たけなかまさはるブログ

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2018年01月


ご承知の通り米国株の歴史的な高値更新が続いている。「買いたいけど急落が怖くて買えない」あるいは「下落場面を買おうと思っているが、大きな下落がないので買えないまま」という投資家も少なくないだろう。 図表1参照。

たしかにリーマンショックの局面では、S&P500は2007年7月の高値から09年3月の安値まで約50%下落している。円建てで見ると、その時のドル安円高で下落幅はさらに大きかった。 リーマンショックのようなことがそうそう何度も起こるわけではないが、株式は過去大きな下落を繰り返している。 今は景気回復が継続し、今年は巡航速度からの上振れも期待されているが、いずれ景気後退局面になれば、大きな下落は不可避だ。

今年の1月のロイター・コラムに1950年以降の米国景気と株価の変動について以下の様に書いた。

引用:「景気後退が始まった場合、米国株価はどの程度その時の高値から下落するだろうか。1950年までさかのぼって景気回復期の高値から景気後退期にS&P500株価指数がどの程度下がるか見ると、景気回復期の株価の高値から景気後退期の安値までの下落が10回、さらに景気後退にはならなかったが、30%以上の下落が起こったことが2回(1987年と2002年)ある。直近高値からの平均の下落率は31.2%、下落率最大は49.9%(1973―74年)、最小は14%(1959―60年)である

 下落し始めたら売って逃げよう」と考えているのは、短期売買のトレーダーか素人筋だけだ。ちょっと下げ始めたからと言って、それが大きな下落への助走なのか、単なる一時的な小反落なのか、リアルタイムで知る方法などないからだ。 

 30%前後の株価の下落に耐えられないようでは、そもそも長期投資として株式投資をする資格はないのだが、まあ、ここはそう言わずに米国株を対象にポートフォリオの変動リスクを緩和しながら、ある程度高いリターンを確保する定石をご紹介しよう。

 別に特別なことではない。内外の株式から債券までポートフォリオに抱えている機関投資家ならみな承知していることだが、個人投資家でそれを理解して利用している人々は稀だ。

 まず米国株はS&P500に連動するETFを持つとしよう。また、債券は価格と利回りは逆に動き、償還までの期間が長いほど1%の利回りの低下(上昇)がもたらす価格の上昇(下落)は大きくなる。そして景気後退時には、金融が緩和されて利回りが低下するために長期債券価格は上昇する。

 したがって株式と同時に長期固定クーポンの債券を保有していれば、不況時の株価の下落をある程度ヘッジできる。 具体的にそれを示したのが第2図である。 S&P500連動ETFのIVV米国長期国債連動のETFであるIEFの配当込みの資産価格の推移を示した。

 IVVは2007年のピークから09年の底まで約50%下落しているが、IEFは約30%上昇している。したがって双方半々の比率で保有していれば、当時のポートフォリオ価値の減少は約20%で済む。リスク許容度の相対的に小さい人はIEFの比率を上げれば、リスクを低下できる(ただし長期のリターンも低下する)。 

図表2に示した黄色線がIVVとIEFを50:50にした合成ファンドの時価の推移である(全て配当込み)。つまり双方のETFを半々保有すれば、リスクを低下させながら、相対的に高いリターンを得られる。

図表3はIVVとIEFの全年同月比の変化の関係性を示したものだ。負の相関で相関係数は
-0.493である。 
 
図表4に各ETFと比率を変えた合成ファンドのリターン、リスク、Sharp Ratioを計測して(月次データ)一覧にした。 Sharp Ratioというのは、(当該資産のリターン-無リスク資産リターン)/リスク量で計算されるもので、リスク対比のリターンの高低を示すものだ。これを見ると、債券ETFと株式ETFで
50:50程度が最もSharp Ratioが高そうだ。

私自身はリーマンショック時には、S&P500のETF(iShares)と2006年秋に買った米国10年物国債(ゼロクーポン債、利回り5.1%)を60:40(株が60)で持っていたので、株式の評価損を緩和することができた。 

またドル相場の下落については、保有するドル建て金融資産(株と債券)に対してFXで90%比率でドル売りヘッジ持高をキャリーしていたので(キャリーコストはかかったが)、1ドル90円程度までの損失は大半回避できた。その後は分割して買い戻し1ドル80円割れでヘッジゼロにした。 こうしたことは今までの私の著作で述べて来たとおりである。

S&P500 ETFの中核持高は取り崩さずに継続しているが、現在は長期米国債は保有していない。これまでは長期金利が低過ぎる局面だと思っていたからだ。米国の景気回復がもうしばらく続いて10年物利回りが3%に絡んできたら、個別の長期債か、あるいはここで紹介した長期債券ETFを買って利回りを取りながらヘッジに利用しようと思っている。

またドル資産に対する為替のヘッジ率は約90%前後で、110円前後ではあまり動かすつもりはない。為替のヘッジ操作については、昨年のロイターの以下の論考をご参照頂きたい。

ETFについては、S&P500連動ETF(円ベース、為替リスクヘッジなし)は以前から東証で上場されている。米国長期国債連動のETFも昨年から東証で上場されている。以下の東証ETF一覧をご参照頂きたい。

最後に、日本については10年物国債利回りが金融政策で未だにゼロ近辺なので、長期債券の株式持高に対するヘッジ効果は、残念ながら期待できない。

 
図表2
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図表3
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図表4
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今日のニュースで年金給付の支給開始年齢を70歳超からも可能にする選択肢を設けることを政府が検討するという記事に目を引かれた方は多いであろう。


日経新聞記事引用:「政府は公的年金の受け取りを始める年齢について、受給者の選択で70歳超に先送りできる制度の検討に入った。年金の支給開始年齢を遅らせた人は毎月の受給額が増える制度を拡充し、70歳超を選んだ場合はさらに積み増す。高齢化の一層の進展に備え、定年延長など元気な高齢者がより働ける仕組みづくりも進める方針だ。2020年中にも関連法改正案の国会提出を目指す。

 現在の公的年金制度では、受け取り開始年齢は65歳が基準だ。受給者の希望に応じて、原則として60~70歳までの間で選択できる。受け取り開始を65歳より後にすれば毎月の受給額が増え、前倒しすれば減る仕組みだ。

 現行制度では、受給開始を65歳より後にすると、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ毎月の受給額が増える。例えば66歳で受け取り始めた場合、65歳から受け取るよりも月額で8.4%上乗せされる。いまの上限の70歳まで遅らせた場合は、受給額は同42%増える。」

 この記事を読んで、「では自分は何歳から受け取るのが一番得なのだろうか?」と考えたはずだ。
基礎年金について人によって異なる税効果を考慮しない場合、それを決定する変数は2つである。
第1は自分が何歳まで生きるかの余命である。これはだれでもわかる。 第2は自分の消費に関する時間割引率(discount rate)、あるいは年金受け取りというキャッシュフローに関する期待投資リターンである。

 将来にわたるキャッシュフローの価値は、割引率で割って現在価値を計算することで判断できる。これは2013年の弊著「稼ぐ経済学」がメインテーマとして扱ったことだ。 年金についても名目で生涯の受取累積額を計算するだけではなく、現在価値にして判断するのが合理的だ。

 この場合、割引率が高いということは、例えば同じメシでも、明日のメシよりも今日のメシの価値がずっと高いという人は、時間割引率が高いことになる。あるいは年金をもらっても当面は消費せずに運用する場合は、期待運用リターンが高いと割引率も高くなる。

 そこで基礎年金について計算したのが以下の3表である。上段の表は割引率ゼロの場合である。この場合は名目価値=現在価値である。横軸が年金受給を開始する年齢であり、縦軸は死亡する年齢とその時までの受給金額の累計である。各死亡年齢において累計受給額が最大となる受給開始年齢とその受取累計額を黄色でカラーにした。

 これで見ると、割引率ゼロの人は、70歳まで受給開始を遅らせた場合は85歳以上生きれば、累計受給額(名目=現在価値)が最大になる。つまり、あなたは年金ゲームに勝ったことになる。

 一方、中段の表は割引率が2%、下段は割引率が5%の場合である。割引率が高くなるほど、名目で同額でも現在に近い受取の現在価値が相対的に大きくなるので、早めに受給を開始した方が有利(累計受給額の現在価値が大きくなる)になる。

 以上の試算は、基礎年金のみであり、人によって様々に異なるそれ以外の年金部分(企業年金部分など)は勘案していない。また税効果も勘案していない。 税効果を考えると、60歳代後半でも年金以外の勤労所得が多くある人は、そこに重ねて年金を受け取ると税率が高くなる可能性が高い。また、将来、年金給付額が変わるという制度変更があれば当然結果は変わる。

 まあ、結局のところ自分は何歳まで生きるかという不確実な変数に依存する度合いが高い問題である。元気でピンピンしていても、事故や病気で突然死ぬかもしれないからね。


追記:2月1日  加筆補足したものが現代ビジネスに掲載されました。表は一部微細ながら計算の間違いがあったので微修正されています。以下サイト
訂正: 受給を遅らす場合の増額は年8.4%、繰り上げる場合の減額は-6%でした。また、65歳をベースにして増額は1年8.4%、減額は1年6%の実額を計算した後、70歳、あるいは60歳まで同実額で増減するという方式です。掲載表はその計算で求めた実額をベースにして作成したので、結果は間違ってないようです。



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現代ビジネスに寄稿した論考が掲載されました。

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結論部分抜粋引用:「2018年の日本経済は、「朝鮮半島での有事」というリスク要因はあるものの、安倍政権下での景気回復が続く見込みだ。
...
そうなると景気回復の期間は73か月となり(前回の景気の谷は2012年11月)、低成長ながらも戦後最長だった2002年1月から08年2月までの景気回復期と並ぶ長さになる。

しかし長い景気回復にも係らず、現下の景気回復は2000年代同様の重大な弱点を孕んでいる。そのため、再び世界景気の回復が頓挫すれば大きな後退を余儀なくされよう。そうした脆弱性とその原因についてご説明しよう・・・」

「では、何が日本の自律的な景気回復を阻んでいるのか。ひとことで言うならば、民間企業部門の過剰な貯蓄超過である。図2をご覧頂きたい。」

「企業利益が史上最高を更新し、株価が上昇を遂げている現在、日本経済が消費を中心にした自律的な回復に転換するために必要なことは、もはや明白だ。

すなわち企業部門の過剰な貯蓄超過と言う不均衡が是正され、賃金や配当の形で家計への所得の移転が起これば良いのだ。あるいは人手不足が深刻化した今日、AIの利用を始め機械化によるビジネス・イノベーションのための設備投資も有望だ。

この点で2000年代と違った希望の芽もないわけではない。図1に示した通り、2006年以降の第3期には、雇用の増加で雇用者報酬が年率プラス2.3%と高い伸びをしていることだ。

ただし1人当たり賃金(1人当たり現金給与総額)の伸び率は微弱で、ほとんどは雇用者数の増加によるものだ。景気の回復で失業率が下がり、さらに女性の労働参加率が上がり共働き世帯の増加や、高齢者の労働参加率が上がった結果である。

賃金の伸びが抑制されているためだろうか、消費者のマインドを示す内閣府の「消費者態度指数」はジリジリと改善はしているが、依然先行きには警戒的な消費者が多いのだろう。

そうした事情が2006年以降の実質雇用者報酬の高い伸び(年率平均プラス2.3%)と相対的に低い最終家計消費の伸び(年率平均プラス0.9%)という跛行的な状況を生み出していると考えられる。 

こうした問題状況は現政権も理解しており、賃金と設備投資を増やした企業には法人税率を引き下げる税制面の優遇処置を打ち出している。これまで強い賃上げ要求に及び腰だった連合もようやく4%(定昇込み)を掲げ、経団連も賃上げ3%の方針を検討しているそうだ。

労働市場の流動性を高め、高い専門能力を有する人材を優遇する方向への労働規制改革が、連合などの抵抗でなかなか進まない点に歯がゆさもあるが、マクロ経済的には順風が吹いている。

この順風の局面を活かして、本当に内需主導の自律的な景気回復パターンが始まるか、あるいは海外景気依存の脆弱さを克服できないまま終わるか、2018年の日本経済はひとつの分岐点に差しかかっていると言えよう。」

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毎度のロイター・コラムです。本日夕刻掲載されました。

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結論部分の抜粋:「私は2018年の実質成長率は2.5―3.0%になるだろうとイメージしている(2000―16年の平均は2.0%)。株価が2017年末時点で減税による企業利益の押し上げ効果をどの程度織り込んでいるかについてはなんとも言えないが、おそらく株価もまだ高値更新を続けるだろう。

しかし、大局観としては2009年を底にした米国の景気回復はいよいよ「成熟局面」に入ったと言えるだろう。長期投資の要諦は「陽(陰)の時に陰(陽)の兆しを見る」である。米国の次の景気後退は、トランプ政権の後半である2019―20年のどこかで始まると、これまで大づかみに考えてきた。
今回、もう少しきちんと検討した結果、次期景気後退の始まりは2020年の前後1年というめどが立った。また、景気後退が始まった場合、どの程度の株価下落が起こり得るかも考えておこう。」

「1950年までさかのぼって景気回復期の高値から景気後退期にS&P500株価指数がどの程度下がるか見ると、景気回復期の株価の高値から景気後退期の安値までの下落が10回、さらに景気後退にはならなかったが、30%以上の下落が起こったことが2回(1987年と2002年)ある。直近高値からの平均の下落率は31.2%、下落率最大は49.9%(1973―74年)、最小は14%(1959―60年)である。

もちろん、次の景気後退時の株価下落が、いつ起こり、どの程度になるか、合理的にピンポイント予想する手法はない。景気後退時に大きな下落があり得るからと言って、米国株の投資残高を慌てて手じまいする必要もない。米国株価指数での定額積立投資をしている場合には継続するのが良いだろう。景気後退が始まるまでにまだ相応の時間があり、それまでに米国株がどこまで上がるか、事前には予想困難だからだ。

最も重要なことは大きな下落が起こっても、そこは絶好の買い場であり、米国の株式市場では長期にわたる「buy and hold」(長期保有)戦略が有効であることだ。「米国資本主義はもうおしまいだ」と言わんばかりの悲観論を声高に語る筋がまたぞろ出てくるだろうが、惑わされてはいけない。2008年のリーマンショック時にも、私は各種の著作の中でそう説き、自らも実践した。次の景気後退時の方針も同様である。」

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