さて、先日facebookで取り上げた篠原滋氏(元野村証券G)の日本株投信については、過去3年~5年、アクティブファンドの運用平均がインデックスファンドの成績を上回っているという指摘について、「それはおかしいでしょ」という批判をしておこうか。

 

1、リスク調整後のリターン比較でないと意味がない。

アカデミズムでの金融・投資研究も含めて、投資の成績は単純なリターンの相違ではなく、リスク対比でのリターンで行うことが常識だ。先物を使うか、借り入れを使うか、手段はともかく金融レバレッジを上げればリスクの上昇を代償にリターンは簡単に上がるからね。この方はその点を承知のはずなのに無視している。

 

リスク対比でのリターンは一般に「シャープレシオ=(投資リターン-無リスク資産リターン)/リスク」で計算される。リスクは投資資産のリターンの変動性の標準偏差を計算し、リターン同様に年率換算するのが一般的だ。以下、日本では無リスク資産リターンとしての短期国債利回りは長年ゼロ近辺なので、ゼロとして計算した。

 

図表1は、Morningstarのサイトからとった国内株式対象の投資信託のインデックスファンドと非インデックスファンドの過去3年間のリターン、リスク、シャープレシオだ。リターンでもシャープレシオでもインデックスが上回っているのがわかる。

 

2、購入時手数料、反映していないよ。

同氏は保有期間に比例してかかる信託報酬差し引き後のリターンで比較しているが、当然ながら購入時手数料もネットリターンの違いをもたらす。ただし近年は同じ投信でも販売窓口の違いで購入時手数料が違うから、単純な比較が難しい。しかしアクティブ型投信(非インデックス)の購入時手数料は概ね2~3%(平均2.5%前後?)、インデックスは0.5%(?)以下程度が普通だろう。

 

したがって、5年保有するとすると、販売時手数料の相違は平均で0.4%(=2.0%/5)、3年保有なら0.67%(=2.0%/3)ほどアクティブ投信のリターンをさらに相対的に押し下げる。

 

3、TOPIX連動だけが日本株のインデックス投資ではないよ。

同氏のデータでは、シャープレシオではなく、単純なリターンのみの比較でも過去3、5年インデックスが負けている結果が提示されていたが、その理由は、インデックス投信としてTOPIX連動型のみを抽出したからだ。(図表2)

 

過去3年ほど、TOPIXに比較して日経225のリターンが顕著に上回っており、同氏は日経225を除くことで「インデックスファンドの負け」を演出しているのだ。

 

全上場銘柄の加重平均値で計算されるTOPIXのロジカルな明瞭さに比べると単純平均法でありながら、やや複雑な調整法を採っているのが日経株価指数ではあるが、日本株を代表するインデックスとして外されるのは公平ではないだろう。

 

日本ではTOPIX連動と並んで日経225連動がインデックス投信として大きなシェアーを締めている。これを除外するするのは「インデックス自体との比較ではなく、実際のインデックスファンドと比べてみる必要がある」という同氏自身の主張に反するであろう。

 

4、小型株優位のアノマリー?

また日経新聞の田村さんから「小型株優位の効果で非インデックスのリターンが上回っているのでは?」と言う趣旨のコメントがあった。私も日本の2000年代以降の長期で見ると、小型株優位のアノマリーが存在しているのは承知していたのでそうかと思ったが、過去3年で計算すると、非インデックス投信のリターンに小型株優位は消えている。(図表3)

 

5、検証期間が短すぎる。

この種の投資パフォーマンス比較は、アカデミズムも含めて米国では遥かに沢山行われているが、十分に長期の成績を見る必要があり、最低でも10年かそれ以上の比較が常識的だ。同氏の3~5年の期間は妥当な比較をする期間としては短すぎる。

 

6、生存バイアス?

今存在する非インデックスファンドの成績には、成績不振で途中で消えたファンドの成績は反映されていないという「生存バイアス」で押し上げられているというコメントもあった。まことにごもっともなのだが、現在開示されているデータでこの点を補正することはできないので、今回は検証外とせざるをえない。3年程度の短期では、このバイアスはあまり強くないだろう。

 

結論

というわけで同氏の「インデックス相手にアクティブファンドは負けていないor 優っている」という主張は公平、妥当性に欠ける。やはり「高い手数料のアクティブ投信を買わせたい」という業界利害のバイアスが背後に隠れていると感じざるを得ないな。

問題の篠原滋氏のコラム (←クリック)


202110 図表1


202110 図表2


202110 図表3