
 
円建ての輸出の場合は、価格を変えない限り、円安になると外貨建ての価格は低下するので、輸出数量が増加する効果が生じる。 円建ての輸入の場合は、やはり価格を換えない限り、輸入数量はは変わらない。 いずれにせよ国内の輸出企業か海外の輸出企業が価格を変えない限り円建てで見た交易条件は変わらない。
 
 
 
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昨年12月に本ブログで「フィリップス曲線をよじ登る日本経済、2015年に向けた吉兆」と題して、失業率の低下に顕れた雇用動向の改善が名目賃金の上昇につながり、最終的にはインフレ率調整後の実質賃金の上昇をもたらすという強気の景気見通しを語った。
 
その後の展開をレビューしてみよう。結論を言うと、日本経済は今年に入ってからも順調にフィリップス曲線を左上方に向かってよじ登りつつあり、今年の4月以降の実質賃金の目立った上昇(前年同月比で1~2%程度)がほぼ確実視される様子になって来た。
 
フィリップス曲線は、元々ウイリアム・フィリップスが1958年の論文で論じた時は横軸に失業率、縦軸に名目賃金変化率だったそうだ。 その後、サミュエルソンとソローが失業率とインフレ率の関係性で論じてから、今では後者の関係性で論じられることの方が多いようだ。(以下英語版wiki参照)
 
前回は国民経済計算の雇用者報酬(名目賃金×雇用者数)の変化で図示したが、雇用者報酬は四半期データで遅いので、今回は月次で利用できる現金給与総額(一人当たり名目賃金指数)の前年同月比を使って失業率との関係性を示したのが、以下掲載図である。
 
現金給与総額は前年同月比で見ても、単月のふれが大きいデータなので、過去12カ月移動平均を使用している。 また過去1~2年のように雇用の増加が起こっている場合は、雇用者報酬の増加率>現金給与総額の増加率となることを言い添えておこう。
 
上段が散布図、下段が折れ線グラフによる推移図である。非常に高い相関関係があることがわかるだろう。相関係数で0.86前後、決定係数で0.74~0.75だ。 これは失業率→賃金変化という因果関係を想定すると、賃金変化は失業率の水準で75%前後は決定されることを意味する。
 
賃金について一般的なアンケートをとると「増えないと思う」という悲観的な回答が多数を占めるようだが、データが示す現実は失業率に代表される雇用需給の改善、タイト化が持続すれば、タイムラグはあっても必ず賃金も増えるということだ。
 
1991年からのデータであるが、一目でわかる通り、日本経済は着実にフィリップス曲線を左上方に向かって動いている。紫色の分布が安倍内閣になってからの2012年12月~15年1月の変化で、赤い点が2015年1月時点の位置だ。
 
直近2015年1月のデータは、失業率3.6%、現金給与総額前年同月比+1.3%、同12カ月移動平均値+0.8%である。  2015年1月の消費者物価指数は前年同月比2.2%(除く生鮮食品)だから、実質の賃金は-0.9%(=1.3-2.2)と減っており、これが「アベノミクスで大半の国民は貧しくなっている」という野党民主党などの政権批判の根拠になっていたわけだ。
 
ただし何度も言っている通り、消費者物価指数2.2%のうち2.0%は消費税率引き上げによるもので(日銀の推計)、それは民主党政権時代に自民党公明党の合意を取り付けて決定していたことに過ぎない。
 
今年の消費者物価指数は、前年同月比で見ると、4月からこの消費税率分の2%がはげ落ちる。加えて原油などエネルギー資源価格の下落で一時的には前年同月比ゼロ%前後になるだろう。 さらに報道されているこの春の賃上げ動向などを勘案すると、大雑把に見て現金給与総額は名目でプラス2%前後になりそうだ。つまり実質賃金伸び率がプラス2%前後になる。
 
野党民主党も「アベノミクスで国民の多くは実質でむしろ貧しくなった」というような目先のきかない批判を繰り返してきたが、それももう使えなくなるよ、ということになる。
 
近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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これは要する日銀による「バブル早期警戒指数」だ。
 

 IMFやBISなどでもこの種の指標、指標群がいろいろ試行されている。 日銀も本格的に始めたってこどだね。
バブルについては、「バブルはそれが起こっている最中にバブルと的確に判断することは不可能」という見解(FRB Viewと言われる)、「バブルと判断できる(少なくとも確率的な判断は可能)」という見解(BIS View)が、対立する見解としてある。
 
元FRB議長のグリーンスパン氏や効率的市場仮説で有名でノーベル経済学賞を受賞したユージン・ファーマ教授などは前者の立場なのだが、私には自己弁護のように思える。
 
グリーンスパン氏については2005年頃には住宅市場はバブルではないのか?という議論が公然化していたのに、そのリスクを過小評価して金融政策を行なっていたことに対する自己弁護。 ファーマ教授については自身の効率的市場仮説を前提にした理論モデルでは、バブルの発生とその崩壊による経済的な大変動を予想も説明もできなかったことに対する自己弁護。 私はBIS View派である。
 
日銀の指数は包括的で、セグメント化されたどの分野で「金融的不均衡が拡大しているか(=バブル化しているか)」わかるようになっている。 1990年代初頭に破裂した大バブルの後では、2006-08年の日本の不動産市場がやはりプチバブル化していたことがわかる。 日銀の金融研究のこういう実践的な志向性、高く評価したい。
 
発表頻度は6カ月に一度、頻度が低い。せめて四半期にして欲しいところだが、私は今後毎回チェックしようと思う。 以下の金融システムレポート(4月と10月公表)にヒートマップ(以下掲載図表)が掲載されるそうだ。

当面は「金融市場」のセグメントにおける株式関連のバブル信号に注意しようか。赤いのが一部チロチロと見えるね。 「資産価格」セグメントではまだ赤色は見えない(ただし2014年前半時点)。
 
長期投資の基本かつ極意は、リスク性資産を「バブルで売って、バブル崩壊で買う」 これに尽きるからね。
 
追記:日銀の手法を各項目毎に改めて読んでみたが、要するに長期的な移動平均からの確率的な計測で一定以上の上方乖離が生じると警告信号がが点灯するもので、手法としてはとてもシンプルだ。
 
これがバブル警戒信号として機能する前提条件は、経済のファンダメンタルな状態は相対的にスローに変化するものであり、それは短期的な変動が平準化された変数の長期的な移動平均値にある程度反映されるということだろう。
 
従って、移動平均値からの変数の乖離が一定の確率範囲を越えて上ぶれる(変数によっては下ぶれる)場合には、ファンダメンタルな条件からの乖離、すなわちバブル(「金融不均衡」という表現が使われている)である可能性が高くなると想定していることになる。
 
手法としては「単純過ぎるのでは?」という批判もあり得るだろうか。あるいは、熱に浮かされ易い人間がやってしまう行き過ぎ(オーバーシューティング)を警告するには、この程度のシンプルな手法でも十分という見方もできるかもしれない。
 

投資に関心がある方なら、名前ぐらいは誰でも知っている米国の大富豪のひとり、ジム・ロジャーズ、この方がどういう投資で儲けて来たのか、私はほとんど知らないのだが、時々見かけるコメントには奇妙なものが多い。
 
目についたので以下に引用、コメントしておこうか。
引用元記事:「ジム・ロジャーズ独占インタビュー『私もしばらくは日本株を買い続ける』 世界3大投資家には、その先まで見えていた」
 
奇妙コメントその1:「円はこの3年間で、ドルに対して40%以上価値が下がりました。これは驚くべきことです。世界史の教科書をひっくり返してみても、たった3年の間に主要国の通貨が40%以上も価値を下げたなんて事例は見つかりませんからね。だから、このような円安が続くことになれば、最終的には日本経済が破壊されることになるでしょう。」
 
事実:ドルは対円で1985年年初の250円前後から3年後には120円台に下落、約50%も価値を下落した。 また円を含む主要先進国通貨に対する加重平均で見ても、同3年間にドルは約40%下落した。
 
奇妙コメントその2「為替の問題はとても難しい。適正なレートなど、実際は存在しないからです。」
 
事実:私の読者、ブログのリピータの方々はご承知の通りだが、為替相場は相対的購買力平価に対する乖離と回帰を繰り返し、長期的には相対的購買力平価に収束する。これは経済学界で広く認められている実証的な事実だ。つまり適切な物価指数で計算された相対的購買力平価が長期的に適正な相場(均衡値)と考えられている。
 
奇妙コメントその3:「3兆ドルをプレゼントしてもらえば、誰だってハッピーになります。FRBがそれだけのおカネを刷って、ばらまいているから、おカネが回ってくる人たちはハッピー。ただそれだけで、実体を伴っていない。だから私は今は、アメリカ株を買いません。」
 
これは明らかにFRBの量的金融緩和のことを言っているのだが、FRBから「お金のプレゼント」をもらった人(機関)は誰もいない。 量的金融緩和政策では、金融機関が国債や証券化債券をFRBに売り、その対価としてFRBに金融機関が保有している当座預金にマネー(ベースマネー)を振り込んだだけだ。つまり民間金融機関の資産構成が変わっただけのこと。
 
しかもこのベースマネーは、一般な通貨の定義であるマネー供給量(紙幣発行残高+個人や法人が銀行に保有する流動性預金残高)には含まれない。 マネー供給量(マネーストック)が増えるのは次の2つの場合のみだ。①ベースマネーを見合いに銀行の貸出が増え、その結果同時に預金が増える。②国債などを保有していた個人や法人から銀行がそれを買って、対価を売り手の預金口座に入金する。 
 
ロジャース氏の学歴はwikiによると以下の通りで、なかなかの高学歴である。
「1964年 - エール大学を卒業(学士)。オックスフォード大学へ留学、1966年 -同大学卒業(修士)」
 
またwikiには次のようにも記載されている。 いつもジションをとるのが早過ぎるとして、下手なトレーダーを自称している。 クォンタム・ファンドを2人で始めたときは、ジム・ロジャーズがアナリスト的な役割で、ジョージ・ソロスがトレーダー的な役割だったと、ジャック・D・シュワッガーの著書「マーケットの魔術師」で答えている。また、ジョージ・ソロスも自著"Soros on Soros"の中で、クォンタム・ファンド運営ではジム・ロジャーズがアナリストだったと述べている。」  
 
 
ソロスとコンビを組んで大富豪になった元アナリストが、なぜ1985年のプラザ合意前後のような大きな相場変動局面について事実関係を正しく認識していないのか(その1)、大学の経済学部で読む教科書(金融論、国際金融論)に書かれていることを理解していれば言わないような間違いを言うのか(その2と3)、私にはわからない。 
 
大富豪投資家のバフェットさんの語りには、私は高い知性を感じるが、ロジャーズ氏には感じることができない。
もしかしたら昔は敏腕だったが、その後は勉強・調査もすることなく、脳の老化現象が進行しているのかもしれない。 
 
 
 近著「稼ぐ経済学~黄金の波に乗る知の技法」(光文社)2013年5月20日
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地域間格差は拡大しているか?
 
言うまでもなく戦後歴代の政権は東京を中心とする都市部と地方の格差を問題にし、何かしらの「地方経済の活性化」の政策を掲げてきた。安倍内閣も「地方創生」を掲げ景気回復の地方への波及を唱えている。
 
ところが奇妙なことに地域間格差に関する統計データに基づいた実証的な議論が国会など政治論戦の場で示されることは、私の知る限り極めて稀だ。東京は景気が良くても地方の商店街では「シャッター通り」などが増えており、格差拡大は自明の事実だと言わんばかりである。
 
内閣府が国民経済計算(GDP統計)としてウェブサイトで公表している「県民経済計算」で47都道府県の県民1人当たりの平均所得推移を2001年から見ることができる。平均県民所得(名目)のトップは毎年東京である。2位と3位には多少の出入りがあるが、静岡、愛知、滋賀などが並ぶ。一方、平均所得下位には、沖縄、高知、宮崎、鳥取などが並ぶ。
 
そこで各年の平均所得上位3つと下位3つの都道府県の平均値所得の倍率を見てみよう(下図の赤線、右メモリ)。すると景気の回復期の200307年には倍率が上昇し、上位と下位グループの格差が拡大する。
 
逆に景気下降・不振期の200811年には倍率は低下し、格差の縮小が見られる。注目すべきことはデータの公表されている2011年の倍率は1.66倍であり、20011.76倍より低下していることだ。趨勢的なトレンドを示す近似線も右下方に傾斜している。すなわち全期間の推移を見ても趨勢的な倍率の上昇は見られなず、むしろ倍率は低下しており、格差の縮小を示唆している。
 
もうひとつの見方として、47都道府県の平均県民所得の変動係数を計算してみよう。変動係数とは各値(ここでは47都道府県の平均県民所得)の標準偏差(値のばらつき度合いを示す統計概念)を各年の全国平均所得で割ることで、各年の格差の度合いの変化がわかるようにしたものだ。変動係数の値が高いほどばらつき度合い(格差の度合い)が大きいことを意味する。
 
変動係数=標準偏差/平均値
 
に青色線で描いた変動係数も景気回復期間に上昇し、景気下降・不振期に下降する傾向が見られるが、やはり上昇(格差拡大)トレンドは示していない。むしろ近似線は下げ(格差縮小)気味だ。
 
さて、この事実は何を意味するのか?
 
まず言えることは、東京を始めとする所得上位グループの所得変動は、下位グループよりも景気変動への感応度が高いということだ。つまり景気感応度の高い産業が東京など上位グループには多く、下位グループは景気感応度の低い産業や公共事業など景気対策で生じる所得への依存度が高いということだろう。
 
では地域間格差は拡大していないと言ってよいのだろうか。それは早計だ。というのは、平均県民所得ベースで格差が拡大していなくても、実は各都道府県内部で、地域間格差が拡大している可能性が残るからだ。
 
そうであるならば、地域間格差是正を目的とする対策としては、中央政府から地方政府への財政資金の移転を今より増やすのではなく、むしろ都道府県内での所得格差が縮小するような財政資金の配分変更が必要だということになる。また各都道府県内でどのような地域間格差が拡大しているのかもっとミクロの調査が必要だ。
 
ところが実際には、こうしたマクロ経済データは顧みられることなく、地域内のミクロデータがきちんと収集・調査公表されることも稀なようだ。「地方は景気回復に取り残されているからなんとかしろ」という政治的な主張が、統一地方選を前に中央政治でも地方からも声高に語られ、財政資金の不毛なバラマキが繰り返されていると思うのは私だけではあるまい。
 
追記:
格差の変化よりも、1人当たり平均県民所得の格差の大きさ自体を問題視する主張もあろうが、東京など都市部の相対的な物価の高さ、とりわけ住居費の高さを考慮して判断する必要がある。大雑把に言って、東京の住居費の高さは平均所得下位県の少なくとも倍はあろうか。
また他の先進国でも州ごとの平均所得でみた地域間格差の存在は当然であり、もしこれが均等化しなければならないなどと主張するならば、「平等原理主義」とでも言うべき極端な主張であろう。
 

本日3月2日発売の週刊エコノミストに円相場について寄稿しています。
 
 
今回は編集者の依頼で、今の円安オーバーシュートが将来どのような環境の下で円高に局面転換するか、日銀黒田総裁のインブレ目標(消費者物価指数で2%、除く消費税の引き上げ効果)達成が成功した場合、成功しなかった場合など3ケースに分けて考えてみました。
 
円安からの局面転換、まだかなり先のことだけどね、事前にどういうことが起こり得るか考えて準備しておく。目先上がるか下がるかという不安定な予想に依存することなく、大局を見ると言うのは、こういうスタンスなんだと思っています。
 
雑誌の紹介文
引用:「歴史で振り返るなら名目のドル・円相場だけでなく、インフレ率を加味した「実質ドル・円相場指数」を参考にしたい。これで見るといまの円安は5度目の波が起きている(以下掲載図ご参照)
 
では、将来に円高局面への転換が起こるとすれば、何が契機、要因となるか。龍谷大学経済学部の竹中正治教授は、「日銀の異次元緩和が成功した場合と失敗した場合にわけて考えてみよう」としたうえで3のシナリオを呈示する。明日発売のエコノミスト「相場は歴史に学べ」--ここが知りたい円安より。」
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