さて、それでは日経ビジネスの私の論考「『そっくりマニフェスト』は悪くない」(6月23日)の後に寄せられた質問、コメントなどにできる範囲でお応えしようか。
その前に、ちょっと弁解臭いかもしれないが、私の研究専門分野は国際金融論とアメリカ経済論であり、財政学、財政事情は専門ではない。ただし、エコノミストとして日本経済の将来を左右する財政問題に無関心ではいられない者として多少勉強しているわけだ。
日本の財政を専門にしている財政学の先生なら微に入り細に入り知っているだろうが、私はあくまでも概略的に理解していることをお断りしておこう。
1、「なぜ消費税率を上げたら財政収支が改善するのか?さらに、なぜ財政収支が改善したら、景気が良くなるのか?」
これは表現を換えると、増税したら景気が悪化して税収がさらに減り、財政赤字がむしろ拡大するのではないかという質問であろう。裏表逆であるが、これと同じことを1980年代に前半に言ったアメリカのエコノミストがいる。ラッファー・カーブで有名になった(悪名がとどろいた?)サプライサイド経済学のアーサー・ラッファーだ。
彼はレーガン大統領時代に「減税をすれば、景気が良くなり、人々はもっと働き、最終的には税収が増えて、財政赤字にはならない、あるいは赤字はむしろ縮小する」と説いたと言われている。もっとも現実にはレーガンの大減税で大幅な財政赤字になった。
「増税すれば、景気が悪くなって、税収は減り、財政赤字は逆に拡大する」というのはちょうどラッファー教授の説と表裏一体だ。
もっとも、増税して財政赤字を縮めれば(その他の条件が変わらなければ)短期的な効果としては有効需要が減少するので、その分景気に水を差す効果が生じる点では、日経ビジネスの論考でも書いている通り、私も含めてエコノミストはみなそのように考えている。
だから急激な財政緊縮はできない。つまり少しずつ景気回復の腰を折らないように進めなければならない。
だから時間がかかる。従って日本のように財政赤字がGDP比率で大きくなってしまった政府の財政赤字改善は長期の時間がかかるので、手遅れにならないためには今から取り掛かる必要があると説いているわけだ。
つまり短期の目標=景気回復の支援と、長期の目標=財政再建とは、異なる時間軸で考える必要がある。
2、「なぜ一般会計だけの収支で考えなければならないのか?」
「特別会計に入っている税金はどうなっているのだろうか。それでは特別会計にどれだけの資産があり、それを相殺すると本邦純債務がどれくらいなのか」
「特別会計に入っている税金はどうなっているのだろうか。それでは特別会計にどれだけの資産があり、それを相殺すると本邦純債務がどれくらいなのか」
特別会計の議論はやはりある意味で複雑なので、日経ビジネスの論考では、長くなり過ぎるので避けた。ただ、一般会計よりグロス予算額で大きな特別会計に巨大な無駄や埋蔵金が隠されているのではないかという疑念が消えないようだ。
特別会計を対象にした行政仕分けもやるそうだから(18の特別会計の存廃を含んだ仕分け作業だそうだ)、徹底的にやったら良いと思う。
しかし、特別会計はどうやら複雑さの故に誤解されている面があるようだ。その点を以下に指摘しておこう。この財務省のページが役に立つ。
特別会計の歳出総額は355兆円(2009年度)、これを見て、「えっ一般会計よりずっとでかいじゃないか」と思ってはいけない。特別会計の中には各種会計相互間の重複計上取引(民間企業でいうならば内部勘定間取引)が沢山含まれており、重複分だけ見かけが大幅に膨らんでいるからだ。
こうした重複部分を除いてネットにすると、169.4兆円となるそうだ(2009年度)。「それでもでかいじゃないか?」確かにでかいが、その主たる内訳は次の通り。
国債償還費79.5兆円
社会保障給付費(給付そのものであり、事務経費は含まず)52.6兆円
地方交付税交付金など17.8兆円
以上を除くその他は19.5兆円に過ぎない。
特別会計は一般会計と全く別の財源による別個の予算会計というよりも、一般会計と絡みあったコンプレックス(複合体)というべきなのだろう。
財務省はさらに一般会計と特別会計間の重複をネットアウトした分かりやすいデータを提示してくれている。これによると(総額212.6兆円、うち社会保障関係費が66.8兆円、国債費87.8兆円、地方交付税交付金15.4兆円と主要な部分を占め、一般会計だけで見た場合と同様の義務的歳出拡大(裁量的歳出圧縮)による財政の硬直化が分かる。つまり無駄を叩いて出てくる部分はとても限られているのだ。
3、「それでも特別会計には莫大な積立金があるのではないか?」
特別会計の積立金は196兆円(平成18年)で、その8割は将来の年金給付のための積立金である。将来の給付総額(政府にとっての負債)と徴収総額をそれぞれ累計して、(利子率で割り引いて)その現在価値を算出すると、給付の現在価値総額は現在の積立金と将来の払い込みの現在価値の合計より大きくなるという試算がある。つまり実質積立不足だということになり、年金不安の原因でもあるわけだ。
4、「財務省のデータなんて信用できるのか?」(これは仮想自問)
それを言ったらおしまい。財政粉飾したギリシャ政府と同じだと言うことになる。そこまで信用できないと考える人は、革命を起こすか、あるいは日本を離脱するしかない。
ああ、もう疲れた。まだ未対応コメントがありますが、もうこの辺で今日は止めます。もっと細かく知りたい方は、先ほど紹介した財務省の資料全部読んでください。
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