facebookで友達つながりのある上念司さんが、「虎ノ門TV」とかで私のマンション価格・賃料図表を引用・紹介しながら、「不動産価格の下落の始まりが近づいているぞ~竹中正治さんの予想は良くあたるぞ~」と「大予言」をしたことから、facebookでお友達申請が少し増えたようだ。

「虎ノ門TV」あるいは「虎ノ門ニュース」なるものについては、私は全然知らない。同TVのサイトを見るとなにやら凄い右派系の識者が並んでいるような感じもするが、私の単なる気のせいかもしれない。

図表の解説については(私の過去の複数の著作の中で繰り返し語ってきたことだが)、番組の短い時間の中では十分な内容ではなかったようなので、ブログで改めて解説しておこう。

Price Rent Ratio

図表1が、一般財団法人不動産研究所の「不動研住宅価格指数」として公表されている東京の中古マンション価格指数(赤線、以下「マンション価格指数」)、並びにアットホーム株式会社が公表しているマンション賃料インデックス(東京)(緑線、以下「賃料指数」)に基づいたグラフである。 またブルー線はマンション価格指数を賃料指数で割ったPRR(Price Rent Ratio)である。これは株価収益率(PER=株価/一株当たり利益)に相当するものだ。

資産のファンダメンタルな価値とは、それを所有することで得られる将来にわたる純所得(株式なら配当、住宅など不動産なら賃料)の現在価値の合計である。ところが株価の将来にわたる配当は実に不確実で、予想の信頼度は低い。

ところが住宅の賃料は企業利益に比べると実に安定しており、その長期的な平均伸び率は日本でも米国でも物価上昇率に近い。 なぜ安定しているかと言うと、住宅賃料は家計所得から払われ、家計所得の変動は企業利益の変動よりもはるかに安定的だからだ。

一方、住宅価格の変動は賃料よりもずっと変動する。つまり賃料キャッシュフローから計算されるファンダメンタルな価値から大幅に過大評価にもなるし、過小評価にもなる。 なぜ価格の変動性が大きいかと言うと、その購入がローンで払われる場合が多いからだろう。 月々の家計所得から払われる賃料は大きく変動し難いが、価格はローンであがなわれる場合が多いので、価格が大きく上昇してもローンを増やすことで買ってしまう購入者が多いからだ。つまり金融レバレッジの伸縮に強く依存して変動するのだ。

そこで価格を賃料で割ったPRRを計算し、その長期的な平均値からの乖離を見れば、マンション価格の割高・割安が見抜けるという仕掛けである。このことに気が付いたのは米国勤務時代に2006年頃、米国の住宅価格はもうバブルじゃないかと調査レポートなどを読んでいた際に、住宅価格指数(代表的にはS&P/Case/Shiller Index)を賃料指数で割った図表を見た時である。 

まとめると、
ブーム、あるいはバブルの時:PRRは長期的な平均値から上方に乖離する。
不況、あるいはバブル崩壊時:PRRは長期的な平均値から下方に乖離する。

というわけで、PRRが下方乖離した時が買い時、上方乖離した時は売り時を教えてくれるシグナルとなる。 私がマンション投資を始めたのは1998年であるが、この図表の作成、継続的なモニターを始めた2007年以降は、ほぼこのPRRの波に従ってマンションの売買を行ってきた。

つまり2007年は売り、09年は買い、2012年は再び買い、2015-17年は売りである。現在はローンの返済を終えた中核ポジションとしての複数のマンションを残して後は売り、キャッシュ残高を膨らませて次の買い時(不況)を待っている状態だ。

図表1は時々更新して私のホームページで公開している。

ただしPRRは割高・割安のシグナルにはなるが、価格がいつ下落や上昇に転じるかは分からない。この点は誤解のない様にお願いしたい。

在庫件数/成約件数比率
マンション価格の上昇、下落を一歩早く知るような仕掛けは可能だろうか? そのひとつは図表2である。これは上記のマンション価格指数と、レインズタワーが公表している中古マンション(東京)の在庫件数と月次成約件数で作ったグラフだ。 

見て分かる通り、マンション価格指数の前年同月比の変化は、在庫件数を月次の成約件数で割った比率(12か月移動平均値)(図表上逆メモリ)と高い負の相関関係がある。つまり在庫件数/成約件数が上がり始めると価格は下がり始めるということだ。

現在の状況は、在庫件数/成約件数比率がじわじわと上がる(逆メモリ)状況下、2013年以降前年比でプラスだった価格指数の伸びがゼロ%近傍に下がってきている状況だ。

マンション価格に対する株価の先行性
マンション価格の先行きに関するもうひとつの手掛かりは、価格指数の時系列分析から得られる。手短に言うと、上記のマンション価格指数の前年同期比の変化は、①賃料指数、②株価指数(日経平均)、③長期金利(10年物国債利回り)の各前年比の変化の3つの変数で回帰分析すると、有意な結果が得られる(説明度を示す決定係数R2=0.49 期間2002-18)。

この回帰分析から得られるポイントは、株価(日経平均)はマンション価格指数の変化(前年同期比)に対して約6か月の先行性があることだ。 つまり株価がど~んと上がれば(下がれば)、約6か月遅れて東京の中古マンション価格は上がりますよ(下がりますよ)ということだ。

景気動向
要するにマンションの買いは次の不況時まで待ちなさいということで、次の不況はいつか?ということに尽きる。大雑把な予想だが、私は次の米国の景気後退は2020年±1年に始まると予想しており、日本もそれに連れて景気後退となるだろう。 慌てる必要はない。それまで気長に待てば良いのだ。

逆にもし借金パンパンでマンション・アパート投資をしている方の場合は、それまでに売っておかないと痛い思いをする可能性が高いですよということでもある。



図表2
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