本日(12月24日付)日経新聞が「安倍政権、5年間でこう変わった」と題する図表を掲載しているので、それに関連してコメントしておこう。(上段の図表)

まず図表のデータには雇用に関する以下の変化も加えておきたい。

実質雇用者報酬総額 253.8兆円(2012/4Q) → 265.1兆円(2017/3Q)(11.3兆円増加)

総雇用者数 5551万人(2012/4Q)→ 5839万人(2017/3Q)(288万人増加)
(変化の内訳については、中段の図表をご参照)

 失業率 4.2% → 2.8%(1.4ポイント低下)

言うまでもなく、すべての変化が、安倍政権の政策の結果であるわけではない。例えば少子高齢化による人口減少などは5年程度の政策で目立った変化が生じるものではないからね。

しかし、これまでのいくつかの量的金融緩和の実証分析をベースに考えると、円高の修正やそれに伴う企業利益の増加、株価上昇、雇用の増加などは安倍政権の下でのリフレ政策で(少なくともそれを契機に)生じた変化だと評価できると思う。

ところが、「でも、景気回復の実感がない」という言い方が最近のメディアやアンケート調査の枕言葉の様に使われている(例えば以下の朝日新聞アンケート)。

こうした実感がないという声に関連して、TVなどでは経済評論家が「実質賃金が上がっていませんからね」とかしたり顔でコメントしている。

それならば、以上の雇用、所得、株価の変化が全部逆に動いた場合も「景気後退の実感がない」と言えるのかな? そうじゃないだろ。逆の場合は大さわぎするんだろ。
戯言にしか聞こえないね(^m^)

そう思って聞捨てることもできるんだが、こうした感覚や言説が出回る背後の事情を考えてみようか。

第1は、人間の損失と利得に関する感覚は非対称で、損失する場合は利得の場合の数倍も痛みを感じるということなのだろう。行動経済学でよく知られていることだ。

第2は、世代によってこの面での反応はかなり違ってくることが考えられる。つまり、若手、現役層は過去5年の変化について「就職、転職しやすくなった」とポジティブな反応をする傾向が高いだろう。

一方、既に引退して年金と預貯金の取り崩しで生活している高齢者(そうでない高齢者もいる)は、「年金が減るのか」という不安を抱え、またリフレ政策で物価が本当に上がり始めると、預貯金の実質購買力は減少するからネガティブな評価に傾斜するのだろう。 もちろん、高齢者層でも金融資産を株式などで保有している層は、株価上昇の恩恵を感じているはずだが、そういう方は富裕層などに限られるはずだ。

第3に、都市部と地方の地域格差もこの点でかなりあるだろう。

第4に政治的なバイアスが、「実感がない」の声の拡声器として働く。

最後の点として、景気回復が続いていると言っても「80年代に比べると所得の伸びがずっと低いから実感わかないのは当然」と考える人達もいるだろう。では、逆に80年代に人々は今よりもっと楽観的で経済成長を実感していたんだろうか?

この点で消費者の楽観・悲観のマインドをアンケート調査した「消費者態度指数」(内閣府)の推移を見ると興味深い事実が浮かび上がる。(下段の図表)

消費者態度指数の仕組みについては、以下のサイトをご参照願いたいが、要するに目先について楽観的な人と悲観的な人が半々だと50、楽観派は多いほど100に近づき、悲観派が多いとゼロに近づくようになっている指数である。

これを見ると指数は2013年に跳ね上がった後、14年に下落、底を打った後、じわじわ上がって、現在の水準は44.5(10月)である。 一方、80年代はもっと高かったかというと、データのある1982年から89年までの平均値は実は46.6で、現状と大した変わりはないのだ。

要するに、日本の消費者の楽観・悲観というマインドは、「実質所得の伸び率」という客観的な事実よりも、もっと別の事情に左右されて動いているということだろう。


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追加図
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可処分所得と調整可処分所得の違いについては、以下参照。