たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

2016年02月

円相場が円高方向に大きく戻ったので、実質相場指数を更新した。HPでの更新は後日となるので、先にブログで掲載しておこう。

1ドル=111円の名目相場指数は、実質相場指数(1973年起点=100、日本の企業物価と米国の生産者物価指数ベース)では111.50である。一方、1973年以来の実質相場指数の平均値は90.97だ。

つまりボール(名目相場)はまだまだ円安のラフであり、私が「フェアウエー」とよんでいる長期平均値から±1標準偏差の範囲にすら戻っていない。

かねてから繰り返しているように、名目相場/相対的PPPで計算される実質相場指数は、長期的な平均値からの乖離と回帰を繰り返す。 相対的PPP自体は、特定の起点に形状も水準も依存しているので、名目相場が相対的PPPに回帰するというのは誤った理解である。回帰する中心は実質相場指数の長期平均値である。

国際通貨研究所の相対的PPP図表とデータ:

また、マイナス金利導入の為替相場へのインパクトは、ドル円の金利差拡大による円安効果である。ただし今回は、原油安や新興国売りを下地に、昨年夏から余震が続いているチャイナショックに欧州の銀行不安などが重なり、リスクオフ(リスク回避)の動きが強まる状況下で、既存の円売り持高の崩れ(円買い)や、それを誘発しようとする円買いの投機的な仕掛けなどが働いて、円高への戻りが生じたと理解できる。  すでにシカゴIMMのnon-commercialの持高は円ロングであることに注意しておこう。http://www.gaitame.com/market/imm.html

目先の短期的な相場動向は不確実でわからないが、このまま一気に円高に行くと言うよりは、2012年12月からアベノミクスで始まった円安トレンドが、ひとつのピークを過ぎたという程度に受けとめておいた方が良いだろう。 黒田総裁は「必要なもっとマイナス金利にする」ともコメントしているので、黒田緩兵衛殿の逆襲は今後もあり得る。


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どうも金融に詳しくない方々は、次の様に考えているようだ。

すなわち、日銀が銀行から国債を買ってマネーを供給しているのに、銀行が貸出を伸ばさないから、マネーは民間銀行の日銀当座預金に積み上がるばかりだ、と。
逆に言うと、貸出が伸びれば、銀行の日銀当座預金残高はその分減る、と考えているのだろう。
 
しかしこれは全くの勘違いだ。
「えっ、どうして!? 貸出が増えると銀行の資産の内訳が、日銀当座預金から融資に換わるのではないの?」

いいえ、間違いだ。

例えば私が銀行から住宅ローンを5000万円借りると、銀行の資産サイドに住宅ローン5000万円がたつ。同時に銀行の負債サイドにある私の普通預金に5000万入金される。 銀行の貸出と預金は両建てで5000万円増える。私が受け取った住宅ローン5000万円は、支払いで住宅の売り手の預金口座に移るが、銀行部門全体の預金としてそのまま残る。

以上の金融取引は、銀行部門全体の日銀当座預金残高に何の変化ももたらさない。

以下の対談の渋澤氏のコメントは、その点でミスリーディングだろう。もしかしたら、ご本人も勘違いしているのかもしれない。

補足すると、ゼロ金利・量的金融緩和以前の金利があった時代には、民間銀行は預金残高の一定比率を準備預金として日銀当座預金(当時は付利ゼロ)に維持しなくてはならなかった。付利ゼロだから、銀行は必要最小限の準備預金しか置かずに、あとは貸出、マネーマーケット(資金放出)、債券などで運用した。

そうした状況の下では、日銀は民間銀行との資金取引で、銀行間のマネーマーケットに需給的な影響を与えることで、マネーマーケットの短期金利(コール取引金利)を上げたり、下げたりし、そのことを通じて貸出の伸びに影響を与えることができた。

しかしゼロ金利・量的金融緩和に移行してからは、①時間軸効果(金融緩和が長い期間続くぞと思わせること)で国債などの長期金利に影響を与える、②ポートフォリオバランス効果、日銀が国債を大規模に買うことで民間のポートフォリオ構成が変わり、代替として他の金融資産の購入が増え、対象となった金融資産の利率(リターン)も低下する、③「インフレ期待」に影響を与えることで実質金利(=名目金利-期待インフレ率)に影響を与えることなど、短期金利の水準変動以外の効果に依存することになる。
 

東洋経済オンライン「要は必要以上に現金を持つなということだ」2月14日
 
「渋澤健:よく考えてみて下さい。余っているおカネに対して0.1%の金利を付けているのですよ。預金が年0.02%の利息だったとしても、この当座預金に預けるだけで、差し引きで0.08%の利ザヤを抜くことが出来るのですから、4行で755億円の利益という単純計算になります。
 いくら日銀が量的金融緩和をせっせと行ったとしても、銀行が経済を活性化させるために、そのおカネをどんどん社会に回そうなどとするはずがない。当座預金に放り込んでおしまいです。」
***


中国経済については、過去数年、節目節目に幾度か書いてきたので、ここらで自分の書いてきたことを一覧して、レビューしておこう(掲載の事情でオンラインで書いた論考のみ)。

以下時系列順で掲載


引用:「中国自身の為替介入の不完全性と資本移動規制の空洞化が、海外からのドル資金の流入→中国国内での過剰流動性→不動産バブルという事態を引き起こしていると言えよう。

これまで中国では次のような俗論が横行してきた。
『日本は日米貿易摩擦で1985年のプラザ合意で円相場の急騰を米国に強いられ、円高不況を回避するための過剰な金融緩和がバブルを起こし、その崩壊で経済成長が低迷した。従って中国は決して米国の中国元相場の急激な切り上げ要求に屈してはならない』
 
皮肉にも今の中国は、通貨の切り上げを拒否するための大規模な為替介入の累積と、固定的な相場維持に不可欠な資本移動規制の空洞化によって、国内の過剰流動性が不動産価格の上昇を助長するという形でバブルの罠にはまりつつある。これを中国政府が果たして金融引き締めやその他の手段で対処できるかどうか。

それに失敗すれば、次の大規模なバブルとその崩壊を私たちは中国で見ることになるだろう

2011年2月「『住宅バブルの法則』が予言する中国危機」日経ビジネスオンライン、ニュースを斬る

引用:「このジレンマに今最も先鋭的に直面している国は中国だということだ。現在中国で進行している住宅価格の高騰(その結果、都市部の標準的な住宅価格は勤労者の平均年収の30~50倍)は、やはり金利・成長率格差の大きなマイナスによるものだ。それを金利の引き上げだけで抑制しようとすれば、名目成長率が2ケタである以上、金利も2ケタ水準まで上げる必要があろう。景気へのオーバーキルを考えれば中国の金融当局にそんな金利の引き上げはできないだろう。

代わって銀行の融資を間接・直接に制限する量的制限方式も(これまでは十分な効果を上げてこなかったが)、同時に施行されている。しかし日本の1990年代初頭のケースと同様に調整が難しく下手をすれば、バブルのソフトランディングではなく、崩壊的なハードランディングになる危険も高い。

日本でもバブルの時は地上げでゴルフ場を建設して会員権を売りさばけば、錬金術のように莫大な収益が入ってくるので、多くのディベロッパーが暴走した。農民から土地を取り上げて、銀行からの融資で工場団地や住宅に仕立て上げれば、莫大な非税金収入が入ってくることに酔っている今の中国の地方政府の姿は、往時の日本以上のバブル道をひた走っているのだ。」

2012年9月「人民元国際化に政治の壁、通貨危機」リスクも」トムソン・ロイター・コラム

引用:「自由な市場機能にそもそも信頼を抱いておらず、官僚による指令主義的志向の強い中国政府は「管理された人民元国際化」を志向しているとも言われる。しかし、それは概念矛盾に他ならない。既述の通り、トリレンマの原理が示す選択肢は「管理されたローカル通貨」か「取引自由な国際通貨」しかあり得ないのだ。

あるいは、国内の規制金利を維持しながら、「人民元国際化=内外資金移動の規制緩和」という政策的に不整合な路線を志向してしまうかもしれない。 政治的な理由で経済原理に反した制度・政策の大きな不整合を犯した場合、最終的には巨大なしっぺ返しを引き起こすことは、すでにアジア通貨危機を例に述べた。また、現下のユーロ圏のソブリン金融危機が見せつけてくれていることでもある。同種の過ちを中国が将来犯す危険性は、筆者は決して低くないと思っている。」

2015年8月「『中国ショック』は世界不況を招くか」トムソン・ロイター・コラム

引用:「以下の4つの事情で、中国経済の成長率は深刻な下方屈折を起こしている。構造的な変化に適応しなくてはならない中国の苦しい過程は始まったばかりだ。他の国々も程度の違いこそあれ中国経済の失速から受ける実体経済面の負のインパクトに備える必要がある。また、新興国投資全般は当分の間、高リスク・低リターンの「冬の時代」に入るだろう。順番に説明しよう。」

2016年1月「中国バブルのミンスキー・モーメント」トムソン・ロイター・コラム

引用:「今後不可避と思われる中国の過剰債務の調整過程で何が起こるのか。それは日本や米国で起こったことと基本的には同じだろう。おそらく習近平政権は10年、20年という長期の時間をかければ軟着陸は可能だと考えているのだろうが、私は懐疑的である。

過剰債務の調整とは、結局のところ経済的な損失負担の問題であり、貸した金が回収できないという事実を前に、債務者、債権者(含む金融機関)、政府(納税者)がどのように損失を負担するかの問題だ。その過程で債務企業や金融機関の大規模な整理、破綻、失業者の増加などは不可避だろう。
中国国内からの資本逃避が一層強まる恐れもある。年間2000億ドルを超える経常収支黒字にもかかわらず、中国の外貨準備は14年のピーク時の約4兆ドルから15年末には3.3兆ドルに約7000億ドル減少している。これは資本流出により、人民元相場を現在の水準近辺で維持できなくなっていることを示唆している。

資本逃避が一層強まれば、1ドル=7元を超えた元安・ドル高もあり得よう。その場合には、中国の民間非金融部門の1.2兆ドルと推計されるドル建て債務(BIS四半期レビュー、2015年12月)から巨額の為替損(10%の元相場下落で約14兆円相当の損失)も生じる。中国の過剰債務の調整が今後本格化すれば、未曽有の過酷かつ長期的プロセスになると考えておくべきだろう。」

以上


流動性の高い資産価格が先行して動く、流動性の低い現物不動産価格は遅れて動く。
以下手短に。

これは90年代初頭のバブル崩壊局面でもそうだった(株価のピーク、89年12月末、不動産のピーク91年)。

2006年-07年のプチ不動産バブルの時も、株やREITが先行して上昇し、現物不動産は遅れて上がった。その崩壊過程でも現物の不動産は数か月遅れて下落している。

アベノミクスで円安、株高に動き始めた時も、為替相場と株価は12年末から顕著に動き出したが、現物不動産価格の上昇は13年半ばからだった。

さて、今回の株価の下落と円高への戻り、株価は既に昨年のピークから22%の下落となった。この後、遅効して現物不動産市況にも負のインパクトがあると思った方が良いだろう。
以下、直近の三井住友トラスト基礎研究所の2月9日付レポート、主文(メインシナリオ)より、最後の以下のリスクシナリオの段落が重要な局面だろう。

 引用:「このようなメインシナリオではあるが、下振れリスクは増大している。

 前回のリリースレポートでは、リスクとして、想定外の金利上昇、中国の景気減速、賃料上昇期待の裏切り、連続するイベントの作用(2017年消費増税、2018年日銀総裁任期満了、2019年オフィス大量供給)を上げたが、ここにきて地政学リスクの拡大、円高への反転(企業業績の悪化、株価下落、海外資金の物件売却増加、訪日外人客の減少)、オイルマネー系SWFの投資資金の縮小など、リスクは増大している。
 
 リスクシナリオを念頭においた投資行動必要性が高まっている。」
***

追記(2月13日):
中古マンション市況、要警戒、近い将来の価格下落の兆し
価格的には前年同月比で上昇が続いているが、在庫数、月間成約数を見ると需給環境は、悪化を示唆している。中古価格が下落に転じれば、新築も下落する。

「日銀のマイナス金利で住宅ローン金利がまた下がったから、お買い得」なんて言っていると、「飛んで火に入る夏の虫」になるよ。
 
何度も言っているが、住宅の購入は、投資も自己居住も、
次の不況まで待て!
景気は循環するもの。不況もまた必ず来るんだから。
 
***
 
東日本不動産流通機構、月例速報、2016年1月
東京都中古マンション
2016年1月 成約件数 1292(前年同月比8.3%増加)
同 新規登録件数 9952(同36.6%増加)
同 在庫件数   23,750(同35.7%増加)
成約件数 / 在庫件数=5.4% ← 2015年1月6.8%

非居住者(外人)による日本国債保有が増えている。

引用:「日銀統計によると、外国人が保有する国債と国庫短期証券の残高は9月末時点で101兆円と、前年同期比で16.5%増えた。国債発行残高1039兆円のうち、外国人の保有シェアは9.8%と2桁に迫る。外国人の保有残高はこの1年で14兆円増加した。第2次安倍政権発足直後の12年12月末と比べると18兆円(22.9%)増だ。日本国債への海外マネーの流入は10月以降も増勢となっており、今年末時点で保有シェアが10%を超す可能性がある。」(日経新聞、2015年12月23日

以前から気になっていたのだが、これを「外人による日本国債が増えているのは円が安全通貨として信頼されているから」という理解が一部に出回っているが、誤解があるので説明しておこうか。

これと関連するのは以下の事情だ。
引用:「邦銀のドル調達コストが上昇している。外国債での運用を目指す邦銀のドル需要が高まる一方、金融規制強化のあおりで出し手である欧米の金融機関がドルの供給を抑えているためだ」(日経新聞、2015年6月11日

またニッセイアセットマネジメントがレポートの中で以下の様に述べている。
引用:「ドル需要の引き締まりから、ドルの調達コストが上昇。その結果、ドルを使った円資金調達コストが下がり、低金利の日本国債でも以前より利益を出しやすくなった。」(ニッセイ・アセット・マネジメント、2016年1月14日

銀行が異なる通貨の資金過不足を調整する取引に外為市場で為替スワップ取引がある。
日本の銀行の場合、通常円資金は余剰でドル資金は不足だから、外為市場の直物でドル買い・円売り(ドル資金獲得・円資金放出)を行うと同時に例えば期間1年の先物でドル売り・円買い(ドル資金返済。円資金回収)という直物と先物を同時に行う。これが為替スワップ取引だ。

ドル買いとドル売りを同時に行うので、為替相場変動のリスクは生じない。異なった通貨間の資金交換取引である。 

市場が完全で取引や銀行間の信用リスクに問題がない場合は、金利裁定原理が働いて、例えば期間1年の銀行間マネーマーケットのドル金利が0.5%、同じく円資金金利が0.1%だとすると、直物と先物の為替売買損益を介在することで、ドル資金を円資金を対価に1年間得る邦銀にとって為替スワップ取引によるドル資金調達コストは0.5%になる。 反対に円資金を得る米銀の同取引による円資金調達コストは0.1%になる。

ところが、近年(リーマンショック後)米銀の資産圧縮、自己資本比率引き上げの結果だろうか、日本の銀行を含む非米銀に対する与信枠を米銀は厳しく(タイトに)設定するようになったようで、米銀が為替スワップで放出する資金量がタイト化、ドル資金需給が逼迫するようになっている。

その結果、起こったのが為替スワップ取引によるドル資金コストの「プレミアム(割増)」だ。つまり非米銀(ここでは邦銀)が為替スワップでドル資金を調達すると、米銀は直物と先物の相場差(スプレッド)を金利裁定式が示す値よりもドル資金コストが割高になるように提示することでプレミアムを得るようになった。

つまり非外銀のドル資金調達コスト(=米銀のドル放出リターン)は0.5%ではなく、例えば1.0%になる(プレミアム0.5%)。それでも非米銀が直接ドル資金調達する手段が限られている場合は、プレミアムを払ってドル資金を調達することになる。

米銀は年率1.0%というドルのマネーマーケットより高い利回りでドル資金を放出し、その結果、交換で得た円資金を運用しなくてはならない。この運用先として高い流動性があり、とりあえず民間信用リスクのない短期・中期の日本国債が選ばれるのである(外人の日本国債買い)。

短期のみならず中期国債も今般の日銀によるゼロ金利導入でマイナス金利になったが、仮に米銀の日本国債運用利回りがマイナス0.1%でも、米銀にはドル資金放出の見返りに1.0%のリターンがあるので、差し引きのリターンは1.0-0.1=0.9%となる。これはドルのマネーマーケットで運用する場合の0.5%より高いので、米銀には0.4%分の超過リターンのある取引となる。

100兆円を超えたといわれる外人の国債保有のどれくらいの比率が、こうした為替スワップ取引の見合いによるものなのか、データで確認することがちょっと出来ないのだが、増加分のかなりの部分を占めると私は推測している。

つまり要約すると、外人の国債運用増加の背景には、邦銀の米銀からのドル資金調達の制約、その結果としてのドル資金プレミアム(割増)の発生があるのであって、「円が安全資産だから買われている・・・」というのは、かなりの部分誤解、ナイーブすぎる認識だろう。 




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