たけなかまさはるブログ

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2017年06月

東証REIT指数と株価指数TOPIXとの相関関係は今まで幾度もやってきた。現物の不動産価格と株価指数の間にもある程度の相関関係があることは感じていたが、実際にデータで計測したことはなかった。

そこで中古のマンション価格指数として利用している「不動研住宅価格指数(東京の中古マンション価格)」とTOPIXの関係性を見てみた。図1がそれぞれの水準の推移である。 90年代初頭のバブル崩壊以降2000年代前半まで、中古マンション価格はほぼ一方的に下がっている。 その後は株価とほぼ同様に景気循環を反映した波を描いているように見える。

不動研住宅価格指数:http://www.reinet.or.jp/?page_id=14347
引用: 「「不動研住宅価格指数」は、株式会社東京証券取引所の「東証住宅価格指数」を引き継ぐもので、公益財団法人東日本不動産流通機構より提供された首都圏既存マンション(中古マンション)の成約価格情報を活用し、同一物件の価格変化に基づいて算出された指数です。」データは93年6月から。

そこで双方とも前年同月比のデータで散布図を描くと、興味深いことに2004年まではほとんど関係性が見られない。ところが2005年以降になると、かなり高い正の相関が出た。決定係数0.415、相関係数0.644である。

しかもTOPIXの変化は中古マンション価格指数の変化に6か月先行している。 例えば2013年初にアベノミクスで株価は急騰を始めていたが、現物のマンション価格の上昇は数か月遅れて始まった。

当時は私はロイターコラムで「REIT高騰に続くか、マンション投資の鉄則」(2013年4月)を書き、その中で「結論として、今の局面で合理的な投資選択は、すでに著しく割高になったREITから、まだ相対的に割安に放置されている個別不動産物件にシフトすることだろう」と指摘した。

実際2013年後半からマンション価格は上がりだし、私の指摘は的中した。もっとも私はマンション価格がまだ安値圏で停滞していた2012年に3000万円~4000万円クラスの物件(区分所有)を銀行借り入れで2戸買い増したので、2013年にバタバタと買うようなことはしなかったが。

また、東京の中古マンション価格は2016年まで上昇した後、2016年後半には下げの兆候が出ていたのだが、2017年に入って直近3か月ほどのデータでは再び持ち直している。これは昨年後半、特に11月からの株価の持ち直しを反映したものだと考えれば腑に落ちる。

なぜ2005年からなのか?
90年代から2004年までの期間について株価と中古マンション価格の相関がないのは、ひとえにマンション価格が一方的な下落トレンドにあったからだ。その主因は、銀行の不良債権処理が長きにわたった結果、マンションも商業ビルも担保処分という売り圧力にさらされていたからだろう。 

銀行は大手銀行を中心に2003年3月決算で大規模な不良債権処理を行い、2004年には不良債権処理の山場が終了したことが明らかになり、市場の雰囲気はがらりと変わった。その結果、2005年以降は、中古マンション価格も株価と同様に景気循環を反映して波を描くようになった。このように理解すれば、両者の相関が2005年以降生じていることが納得できる。

なぜ株価が6か月先行するのか?
なぜ株価の変化は中古マンション価格の変化に平均6か月の先行性が見られるのか。その理由は第1に上場株式の売買流動性は現物のマンション売買に比べて遥かに高いからだ。マンションは売るのも買うのも最低2~3か月の時間が必要だ。

第2は、株式とマンションの間には多少タイムラグを伴った代替性があるからだろう。例えばある不動産の専門家はこう言っている。「株価の上昇で増えたお金の一部は、確実に不動産市場に流れ込むのである。もちろん、その逆もある。ただ、私の個人的な感覚では、不動産で儲かったお金で株を買う人よりも、株で儲けて不動産を買う人の方が多いと思う。私の周囲でも、そういう例をたくさん見てきた」(榊淳司「2025年東京不動産大暴落」イースト新書、2017年6月)

わたしの場合は2013年からの株価の上昇で得た資金で、2012年に買ったマンションのローンを期限前返済した。

TOPIXともっとも相関の高いのは東京の中古マンション価格
また、不動研住宅価格指数に見る限り、TOPIXと関係性が高いのは東京の中古マンション価格指数であり、神奈川、埼玉になると関係性は低下し(決定係数で0.3前後)、千葉になるとさらに落ちる(同0.2弱)になる。 

東京のマンションの「金融資産化」を意味するのか?
以上のことは、東京のマンションの「金融資産化」を意味するののだろうか。そういう表現は可能だろう。 株価もマンション価格も、不況の時は投資家は先行きに悲観的になり、リスク性の投資をする際のリスクプレミアムを引き上げる。その結果、資産価格は長期の趨勢よりも低下する。逆に好況の時は、楽観的になり、リスクプレミアムを引き下げる。その結果、資産価格は割高になる。この点では両者は共通している。

最後に重要なのは、平均数年サイクルの景気循環より大きな、90年代のバブル崩壊を契機に起こったような構造的な変化にも備えることだ。その点で、今は株価と一緒に値を上げているマンション価格が今後10年ぐらいでどうなるか、実に興味深いステージが控えているように思える。


追記(6月22日):以下の論考も参考になる。
「2022年、住宅バブル崩壊でマイナス価格も」
「不動産の9割が下がっていく」
えっ、こんな怖い話ばかりでは、マンション投資なんてできなくなる?
(^m^)

図1
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図2
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主要先進国経済パフォーマンス比較、危機前と危機後の比較

以前、金融危機前(2000-07年)と危機後(2010-16年)の主要先進国の一人当りGDP成長率の変化を示した図表を掲載、コメントしたことがある。以下

今回、一人当りGDP成長率に加えて、平均失業率の変化を加えた図表を作成してみたので、掲載してコメントしておこう。

データ:IMF World Economic Outlook Data base, April 2017 
対象期間:2000-07年と2010-17年(17年データは見込み値)
対象国:比較的経済規模の大きな主要先進国12か国

これで見ると、危機前と危機後を比べて、失業率が低下し、かつ一人当たり成長率が上昇した国は、日本だけである。

南欧系の諸国が失業率、一人当り成長率とも悪化しているのはイメージ通りだ。 ドイツは失業率は大きく改善したが(9.3%→5.2%)、一人当たり成長率は1.7%→1.5%とわずかながら低下している。ドイツは2013-17年で見ると、失業率は4.6%と改善傾向だが、一人当たり成長率は0.8%にさらに低下している。 移民人口の増加でドイツはGDP成長率はやや高めなのだが、一人当りの付加価値生産額は低下しているのである。

米国は失業率が悪化(5.0%→6.9%)、一人当り成長率は1.7%→1.4%とやはり若干の低下である。
一方、日本は失業率が4.7%→3.9%へ改善、一人当り成長率は1.4%→1.5%(0.17%アップ)とわずかながら上昇している。

日本の失業率は今年3%も割れて、2%台に入り、1990年代初頭の水準にまで低下しているのは報道されている通りだ。ところが、この安倍政権下での失業率の低下は2013年前後に65歳を迎えた団塊の世代に引退によるもので、景気の実態は回復していないと揶揄する人達も一部にいる。

しかし私を含むエコノミスト諸兄姉が指摘している通り、2013年以降の失業率低下は雇用数の目だった増加を伴っており、景気の回復は明らかな事実である。

引用:「現下の人手不足は本当の景気の回復によるものではなく、2013年前後に65歳の定年を迎えた団塊の世代の引退によるものだと語る人々が一部にいる。それは全くの事実誤認だ。その主張が事実なら、人手不足は雇用の減少を伴っているか、少なくとも雇用は増加していないはずである。
確かに2010年1月―12年12月の3年間については、わずか13万人の雇用増加だった。ところが、2013年1月―17年3月の期間については253万人の雇用増加だ。すなわち2013年以降の人手不足は明瞭な雇用の増加を伴って生じている。」 (竹中正治 ロイターコラム 2017年6月2日)

と、まあ、ここまでは「過剰な悲観論に流されるのは、いい加減お止めなさい」という毎度のメッセージである。

ただし日本経済の弱点もある。 これも繰り返し強調してきたことだが、現下の日本経済の弱点は、雇用、企業利益双方の大幅な改善にも関わらず、賃金の伸びが抑制され過ぎていることだ。 失業率が2%台に下がってきたことで、「いよいよこれから賃金も上がる。そして物価も上がる」と期待する方々もいる(日銀黒田総裁、日銀政策委員会審議委員の原田泰氏、高橋洋一氏)。

しかし私は日本の上記直近のロイターコラムで述べた通り、日本の労働市場は1990年代後半の金融危機を伴った不況を境に、構造的な変化(労使の賃金交渉の姿勢や正規、非正規比率などの変化)を起こしており、失業率が90年代以前の水準に下がっても、賃金は90年代以前のように上がらないだろうと慎重な(悲観的な)見方をしている。 この点、どちらが正しいか、1年ほど経ったら、レビューしてみよう。


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