たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2016年01月

黒田緩兵衛殿の意表を突くようなマイナス金利導入の発表で、円高&株安リスクは一服した感じになった。 もちろんマイナス金利と言っても、銀行が日銀においてある当座預金残高に対するこれまでの付利(0.1%)が、今後の残高増分についてマイナス0.1%が適用されるだけだ。

マイナス金利の適用方法については、以下日銀のサイトご参照。

もし既存の230兆円もある銀行の日銀当座預金全体に対して、0.1%の付利からマイナス0.1に変更したら、銀行業界には年間で4600億円の収益減、コスト増(230兆円×0.2%=4600億円)が発生するが、さすがにそのような不測の混乱を引き起こしかねない激変政策は採らなかった。

それでも日銀当座預金での「資金運用増」という手段を抑えられた銀行としては、まだプラスの金利が残っている国債の購入を増やさざるを得ない→国債価格一段の上昇(利回り低下)で8年物利回りまでマイナス領域に入った。↓以下サイト参照

もちろん、私達の銀行預金金利がマイナスになることは想定されていない。もし仮に通常の銀行預金にもマイナス金利が現状のままで導入されると、「金利徴収」を嫌がる企業や個人は銀行預金の現金での引き出しに殺到し、金融緩和どころか銀行の流動性不足→信用の縮小すら起こしかねないからだ。

しかし「現金保有」という手段を廃止してしまえば、通常の銀行預金も含めた全般的なマイナス金利の世界を実現することは可能だ。お金を借りると利息を払うのではなく、逆に利息がもらえる世界、金利プラスの世界に生きて来た私達には反転・倒錯した異次元世界のように感じるが、どういうことになるのか考えてみよう。

まずマイナス金利を回避するために現金での保有を禁止するためには、紙幣とコインを廃止して、支払いは全て銀行預金と連動したキャッシュカード(あるいはクレジットカード)で行うようにすれば良い。これは技術的には全く可能だ。

その上で、銀行の日銀当座預金残高への適用金利を例えばマイナス1%にする。そうすると銀行間のマネーマーケットの金利(コールや現先取引の金利)もマイナス1%になる。また国債利回りも、短期国債はマイナス1%、20年物国債がかろうじてわずかにプラス金利、両者の中間の期間の利回りは期間の長短に応じてマイナス金利のイールドになるだろう。

銀行の短期の資金貸借市場であるマネーマーケットと預金金利の間には、多少なりともプラスの利ザヤが維持されるとすると、例えば普通預金、当座預金の適用金利はマイナス1.5%になる。
-1.0-(-1.5)=+0.5 それで銀行は0.5%の利ザヤが得られるからだ。1年物定期預金金利も例えばマイナス1.0%となる。

既に優遇レートでは1.0を割り込んでいる住宅ローン金利(変動金利)も例えばマイナス0.5%になるかもしれない。 企業向けの短期プライムレートもマイナスになるだろう。銀行は預金から1%~1.5%の利息を得られるので、0.5%の利息を払って融資しても0.5%~1.0%の利ザヤが確保できるからだ。

こういうマイナス金利体系になると、個人も家計も預金で金利を払うぐらいなら、少しでもプラスのリターンがあるもので運用しようとする。その際の選択肢は、不動産、株式、プラス金利の外国の金融資産である。

その結果、マンションなどは買われ、賃料利回りが4%程度だった物件は、賃料利回りが3%、2%と下がる水準まで価格が上昇する。株価は配当利回りが2%だったものは、やはり買われて配当利回りが1%、0%と低下するまで価格が上昇する。海外の金融資産の購入が増えるので、外為市場では円売り・外貨買いで円安が進むことになる。

消費は増えるか? 預金に置いておいても年間1%も減るのであるから、特に耐久消費財などは早めに買っておこうとして購入が増えるかもしれない。また不動産や株価が上昇するので富裕層を中心にプラスの資産効果が働き、消費が増えるだろう。

これまで銀行借り入れや社債発行での資金調達による設備投資に消極的だった企業も、利息収入が手に入る借り入れに積極的になり、得た資金を預金で置いておくと、それ以上に利息を払わなくてはならないので、これまで伸ばし伸ばしにしていた設備の更新投資などを積極的に進めるだろう。

このように考えると、以上の変化は、プラス金利の世界で金利引き下げ(金融緩和)がなされた変化と基本的に同じである。そういうわけで、マイナス金利の世界でも、金利体系全体が整合的に形成されるならば、金融緩和による景気押し上げ効果が期待できると考えて良さそうだ。 その結果、資産価格の上昇だけでなく、インフレ誘導にもなるだろう。

紙幣とコインを廃止して預金にマイナス金利を適用することは、「減価する紙幣」を提唱した19世紀生まれのドイツ人、シルビオ・ゲゼルの考えたことと基本的に同じである。以下参照

それじゃあ、金融政策の4次元の扉を開いて、本格的なマイナス金利の世界に移行してみるか?
ただしこの政策の障害は技術的な壁ではなく、むしろ政治的な壁だろうか。

果たして有権者は銀行預金にマイナス付利が行われることを想定した紙幣とコインの廃止に同意するだろうか? 「ローンをすれば、金利がもらえますよ」と説明しても、ローンもなく、多額の預貯金を保有している日本の富裕高齢者層は預金のマイナス金利に強く抵抗するだろう。彼らにとっては、デフレはむしろ歓迎なんだろうね。



毎度のトムソン・ロイター・コラムです。ただ今掲載されました。

「中国バブルのミンスキーモーメント」


引用:「前回のコラム「新興国通貨の対ドル下落はまだ序の口」で、中国をはじめ主要な新興国が2000年代以降、債務を急増させたことを取り上げた。とりわけ天然資源輸出国やドル建て債務比率の大きな国の通貨が対ドルで大幅下落し、その基調がまだ続く見通しを述べた。

今回は各論として中国に焦点を絞ろう。09年以降の中国の経済成長はバブル的な信用(債務)膨張に支えられたものであり、今後厳しい債務調整の長期化が予想される。これをデータと一緒に説明したい・・・・

・・・・・今後不可避と思われる中国の過剰債務の調整過程で何が起こるのか。それは日本や米国で起こったことと基本的には同じだろう。おそらく習近平政権は10年、20年という長期の時間をかければ軟着陸は可能だと考えているのだろうが、私は懐疑的である。

過剰債務の調整とは、結局のところ経済的な損失負担の問題であり、貸した金が回収できないという事実を前に、債務者、債権者(含む金融機関)、政府(納税者)がどのように損失を負担するかの問題だ。その過程で債務企業や金融機関の大規模な整理、破綻、失業者の増加などは不可避だろう。

中国国内からの資本逃避が一層強まる恐れもある。年間2000億ドルを超える経常収支黒字にもかかわらず、中国の外貨準備は14年のピーク時の約4兆ドルから15年末には3.3兆ドルに約7000億ドル減少している。これは資本流出により、人民元相場を現在の水準近辺で維持できなくなっていることを示唆している。

資本逃避が一層強まれば、1ドル=7元を超えた元安・ドル高もあり得よう。その場合には、中国の民間非金融部門の1.2兆ドルと推計されるドル建て債務(BIS四半期レビュー、2015年12月)から巨額の為替損(10%の元相場下落で約14兆円相当の損失)も生じる。中国の過剰債務の調整が今後本格化すれば、未曽有の過酷かつ長期的プロセスになると考えておくべきだろう。」

関連コラム


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BIS(国際決済銀行)がサイトで主要国のセクター別債務(credit)残高の長期時系列データを開示していることに気が付いた。 バブルとその崩壊は、必ず信用の急速な膨張とその後の信用収縮を起こす。 従って、近年IMFや各国中銀が力を入れている「バブル・モニター」のためのデータ整備の一環として行われたのかもしれない。  以下サイト

さっそく、これを使って中国の信用膨張状況について他国と比較したところ、途方もない姿が浮き上がって来たので、とりあえずここに開示しておこうか。

まず1段目の図はセクター別に中国の債務残高のGDP比率の推移を示したものだ。民間非金融部門の債務(credit)比率はもともと右肩上がりに増加してきたが、2009年以降、GDP比率で見て増加のテンポが著しく上がり、200%を超えた。

リーマンショック後の世界不況に対して、財政資金よりも金融資金を総動員して行った4兆元の需要創出策が、債務の膨張に拍車をかけたのだろう。おそらく地方政府が作った融資プラットフォームは形態は民間なので、このカテゴリーに入っていると思われる。

2段目の円グラフは、2015年6月時点の同残高規模を主要新興国をピックアップして比べたものだ。
規模において中国の残高が圧倒的であることがわかる。額はドル換算

3段目の図は、同債務残高を日米欧で比較したものだ。中国のそれは既にユーロ圏を抜き、米国の同残高に迫っている。

4、5段目の表は、各国の上記残高とそのGDP比率だ。中国の民間非金融部門の債務GDP比率は201%で、ここにピックアップした全ての国の中で突出している。 これは債務のグロス残高であり、一般に金融が発達し、負債の見合いとなる資産も蓄積した先進国では、この比率は高くなる傾向があるようだ。しかし、中国の債務GDP比率は、主要他新興国はもとより、日米欧の比率を越えて突出している。

つまり、中国経済は途方もない速度と規模で債務を膨張しながら、成長してきたのであり、それがこれまでの高成長のエンジンでもあった。それを可能にしたのは、農民から土地を徴発して進められた様々な固定資本形成だ。

その結果、自動車、鉄鋼分野などで他国では考えられないような過剰生産力を抱え、また住民もテナントも入らないゴーストタウンやゴースト工場団地を莫大に建設して、失速していると言っていいだろう。

中国の民間非金融部門の債務比率が日米欧の平均値並に下がるとしても、GDP比率で40%もの圧縮になる。 おそらく債務の相当な部分は返済不能となる(なっている)。 中国経済の今後には、悪い意味で想像を超えた展開が待ち受けていると思った方がよいかもしれない。

関連論考:

新年早々縁起の良くないテーマで恐縮だが、どうも2016年の出だし、私は世界の投資環境についてあまり楽観的な気分になれない。

実際、トムソン・ロイターのコラムでも昨年秋から暮れにかけて書いたのは、以下の通りリスクシナリオである。

先行きに「きな臭さ」を感じる理由は、上記の2つ論考に書いたことだけではない。もうひとつ書いておこう。米国の社債市場におけるリスク・スレプレッドの拡大が「準危機」レベルになっているのだ。

昨年12月中旬、米国のハイ・イ-ルド・ボンド(ジャンク・ボンド)に投資して来たThird Avenue fundが、損失の拡大と解約殺到で清算に追い込まれ、ジャンク・ボンド市場でリスク・スプレッドが拡大していることは市場関係者ならみなご存知のニュースだろう。(以下バロンズとWSJ記事参照)

バロンズ日本語訳記事:
WSJ英語版記事:

ジャンクボンドに限らず、債券市場全体のリスクスプレッドが拡大している。VIX指数と並んで投資家のリスクオフ、リスクオン状態を表す指標として私が継続的にフォローしているものに、FRBが公表しているAaa格付けとBaa格付けの社債の利回りスプレッド(リスク・スプレッド)がある。

1980年以降の推移が以下の掲載図だ。黄色線はBaa格付け利回りからAaa格付け利回りを引いたスプレッドである。 例えばBaa 3%、Aaa 2%なら、リスク・スプレッド1%となる。 これを「差分ベース」と呼ぼう。 しかし、今のような10年物米国債利回りが2%前半の超低金利の1%と、金利がもっと高かった時、例えば80年代前半のように10%を超えていた時の1%では程度が違うだろう。

そこで、(Baa利回り-Aaa利回り)/Aaa利回りという計算で、リスク・スプレッドのAaa利回りに対する比率にして表示したものが赤色線だ。 これを「比率ベース」と呼ぼう。

どちらのベースで見ても、2015年12月末のリスク・スプレッドは、もちろんリーマンショック前後の水準よりはずっと低いが、2011年から12年にかけての欧州債務危機の水準と同じか、それを若干上回っている。

また、2007年夏にパリバ銀行の関係ヘッジファンドが解約停止に追い込まれ(事実上の破綻)、「サブプライム危機」が露になった時のスプレッドは、差分ベースで0.88ポイント、比率ベースで15.2%だ(2007年7-9月平均)。一方、昨年12月末時点は差分ベース1.51ポイント、比率ベースで37.5%だ。 ほぼ倍のリスクスプレッドなのだ。

ジャンクボンド市場の大きな値崩れの原因は何か?私は債券市場の事情にはそれほど詳しくないのだが、大括りに推測するに、2008年以降の超低金利時代にインカム・リターン(利息・配当リターン)の大幅低下に悩まされたインカム志向の投資家が、少しでも高い利回りを求めてジャンクボンドを含む格付けの低い債券を買い漁った。その結果、割高になった(利回りが低くなりすぎた)低格付け債券価格の調整(利回りの上昇)が、ドルのゼロ金利の終焉とともに大きな規模で起こっているのだと思う。

実体経済面では、米国経済が景気後退に移行する兆候は見られない。日本経済についても、賃金の上昇率が抑制されているため、力強さはないが、2016年中に本格的な景気後退になる可能性は低い。ユーロ圏も小康状態。 やはり世界経済の目下のリスクは上記掲載のロイターコラムで書いた通り、新興国経済だろう。 それと、米国のS&P500で見ると、一株当たり収益率が2014年9月をピークに頭打ちになっている点も注意しておこう。(以下サイト参照)

日米欧を中心に先進国経済は穏かな景気回復継続、新興国経済は赤信号、投資家心理全般は黄色信号、目先の日米株価は上下動を伴いながらも大局で横ばいと予想しておこう。新しい投資のチャンスとしては、原油先物を組み込んだETFをタイミングを見計らって買ってみたいと思うが、原油価格の底打ち反転はまだ先かな。

追記(1月7日):今日facebookで書いたことですが、ブログでも追記しておきます。

昨年まで「売れ筋」と言われていた新興国通貨相場リスクとハイイールド・ボンド(ジャンクボンド)を組み込んだ投資信託がどのくらいの残高があるのか気になっていました。
金融庁の「金融モニタリングレポート」に記載されていることがわかりました(下段掲載図)。
大半が新興国高金利通貨を選択していると思われる「通貨選択型」が約11兆円、ハイイールドボンド(ジャンクボンド)対象が5.3兆円、通貨銘柄で多いのはオーストラリアドル、ブラジルレアル、トルコリラですね(2015年3月時点)。
いずれも昨年半ばから下げが急になり、ただ今も続落中です。
大当たりですね。
レポートサイトは以下です↓
http://www.fsa.go.jp/news/27/20150703-2.html

追記(1月9日):日本経済新聞記事から
引用:「 米利上げの影響も重なる。利回りを求めて新興国の債券に流入していた投資マネーが米国に回帰し始め、国債だけでなく、社債市場にも変調の兆しがある。

『低格付け債の利回りは魅力だったが、下落リスクが大きくなった。手が出せない』。大手生命保険の海外投資担当者は資金を格付けの高い米国社債に移している。信用力の低い企業は米利上げや原油安などでリスクが増していると判断した。バークレイズ証券によれば、米国で格付けがダブルB格など投機的水準にある社債の国債に対する上乗せ金利は、ここ1カ月で大きく上昇した。」

追記(1月11日):これも典型的なリスクオフ現象、WSJの1月10日付記事から
U.S. public pension plans and mutual funds are sheltering more of their holdings in cash than
they have in years, a sign of growing stress in financial markets.


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