膨張する財政赤字問題について以下のご質問を数日前に頂いたので、これについて考えよう。
 
次世代の経済が心配とありますが、やはり激しいインフレはそこまで経済に痛みを与えるものなのでしょうか? 子孫はまたその時の労働の対価としての所得が手に入ると思うのであまり問題ないだろうと思ってましたが・・・・・やはり激しいインフレに伴う通貨安は生活苦というオチですかね。」
 
私の母の世代(戦中派)ならば、財政規律を失った莫大な国債累積が最後にどのような事態を招くか身をもって経験しているので、このご質問は若い方だろうか。
 
国債問題を考える経済原理は「経済全体で考えた時、フリーランチなはい」ということだ。国債を発行して、今の世代が給付を受け、消費して、そのつけを将来に回すのが赤字国債。国債を借り換えしながら無限の未来まで延長し、誰もその負担を払わなくて済むということはない。
 
しかし、現在発行された国債を償還するために、今後、増税も給付の削減も行なわれなかったら、どうなるか? 以前も書いたように、企業の社債なら普通は財やサービスを生み出す実物資産が見合いにある。ところが、赤字国債の見合いは空だ。将来、国民が保有する国債を売って、あるいは償還を受けて消費しようとした時に、その需要を満たす生産能力はないということになる。
 
もっとも現在は不況からのまだ回復過程で需給ギャップが供給超過であるので、目先はそういう問題はまだ起こらない。しかし、戦中派の方ならご存知のはずだ。軍事費をまかなうために戦争中に莫大に発行された国債、戦争が終わり、それが償還され、国民が財やサービスを消費しようとしたら、そうした生産基盤は戦争で壊滅していたので、ハイパーインフレになり、国債価値はほとんどゼロになってしまった。結局、政府はハイパーインフレという形で債務を清算したのだ。
 
将来、戦争が起こらなければ、そこまで劇的なことにはならないだろうが、国債残高が莫大に積み上がっているということは、程度の差こそあれ、将来そういうことになる危険性を高めているということだ。
 
増税も給付削減もなければ、インフレが高進するという形で国債の実質価値が減少し、国民は事実上の税金を払うことになる。これがインフレタックスだ。このインフレは国債保有者(国民)から政府への実質所得の移転である。
 
国債を直接保有しているのは、家計でなくて金融機関でも、負担が回ってくることは同じだ。銀行預金はインフレになっても、インフレ率より利子率は低く抑えられるだろう。つまり預金の実質価値(購買力)は目減りする。たんす預金は利息もつかないから、もっと実質価値が目減りする。
 
ご質問された方は、物価も賃金もみな均等のインフレ率になることをイメージされているのかもしれないが、そういうことにはならないだろう。 物価が上り、賃金はその後を遅れて追う。従って、実質賃金は減少するだろう。
 
1970年代の「狂乱物価」(消費者物価 前年比10%以上の上昇)みたいになれば、商品投機も横行するだろう。投機家のカモにされ、コストを払わされるのは一般国民だ。
 
このインフレタックスから自己防衛するとしたら、インフレでも価値が目減りしない実物資産や、インフレによる円安をヘッジできる海外資産を保有することだろう。しかしそれでも逃げ切れないかもしれない。インフレリスクに気がついた国民皆がそうした動きを加速すれば、国債は暴落し、新規の発行がギリシャのように不可能になるかもしれない。
 
その結果、新規の市場での国債発行ができなくなり、日銀が国債を引き受けるようになれば(今は法律で禁じられている)、それがますますインフレを高進させ、ハイパーインフレにだってなりえる。
 
そこまで行かないとこの国の政治は路線転換できないのか、それとも理性的な路線転換ができるか?問われているのは我々有権者だ。
 
いきなり緊縮財政にしろと言っているのではない。長期のタイムスパンで、持続可能な財政バランスに戻して欲しいだけだ。日本の未来を破綻させる財源なきバラマキ路線にはNo!と叫びたい。