財政問題は、企業の財務問題と同様にフロー(年間の赤字)とストック(バランスシートの債務超過)という2つの切り口で考えるべきものだ。ところが従来、政府部門は民間企業では当然の複式簿記によるバランスシートをつくって来なかった。
「それじゃあ実態が分からん!」ということになって2000年から改革の一環として政府部門のバランスシート(以下BSと書く)が、あくまでも試算だが、作成・公表されるようになった。
今日の日経新聞にも記事が出ているが、2009年度末の政府のバランスシートが発表された(財務省)。このサイトで見ることができる。
これによると一般会計・特別会計を合計したBSは317兆円の債務超過、さらに公社公団、郵貯など国有企業を全部合わせた連結BSでは314兆円の債務超過である。
ちょっとだけ解説を加えると、「公的年金預かり金」として139兆円の残高が負債(右側)に計上されている点に注目いただきたい(連結BS)。これは公的年金の積立金である。
「積立金なら、資産ではないのか?」 いいや違う。
前回も書いたとおり、これは将来の年金給付という政府の「給付義務」に充当するための積立なので負債サイドに計上されているのだ。ただし、「将来の給付義務総額=現在の積立金残高」ではない。
論理的に考える限り、将来の給付義務(政府の負債)は、現制度の想定の元に将来生じる給付金額を利子率で割り引いて現在価値にした総額となる。これを「給付現価」と財務省は呼んでいる。給付現価の見合いとなる財源は、(1)将来の保険料収入(国民の直接負担分)、(2)今ある積立金、(3)国庫負担分(一般会計から拠出)となる。
2000年10月に発表された最初のBS試算では、年金の負債計上について以下の3つの方式による試算が提示されていた。
(案1)政府が保有する年金積立金のみ負債計上し、資産サイドにはその運用残高が記載される。
(案2)現在の積立金と将来の国庫負担分のみ負債計上し、資産サイドには運用残高が記載される。
(案3)将来生じる給付額の全額の現在価値を負債計上し、資産サイドには運用残高が記載される。
どう考えても、案2あるいは案3の方が論理的、合理的な負債計上方式だと思うが、案1と案2では案2の方が137兆円負債額が大きくなる。案1と案3では案3の方が644兆円も負債残高が大きくなる。
一方、案1の公的年金の積立金を負債計上するのは、極めて粗い簡便法に過ぎない。
その試算もこの作業が行なわれた当初は発表されたが、その後は発表されなくなり、案1方式で計上されている。私の察するところ、案2、案3方式はあまりに負債超過額が大きくなるので、「いたずらに不安を煽らないために」やめちゃったのではないかと思うが、どこの国の政府もそうした徹底的なBSを公表していないので、これは日本政府だけじゃない。
またこれは以前、会計検査院の若い役人さんから聞いた話だが、林野庁などでは国有林などの資産について「奇怪な経理」が行なわれており、巨額な含み損を抱えている可能性があるそうだ。
埋蔵金探しは、どんどんやって頂いて良いのだが、同時にこうした潜在的な(隠れている)含み損も暴いて頂かないと、政府のBSの透明化は達成できない。
これは直感的な判断に過ぎないが、公的年金勘定の潜在的な負債超過まで含めれば、政府部門全体のBSから出てくるのは、「埋蔵金」ではなく巨額の「埋蔵損」ではないかと思う。
追記2011年9月16日:その後、財務省のサイトが変わってしまった。
最新(平成21年度)のものは以下のサイトで見ることができます。
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