たけなかまさはるブログ

Yahooブログから2019年8月に引っ越しました。

欧州については、金融機関の抱える損失についても、欧州エマージング地域でのバブル崩壊についても、米国以上に深刻な問題を抱えているので、今回の世界景気回復では米国や日本よりも遅れると、私はずっと悲観的に見てきた。
 
参考「中東欧に忍び寄る金融・通貨危機のリスク」竹中正治&西村陽造、(財)国際通貨研究所、国際経済・金融論考、2008年4月
これから10年 外国為替はこう動く」第2章第4節「金融危機後の相場を展望する」竹中正治・国際通貨研究所編、2009年9月、PHP研究所
 
しかしながら、ユーロ圏のGDPに占める比率が僅か3%程度、人口1000万人の小国ギリシャの財政危機が、ここまでユーロ圏全体と世界を揺さぶるというのは過剰反応だとも思う。ただし、「ミスターマーケット」が過剰反応するのは毎度のことだ。

PIIGSや英国の財政問題へ波及し、これら諸国の国債全体が暴落するという危機の伝染を投資家や金融機関は心配しているのだと思う。そうなると欧州の金融機関と投資家への打撃、損失はケタはずれに大きくなるからだ。
今後の選択肢として、ギリシャのユーロからの離脱も、デフォルトも無理だろう。
そもそもユーロへの参加は片道キップで、離脱条項はない。
万一、離脱して通貨ギリシャ・ドラクマを復活させたらどうなるか?
 
ドラクマ相場はユーロに対して大幅に減価した水準になるだろう。それでギリシャは輸出が伸び、輸入は減り、フローの対外不均衡は解消に向かうだろうが、既にユーロ建てで発行した国債残高はユーロのまま海外投資家、海外金融機関に保有されている。
ドラクマ相場の大幅減価で自国通貨換算した対外債務が急膨張するので、返済困難に輪をかけることはあっても緩和することはない。2001年にアルゼンチン危機や1998年のアジア通貨危機で起こったことだ。

また、仮にアルゼンチン政府のようにギリシャ国債をデフォルト(そして棒引き=債務カット)させるようなことになれば、今の情勢では08年9月のリーマンショック並みの衝撃となってPIIGS諸国の国債も暴落するだろう。その結果、投資家と金融機関に生じる莫大な損失で、世界は再び金融危機になることは眼に見えている。従ってEUにとってその選択肢もあり得ない。
 
長期的な時間をかけてギリシャが政府の歳出削減と増税で財政再建をするという、時間と痛みを伴うコースしか採りえる選択肢はない。

最大のリスクは財政再建の痛みを嫌がるギリシャ国民の不満の爆発で、現政府が統治能力を失い、「国債棒引き」を主張するような過激派政党が政府を牛耳るコースに向かうことだ。
そういうことにならないように独仏の中核国がイニチアチブを発揮しなきゃいけないはずなのに、
どうもドイツのスタンス、腰が座ってない。この点が不安を高めた点もある。
 
日本の政府債務問題は大丈夫か?
この点では2つの極論、俗論があり、どちらも間違っている。
俗論のひとつは、先進諸国の中でGDP比率でみて最大の政府債務残高となった日本国債が暴落する時が目前に迫っているという主張だ。日本国債暴落を大稼ぎのチャンスに狙うヘッジファンドやそのイデオローグ達がお好みの主張でもある。
 
それと対極をなす俗論は、日本の国債は95%が国内で保有され、国内の貯蓄でファイナンスされているので、日本国債が暴落するようなことはないという主張だ。これは短期的には間違いではない。依然として日本全体では純対外資産は200兆円を大きく超え、世界最大の純債権国である。
 
亀井大臣は、「だから大丈夫」と言っているそうだが、この方に「大丈夫」と言われるほど背筋が寒くなる。
 
国内の貯蓄の源泉である家計の金融資産の伸びは2000年代になって大きく鈍化している。一方、政府債務残高(資産負債ネットした純債務)は2000年代に入って拡大のテンポを上げている。(以下添付グラフ参照)
 
鳩山内閣による財源なきバラマキ予算で、赤字の膨張は一気に加速している。このままのコースは長期にわたって持続不可能であり、コース転換をしなければ、やがて政府債務は国内の貯蓄でファイナンスされる規模を超え、暴落シナリオが現実になりえるだろう。
 
国内投資家だって、政府が信認を失ったり、デフレからインフレへの転換が見えてくれば、国債を売って海外を含む他の資産に大規模なシフトをする。
 
要するに日本経済にはまだ時間はあるが、その時間は無限ではないし、だんだん短くなっているということだ。 日本のような大国の経済が軌道修正するには当然時間がかかる。財政再建コースへの転換にも時間がかかる。今コース転換を始めなければ、10年後の日本が今日のギリシャのようになっても不思議はない。
 
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SECによって訴追されたゴールドマンサックスの取引不正疑惑について米国のメディアは連日の報道だ。日本でもかなり報道されているが、ゴールドマンが組成、販売した問題の証券の仕組み自体については、一般向けに十分な解説記事を一般メディアではあまり目にしない。 
かなりテクニカルな内容になるので、良く理解できていない記者は大雑把に書き飛ばし、良く分かっている執筆者でもそれを説明すると長くなるので省略しているのだろう。
この点でWSJ52日付の以下の記事は、証券化商品の増殖と売り抜けの手口を分かりやすく整理して解説した記事だ。とは言っても、これを読んでサクサクと理解できるのは市場性商品に関する金融実務知識のある読者に限られるだろう。そこでその記事に基づいて該当部分を中心に説明しよう。
 
WSJ May 2, 2010
Senate's Goldman Probe Shows Toxic Magnification
Wall Street Banks Repackaged Same Risky Bonds into Numerous Securities, Spreading the Pain Across Multiple CDOs
 
サブプライム関連証券化商品の売り抜け手口
まずサブプライム住宅ローンを含む諸資産をプールしたCDO(債務担保証券:Collateralized Debt Obligation)が組成される。CDO自体については今回の金融危機の「主役」として日本でも「知名度」を上げたからご存知の方も多いだろうが、資産担保証券Asset Backed Securities)の一種で、ローン債権や公社債などを裏付け資産として発行される。
 
野村証券の証券用語解説集によると「裏付資産が公社債のみで構成される場合はCBO(Collateralized Bond Obligation)と呼ばれ、同じく貸付債権のみで構成される場合はCLO(Collateralized Loan Obligation)と呼ばれるが、いずれもCDOに含まれる。」
 
このCDOを「現物債券」とすると、そこから合成CDOsynthetic CDO)を派生させることができる。この合成CDOは現物の証券化された住宅担保証券を含んでいない。現物ではなく、現物のCDOの価値をリファーしたCDS(credit default swap)の売りが合成CDOに組み込まれる。この結果、現物のCDOと同じ価値変動を模写した派生商品として合成CDOは機能することになる。
 
すなわち現物のCDOの価値が下落する、さらにデフォルトを起こせば、組み込まれたCDSの損失が拡大し、合成CDOの損失も拡大する。一方、無事ならば、CDSの売りによるプレミアム(一種の信用保証料)を投資リターンとして獲得できる。こうして現物CDOから幾つものコピーCDOを派生させることができる。WSJの記事がmagnificationと書いているのはそうした証券増殖のメカニズムだ。
 
もしサブプライムを含んだCDOの価格下落に賭けたいならば、プレミアム(保険料)を払って組み込まれたCDS(売り持高)の買い手になれば良いことになる(=protectionの買い手となる)。2007年に住宅バブルが崩壊を始めるまでは、CDOに対する投資家の需要が拡大し、現物の組成が間に合わないほどだったという。そこで、こうした合成CDOは便利なコピー投資商品となったわけだ。
 
また20061月、ゴールドマンとドイツ銀行を含む銀行団はABXというサブプライム・ローン関連の証券化商品の諸指数を立ち上げた。4つのABX指数は20のサブプライム債券に連動していた。この指数が幾つもの合成CDOに盛り込まれることになる。
 
2006年の後半には価格下落を見込んだヘッジファンドなどのABX指数の売りを受けて、ゴールドマンは巨額の買持ち持高に傾き、それをヘッジ、反転させる手口を求めていた。
例えば、20066月に組成されたSoundview dealはカルフォルニアとフロリダを中心とするサブプライム住宅ローン31億ドルを盛り込んだ証券化取引だ。例によってこの債券はリスク評価の異なる部分に分割されて売却された。そのひとつでM8と呼ばれる債券が発行された。これは資産プール全体の約5%が損失になれば、価値を失うハイリスク部分だった。
 
このSoundview債券は20067月にABX指数に盛り込まれる。そしてSoundview M8債券は幾つもの合成CDOにコピーされた。例えばM8はゴールドマンが組成したHudson Mezzanine Funding 2006-1と呼ばれる合成CDO15百万ドル組み込まれた。Hudsonは既に市況の下落に備えようとしていたゴールドマンの手段だった。
 
上院での調査によると、ゴールドマンはこの合成CDOの売却を現物のローン資産をリファーした投資プールから生じた20億ドルの損失のヘッジに利用した。もちろん、購入した投資家が損失を被ったのである。ゴールドマンHudosonに盛り込まれたCDS(protection)の買い手でもあった。つまり、同社は既にHudson債券について下落の見通しを持っていたことを意味する。
 
Soundview M8債券はAbacus 2007-AC1にも盛り込まれている。Abacusは今回SECが不正容疑を提訴している対象の取引である。Abacus20074月に販売され、Soundview債の買い持高222億ドル含んでいる。この組成に関して、その価格の下落で利益を得られるヘッジファンド(Paulson & Co.)が資産の選定に関わっていた。この事実を販売先投資家に開示しなかったことがSECがゴールドマンを提訴した容疑の核心である。
 
ゴールドマンの複数の社員はSoundview M8の価格が下落しそうな状況になっていることを2007年の初め頃には気が付いていたようだ。20074月のEメールで、あるゴールドマンの社員は、このM8を“dirty’06 origination”(2006年組成のダーティーな取引)と呼ぶリストに並べていた。実際、その時までにSoundviewのローン資産プールのうち8%が60日以上の延滞状態になっていた。
 
記事の内容に基づく売り抜け手口の概要は以上である。顧客投資家の損失の上に自社の利益あるいは損失回避を行ったゴールドマンである。しかし、それだけならば、相手がプロの投資家である場合は、モラルはともかく、違法性を問うことは困難だろう。買手の投資家もプロとしての自己責任が問われるからだ。
完全にプロどうしの売買だと考えるならば、ゴールドマンが値が下がると考えた債券を、投資家が下がらないと考えて購入したことは、あるい意味で当然のことだとも言える。相互の思惑が異ならなければ、売買が成り立たないからだ。
 
実際、この点がゴールドンマンの訴追に対する反論の論拠となっている。しかし、相手がプロの投資家であっても、販売に際して必要な情報開示を怠っていた、とりわけそれが投資家の利害に関わる情報であった場合は違法性が問われる。SECの訴追の核心がここにある。
 
また、「プロの機関投資家」と言っても様々なレベルが現実にはある。問題の案件に関わったゴールドマンの売却先の金融機関IKB(ドイツ産業銀行)などは、もしかしたら「ネギカモ」だったのではなかろうか。
 
日本の郵政も中途半端な民営化が進み、投資対象を広げていれば、ゴールドマンなどの投資銀行の絶好のカモ(規模で世界最大級のカモ)になっていただろう。民営化を徹底して当事者能力を身につけさせ、失敗の場合は破綻させるか、それが望めないなら政府組織として最小限の規模にするか、合理的な選択はどちらかしかないように思う。
規模ばかりでかく、中途半端な当事者能力しかない組織が一番危険である。グローバル金融市場の草原には、そうしたカモを食い物にするプレデター(捕食動物)が沢山いるからだ。

GWなので話題の3D映画、Alice in Wonderlandを家族と見て来た。まあ、まあ、楽しめる。3Dの話題沸騰の映画界だが、テレビや映画が白黒からカラーに変わった時ほどの興奮を私は感じない。眼鏡をかけると映像が少し暗くなるのも気になる。それでも3D映画が増えていくんだろうなとは思うが。
 
この映画でもそうだが、アリスのキャラは「気丈な娘」が合っている。今回の映画では、剣で赤の女王のモンスターと戦うのが預言書に書かれたアリスの宿命だ、とワンダーランドの住人たちから期待されてしまう。「そんなこと私にはできないわ」とうろたえていたアリスが、やがて運命に立ち向かう覚悟を固める、それが物語の主要な展開だ。そして元の世界に戻ったアリスは・・・・。
 
このストーリーは昔から物語、神話などでも何度も繰り返され、それでも決して飽きられることのない普遍的な人気パターンだ。私も「資産運用のセオリー 投資の魔物を退治しよう」(光文社)のミニ・ストーリーで利用させてもらった。読まれた方はお分かりだろう。
 
さらに調子に乗って、2009年11月の毎日新聞社の「エコノミスト」特集号で「アリスと学ぶFXの知的投資術」というのを完全な物語仕立てで書いた。ホームページこのサイト。 自分では「良くできた! ダジャレもオチも完璧に決まっている。わっははは(^。^)」の気分だったが、本やウエッブマガジンと違って、雑誌というのはどうも反響の度合いが分からない。このブログを訪問された方、どうぞご覧ください。
 
 

 
この本にはちょっと驚いた。私達の日本の農業観を根底からひっくり返す内容だ
というか、農水省、農業族議員、農業諸団体の永年にわたるプロパガンダによって自分の日本の農業に対する認識が歪められ、洗脳されてきたと思い知らされる。
 
もちろん私は農業経済は専門でもなんでもないので、著者の語っていることが全部事実に基づいているかどうかは、いちいち検証できない。しかし、平明な論理とデータに基づいて語られる内容には強い説得力がある。
 
民主党の戸別所得補償制度も、数ばかりは多いが、日本の農業生産において既にマイナーな役割しか果たしていない多数の疑似農家を温存するばかりで、本気で農業を営んでいるプロの農家の足を引っ張り、日本の農業を衰退させると木端微塵に批判する。民主党はそれでかまわない。農業が弱くなるほど、補助金への依存が高まり、補助金を仕切る与党の票田となるからだと痛烈だ。その点は、私もそう思っていたが、農業事情に疎いので著者のように雄弁、明解に語ることはできなかった。
 
専業のプロ農家こそ政府は支援すべきであり、その視点で見れば、日本の農業は衰退産業でも弱小産業でもない。「農家=弱者」のイメージは農水官僚と政治家が自らの利権のために生み出した都合のよいイメージに過ぎない。
 
また「偽装農家」神門善久、飛鳥新社も本書と共通する点が多い(神門氏は明治学院大学教授、農学博士)。 本書を合わせて読めば、あなたの日本の農業観が一変するだろう。

今年邦訳が出版されたロバート・スキデルスキー著の「なにがケインズを復活させたのか?」(日本経済新聞出版社)、これは私にとってケインズの経済学に関する「眼から鱗の剥落効果」抜群だった。
原著のタイトルはKeynes:“The Return of The Master” なかなかやるね、スキデルスキー先生。
映画スターウオーズの“Return of Jedi”を思い出す。
 
大学の先生方との研究会の後の宴会などで、私はこの本を「どう思います?」と幾度も話題にしてきた。
まだ読んでいない人、読んで感銘を受けた人、様々だ。
著者は第1級のケインズ研究者で、新古典派、1960年代に全盛期を迎えたアメリカ・ケインジアン、マネタリストによる「反ケインズ革命」、そして1990年代に「復活」したニューケインジアン、これら全てに対してラディカルな批判を展開し、ケインズの経済学の今日的価値の復興を唱える。
すごいなあ、それってほとんど全部を論敵に回しているってことじゃないか。

私自身、大学ではケインズ経済学の主要ポイントのひとつは労賃の下方硬直性だと習った。更に広げて、価格の硬直性があるから、需要減少などのショックが起こると相対価格の調整に時間がかかり、生産、所得、消費などの実体経済の縮小が起こるのであり、それが古典派に対置するケインズ経済学のポイントだと習った。ところが著者によると、それはケインズの体系の一部ではあるが、副次的なポイントに過ぎない。
ケインズの提起したポイントは「不確実性」の概念にあるという。それは確率計算によるリスク計測のできない不確実性であり、ナイトの不確実性と本質的に同じものだ。 えっえええ、そうだったの!
たしかにケインズが晩年、アメリカのケインジアンを自認する経済学者らと会議をした後、ポツリとこう言ったという逸話がある。「みなケインジアンだったよ、私以外はね」

新古典派も、新古典派総合も合理的期待仮説によってケインズの提起した不確実性の問題を体系から排除してしまった。ニューケインジアンも価格の硬直性をベースに体系を再構築したものの、合理的期待仮説の点では迎合し、ケインズの本質を継承できていない。 その結果、現代の主流の経済学の体系は、バブルとその崩壊、金融危機に対して無防備で、理論的に破綻していると批判する。
 
価格の硬直性なら、価格が修正されるまでに時間がかかるというファクターを体系の中に導入するだけで済む。ところが、計測不可能な不確実性というファクターは、どうにも厄介極まりない。それを体系の中に導入しようとすると、数理的に精緻に組み立てられたモデル自体が解体してしまうのだろう。
数理的に精緻なモデルに惹かれてきた先生方には耐えられないことだ。
 
現代の金融工学、現代投資理論も、リスクを計測可能なものと定義することで成り立っている。ところが私達が現実の経済活動の中で直面する不確実性とは、計測可能性を拒否するようなものの方が遥かに多い。 「ブラックスワン」のナシム・タレブが強調していることだね。
 
また、アカロフ&シラーは「アニマルスピリット」の中でこう書いている。「事業者たちは、未来についての根本的な不確実性を抱えたまま決断を下す」 その時の不確実性とは、1921年にシカゴ大学のフランク・ナイトが書いた『危険・不確実性、および利潤』の中で述べられた確率計測不可能なものだ。
 
精緻な虚構を愛し続けるか? それとも、現実の不確実性と混沌を受け入れ、少々野蛮でも生き残る知恵に賭けるか? そういう選択かな?

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