たけなかまさはるブログ

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2016年05月

週刊エコノミスト5月31日号に、宮崎雅人氏(埼玉大学経済学部准教授)が「学者に聞け」の欄で、目から鱗の事実を語っている。

問題の言説:なにしろ日本は少子高齢化である。1965年には日本は高齢者1人を現役世代9.1人で扶養していたが、2012年にはその比率は2.4人になった。2050年にはその比率は1.2人になる・・・・この高齢化で社会保障負担はますます重くなるし、経済成長の足かせになる・・・という言説だ。

わたしもそう思っていた。従属人口比率(65歳以上人口と14歳以下人口の15から64歳人口との比率)の上昇が、必然的に社会保証コストの増加、経済成長のブレーキになると自分でも書いてきた。
しかし、65歳以上の高齢者一人を現役世代何人で支えるかという比率は、現実をひどく過剰に悲観的に描いているのだ。

宮崎氏は、むしろ総就業者数と総人口の比率に注目すべだと指摘して、1955年まで遡って、就業者と総人口の比率(=総人口/就業者数)の推移をグラフにしている。(同様の指摘は慶応大学の権丈善一教授も著作のなかで語っているそうだが、こちらはまだ読んでいない。「ちょっと気になる社会保障」2016年1月)

高齢化でさぞその比率が上がっていると思いきや、1955年まで遡っても比率は2.1強から2.0前後で安定しており、趨勢的な比率はむしろ下がっているくらいだ。

同様のことではあるが、以下の私の掲載図1では、「高齢者一人を何人の現役で」という冒頭の議論に合わせるために、就業者数/非就業者数の比率(ひとりの非就業者数を何人の就業者で扶養するか)で表した(図1の黒線)。
 
見てわかる通り、比率は長期にわたって1.0近辺で安定しており、近似線は僅かながら右肩上がりに傾斜している。つまり就業者の頭数だけで計算すると、引退高齢者や未就業児童・青年、失業者などその他全ての非就業者を直接・間接に扶養している就業者の数は、むしろ増えているのだ。「引退高齢者を支える現役世代の人口が急減する」という冒頭の言説が与えるイメージとはまるで違う。

図1に労働参加率(=労働力人口(含む失業者)/全人口数)のグラフも掲載した。労働参加率は1997年の53.8%をピークに下げているが、2013年以降の過去3年では上昇に転じている。雇用の改善、人手不足で就業者数自体が増加しているからだ。これは野党がなんと言おうと安倍政権期の実績だろう。

高齢化にもかかわらず、就業者/非就業者比率が上がっているのは、①現役世代の就業率が上がっている、②65歳以上の高齢者の就業率が上がっている、この2つの可能性がある。そこで年齢化別、男女別の就業率を示したのが図2と図3である。

まず65歳以上の高齢者の就業率は、男女ともにやはり2013年以降やや上向いているが、長期では上昇していない。男性の場合は明らかに低下している。一方、女性の年齢階層別就業率は、25歳から64歳までの全ての年齢階層で90年代以降、顕著に上昇している。

すなわち、高齢化にもかかわらず90年代以降の日本の就業者/非就業者比率、あるいは労働参加率を支えているのは、急激な女性の就業率の上昇なのだ。 1980年代後半に施行され、改訂を経て90年代後半に今の形となった男女雇用均等法も効果を上げていると言えるだろう。

それでは日本経済の人口高齢化に対する対応、適応力は十分かというと、そうではない。様々な場で強調されている通り、就業率は上昇していても、非正規雇用の比率が上昇している。つまり非正規で低賃金であるゆえに、税金と社会保険料の負担が著しく低い、あるいはゼロに近い雇用の比率が増えているからだ。これではやはり高齢化が進む中で増加する社会保障関連コストを購いきれない可能性が高いだろう。

図4が就業者数全体の内訳の推移だ。自営業者と家族従業員比率が低下し、非正規雇用は増えている。正規雇用は数では1996年の3800万人がピークで、15年は3304万人だ。結果的に約500万人が正規雇用から非正規雇用にシフトしている。

どの層が非正規雇用で多いのか?男性と女性について年齢階層別に非正規比率(雇用者数に占める比率)を示したのが図5と6である。この統計は2013年からしかないのだが、どの年齢階層でも女性の方が非正規雇用比率が高い。とりわけ、25歳から54歳の働き盛りの年齢層では、非正規雇用比率は50%前後で男性の10%前後と比べると歴然と高い。

これでほぼ全貌が見えた。日本は90年代以降、従属人口比率の上昇というステージに入ったのだが、女性の就業率の急速な上昇で就業者比率の大きな下落は食い止められ、2013年以降では上昇すらしている。しかし現役世代の女性の就業の約50%はパートを主とする非正規雇用であり、税金や社会保険料の担い手としては頼りにならない雇用形態だ。

まだまだ進む高齢化、この先、どうしたら良いか?

①元々日本は先進国の中では65歳以上の高齢者の就業率が相対的に高いのだが、現実には就業率は上がっておらず、下がってきた。元気な高齢者は70歳代でも働ける環境を作る政策が必要だろう。それに合わせて公的年金給付の支給年齢も上げる必要があるだろう。

②安倍政権が最近強調しているように非正規と正規雇用の賃金格差を縮小させて、非正規雇用でも税金や社会保険料が負担される方向に修正が必要だろう。

③正規雇用比率を上げるべきだと主張する向きもあるが、 ニーズとしては雇用形態の多様化が進む中でそれは逆行だろう。 同一労働同一賃金の原則の実現で各種の非正規雇用の賃金改善が望ましい方向だろう。 非正規雇用労働者のうち、正規雇用化が望まれる対象層は、「不本意非正規雇用」と言われる350万人(非正規雇用の18.5%)だろう。

④それでも労働力の減少が経済成長の制約になる面は残るだろうが、その制約を解き放ってきたのが技術革新だ。AIの利用やロボットカー(自動走行自動車)の今後の普及など大きなイノベーションの芽は、現実になりつつあるではないか。陳腐化した保護主義的な規制体系を解体して、イノベーションと競争を促進する規制改革を進めるべきだろう。


図1
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図2
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図3
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図4
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図5
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図6
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毎度のトムソン・ロイター社でのコラムです。先ほど掲載されました。

「日本株、買いは次の不況まで待て」

冒頭部引用:「4月に日銀が追加金融緩和に動くという某メディアの憶測記事と、実際の日銀政策決定会合での「政策変更なし」で、日本株も円相場も大きく上下に揺れた。短期トレーディングをしている金融機関のディーラーや個人投資家には翻弄された人も少なくないだろう。

一方、長期投資の対象として日本株を見ると、アベノミクス以前よりはまだ高いとはいえ、昨年の高値からの下落で米国株などに比べると長期的なリターンはやはり劣後している。しかし、日本株でも実はリスクを抑制しながら長期でリターンを向上させる簡単な手法がある。今回は、その仕組みと現状の株式投資へのスタンスを説明しよう・・・」

末尾引用:「最後に現状でのスタンスを確認しておこう。2016年4月末時点の修正積立法の示すシグナルは売りでも買いでもなく中立である。図が示す株式投資残高は、ピーク時から累積投資額ベースでは約半減、資産時価総額ベースでは25%減となっている。筆者自身は、昨年の時点で累積投資額ベースではピーク時の3割程度に減らし、4月の乱高下でも様子見を決め込んでいる。

毎期稼がなくてはならない金融機関のファンドマネジャーらと違う一般個人投資家の最大の優位点は、割安感でも割高感でもないようなレンジでは中途半端に手を出さずに1年でも2年でも休んでいられることだ。次に日本株の買いに動くのは、この修正積立法のシグナルを見ながら、おそらく次の景気後退時になるだろう。」

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補足: コラムには長くなり過ぎるので書きませんでしたが、GPIFに関する私の懸念は、彼らが日本株式の保有比率を高めたのは、私の提示した投資法が「売り局面」のシグナルを出した(そして私も売った)2014年~15年だということですね。
GPIFは規模がマンモスで運用は長期ですから、本来は長期逆張り投資に最も適したファンドなんですが、そういう様には動けていない・・・GPIFの場合、ポートフォリオの変更が何か月も前から議論されて決定されてから、ようやく動けるという制約は確かにあるんですがね。

追記(5月21日):本日の日本経済新聞「M&I 2:解決!お金ゼミ、じっくり資産運用」で、私の「修正積立投資」が紹介されています。紙面の制約で図表は掲載されていませんが、直近のトムソン・ロイター・コラムで詳しく説明したものと基本的に同じです。
記事引用:
「筧: 実はもう一工夫すれば、積み立て投資で含み損を抱える期間を短くして、運用成績を上げることが期待できますよ。
岡根: そんな方法があるのですか。

筧: 龍谷大学の竹中正治教授が「修正積み立て投資」を提唱しています。資産価格があらかじめ自分で決めた水準より下がったときに一定量を買い増し、上がった時に売却する方法です。例えば毎月1万円ずつ積み立てるのに加えて、価格の5年移動平均線を20%以上上回った場合に5万円分を売り、20%以上下回った場合は5万円分の買いを入れることにします。

宗羽: つまり高値で買う量を減らし、安値で買う量を増やすわけですね。
筧: この方法を先ほどの日本株に積み立てる場合に当てはめると、累積投資額781万円に対し、売却益を含めた資産額は約1090万円とおよそ4割増になります。高値売りはしないで、安値の時だけ買い増すなど自分なりに応用する手もありますね。」



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1ドル=100円台前半まで円高になるとすると、その時株価は?
1ドル=103円、TOPIX=1089、日経平均=13,380円!

ドル円相場の変化と日本株の動きは2000年代以降高い相関関係があります(円安ドル高→日本株高)、とりわけアベノミクス始動後の2013年以降、その相関性は著しく、TOPIXとドル円相場の前年同月比のデータで関係性を計算すると、相関係数0.90、決定係数0.81となります。下図参照
これはドル円相場の変化でTOPIXの変化の81%が説明できてしまう程の関係性の高さです。

ドル円相場については、1ドル=100円台前半の短期予想も次第に増えてきましたね。

そこで近々に1ドル=103円時のTOPIXの値を、上記の関係性から得られる回帰式で推計すると、前年同月比35%の下落で1089となります。これは日経平均で言うと、13,380円となります。今日は16,000円前後ですから、ここからさらに16%ほど下落することになりますね(^.^)。

これを聞いて、真っ青(゜o゜)になられる方は、絶叫される前に損切りでも、ヘッジでもなされた方が良いかもしれません。もっとも上記の推計の前提となった関係性は不変ではなく、変化するものです。
念のため。


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