数日前に投稿された以下のコメント:

「先生は財政再建が必要と説かれますが、私はインフレのほうがいいと思います。インフレになって困るのは国債を資産の側にもっている団体、主に年金と郵貯ですよね。どちらも上の世代の人達の資産です。今まで多額の借金を作ってきた上の世代の人がそのつけを払う。何の問題もないと思います。早くインフレになって一度リセットしてほしいです。毎月多額の年金をいけにえに差し出すのが苦痛です。そして新しい日本には長期国債の金利上昇リスクを極度に軽視する変な金融機関を作らないでほしいです。」
 
ちょっと誤解されたようなので、既にコメントで返したが、再度言っておくと、私も消費者物価の前年比率でで1~2%程度のインフレの方が、金融政策の有効性、ビジネス環境、実物資産への投資の促進など様々な面で望ましいと思っている。これは経済学者、エコノミストの概ねのコンセンサンスでもある。
 
ただし、年金を受け取っている引退世代がインフレになれば、受取額の実質価値が減少することで負担を負うことになり、負担の世代間格差の是正の点で望ましいとお考えのようだが、実は必ずしもそうはならない。
 
なぜなら公的年金には物価スライドの仕組みがあるからだ。厚生労働省のホームページの用語集はこの点を次のように説明している。
 
「物価スライド
年金額の実質価値を維持するため、物価の変動に応じて年金額を改定すること。現行の物価スライド制では、前年(1~12月)の消費者物価指数の変動に応じ、翌年4月から自動的に年金額が改定されます。私的年金にはない公的年金の大きな特徴です。
なお、平成17年4月に、財政均衡期間にわたり年金財政の均衡を保つことができないと見込まれる場合に、給付水準を自動的に調整する仕組みであるマクロ経済スライドが導入されました。これにより、年金額の調整を行っている期間は、年金額の伸びを物価の伸びよりも抑えることとします。 」
 
ただし後段に記載されているように、従来の単純な物価スライド方式は、2005年のマクロ経済スライド方式の導入で改訂された結果、複雑になった。その結果、物価に関係なく、見込みを下回る経済の低成長などの場合は、
年金額が減少する。
 
同ホームページはマクロスライド方式について以下のように説明している。
 
「少なくとも5年に1度の財政検証の際、おおむね100年間の財政均衡期間にわたり年金財政の均衡を保つことができないと見込まれる場合は、年金額の調整を開始します。
 年金額は通常の場合、賃金や物価の伸びに応じて増えていきますが、年金額の調整を行っている期間は、年金を支える力の減少や平均余命の伸びを年金額の改定に反映させ、その伸びを賃金や物価の伸びよりも抑えることとします。この仕組みをマクロ経済スライドといいます。
 その後の財政検証において年金財政の均衡を保つことができると見込まれるようになった時点で、年金額の調整を終了します。
 なお、このマクロ経済スライドの仕組みは、賃金や物価がある程度上昇する場合にはそのまま適用しますが、賃金や物価の伸びが小さく、適用すると名目額が下がってしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめます。したがって、名目の年金額を下げることはありません。
 賃金や物価の伸びがマイナスの場合には、調整は行いません。したがって、賃金や物価の下落分は年金額を下げますが、それ以上に年金額を下げることはありません。」
 
計算が複雑になって、ユーザーサイド(国民)にとっては単純な見通しがたて難くなったが、要するに年金財政がひっ迫するにつれて実質減額されるということだ。インフレになれば公的年金の実質受給額が減るというわけでもない。
 
企業年金のうち確定拠出や個人年金のインフレによる影響は、どういう資産に投資しているかで大きく分かれる。株式に分散して多く投資していれば、インフレでも目減りしないだろう。