デフレと長期国債利回りの超低位安定についてさらに考えてみよう。経済論的にかっちりとした議論ではない。ブログというカジュアルな場所を使って、ラフで直感的でいいから、いろいろ議論を試みることが私にとってこのブログの意味なので、そのようにご理解頂きたい。
 
「超低金利といいますが単純にデフレ下の状況ではそれに見合った金利がついているだけでは?」というコメントを頂いた。日経ビジネスオンラインでも「日本経済の低成長、低投資リターンの結果、国債が買われて、その利回りも低位で安定しているだけだろう」という趣旨のコメントがあった。
 
この指摘は間違いなく事実の一面であり、私も含めて誰も否定できない。ただし、経済・市場現象は様々の要因の相互依存だから、原因と結果の関係も相互依存でループ(因果関係の循環的な構造)を形成している。経済活動は、沢山のポジティブ・フィードバック・ループとネガティブ・フィードバック・ロープの組み合わせで出来上がっている複合体(コンプレックス)だ。
 
ご存知の方には言わずもがなであるが、ここで言う「ポジティブ」「ネガティブ」という言葉に「良い」「悪い」という意味はない。一方向の変化が生じた時にその変化をさらに促進する要因が働くループが働いている場合をポジティブと呼び、反対をネガティブと呼んでいるだけだ。
 
ネガティブ・フィードバック・ループが強く働いている例としては、需要が増えると価格が上がり、対応して供給が増え、価格が下押しされるというようなプロセスであり、この場合は均衡維持、バランス維持型の動きになる。
 
ポジティブ・フィードバック・ループの例は、バブルに展開的に見られる。2000年代の米国の住宅バブルでは、住宅資産価格の上昇、信用の膨張、消費の増加の3つの間でポジティブ・フィードバックが働いていた。しかし、住宅価格の上昇のテンポが実体経済の拡大テンポを大きく上回り、限界に達した時、ループが逆に回転し始めた。これがバブル崩壊だ。
 
私は短期的には今年2010年の日本経済は2003年-06年とほぼ同様の輸出主導の景気回復過程に入ったので、実質GDP2%程度の成長が見込めると楽観的に考えている。それでも、90年代後半以降の日本経済には基調的に、「足元の低成長と価格下落圧力→将来の成長見通しの下方修正とデフレ持続予想→投資減少→低成長」というポジティブ・フィードバック・ループが「祟り神」のようにつきまとって来た。
 
デフレ的な状況下で投資が減れば、資金需要も減り、金利は低下し、実物投資するよりも低金利で安全な国債を買っておこうということになり、政府債務が急膨張を遂げる状況下で、国債金利が低位に安定するという状況が生まれている。
 
すべての病気が心理的要因(気持)から生じるわけでは無論ないが、病状、あるいは回復状況と心理的な要因(気持)の間に相互作用が働いている。回復することに楽観的な気持ちを抱いている人の回復は、悲観的な気持ちの人よりも、ずっと良くなるそうだからね。人の営みである経済も同じに思える。
 
ポイントは、ポジティブ・フィードバックが無限に続いて、そのトレンドが永遠に続くということはやはりあり得ないということだ。GDP比率で政府債務が無限に膨張を遂げると言うのは不可能だ。どこかで投資家がこれ以上を日本政府の債務を保有したくないという限界が来る。
 
その時までに累積している政府債務がGDP比率で膨大であれば、あるほど、調整局面も激しいものにならざるを得ないだろう。「調整局面」といえば穏やかに聞こえるが、要するに国債価格の急落だ。
 
もちろん、私は国債価格急落、暴落のシナリオを望んでいるわけではない。日経ビジネスの論考でも書いた通り、手遅れになる前に政府が財政再建に腰を上げて欲しい。しかしどうも国債利回りが低位安定していること自体が、政治家の危機感を乏しくさせているようだ。
 
ならば投資家サイドが、赤字国債は実物的資産の裏付けのない空手形であるという当然の事実に覚醒するしかない。リスクさえ少々負う気になれば、もっと有望な投資対象になる資産は日本の内外に沢山あるように私には思えるのだがね。