たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

タグ:その他経済

現代ビジネスへの寄稿です。
今朝掲載されました。

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失業率の改善と自殺者の激減が示す、日本経済 『明確なひとつの答え』

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56764

冒頭引用:「私のようなエコノミストにとっては、各種の経済データから現下の状況が景気回復局面にあることは間違いないのだが、その一方で「景気回復が実感できない」というような意見やアンケート調査をメディアではよく見かける。

例えば以下のような記事である。「朝日新聞社が11、12両日に実施した全国世論調査(電話)で、景気がよくなったかどうかの実感を尋ねたところ、『あまり』と『まったく』を合わせ、『実感していない』は82%に上った」(朝日新聞、2017年11月14日)。

この種のアンケート調査は質問の表現次第で、結果は白にも黒にもなるので注意しなければならない。人間が本当に感じていることと、ある種の問いに対して意識的に表出される言葉とは、実は乖離している場合も多い。
本当のところ近年の日本の景気は生活者の目線で改善しているのだろうか、していないのだろうか。
それを判断するひとつの方策は、表出された言葉ではなく、人々の行為の結果を見ることだ。今回このコラムでまず注目するのは自殺件数の変化である・・・」

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今日のニュースで年金給付の支給開始年齢を70歳超からも可能にする選択肢を設けることを政府が検討するという記事に目を引かれた方は多いであろう。


日経新聞記事引用:「政府は公的年金の受け取りを始める年齢について、受給者の選択で70歳超に先送りできる制度の検討に入った。年金の支給開始年齢を遅らせた人は毎月の受給額が増える制度を拡充し、70歳超を選んだ場合はさらに積み増す。高齢化の一層の進展に備え、定年延長など元気な高齢者がより働ける仕組みづくりも進める方針だ。2020年中にも関連法改正案の国会提出を目指す。

 現在の公的年金制度では、受け取り開始年齢は65歳が基準だ。受給者の希望に応じて、原則として60~70歳までの間で選択できる。受け取り開始を65歳より後にすれば毎月の受給額が増え、前倒しすれば減る仕組みだ。

 現行制度では、受給開始を65歳より後にすると、1カ月遅らせるごとに0.7%ずつ毎月の受給額が増える。例えば66歳で受け取り始めた場合、65歳から受け取るよりも月額で8.4%上乗せされる。いまの上限の70歳まで遅らせた場合は、受給額は同42%増える。」

 この記事を読んで、「では自分は何歳から受け取るのが一番得なのだろうか?」と考えたはずだ。
基礎年金について人によって異なる税効果を考慮しない場合、それを決定する変数は2つである。
第1は自分が何歳まで生きるかの余命である。これはだれでもわかる。 第2は自分の消費に関する時間割引率(discount rate)、あるいは年金受け取りというキャッシュフローに関する期待投資リターンである。

 将来にわたるキャッシュフローの価値は、割引率で割って現在価値を計算することで判断できる。これは2013年の弊著「稼ぐ経済学」がメインテーマとして扱ったことだ。 年金についても名目で生涯の受取累積額を計算するだけではなく、現在価値にして判断するのが合理的だ。

 この場合、割引率が高いということは、例えば同じメシでも、明日のメシよりも今日のメシの価値がずっと高いという人は、時間割引率が高いことになる。あるいは年金をもらっても当面は消費せずに運用する場合は、期待運用リターンが高いと割引率も高くなる。

 そこで基礎年金について計算したのが以下の3表である。上段の表は割引率ゼロの場合である。この場合は名目価値=現在価値である。横軸が年金受給を開始する年齢であり、縦軸は死亡する年齢とその時までの受給金額の累計である。各死亡年齢において累計受給額が最大となる受給開始年齢とその受取累計額を黄色でカラーにした。

 これで見ると、割引率ゼロの人は、70歳まで受給開始を遅らせた場合は85歳以上生きれば、累計受給額(名目=現在価値)が最大になる。つまり、あなたは年金ゲームに勝ったことになる。

 一方、中段の表は割引率が2%、下段は割引率が5%の場合である。割引率が高くなるほど、名目で同額でも現在に近い受取の現在価値が相対的に大きくなるので、早めに受給を開始した方が有利(累計受給額の現在価値が大きくなる)になる。

 以上の試算は、基礎年金のみであり、人によって様々に異なるそれ以外の年金部分(企業年金部分など)は勘案していない。また税効果も勘案していない。 税効果を考えると、60歳代後半でも年金以外の勤労所得が多くある人は、そこに重ねて年金を受け取ると税率が高くなる可能性が高い。また、将来、年金給付額が変わるという制度変更があれば当然結果は変わる。

 まあ、結局のところ自分は何歳まで生きるかという不確実な変数に依存する度合いが高い問題である。元気でピンピンしていても、事故や病気で突然死ぬかもしれないからね。


追記:2月1日  加筆補足したものが現代ビジネスに掲載されました。表は一部微細ながら計算の間違いがあったので微修正されています。以下サイト
訂正: 受給を遅らす場合の増額は年8.4%、繰り上げる場合の減額は-6%でした。また、65歳をベースにして増額は1年8.4%、減額は1年6%の実額を計算した後、70歳、あるいは60歳まで同実額で増減するという方式です。掲載表はその計算で求めた実額をベースにして作成したので、結果は間違ってないようです。



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ロイターコラム、本日掲載されました。以下、本文からの抜粋引用とロイターサイトには掲載していない関連図表です。

今回論考のポイント
財政健全化派:現在の日本の財政赤字は持続不能だ。将来へのつけの先送りだ。財政赤字削減は不可避。

リフレ派  :増税にしろ、給付削減にしろ、財政緊縮策を今やれば景気は失速、経済成長がとん挫して元も子もなくなる。そんなことはできない。

まあ、こういうやりとりを長年繰り返してきたわけですが、低成長、低インフレ、財政赤字の元凶はどこにあるのか? 10年以上前から事実としては気が付いていたんですが、やはり考え詰めると「これが元凶」という不均衡にたどり着きました。

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引用:「日本の株価は119日に高値を付けた後、やや調整局面入りした感もあるが、1996年以来の高値圏にある。実体経済も雇用増と人手不足が顕著で、昨年来の海外景気の持ち直しを受けて輸出の伸びが順風となり、今年から来年にかけて実質GDPで年率平均1.5%前後の成長が持続するのではないかと思う。


 しかしながら、それでも賃金の伸び率が鈍いことが消費と物価の基調に濃い影を落としている。おそらく来年2018年を通じても消費者物価指数で2%の政策目標にはとどかず、財政についてはプライマリー・バランスの均衡という目標も先送りされている。


このままでは次回の景気後退に直面した時に採り得る金融、財政面の政策手段が非常に限られることが心配の種だ。201212月から数えて景気回復が59か月となり、戦後2番目の長さになるにもかかわらず、低インフレ、低い賃金伸び率、財政赤字が執拗に続く不均衡の根本原因は何なのか、改めて考えてみよう。


 1990年代に起こった部門間資金収支の構造変化


 掲載図をご覧頂きたい。グラフは日本の主要部門(家計、非金融法人、金融機関、一般政府、海外、その他)の年間の資金過不足の推移を示したものだ(日銀資金循環表)。マイナスはその部門の資金収支が不足で資金を調達していること、プラスは資金余剰で貯蓄していることを示す。この各部門の資金収支の変化を見ると、1990年代に起こった日本経済の構造変化が良くわかる。 


 まず緑で示した非金融法人部門(以下「一般企業部門」と言う)が90年代後半に資金調達超過から貯蓄超過(債務返済)に転じ、その後ずっと貯蓄超過で推移している点に注目頂きたい。ほぼ時を同じくして赤で示した一般政府部門は資金調達超過(財政赤字)に転じ、やはりそれが恒常化している。黄色で示した家計部門は90年代までの大幅な貯蓄超過からは縮小したが、2000年代以降も貯蓄超過で推移している。青色の海外(日本以外)部門は一貫して資金調達超過であり、これは日本の経常収支黒字に対応している。


 さらに各部門の資金過不足の対GDP比率を計算して、名目GDP成長率との関係性を見ると、以下の通りいずれも有意(関係性が偶然ではない)で興味深い特徴が見られる。まず一般企業部門の資金過不足は名目GDP成長率と負の相関で、資金調達超過(マイナス)方向に振れるとGDPは上昇する(期間19802916年、決定係数0.557、相関係数-0.746、以下同様)。これは景気回復期には企業が債務(資金調達)を増やし、設備投資を増加させるのでGDP成長率も押し上げられ、景気後退期には逆の動きになるからだ。


これとは反対に、家計部門の資金過不足にはGDP成長率と正の相関が見られる(決定係数0.371、相関係数0.609)。家計の動きは総じて景気動向に受動的であり、景気回復期に所得が増えると貯蓄額も増え、景気後退期には逆になるからだ。


一般政府部門の資金過不足は、やはりGDP成長率と正の相関だ(決定係数0.571、相関係数0.755)。景気回復期には税収入の増加で政府の財政赤字が縮小する一方、景気後退期には税収減と景気対策支出が増え、財政赤字が拡大する結果である。


 以上は循環的な変化の関係性であるが、ここで注目して頂きたいのは、既述の通り90年代を境に一般企業部門と政府部門の資金過不足関係が逆転し、以降それが恒常化していることである。


これには主に2つの理由が考えられる。第1に日本の企業部門はバブル期の過剰投資で90年代には過剰債務を抱え、その債務縮小が90年代後半から起こった(債務返済=貯蓄超過)。第290年代後半の金融危機と深刻な不況を境に企業経営者の日本経済に対する成長率見通しが低下し、設備投資を抑制するスタンスが強まった。その結果、企業部門全体の資金過不足が貯蓄超過基調となった。そしてこの企業部門の投資抑制スタンス自体が自己実現的に日本経済の低成長をもたらすという循環的な因果関係が働いてしまっていると考えられる・・・」

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なんと5分の1に減少したホームレス!

2003年には2万5000人もいたホームレス、今では約5分の1の5000人余り
劇的な減少は以下の記事のような政策的な取り組みの成果であると同時に、マクロ的な雇用情勢の改善傾向がベースにあると思う。図表参照
...
一度ホームレスまで転落すると支援なしには普通の雇用への回復は難しいだろうが、失業率が低ければ、失業→路上生活者への転落という新規のホームレス発生は抑制されるからだ。

私の身近でも、新宿区戸山公園は一時期はホームレスのテント村みたいになって、ひどい状態だったが、近年はテントもなくなりすっりきした。

メディアには問題が生じた時だけでなく、改善、解消した時にもきちんと報道する一貫性が欲しい。

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引用:「ホームレス人数減少の理由としてあげられるのは「自立支援法で、一定期間入所して生活・職業相談を受け自立を目指す自立支援センターや、緊急的な一時宿泊所であるシェルターなどの設置が一定の効果を挙げたことです。
 また、東京都が進めた、アパートを借り上げ自立を促す地域生活移行支援事業や、自立を支援する民間団体などの活動も功を奏したとされています。」(東京新聞2012.11.7生活図鑑「426ホームレス」)」
「調査方法については「昼間に街中を見回るだけで「テントや段ボール内の確認、本人への聞き取りはしていない」(都福祉保健局)という。ネットカフェなどで夜を過ごす人や昼間に働いている人は漏れてしまうという」(東京新聞2014.2.16)。従って、人数そのものはそれほど厳密なものではない。ただし、毎回同じ調査方法なので増減傾向には確からしさがある。」


厚生労働省関連サイトからの引用:「ホームレス対策については、平成14年8月に成立した「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」に基づき、平成15年7月に「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」を策定し、ホームレス施策を推進してまいりました。

平成20年7月には、平成19年1月に行ったホームレスの実態に関する全国調査の結果を踏まえ、この基本方針の見直しを行い、新たな基本方針を策定したところです。厚生労働省では、この新たな基本方針に基づいて、引き続き、雇用、保健医療、福祉等の各分野にわたって施策を総合的に推進してまいります。」

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 上記で指摘されている「ホームレスの自立の支援等 に関する特別措置法」は2002年8月の制定だ。左派からは「新自由主義」「市場原理主義」と罵倒された小泉政権の時に制定された法律だね。(そういうピント外れな批判を繰り返している限り、政権など取れないと、いい加減気づかんかなぁ)


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「現代ビジネス」への寄稿、掲載です。

労働分配率の低下の問題を扱っています。

メインタイトル「個人消費がどうしても伸びないのはアベノミクス円安が原因だった」は、本文の内容をかなり単純化したものですので、そのようにご理解ください。

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抜粋引用:「アベノミクスの実績評価については、エコノミストの数だけ異なる評価が存在するような状態だ。とりわけ金融・財政政策については議論の対立が先鋭化しているが、本稿ではむしろ消費、雇用、所得配分という実体経済面について、その成果と問題について指摘しておこう・・・

・・・賃金上昇率の鈍さの背景にはこうした構造的な変化があると私は考えている。その結果、起こっていることは、国民所得に占める労働分配率の趨勢的な低下である。この問題は欧米でも見られ、その原因をめぐる内外のエコノミストの議論も盛んだ。次にこの点を考えてみよう

図表1
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図表2
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政権の寿命と景気動向に関係性がありそうなことは以前から感じていた。そこで遊びのような分析だが、戦後日本の内閣の寿命とその期間の日経平均株価指数(以下、「株価」)の騰落率の関係性を見てみたら予想以上に高い正の相関関係があることが分かった。

内閣の寿命は、内閣改造があっても首相が変わらなければ同じ内閣として計算してある。またわずか期間2か月前後で終わった超短命内閣(石橋、宇野、羽田)は、事情が特殊過ぎるので除外した。日経平均株価指数は月末データで、内閣成立月の月末から終焉前月末の比較である。

その結果が上段の散布図である(明細は下段の表)。決定係数0.608(R2)、相関係数0.780であるから、かなり高い正の相関関係だ。 株価指数(あるいはそれに代表される経済状況)→内閣の寿命という因果関係を想定した場合、株価指数の騰落率で政権の寿命は60%説明できることを意味する。

しかし、ちょっと待て。1980年代までは株価は概ね右肩上がりだから、長期政権ほど株価の上昇率も高くなるという逆の因果関係が生じるはずだ。そこで全期間騰落率を年率換算したものが、2段目の散布図である(やはり超短命の3内閣は除いてある)。決定係数(R2)は0.211まで下がるが(相関係数は0.46)、有意な結果が出た。

1989年末までの株価が長期的に右肩上がりだった時代の内閣の寿命と株価の関係は、株価(並びにその基礎となる景気動向)が好調→政権の長期化→全期間で見た株価騰落率アップという循環的な因果関係が働いていたと考えて良いのかもしれない。

ちなみに失業率との関係性も見てみたが、多少変数の設定を工夫してみても、有意な関係性は見いだせなかった。なぜだろうか。

内閣の寿命の要因となる「支持率」は、失業率のような実体経済のファンダメンタルな要素のみでなく、実体経済を基礎にしながらも株価の動向に反映されると思われる「社会の雰囲気(楽観、悲観)」という社会心理的な要因に依存している結果かもしれない。

分布の中でやや特異な存在は、小泉内閣だ。全期間株価騰落率は16%程度に過ぎないが、政権寿命は戦後3番目の長さだった。 ただし小泉内閣では期間中の株価がV字型で大きな変動をしている。2001年4月の内閣発足時から2003年4月まで、世界的なITバブルの崩壊と銀行の不良債権問題などが災いして株価は44%も下落した。

ところが、竹中大臣が最後まで不良債権処理の遅れていたりそな銀行への公的資金注入による事実上の国有化を宣言すると「銀行危機は終焉」との判断から、海外投資家が割安感のあった日本株買いに動き、株価は反転上昇、小泉首相の勇退となった2006年8月末までに株価は03年の底値から106%も上がっている。 実体経済も2003年頃から07年まで輸出の伸びが順風となり景気の回復が続いた。

つまり小泉政権については2001年から03年春まで経済的には難しい環境にあったが、それを乗り切った2003年以降の景気の回復と株価の上昇が政権の長寿化をもたらす順風になったと言えるだろう。

また鳩山一郎、竹下は、小泉とは逆で、期間中の株価の上昇率は高かったが、長期政権にはならなかった。鳩山一郎内閣の事情は私にはよくわからないが、竹下内閣は、リクルート事件で逆風となり、それにも関わらず消費税導入法案を成立させたことが、長寿化せずに支持率低下・政権交代となったのだろう。

さて現在までの第2次安倍内閣の分布上の位置は、株価は全期間上昇率で102%、年率では16.2%、政権期間は52か月と長寿政権の仲間入りとなった。第2次安倍内閣の株価の年率上昇率高度経済成長期の佐藤や吉田と並んでおり、その分布の位置は近似線のやや上である。

株価の動向はご承知の通り、政権発足当初から急上昇トレンドだったが、2015年8月に2万1000円手前で頭を打った後、2016年6月の1万5000円前後まで下落基調だった。ところが、その後再び盛り返してついに2万1000円を超えた(10月13日現在)。

政権の命運を賭けてうって出た10月22日に控えた総選挙も、一時大いに脅威となるかと思われた小池百合子代表の希望の党が失速し、自公与党で安定過半数の議席確保が見えて来た。景気動向も世界景気の回復で2016年以降は輸出が牽引役になっている。

高値を更新した日経平均株価は、安倍内閣の一層の長寿化を暗示しているのかもしれない。そうなれば、「アベ嫌い」の方々には、まことにご愁傷様な結果になりそうだ。



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希望の党が公約に「企業の内部留保への課税」を掲げた。もっとも「この点で修正もあるかもしれない」とも小池代表は語っているそうなので、現時点では真面目に受け止めてもあまり意味がないかもしれない。

日本経済新聞記事:「希望の党は6日発表した公約で、2019年10月の消費増税の凍結を打ち出した。代替財源として「300兆円もの大企業の内部留保の課税を検討する」と明記した。 小池氏は「2%課税すればそれだけで6兆円出てくる」と指摘」 

それでも上記のような記事を読んで、「日本の企業部門は2013年以降、アベノミクスの下で史上最高の企業利益を上げているのに、内部留保にばかり金を回し、現金・預金はじゃぶじゃぶで、投資や賃金には金を回さない。これがアベノミクス下での実感のない景気回復の実態だぁ」というような控えめに言っても、相当単純化された見方が出回っているようなので、本当の実態をデータで示しておこうか。

まず、企業部門のキャッシュフローと設備投資の推移を確認しておこう。以下の内閣府のレポートがわかりやすいだろう。内閣府「今週の指標No.1180」2017年9月26日

このレポートの図表が示す通り、2012年4Qを起点にすると、キャッシュフローは30%余りも増えている。一方、設備投資は同20%程度の伸びにとどまっている。

同レポートはキャッシュ・フローと設備投資の関係性が低下していることに注目しており、以下の様に指摘している。
引用:「大中堅企業の相関がリーマン・ショック後に弱くなっている背景の一つとしては、資金運用面での変化が挙げられる。企業規模別の資産構成の推移をみると、大中堅、中小ともに有形固定資産への比率が低下傾向にある中、大中堅企業は株式の比率が高まっている(図5)。

 資金が設備投資だけでなく、M&A等にも配分されるようになっているため、キャッシュフローと設備投資の相関が弱くなっている可能性があると考えられる。その一方で、中小企業はキャッシュフローの配分が比較的設備投資へ偏るため、キャッシュフローの動きと設備投資の動きが相関しやすいと考えられる。」

まず、キャッシュ・フローが増える一方、相対的に設備投資の伸びが低いならば、設備投資/キャッシュフロー比率は低下しているはずである。手間を省くために、人様のレポートでその点を示す。
以下のレポートをご覧頂きたい。  ニッセイ基礎研究所、斎藤太郎、2017年6月1日

このレポートの設備投資/キャッシュフロー比率の推移を示す図を見ると、同比率は80年代は100%を超えていたが、その後趨勢的に低下し、直近は60%弱程度である。つまり企業部門は債務を増やさずに、キャッシュフローの範囲内でしか設備投資をしなくなっている。

ただし図をよく見るとわかる通り、2010年以降は同比率は60%程度でほぼ水平に推移しており、2013年以降に一段と低下するような変化ではない。

さて、最後に日銀資金循環統計で非金融法人部門の①資産・負債差額/総資産比率(マイナス値は負債の超過を示すので、ここでは以下「負債比率」と呼ぶ)、②現金・預金残高/総資産比率、③保有株式残高/総資産比率の3つをグラフにしたのでご覧頂きたい。

青線の負債比率はマイナス幅を趨勢的に小さくしている。企業部門全体のマネーフローが貯蓄超過で推移している結果である。さらに細かく見ると、2000年から04年頃まで負債比率の急低下(マイナス幅の縮小)があった。これは90年代の負債比率の上昇に対する調整であると同時に、1997-98年不良債権危機でメイン銀行まで貸し渋りに走り、多くの企業が流動性問題に直面したことの反動でもあろう。当時、「債務の大きい企業番付」などが週刊誌で出回り、倒産予備軍のように言われたことが、企業財務を負債圧縮に走らせた面もあろう。

その後いったん負債比率は拡大するが、2008年以降は再びマイナス幅が低下し、2012年以降は現在までほぼマイナス45~50%の水準で安定化している。

増えているのは現金・預金よりも株式保有

一方で、現金・預金/総資産比率は上昇しているだろうか? オレンジ線で示した同比率を見ると、2008年から12年までは25%前後で推移しているが、13年以降は20%強の水準に低下している。つまり、冒頭のようなイメージとは異なり、2013年以降現在までの景気回復過程で現金・預金比率は上昇ではなく、低下しているのである。

(注:ただしこの点で統計により多少違いが見られる。日銀資金循環統計では上記の通りだが、財務省の法人企業統計では中小企業では現金・預金比率は2011年以降概ね横ばいだが、大中堅企業では2~3ポイントの上昇が見られる。ベースの相違がある。日銀資金循環統計はマネーフローを見るために文字通り金融資産・負債の諸項目だけで構成されている点に注意)

現金・預金に代わって顕著に増加している大きな項目は株式保有残高/総資産比率である(緑線)。2012年の18%前後から17年6月末には30%前後まで急上昇している。金額で言うと、2012年12月比で現金・預金残高は60兆円増加、株式保有残高は221兆円の増加である。

もちろん、この増加の一部は株価の上昇によるものだが、同時に内外でのM&Aや各種の他企業への出資(株式取得)が増えているのであり、それは前掲の内閣府のレポートも指摘している通りだ。 もっとも、80年代までのような財閥グループ内の株式持ち合いとは異なる経営戦略的な保有によるもので、近年の日本企業の内外M&Aの増加傾向と平仄が合っている。

最後に言い添えると、そうは言っても国民所得に占める資本・労働分配率は目立って資本分配率の上昇、労働分配率の減少という変化を示している(これは日本のみならず米国を含む先進国共通の傾向)。 これはある程度までは景気の回復過程で見られる循環的な変化であるが、既にそうした循環的な変化を越えているように思える(今回、この点はアバウトな指摘のみで済ませます)。

名目賃金をもっと上げないと消費需要の伸び悩みで実質成長率も高まらないし、望ましい程度の物価上昇も起こらない。この点はロイターの論考などで繰り返し強調して来た通りだ。

追記:やはり小池百合子氏も「内部留保」に関する基礎的な会計的理解ができていないと思わせる報道記事。





毎度のトムソン・ロイター社のコラムです。本日掲載されました。
掲載図以外の参考図もひとつ加えておきます。

冒頭引用:「119日から始まった「トランプ相場」は、来年以降の米国景気の上振れ期待を背景に、長期金利高、ドル高、株高(特に金融銘柄の高騰)の3拍子で急速に進んでいる。大統領選挙前に支配的だった悲観予想を裏切り、このトランプ相場で現在一番順風を受けているのは日本の金融経済情勢だろう。


ドル高・円安への反転は、いったんピークアウトした日本の企業収益のリバウンド期待に火をつけたようだ。日本株の大規模な売り越しで動いていた海外投資家層はショートカバー的な買戻しに転じ、日経平均は19000円台を回復した。円高による物価下落効果も一転し円安・物価上昇に転換するだろう。


20144月の消費税率引き上げ後の消費の反動減は終わったはずなのに2015年から16年にかけても、実質雇用者報酬の増加にもかかわらず個人消費は低迷した。だが幸い雇用環境の改善が持続した結果、景気の腰折れには至らなかった。


そこにトランプ相場の波及による円安・株高が加わり、景況感は改善している。内閣府の景気ウォッチャー調査が示す家計動向、企業動向はともに今年6月に底値をつけ、直近では消費税率引き上げ前の水準に戻りつつある。こうした「トランプノミクスと日本経済の蜜月」とも言える状況を背景に、2017年初の株式相場は楽観的なトーンでスタートしそうだ。


しかしこの蜜月はどれほど持続するだろうか。また何がそれを終わらせるだろうか。この点では市場アナリストの見方は分かれている。筆者は最長で23年程度、早ければ1年前後で蜜月は終焉し、再度円高・株安に大きく振れるリスクが高いと思う。その理由を説明しよう・・・」

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本日11月24日付の日本経済新聞「経済教室」でカーメン・ラインハート教授(ハーバード大学)が、日本について奇妙なコメントをしているので、指摘しておこう。

日銀の金融政策の新枠組み(上)債務削減へ金融抑圧強化」(日本経済新聞「経済教室」2016年11月24日)

抜粋引用:
その1政府債務残高が大きいことはほぼすべての先進国政府にとって悩みの種だが、とりわけ日本にとっては深刻な問題だ。この先に何が待ち受けるかは、歴史が教えてくれる。

図からわかるように日本の場合、政府債務ばかりに気をとられていると、最近の国内総債務の急増ぶりを過小評価することになる。民間部門(特に銀行)の借り入れが急速に増えているのが主因だ。この民間借り入れは政府の偶発債務となる可能性がある。しかもこれに、増え続ける年金債務が加わるのだ。」

その2「日銀がいま直面している問題は、インフレを高めに誘導する直接的なメカニズムを持ち合わせていないことだ。そして将来直面する可能性のある問題は、仮にインフレが勢いを増した場合、それを適切に沈静化するメカニズムも持ち合わせていないことだ。」

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まずその1の太字の部分だ。政府債務の膨張だけでなく、民間部門(特に銀行)の借り入れが急速に増えており、この民間借り入れは政府の偶発債務になる可能性があると指摘されている。

この点を日銀の資金循環表で、銀行(預金預け入れ金融機関)の金融資産・負債の変化を1990年度と2015年度を比較する形で見てみよう。

銀行の金融負債は、1990年度の1356兆円から2015年度の1800兆円に444兆円増えている。ラインハート教授はこの点を問題視しているのだろう。

もちろん、銀行のバランスシートで金融負債(多くは預貯金)の反対の資産サイドには、主要項目として貸出金残高があるので、貸出金が不良化しながら増加しているならば大いに問題だ。日本の90年代のバブル崩壊ではそれが問題になった。しかし現在は銀行業界全体の不良債権比率は低く、問題視される水準にはない。 これは金融エコノミストにとっては常識的な事実だ。

では銀行の資産サイドで何が増えているのか?1990年度と2015年度を比較すると主要な変化項目は以下の通りだ。
貸出金残高増減       :-2兆円(減少)
国債、財投債保有残高増減:176兆円(増加)
日銀預け金残高       :259兆円(増加)
合計               :433兆円(増加) 

これではっきりしただろう。銀行の資産サイドで増加していいるのは、不良化するリスクのある民間貸出金ではなく、①政府債務としての国債・財投債、②日銀の量的金融緩和による日銀預け金残高なのだ。 

日銀のバランスシート上で、民間銀行の預け金に見合って資産サイドには日銀の国債保有残高があるので、事実上全部、政府債務残高の増加だと言える。もちろん、これは政府の債務そのものであり、「政府の偶発債務になる可能性がある」というのはトンチンカンな指摘である。

おそらくラインハート教授は、銀行部門の負債増額(対GDP比率)のみを見ただけで、日銀の資金循環表で資産サイドの内容を確認しなかったのだろう。

話を少し発展させると、この点は技術的な問題にとどまらない。ラインハート教授(共著)の「国家は破綻する(This Time is Different)」を読んで、超長期の過去に遡って、多数の国の負債残高の変化を分析した点は評価するものの、いまいち腑に落ちなかった同教授のある視点の欠落が、今回の論考で分かった。 

負債の増加が問題になるかどうかは、その見合いとなる資産サイドの質の問題とセットではじめて判断できるはずであるにもかかわらず、同教授の関心はあまりにも負債残高の変化のみに傾斜しており、資産サイドの具体的な内容への関心が、欠落しているとは言わないが、非常に弱いのだ。

次にその2であるが、日銀が「将来直面する可能性のある問題は、仮にインフレが勢いを増した場合、それを適切に沈静化するメカニズムも持ち合わせていない」と指摘している点だ。 

そんなことは全くない。 日銀が量的金融緩和でバランスシートと日銀預け金残高を膨張させた後に、インフレ抑制が必要になる状況になったら、①準備率の引き上げ、②コールレートと日銀預け金付利金利の連動引き上げで金融引き締め、金利引き上げに転じることができる。 実際、現在米国のFRBは②の手法で非伝統的な金融政策からのEXIT過程にある。

これは前回このブログで私が説明したことなので、繰り返さない(以下ブログ参照)。

世界的に著名なハーバード大学の教授が、論考の中でこんなにぼろい間違いをしては、
いかんよ~(^ ^;)


以下、日経新聞「経済教室」の図表と画像より
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日本政府のネット債務残高は?

高橋洋一氏と田中秀明氏がダイヤモンドオンライン上で政府債務問題について論戦している。両者の議論を読み比べることで、私にとってもひとつ問題が鮮明になった点があるので、書いておこう。

本ブログでもかなり前に紹介したが、財務省は政府部門のバランスシートを試算、開示している。まず両者の共通点はこの政府のバランスシートを材料にして、政府のネット負債がどれほどのものかを議論している。 興味を引く最大の対立点は、日銀が民間銀行から購入した国債残高を、日銀も政府部門として統合することでバランスシートから相殺して見ることが妥当かどうかである。

言うまでもなく日銀の国債保有残高は、黒田総裁下のQQE発動で毎年約80兆円の規模で増加し、2016年3月末時点で364兆円、国債発行残高全体に占める割合は33.9%と過去最高となっている。 組織的には独立しているが日銀も政府部門であるから、日銀が資産として保有する国債は、日銀を統合した政府のバランスシートの中で相殺して見ることができると高橋氏は主張し、田中氏は否定している。

まずこの点の双方の主張は以下の通り。

田中秀明氏:「連結財務書類は、ほぼ全ての政府機関を含んでいるが、日銀が除外されているので、これを含めないと真の中央政府全体を議論したとは言えないとの指摘もある。

もし日銀が、金銀財宝といった自己財源で国債を買っているのであれば、統合政府ベースで借金は減るが、実際にはそうではない。日銀が民間銀行から国債を購入するためには代金を払う必要があり、それは銀行が日銀に預けた預金(準備金)として日銀のBSの負債の部に計上される。そもそも民間銀行が国債を買う財源は、我々国民が銀行に預けた預金である。

順を追って考えると、(1)国民の余裕資金が民間銀行に預金として預けられる→(2)民間銀行はその預金で国債を買う(投資)→(3)日銀が民間銀行保有の国債を買う(国債と準備金を等価交換する)という流れになっている。

統合政府ベースで、日銀が保有する国債を相殺することができても、日銀に預けた民間の預金は負債として残り、統合ベースで見た場合に負債が減ることはない。もし、政府が強制的に負債の部から預金を落とし政府の負債を減らすというのであれば、それは国民から貯蓄を奪うことであり、言い換えれば、預金に対して100%の税率で課税することになる。先ほど連結のBSで説明した、日本郵政が保有している国債と同じことだ。」

高橋洋一氏:「発券中央銀行のマネタリーベース(日銀券発行残高+民間銀行の日銀当座預金)は負債といっても、それは無利息、償還期限なしなので、実質的な債務性はない。

現在、白川時代に歪められた日銀当座預金への付利があるので、ものごとの本質が見えにくくなっているが、白川時代前を考え、日銀券と日銀当座預金は代替という金融論の基本を押えておけば、マネタリーベースは実質的な債務性がないことがわかるだろう。

要するに、政府と日銀を合算する統合政府ベースのBSを見るとき、日銀のマネタリーベースには実質的な債務性はない。これは、経済学で出てくる統合政府の基本中の基本である。」

まず、日銀のバランスシートの資産サイドにある国債の保有残高は、負債サイドにある民間銀行の日銀当座預金残高を見合いに両建てとなっている。さらに民間銀行の資産サイドとしての日銀当座預金残高は、負債サイドの私達の預金残高と見合いになっている。したがって、日銀を政府に統合して見ても、日銀の負債としての日銀当座預金残高(マネタリーベースの一部)が相殺で消えるわけではなく、あえてそれを「帳消し」にするなら、国民預金の収奪になるという田中氏の論理は、会計上の形式論理としては全く正しい。

それに対する高橋氏の主張は、日銀当座預金は日銀券と同じで「無利息、償還期限なしなので、実質的な債務性はない」 したがって、政府債務に加えなくて良いという一点にかかっている。

「日銀当座預金には実質的な債務性はない」は正しいか

この「実質的に債務性はない」ということの意味は、まず現金(日銀券)を考えればよくわかるだろう。日銀券発行残高はたしかに日銀のバランスシートの負債サイドに計上されている。 ところが、政府の国債の発行残高は政府債務残高としてその増加を懸念する議論を呼ぶが、日銀券発行残高は今のような低インフレ(あるいはデフレ)の局面では全く懸念の対象となっていない。 その理由は、高橋氏が言うように「無利息、償還期限なし」だからである。

日銀券を保有する国民全体では、日銀券で保有するか銀行預金で保有するかの選択肢(いずれもマネー)があるのみで、マネーの外に逃げることができない。「マネーで財や資産を買うことでマネー保有量を減らせる」と思う人がいるかもしれないが、あなたがマネーを減らした分、あなたに財か資産を売った人がマネー保有を増やすので、全体ではチャラである。ただしマネー価値への信頼が棄損した場合は、財や資産価格の高騰が起こり、ハイパーインフレになることはあり得るだろう。

では民間銀行の日銀当座預金は日銀券と同じく「実質的な債務性はない」と言い切れるかどうか。これも民間銀行がひとつしかない(あるいは銀行業界全体)として考えると、わかりやすい。 当座預金なのでそもそも返済期日はない。今はたまたま付利(0.1%、ただし増分についてはマイナス0.1%)されているが、原理的にはゼロ金利でやってきた。

民間銀行は、日銀との取引によってのみ日銀当座預金残高を増減できる。そして日銀との取引は①日銀券と日銀当座預金残の交換、②国債と日銀当座預金残高の交換しかない。民間銀行には日銀券か、日銀当座預金か、国債保有かの選択肢しかない。つまり国債かマネーかの外に逃げる方法がない。このように考えると日銀当座預金の「債務性は事実上なし」とする高橋氏の主張が妥当であろう。


しかしそれでも政府債務の無限膨張はあり得ない

ならば、日銀が国債を購入する限り、政府は国債をどんどん発行して政府債務を増やしても問題はないのか、というと話はここで終わらない。

マネタリーベースとしての日銀当座預金には、その残高の信用乗数倍のマネーを預金と貸出の両建てで生み出すことを思い出そう。例えば300兆円の日銀当座預金残高は、現下の法定準備率約2.0%の下では、最大15,000兆円(=300/0.02)のマネーストックを生み出しえる。

したがって、将来日本経済の構造変化で再びインフレが問題になった時に、日銀は莫大に積み上がった日銀当座預金残高をコントロールできないとハイパーインフレになるというリスクがある。この問題は無視できない。

もっともこの問題に対して対策は可能だ。まず第1の対策は法定準備率を思い切り引き上げれば信用乗数によるマネー増加効果は抑制できる。 場合によっては、預金に対する法定準備率を100%にすることで、事実上信用乗数効果を1.0にしてしまうこともできる。 これは私の私見ではなく、full reserve system(100%準備預金制度)として昔アービング・フィッシャーが議論したものであり、最近ではIMFのエコノミストがそうしたシステムの下でも金融機能が機能することを検証した論文が発表されている(以下参照)。

また将来インフレになれば、金利を引き上げる必要が生じる。その場合、コール市場の金利を日銀が引き上げようとしても、日銀当座預金残高のうち法定準備残高を超える何百兆円の過剰準備残高をコール市場を通じて日銀が全部吸い上げるまで金利は上がらないだろう。 ただし、それに対しても現在米国のFRBがやっているように日銀当座預金残高への付利金利を政策金利と同じ水準に引き上げることで、マネーマーケットの金利と一緒に上げて行くことができる。 

「それでは銀行が莫大な利益を中銀から吸い上げるだけだ」と早とちりしてはいけない。当然、銀行の預金金利も引き上げになるから、その限りでは銀行にとってはプラス・マイマス・ゼロである。

ただし日銀には金利の引き上げ幅次第で莫大なマイナス利鞘による損失が生じる。この損失可能性については現行のQQEで想定されるコストとして日銀は考えているはずである。目下は政府は国債利回りのゼロ、あるいはマイナス化によって資金調達コストが大幅に縮小されているわけであるが、そのつけを将来日銀を通じて払うことになるだけだとも言える。

そういう意味で、永遠にインフレにならないという想定ならば、政府が国債の増発を続けても、日銀がそれをQQEで買うことで永遠のポンジスキームができてしまうのだが、その想定にはそもそも根拠がない。国債発行残高が1000兆円として将来、国債の平均金利が2%になれば20兆円、3%なら30兆円の利払いコストが生じるわけで、それが財政収支を大きく圧迫することになる。

そういう意味では、政府の債務膨張が(対GDP比で)無限に続くことはできないと言う当然の結論に回帰するわけである。

追記(11月5日):中央銀行券の債務性、並びに政府紙幣問題について、以下の論文を神戸大の岩壺先生から紹介頂きました。なかなか興味深いです。ご参考まで。



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